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「三体」の勉強
引用：ハヤカワ文庫SF「三体」The three body problem 劉 慈欣 著
目 次
2024.7.11時系列考察
2024.7.11最終章
2024.7.10
2024.7.9
2024.7.8
2024.7.7
2024.7.6
2024.7.5
2024.7.4
2024.7.3
2024.7.2
2024.7.1 3巻下
2024.7.1
2024.6.29
2024.6.28
2024.6.27
2024.6.26
2024.6.25
2024.6.24
2024.6.23
2024.6.22
2024.6.21
2024.6.20 3巻上下到着
2024.5.24
2024.5.22
2024.5.21
2024.5.20
2024.5.19
2024.5.18
2024.5.17
2024.5.16
2024.5.15
2024.5.14
2024.5.11
2024.5.10new
2024.5.10
2024.5.9
2024.5.8
2024.5.7
2024.5.6
2024.5.5new
2024.5.5
2024.5.4
2024.5.3new
2024.5.3
2024.5.2
2024.5.1
2024.4.30
2024.4.29
2024.4.28
2024.4.27
2024.4.26
2024.4.25
2024.4.24
2024.4.23
2024.4.21
2024.4.20
2024.4.19
2024.7.11時系列考察
目次へ
1967年：文化大革命。相対性理論や量子力学を教える教授が、資産階級理論の先導者として処刑され、教授の娘yewenjeが家出した。
1969年：yewenjeが反革命行為を行った罪をつぐなうという理由で、国防科学研究のスタッフになり、紅岸基地で働くことになった。
紅岸プロジェクトの目的は、おそらく存在するであろう地球外文明を探査し、関係の構築及び交流を試みることだった。
wenjeは太陽エネルギー鏡面が電磁波の反射を増幅するという仮説を立て、ひそかに太陽をスーパーアンテナ代わりに使って、太陽系外に送信した。
人類社会の貧困と苦難を述べ、宇宙の他の文明社会との関係を確立して素晴らしい文明を築いていきたいという内容だった。
このメッセージは地球から4.22光年の距離にある恒星系の文明に受信され、元首は地球文明を滅ぼす理由があると言った。
かれらは戦いを好む種族であり、きわめて危険だ。共存してわれわれの技術を学ばせることはできない。
異文明（三体文明）は、ただちに艦隊の第一陣を出発させると同時に、地球文明の科学的発展を抑える施策をとった。
地球人にとって超自然的としか思えない力を見せること。
地球上の疎外されている勢力に対し、地球文明よりも高い技術を供与すること。
陽子の二次元展開の三度目の実験が成功し、惑星の上空に巨大な二次元平面に展開された陽子が出現した。
電磁ビームを投射して陽子平面の曲率を調整し、三体惑星を完全に包みこみ、千隻以上の宇宙船が巨大膜にマクロスケールの集積回路をエッチングしてソフトウェアを調整した。
ひとつの陽子が知性を持ち、sophon1が完成した。
つづく三つの陽子の二次元展開は成功し、sophon2、sophon3、sophon4を構築して量子効果に基づいて相互感知システムが構築された。
to be continued 21:19 2024/07/11
sophonに指令して十一次元に移行させ、sophon1とsophon2を地球へ飛行させた。
sophonは真空構造からエネルギーを借りて光速に近い速度で飛行し、エネルギーを返済する期限は陽子が崩壊するはるかな未来。
地球に到達した後は、人類が物理学研究に用いる高エネルギー加速器を見つけ出し、潜伏する。
sophonは量子感知フォーメーションにより、加速された粒子がとるコースを予測して自身に衝突させ、意図的にまちがった結果を出し、物理学者を混乱させることができる。
1979年10月21日の午後、wenjeは地球外知性からのメッセージを受信し、返信したその日、政治委員のreijiichonも受信していた。
wenjeが返信したあと、彼から呼び出され、発見が間に合わなかったら人類文明が滅ぼされるところだった、と言われた。
wenjeは受信システム処理モジュールの設備室に入って、アースの電気抵抗を0.6オームから5オームに変更したあと、reijiichonが点検のため安全ベルトを装着してロープを伝って降りて行った。そこへwenjeの夫yanweininも来て安全ベルトをしてロープで下っていき、見下ろすと二人は点検を終えて同じ一本のロープを伝って登ってくるところだったので鋸でロープを切断した。
reijiichonと夫yanweininの死は不慮の事故として処理された。
wenjeは父親を殺害した四人の女性紅衛兵に関する情報を集め、三人の所在をつきとめたが、一人はすでに死亡し、三人の元紅衛兵はすさんだ人間になっていた。
wenjeは、自分が行った史上最大の裏切りに対するわずかな疑念があとかたもなく消え去ったのを感じた。
宇宙の彼方から、より高度な文明を人類世界に招き入れよう。
基地には新しい政治委員が着任し、これまで通りの静かな生活に戻った。
信号を送信した八か月後、wenjeは産気づき、町の病院で無事yandonを出産した。
wenjeはやがてyandonを連れて基地に戻り、さらに二年過ぎた。
wenjeはyandonの教育のことを考え、基地を離れ母校に戻った。
あれ以来、三体世界からの通信はなかった。
wenjeが大学に戻った半年後、大規模な電波天文観測基地の設計を担当することになった。
電磁環境的にもっともクリーンな西北地方にある辺鄙な山中で、植林を進めるMikeEvansと知り合った。
三年たって、Evansから連絡があり、行ってみると、かつてもっと大きかった森が伐採されていた。
Evansは言った。人類の文明はもはや自力では矯正できない。
wenjeはEvansに紅岸基地と三体世界のことをすべて話して聞かせた。
地球内部の疎外分子は三体協会をつくって勢力を拡大し、三体文明が一種の宗教になって、三体文明に向かって情報を大量に送っていた。
三体協会はVRゲーム「三体」を開発した。
プレイヤーが一定のレベルに達し、三体文明のが魅力に惹かれはじめると、直接連絡をして思想傾向をテストし、最終的な合格者をメンバーとして迎え入れる。
このゲームをプレイするには相当な背景知識と深い思考力が必要なので、プレイヤーの大部分は知識階級だった。
各国政府は三体協会をオカルト集団のひとつと見なしたが、メンバーの社会的地位の高さから慎重に対処していた。
降臨派は、もっとも純粋かつ原理主義的な派閥であり、主に、Evansの唱える”種の共産主義”の信奉者によって構成されている。
救済派は、一種の宗教団体であり、三体教の信者で構成されている。
三体教は人類のその他の宗教とは異なり、崇拝の対象である主が実在しており、主を救済する責任を信徒たちが負う。
救済派のメンバーのほとんどは「三体」ゲームを通じて三体協会に加わった。
主が太陽系を侵略せずに、三体世界で生きつづけるのが理想的な解決だと救済派の大部分は考えている。
三体運動が発展するにつれて、第三の派閥、生存派が生まれた。
侵略艦隊との最終戦争で自分たちの子孫が生き延びられることを願い、侵略者に奉仕することが有利だと考えていて、メンバーは急激に増えている。
Evansと会ってから三年過ぎた年の冬、wenjeは西ヨーロッパのある大学の客員研究員として半年ほどロンドンに滞在することになり、ヒースロー空港に着くと、ひとりの青年に出迎えられ、ヘリコプターに乗って巨大な船JudgementDayに着陸した。
広い甲板には人々がぎっしり並び、Evansが進み出た。三体世界のメッセージを受信し、三体艦隊はいまから450年後に太陽系に到着する。背後にいる人たちは地球三体協会の初代メンバーだった。wenjeは地球三体運動の総帥となることを承諾した。
宇宙社会学の公理:
luojiiはyewenjeを迎えるために立ち上がった。
yewenjeの頭髪は白くなっている。
luojiiはyewenjeの娘yandonと高校の同級生だった。
wenjeはluojiiに宇宙社会学の研究を薦め、宇宙社会学の公理を教えた。
この宇宙には膨大な数の文明が散らばっている。
それらの文明が集まって、宇宙社会を形成している。
宇宙社会学の数学的構造は、人類社会学の数学的構造よりも明確。
宇宙の文明社会が持つ複雑な構造は距離によって篩にかけられ、その結果、宇宙の文明はいくつかのパラメーターを持つ点にしか見えなくなり、数学的な操作が行える。
研究に使える実際的なデータがないので、研究成果は純粋に理論的なものになる。
いくつかの単純な公理を設定し、それを基盤にして理論体系を導き出す。
公理その一：生存は文明の第一欲求。
公理その二：文明は絶えず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定。
この二つの公理から宇宙社会学の基本的な青写真を描くために必要な概念は：
猜疑連鎖と、技術爆発。
もし行き詰まるようなら、わたしが言ったことを忘れてかまわない。
yewenjeは最後となる集会に去って行った。
luojiiも立ち去ったが、あの世界では二人の会話を聞いていた。
MikeEvansの記憶：
MikuEvansはJudgementDayの船首に立って、sophonが網膜に映し出す文字を見ていた。
＜22回目の対話を始める。われわれのコミュニケーションにいくつかの問題が生じている。おまえたちから受け取った文書の理解を妨げているのは同義語にあると判明した＞
【あなたたちにとって思うことと話すことは同義語なんですね】
＜そのとおり、われわれの脳波の方が強くて相手が直接受信できるため、コミュニケーション器官をもつ必要がないということだ＞
【あなたがたの思考は外界に対して完全に開かれていて、隠すことができないんですね】
＜思考を直接表示することは、コミュニケーション手段として効率的で優れている＞
【主よ、あなたがたにはわたくしどもが必要です】
＜わたしはおまえたちが怖い＞
会話が中断され、これが最後の受信だった。
**************************************************
アラスカ州のフォート・グリーリー基地付近からミサイルが発射された。
数千キロ離れたコロラド州のシャイアン・マウンテン地下300メートルにある北アメリカ宇宙防衛司令部指揮センターの米国本土防衛システム管制室：
システム警報が出たときから、なんでもないとわかってたのにな
攻撃目標は国際宇宙ステーションの交換済みの古い反射フィルムだったが、太陽風によって丸まったり開いたりしていた。
防衛システムの目的は、sophonが地球周回軌道の近傍で低次元展開をするのを阻止することだ。
テレビに定時ニュースが流れた。
米国本土ミサイル防衛システムは、地球近傍軌道で低次元展開するsophonを破壊するための軍事演習に成功したと報じました。
標的は国際宇宙ステーションが廃棄した反射フィルムです。
核弾頭を搭載した迎撃ミサイルが目標の破壊に成功したとのことです。
三次元展開したsophonが人類にとって脅威となる反射鏡を形成する前に破壊することが可能となりました。
人類史上はじめて、共通の敵に立ち向かうための作戦が立てられた。
第二紅岸基地すなわちJudgementDayに保存されている三体文明からのメッセージを奪取する。そのために、四日後に船はパナマ運河を通過する予定なので、運河の両岸の柱にwanmyao教授が開発した毛髪の十分の一の細さのナノマテリアルのワイヤを張り、船を切断する。
40本のナノマテリアルワイヤが張られた運河をJudgementDayは航行し、40の平べったい厚さ50センチメートルの板にスライスされた。
三体世界からsophonを通じてEvansに伝えられた唯一の暗殺計画は、luojiiだった。
Evansの死後、三体世界からEvansの後継者の男の視界にsophonのテキストが現れた。
男は答えた。三体協会がいま、崩壊寸前の状態で、救済派は瓦解し、降臨派だけが組織を維持しています。主に見捨てられたことで、メンバーの主に対する忠誠は試練にさらされています。忠誠を保つためには主の支えが必要です。
＜Evansがおまえたちに与えた命令には、われわれが学ぶことのできない戦略のひとつが含まれている＞
【注意を惹くことを避けるため、それが三体協会の仕業だということを外部に知られてはならない、ということですか】
＜われわれには、これは複雑な作戦だ＞
【Evansの要求どおりに任務を遂行します。主よ、わたしたちは忠誠心を証明してみせます】
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40年後：高エネルギー粒子加速器プロジェクトの超電導部門の責任者を務めていたwanmyaoは、軍施設で行われている会議に招集され、＜科学フロンティア＞とつながりをもつ科学者が二か月足らずのうちに自殺していて、yewenjeの娘のyandonも自殺したので、＜科学フロンティア＞に入って情報を提供してほしいと依頼された。
wanmyaoの学者仲間のdinyiiから、加速器の実験結果が最近おかしいと伝えられた。
wanmyaoは中国中央電視台本部ビルの付近で撮った写真に、カウントダウンの数字が映っているのに気づき、その後もカウントダウンは自分が撮った写真にかぎって写っていたため、研究仲間のshenyuufeiに相談したところ、ナノ・マテリアル・プロジェクトの研究を中止するようにと忠告された。
その後、目の前にもカウントダウンが見えるようになり、shenyuufeiの言うようにプロジェクトの中止を指示したところ、カウントダウンは消えた。
wanmyaoが、shenyuufeiのPCで見たアドレスを入力すると、ゲーム（三体ゲーム）が始まってその中の人物になった。
昔の中国の王たちの名前のプレイヤーが現れ、異常な太陽の動きと、それに対応するための人体の脱水体への変化が行われる異様なゲームが展開した。
継続していた文明が崩壊するとログアウトされ、再ログインするとまた新しい文明ゲームが始まって、これが何度も繰り返された。
shenyuufeiが自宅で殺されていた。
三体ゲームのオフ会に集まったプレーヤーはwanmyaoに言った。三体世界は実在している三太陽世界を模していて、ゲームの目的は同じ世界を共有する同志を集めることです。
オフ会に300人以上集まり、三体協会の中で救済派が争った。救済派の総帥yewenjeが登場し、shenyuufeiを殺した三体協会のpanhanに責任をとらせると発言した。
panhanは救済派が協会の許可なしに三体世界に大量のメッセージを送信したことを糾弾したが、wenjeはpanhanを処刑させた。
その直後、突然、兵士たちがドアを押し開けて三体協会の反乱分子を包囲した。wanmyaoは安全地帯へ連れて行かれ、三体協会メンバーのうち十数名が銃撃戦で死亡し、wenjeを含む二百名以上が逮捕された。
国連は、近々開催される国連特別会議で逃亡主義について討議すると発表した。
逃亡主義は三体危機の発生とともに誕生した。
人類の科学技術の発展が阻害される場合、いまから四半世紀後に地球を防衛する計画を立てることは無意味であり、より現実的な目標を掲げるべきである。恒星間宇宙船を建造し、人類の一部でも宇宙に脱出させ、人類の滅亡を避ける。
しかし人類が到達可能な技術レベルを考えると実現は困難。
恒星間宇宙船の中で文明を存続させる案は、閉鎖生態系を作る技術が最大の難関。
三体社会と積極的に交流し、人類に宥和的な政策をとることを求め、三体文明と共存する案があるが、不確定要素が多すぎる。
アメリカとロシアは自国民の地球脱出計画を秘密裏に立てている。
多くの発展途上国が米ロ日中EUに対し、あらゆる先進技術を無償で国際社会に提供することを要求した。
技術共有化の提案は米英両国によって否決され、地球連合艦隊設立草案は頓挫した。
三体危機を前にしてもなお、人類の団結は遠い夢であることを世界に知らしめた。
Evansについで三体世界に忠誠を誓った男の網膜にsophonのメッセージが現れた。
＜かつてわれわれは、人類の逃亡を気にかけていなかったが、思考が不透明な敵が太陽系外に逃亡することは危険だと判断し、太陽系に対して包囲態勢を敷くことにした＞
国連特別会議は、逃亡主義を違法とする第117号議案を可決し、逃亡主義を違法と宣言した。
地球は人類共同の故郷であり、われわれは絶対にそれを捨てるわけにはいかない。
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luojiiは寝ぼけまなこで女をながめていた。二人はホテルのレストランで朝食をとり、タクシーを探しながら歩いていたとき、ふと彼女が肩にかけたバッグが浮き上がり、彼の方に向かってきたのでよけようとして消火栓に足をとられて倒れた。
このとき、目の前の道路で二台の車が正面衝突して彼女の体が宙を舞い、道路に落ちた。
luojiiはどこかわからない地下10階の小部屋に入れられた。自分は逮捕されたと思った。彼が彼女を故意に事故に合わせて殺したとされたのではないか？
彼に会いに来た人物がいた。shiichianだった。
出発までまだ時間がある。少し仮眠しろ。
shii隊長、予定が早まりました。いますぐ出発します。
若者が入ってきた。
luo先生、防弾衣に着替えて下さい。
ここは原子爆弾用のシェルターだ、とshiichianが言った。
三人はまたエレベーターで地下1階に上がって地下駐車場に行き、車に乗った。
1時間ほど走って大型の飛行機が駐機している空港に着いた。
男性三人に迎えられて広々とした機内に入り、ゆったりとした座席に座った。
この飛行機の左右に戦闘機が四機づつ飛行していた。
shiichianに起こされたとき、六時間も寝て気分は爽快だった。
専用機は15時間の飛行を終えて着陸した。
出迎えたKentという人物は百戦錬磨の傑物だとluojiiは感じた。
あなたがたはたいへんよくやってくれました。段階の最小化がセキュリティの最大化につながります。
会見は1時間後にはじまります。
軍用車両に乗って着いたところは、国連本部ビル前だった。
国連総会議場にはすでに大勢の人々が着席していた。
アジアの淑女というイメージの事務総長にKentがなにか耳打ちした。
事務総長は話し始めた。
to be continued 21:17 2024/07/12
惑星防衛理事会第19回会議は、最終的に選定されたWallfacerの氏名を発表し、Wallfaceプロジェクトの開始を宣言した。
最初の二つのsophonが出現したのち、さらに多くのsophonが太陽系に到達し、地球に侵入した。
地球上のあらゆる活動は、三体人にとって開いた本のようにいつでも読める状態にある。
三体人は目に見える思考によってダイレクトにコミュニケートするため、彼らは陰謀や偽装、欺瞞の能力が著しく低く、この点は人類文明にとって大きなアドバンテージになる。
Wallfaceの立案者たちは、防衛計画と並行して作戦を進める。
人類にはいまもまだ、秘密の領域、個人個人が持つ心の中の世界をもっている。
sophonは人間の思考を読むことはできない。
Wallface計画の核心は、計画を立案し指揮する人間を選び出すことで、その人物は100パーセント自分の頭の中だけで計画を練ることになる。
Wallfacerには強大な権限が与えられ、地球の軍事資源の一部が自由に使えるようになる。作戦計画を遂行する過程で、Wallfacerはいっさいの説明を必要としない。
一人目は、米国国防長官を退任したばかりのFrederic Taylor。
二人目は、現職のベネズエラ大統領Ray Dias。
三人目は、Bill Heinz、彼は大脳の思考と記憶が量子レベルの活動であることを発見した。
四人目は、luojii。
「三体世界」ゲームの中で、二つの彗星がゆっくりと星野を横切った。
始皇帝、アリストテレス、フォン・ノイマンが群衆の前で話していた。
始皇帝が言った。
主が新たな指令をくだされた。Wallfacer luojiiを抹殺せよと。
地下200メートルの地下壕に近づけないですよ。
核兵器はどうだ？
あそこは冷戦時代の核シェルターだ。
唯一可能な方法は、警備スタッフに潜入することだ。
時間は何年もあったのに、一度も成功しなかった。
主が真実を話してくださらないのか。
かつて同じ要望を出したことがある。だが主は、真実は宇宙における最重要機密であるから、決して明かせないと言われた。
では、主に技術を引き渡してくださるようお願いしてほしい
その要望もすでに出したが、主はいつになく完全に拒絶された。
目標の居場所をお知りになったのち、われわれに技術を伝えても役に立たないと思われたのだろう。
やつはほんとうにそんなに重要なのか？ とフォン・ノイマンがたずねた。
フォン・ノイマンは最初に成功したWallbreakerだった。
主は彼のことを非常に恐れておられる、と始皇帝が言った。
アインシュタインが言った。
主がluojiiを恐れられる理由はひとつしかありえません。彼はある力の代行者なのです。
帰り道、突然、luojiiは激しい衝撃に見舞われて仰向けに倒れた。肋骨の骨折が一か所と軽い内出血があった。
防弾衣で助かった。犯人は三体協会の武装勢力のゲリラ戦の専門家だった。
************************* ***
（読者考？）
なぜ三体世界はluojiiが危険であることを知ったのか？
wenjeが考え出した公理がluojiiに伝えられ、彼の思考が三体世界から見えないため、だろうか。
宇宙社会学の公理その一、生存は文明の第一欲求である。
その二、文明はたえず成長し、拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である。
この二つの公理から宇宙社会の基本的な青写真を描くためには、あと二つ、重要な概念がある。
猜疑連鎖と技術爆発。
なぜ事務総長seiはluojiiを選ぶことができたのか？
************************* ***
どうしてぼくが選ばれたんですか？
間接的な理由しかわかりませんが、あなたが利用できる資源は一番少ないです。ほんとうの理由はだれもわかりません。あなた自身が答えを見つけ出さなければいけません。
間接的な理由を明かす権限はわたしにはありません。
「三体世界」ゲームの中は真夜中だった。
荒れた砂漠に、周の文王、ニュートン、フォン・ノイマン、アリストテレス、墨子、孔子、アインシュタインが集まり、秦の始皇帝を見ていた。
みなも知っているとおり、Wallface計画が発動された。人類は完全に閉ざされた一個人の戦略思考により、sophonの監視に対抗しようとしている。
四人のWallfacerは主にとって脅威となる。われらはただちにWallbreake計画を発動せねばならん。
sophonは、Wallfacerたちの一挙手一投足を明らかにするが、唯一残る秘密はかれらの思考だ。WallfacerごとひとりのWallbreakerを指名する。その任務は、真の戦略意図を可能な限り早く看破することだ。
フォン・ノイマンは、Frederic TaylorのWallbreaker1。
墨子は、Ray DiasのWallbreaker2。
アリストテレスは、Bill HeinzのWallbreaker3。
luojiiのWallbreakerは？
luojii自身がWallbreakerになる。
四人のWallfacerの中で、彼だけが主と対決するだろう。
宇宙軍司令部は、宇宙戦争理論の研究計画を修正し、人類が将来到達するであろう発達度合いに応じて、低、中、高の三つの技術戦略に分けた。中核となる指標は、1万トン級の宇宙船の速度と航行距離。
低技術レベルは、秒速800キロメートル、海王星の内側まで
中技術レベルは、秒速4800キロメートル、カイパーベルトの外側まで
高技術レベルでは、光速の5パーセント、航行範囲はオールとの雲までひろがる。
32名のうち、高技術戦略研究室を選んだのはjanpeihaiだけだった。
Wallfacer Frederic Taylorは、作戦をWallbreakerによって見通され、自殺した。
”終末決戦の戦場で、三体協会は編隊を掌握し、地球艦隊に不意打ちの攻撃をしかけたのち、主の艦隊に投降するでしょう。味方だと認めてもらうために、四百年の長い航行で消費した大量の水と、太陽系に接近した時点で、脱水した三体人の再水化のために必要な大量の水のために、エウロパ等から得た水を巨大な氷の塊にして主に献上します。
この巨大な氷の塊を引き渡すとき、閣下が指揮権を持って至近距離で全戦闘機を爆発させて主の艦隊を殲滅できるでしょう。
閣下の計画をわたくしが暴くかどうかにかかわらず、主はそれになんの興味も持たれていませんから。"
Wallfacer Heinzの解析撮像機は、考えているときの神経活動をすべてコンピュータで再現できるようになるが、技術上の難度がきわめて高い。人間の脳ほどのサイズをニューロンレベルの精度でスキャンし、モデリングすることは現代のコンピュータの水準を超える演算パワーを必要とする。
Wallfacer Ray Diasの恒星爆弾も、コンピュータの演算能力が足りない。核融合プロセスの百分の一秒をシミュレートするだけで20年かかるという見積もり。
最先端物理学がsophonに封じられている以上、次世代量子コンピュータの実現はまず不可能。
必要な演算能力を持つコンピュータができるまで二十年間冬眠することになり、厳重に秘匿された地下施設で、Ray DiasとHeinzは冬眠に入った。
sei事務総長が言った。
国際惑星防衛理事会PDCの決定で、あなたにWallfacerとしての責務を果たしてもらうために、あなたの妻子に冬眠してもらうことになりました。
妻子とここで暮らすことは計画の一部だと言ったはずだ！
徹底的な調査の結果、PDCはそれが計画の一部ではないと判断しました。
あなたは前からずっと真面目な人だった。これからはいままで以上に真面目にならなければいけません。
5年前に観測した最初の”刷毛”は、もうじょじょに薄くなっていた。
天文学者の観測によれば、三体艦隊は四世紀にわたる長い航行のあいだに、五つの星間雲を通過する。
もし三体艦隊がこの5年のあいだ一定の加速をつづけていたとすれば、まもなく星間雲を通過して、”まだら雪”みたいに観測されるはず。
三体艦隊が現在までに進んだ距離は0.22光年で、まだ4光年も離れている。
危機紀元12年
三体艦隊の太陽系到達まで、あと4.18光年
ハッブルⅡ宇宙望遠鏡管制センターでは、”刷毛”がふたたび観測された。
三体艦隊が通過した二つ目の星間雲だった。
千枚の草の葉は肉眼でもわかるくらいの速度で成長し、9年前の航跡よりもはるかに鮮明に見えた。
9年間に及ぶ加速を経て艦隊の速度がずっと上がったため、星間物質とぶつかるときの衝撃が大きくなったからだ。
あらたに十隻のはるかに小さい宇宙船が非常に速い速度で航行しているのが観察された。
探査機ではないか。少なく見積もっても艦隊より1世紀半早く到着するだろう。
むこうにはsophonがあるのになぜ探査機を？
危機紀元20年
三体艦隊の太陽系到着まで、あと4.15光年
Ray DiasとHeinzは、同時期に冬眠から覚醒した。
待っていたテクノロジーはすでに実現していることを知らされた。
わずか8年しか経っていない。
しかし、最先端の物理学はいまだに膠着状態にあった。
Wallfacer luojiiは発言した。
太陽の電波増幅作用を利用して、宇宙に向かって三枚の単純な画像と、それらが知的生命によって送信されたものであることを示す付加的な情報を送信します。
画像はランダムに散らばった黒い点で構成されている。三枚とも一つの目立って大きな点があり、その横に小さな矢印が付けられている。
これは約50光年先にある恒星187J3X1の惑星に対しての呪文です。
ぼくを冬眠させてください。呪文が187J3X1星系に効果を与えたのが観測されたら、起こしてください。
二日後、強力な電波が太陽に向かって送信された。電波は太陽の対流圏を貫いて放射層のエネルギー鏡面に到達し、数億倍に増幅されたのち、Wallfacer luojiiの呪文を乗せて、宇宙の彼方に向かって光速で進みはじめた。
黄河ステーションで航空宇宙派がハイレベルの実務会議を開いていた。
会議終了後、出席者全員が宇宙空間で記念写真を撮るのが恒例になっていた。顔がわかるようにヘルメットのバイザーを透明にする。通常、太陽をバックにして逆光で撮影するので、都合のいい時間帯はかぎられていた。
ハッチが開き、三十人ほど出てきた。
janpeihaiはスコープの倍率をあげ、最初のターゲットに10発撃ち、すぐさま新しい弾倉に交換して、二番目のターゲットに10発、また弾倉を交換して三番目のターゲットに10発撃った。
標的の宇宙服から真っ白な気体が噴出していた。
被弾者はほかに二名いた。
隕石シャワーと記録された。
未来増援特別分遣隊が冬眠に入る前、chanweisuuはjanpeihaiに手紙を渡した。
きみたちが目覚めるのは、はやくても50年後だろう。われわれの時代の軍人魂を持ち続けなばならない。未来において、それが最大の強みになるだろう。
Heinz夫人は、広大な神経ネットワークの中から特定の思考パターンを見つけ出すシステムを構築した。
被験者に水は激毒である、という命題に”偽”と回答させたのち、脳神経ネットワークにおける分析的思考ポイントのスキャン強度をあげる、すなわち、放射線と電磁波をその狭い範囲でのみ強くすると、被験者に恐怖の色が目に現れた。
Wallfacer Heinzが被験者になっても同じ効果があった。水が毒だと本気で信じてる。
これを”精神印章”と呼んだ。
精神印章システムを利用する信念センターがつくられてから、宇宙軍メンバーが必勝の信念を精神印章されに途切れることなくやってきた。
やるべきことはもうすべてやった。そろそろわれわれも未来へ行って、歴史が追いつくのを待とう。Heinz夫妻は冬眠した。
制御核融合の技術的ブレイクスルーが達成されてから3年経った。
宇宙船の非媒質放射ドライブの実験は地上から3万キロメートルの静止軌道上で行われ、核融合反応炉の爆発がいくつも見られた。
これは炉の外殻が核融合の熱で溶けてしまい、炉心が露出する現象だった。
軌道エレベータの完成によって、人類は太陽系惑星の大規模な探査計画を開始し、金星と水星の探査が強化された。
水星の地層に実験用の深い立坑を掘る大規模工事が行われた。
超大型高出力恒星型水爆の実験を、Ray Diasはドームをかぶせた基地の中で観察した。
グラウンドゼロで、ゆっくりと山が隆起し、その頂が3000メートルの高さまで達したとき、山全体が爆発し、大地は沸き立ち、核爆発の火球は5分にわたった。
10時間後、水星にリングが出現し、一部の岩石は水星の引力圏を離脱して太陽をめぐる水星の公転軌道上に小惑星帯を形成することになった。
Wallfacer Ray DiasのWallbreakerが言った。
最終的に百万発の恒星型水素爆弾が手に入ったとして、そのすべてを水星に配置し爆発させれば、水星の公転速度は一気に減少し、太陽に向かって落下して衝突します。
太陽の対流層に穴が開き、放射層にある大量の恒星物質が高速で宇宙に噴出します。
太陽から放出された物質の渦巻きは火星軌道まで達して、金星、地球、火星は太陽に落下するでしょう。
三体文明からすれば、太陽系は自分たちの惑星が三つの恒星に呑み込まれる前に植民できる唯一の希望です。このシナリオが実現すれば、三体文明もまた人類文明のあとを追って滅亡することになります。
この相打ち計画こそ、あなたの真の計画です。
Ray DiasがWallfacerに指定されてから、20年近く経った。
PDCWallfacer公聴会が始まった。
Ray Diasが発言を求めた。
仮に、Wallbreakerが暴いたわたしの戦略計画の意図がそのとおりだったとしよう。
わたしは三体世界に対して、死なばもろともという人類の覚悟を宣言する。
Ray Diasが腕にはめた大型の腕時計のようなものをかざした。
この装置は爆発しないための信号を起爆システムに送っている。もしこの信号が中断すれば、ただちに水素爆弾が起爆する。
わたしの体に何らかの異常を感知すればシグナルは止まる。
いま現在、人類の生存にとって最大の障害は人類自身だから。
会場に報告があった。
Ray Dias氏の腕の装置から絶えず電磁シグナルが発信されています。
送信先は水星か？
いや、このニューヨーク・シティーのどこかだ。
Ray Diasの専用機はカラカス国際空港に到着した。
多数の憲兵隊に警護されて車に乗り、長い車列を組んで市内へ向かった。
市街地へ入り、ボリバル広場に来たとき、激昂した群衆が押し寄せてきた。
人々の石つぶてが雨あられと降り注いでRay Diasをうずめた。
危機紀元205年
三体艦隊の太陽系到達まで、あと2.10光年
luojiiが冬眠から覚醒した。
自分が185年間も冬眠していたのを理解した。
中国語の音韻変化はそれほどでもないが、医師の言葉には大量の英単語が混じっており、リアルタイムで字幕となって天井に映し出されている。
移動するベッドに合わせて廊下の壁が快適な明るさに自動的に調整されてる。
luojiiの心をもっとも動かしたのは、途中で出会う人々の整った容貌と、親しげに微笑んで挨拶してくる仕草だ。
人類の宇宙戦艦は光速の15パーセントに達し、宇宙艦隊は二千隻で、三体艦隊の2倍。
三体艦隊はこの二世紀のあいだに、三回も”まだら雪”と呼ばれている宇宙塵を通過してる。宇宙塵を通過したあとはかなり減速していて、二世紀後、予定どおり到着するのはせいぜい300隻。
ただし、探査機が１機まもなく太陽系に到達し、後続が９機いて３年後に到着する。
Wallface計画はほとんどの人が聞いたことがないという。
地上の北京はすでになく、深度千メートルの地下にいまの北京がつくられていた。
空は1万メートル上空から撮った映像を映し出している。
luojiiが看護師に礼を言おうとすると、彼女は背負っていた傘のようなものを開いてプロペラを開き、じゃあね、と言って飛んで行った。
luojiiはWallface計画に関する最後の公聴会に出席することになっていた。
しゃべる言語は中国語と英語が融合したようなものになっていた。
ヨーロッパは欧州連邦と呼ばれるひとつの国になり、ロシアはベラルーシと統合してロシア連邦になり、カナダはフランス語圏と英語圏に分裂し、二つの国になった。
大きく変化したのは主にこれらの国々だけで、いまはもう覇権国家はなく、宇宙艦隊が国家を超越した存在になっている。
太陽系にはアジア艦隊、ヨーロッパ艦隊、北米艦隊があり、領土と主権の範囲は宇宙に限られている。
三大艦隊は太陽系艦隊を構成し、PDCから発展したSFJCは名目上の最高司令機関となっているが、実権はそれぞれの最高司令部が掌握している。
新しいウィンドウが開き、Heinz夫妻の映像が現れた。
二人の外見は以前と変わりがなかった。
わたしもさっき覚醒したばかりだ、とHeinzが笑みを浮かべて言った。
きみが呪いをかけたあの惑星が、まだ50光年彼方の恒星のまわりを回っていると聞いたよ。
成功したWallfacerはあなただけのようですね
いや、それは実現しなかった。われわれが冬眠に入って間もなく、思考に関する研究は量子レベルにアプローチすることを意味し、sophonの壁にぶつかった。なにか成し遂げられたとすれば、一部の人間の自信を強化したことぐらいだな
北米艦隊とヨーロッパ艦隊が合同で提出した649号議案について、最終評決を実施。
三体危機紀元二年、PDCはWallface計画を策定し、翌年より始動させた。
四名のWallfacerがそれぞれ完全に独立した状態で黙考することで、sophonによる人類社会の監視をかいくぐって計画の秘匿性を担保しながら、三体世界の侵攻に対する戦略計画を立案・遂行することにあった。
国連はWallface法案を提出し、策定した計画を実行する特権をWallfacerに保証した。
Wallface計画は200年にわたり実施されてきたが、その中には一世紀に及ぶ長い停滞期が含まれている。
Wallface計画が戦略計画として完全に失敗だったことは歴史が証明している。
人類社会が行った、史上もっとも幼稚で、もっとも愚かなふるまいだったと言っても過言ではない。
Wallface計画の実行プロセスの中で、大量の戦略資源が無意味に消耗された。
Wallfacer Frederic Taylorの編隊計画はいかなる戦略的意義もなかった。
他の二名のWallfacerも、同様にわれわれを失望させた。
Wallfacer Heinzの精神アップグレード計画の戦略意図はまだ明かされていないが、その予備段階の産物である精神印章が宇宙軍で使われたことも、やはり犯罪を構成している。
これは、人類文明の生存及び進歩の基盤となる思想の自由に対する深刻な侵害である。
Wallfacer luojiiに至っては、無責任にも公共の資源を使って享楽的な生活を送り、その後は大衆の前でばかげた神秘主義的ふるまいを演じた。
Wallface計画はもはやあらゆる意味を失っており。人類史の負の遺産とも言うべきこの問題に、ピリオドを打つ時が来た。
SFJCは、ただちにWallface計画を中止し、同時に国連のWallface法を廃止すべきであると考え、ここに本議案を提出する。
すべての出席者が手を挙げた。
第649号議案は全会一致で可決され、いまこの瞬間から発効する。
Wallfacer Bill Heinz 及び Wallfacer luojiiに通告する。あなたがたのWallfacerの身分は解除された。Wallfacerとしてのすべての権利及び付随する法的免除特権は無効となり、それぞれの国の一般市民としての立場が回復される。
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Heinz夫人が言った。
Wallfacer Bill Heinz、わたしはあなたのWallbreakerです。
わたしは、地球三体協会のメンバーとして、主のために、責任をまっとうしたいと思います。
もっと早く気づくべきだった。Heinzの声は震えた。
luojiiはいたるところで、あらゆる機会に狙われた。
shiichianが家に戻って、luojiiのためにネットで注文して届いた睡眠薬は短期用の冬眠薬で、服用後、体内の循環機能全体を維持するシステムが必要で、このシステムを使わなければ死亡する。
また、Killerウィルスにも狙われた。
このウィルスは、人間の体内に埋め込まれているIDチップを利用してターゲットを発見し、あらゆる外部ハードウェアを使って殺害を試みる。出現した当初、多くの人を殺したが、ウィルス対策プログラムとファイアウォールによって抑え込まれ、しだいに消えていった。いまこのバージョンのKillerウィルスはluojiiを攻撃するためだけにプログラムされたもので、luojiiが冬眠状態にあったため、潜伏していた。
アジア艦隊木星基地で、未来増援特別分遣隊janpeihaiは冬眠から覚醒し、その六日目に、アジア艦隊司令官に会った。
いま、あなたがたが持っている知識を学ぶために覚醒してもらいました。chanweisuu中国宇宙軍司令官からよろしくことづかりました。
あなたがたが出発したあと、宇宙軍は未来増援分遣隊をさらにいくつも冬眠させました。最終的に、まだ冬眠状態にある未来増援分遣隊は、あなたがただけになった。
アジア艦隊木星基地には現在、アジア艦隊の全艦隊の三分の二に相当する400隻の艦船が停泊している。
参謀長によれば、三大艦隊は、敵探査機の要撃任務を勝ちとろうと競い合い、軋轢が生じている。そこで、各艦隊が保有する艦船のすべてを基地に戻し、専門委員会がその行動を監視することになった。
janpeihaiが乗ったシャトルはアジア艦隊第三艦隊の巨大な旗艦に接近した。
最新の非媒質型核融合推進システムを搭載し、最大出力時には光速の15パーセントまで加速でき、超長時間の連続航行が可能だ。
兵器システムは、ガンマ線レーザー砲、電磁エネルギー砲、高エネルギー粒子ビーム、恒星魚雷からなり、これらの攻撃兵器は、地球サイズの惑星の表面を焼き尽くすことができる。
三体文明の探査機はすでに星間雲に入り、航跡を残した。
Blue Shadowは一万四千キロメートルの彼方に三体文明の探査機を発見した。探査機はエンジンに再点火し、ふたたび減速を始めている。太陽系を通りぬけず、ここにとどまろうとしている。
艦の権限移譲の認証は昔と変わらず、瞳孔、指紋、パスワードで行われた。
janpeihaiが認証を始めて5分が過ぎた。
パスワードをリセットするだけにしては時間がかかりすぎる。
ああ、まさかそんな、神さま！
yenshuuが小さな驚きの声をあげた。
艦はすでに第4速に先立つ乗員の深海状態確認を必要としない無人リモート制御モードに設定され、外部との通信を完全に遮断している。ボタンをあとひとつ押すだけで、星図に設定された目標に向かって第4速で航行しはじめる。
janpeihaiが命令した。艦はまもなく第4速に入る。総員ただちに深海状態に入れ。
この戦争で人類はかならず負ける。わたしは地球のために恒星間宇宙船を一隻、温存したいだけです。
to be continued 21:02 2024/07/15
司令官、あなたは彼らを過小評価しています。彼らは大峡谷時代、第二次啓蒙運動、第二次ルネッサンスも予言し、文明大隆盛時代の予言は、いまの現実とほとんど変わりません。そして彼らは、終末決戦において人類が徹底的に敗北し、絶滅することを予言したのです。
自分は反逆していません。ですが、逃亡は事実です。
きみの計画は失敗する。核融合燃料は、容量の5分の1しかない。
艦は光速の100分の1までしか加速できない。稼働時間は短くて二、三十年、長ければ二、三世紀になる。追撃を受けて艦が加速すれば燃料を使い果たすだろう。
わたしは、それでもなお、艦は正しい進路にあると信じています。
luojiiは新生活ヴィレッジ5区で暮らしはじめている。
妻と娘の蘇生手続きは済んでいるが、蘇生予定は2か月後になっていた。
テレビニュースで、三体艦隊が七度目の星間雲を通過したと報道していた。
三体艦隊はすでに加速と巡航の期間を終えている。10年前には過半数が減速状態に入った。
一隻の艦船だけがまだ加速状態にあり、このまま加速を続けると艦隊本体よりも半世紀早く太陽系に到達する。
夜のニュースが入ってきた。
艦隊インターナショナルが、アジア艦隊、ヨーロッパ艦隊、北米艦隊に属するすべての恒星級戦艦2015隻で連合艦隊を編成して出撃し、敵探査機を海王星軌道で捕獲します。
木星基地からライブ映像が届き、人々は興奮し、歓呼の声をあげた。
shiichianは最近、新生活ヴィレッジ5区の警察長官に任命されていた。
彼は巨大なホログラフィックテレビを見て浮かれ騒ぐ人々を眺めている。
shiichianがHeinzに気がついた。
あなたを探しに来た、とHeinzが言った。
われわれ二人だけがわかりあえるから。
奥さんは？
彼女は鉄鉱石のかたまりのあった部屋で自決しました。
死ぬ前にわたしに向かって言いました。人類が勝者となるにもかかわらず、あなたは敗北主義者を精神印章されて生きるのだから。
しかしわたしは人類の勝利を信じることは、水を飲めると信じることよりむずかしい。
NatureSelectは光速の1パーセントでおおよそ白鳥座の方向を航行していた。
追撃艦隊が120万キロメートルの距離まで迫ってきています、とyenshuuが言った。
きみが全艦を深海状態に保ったのは賢明な判断だった。
そうしなければ興奮した将兵がこの船室を襲撃したでしょう。
あなたの考えていることが全然わかりません
あなたの逃亡計画に、もうどんな希望もありません。投降してください。
すべての責任はわたしが負う
探査機が自爆しなかったという事実によって、三体世界に対する世間の感情は微妙に変化しはじめた。
国連と艦隊は和平交渉の準備を加速させ、人類代表団を共同で組織することになった。
dinyiiは戦艦Qwarkで外を眺めていた。
彼は7年前に冬眠から蘇生し、北京大学で教鞭をとったのち、探査機を実地調査する候補にあがった。
長方形の隊形の艦同士の間隔は約20キロメートルになる。
通常の巡航隊形では、300から500キロメートルが望ましいとされているので、かなりの密集隊形だ。
現在、敵の主力は2光年の彼方にある。
探査機の大きさは全長3.5メートルの涙滴型で、頭部が丸く、尾部が尖っていて、全反射鏡面の美しい形だった。その表面は可視光を含む高周波電磁波を100パーセント反射する。
質量は高精度重力計による概算では10トン以下。
dinyiiが艦長に訊いた。
わたしたちが実地調査に出発したあと、このQwarkを深海状態に移行できますか？
なぜですか？
いやな予感がするんです
捕獲が失敗して長距離にわたり追跡する場合があるとして、深海状態への移行を艦隊から許可を受け、恒星級戦艦二隻が深海状態に入ることになった。
探査機の調査チームは四名で構成され、dinyiiと助手のshiizと二人の将校だった。
調査チームのシャトルは探査機を格納している艦にドッキングし、一行は実物を見た。
まるで聖母の涙ですね、とshiizが言った。
表面を電子顕微鏡で観察したが、倍率を1000万倍にしても滑らかな表面しか見えなかった。
dinyiiは推測した。
こいつの分子は自身の震動さえ押さえつけて、絶対零度になっている。
dinyiiはとつぜん、逃げろ！と言った。
撤退！ 全艦撤退！
強力な電波干渉がすべての通信チャンネルを遮断した。
探査機の尾の先端に青い光輪が出現して、急激に大きくなり、青色から黄色へと変化し最後に赤色になった。
尾部から次々と光輪が現れて消え、その頻度は1秒間に二、三回で、それらが生み出す推進力で探査機は急加速した。
艦船が蝋のように溶け始めたかと思うと白熱して爆発した。
探査機が自爆したというのが当初の判断だったが、飛散した破片の中にひとつだけ加速している物体があった。
爆発してからまだ51秒しか経過していなかったが、この物体”水滴”は第3速を超え、30度の鋭角でターンして、戦艦InfinitFrontiaに衝突して灼熱状態にし、つづいて次々と他の戦艦の核融合燃料室を貫き、核の火球が膨張していった。
100隻の戦艦が1分もかからず爆発した。
1分21秒後、第2列の戦艦100隻も一隻残らず破壊された。
”水滴”はジグザグに進んでもスピードは落ちず、秒速約30キロメートルで飛んだ。
”水滴”が第3列の全艦を破壊するのに要した時間は2分35秒だった。
13分間で連合艦隊の600隻以上の戦艦が破壊された。
艦同士の間隔が広がるにつれて、”水滴”は加速し秒速60キロメートルになった。
戦艦同士の衝突事故が多数発生し、また、”水滴”から逃げるために深海状態にすることなく戦艦を第4速に進入させて全員を即死させた艦もあった。
このときすでにたった20分間の攻撃により、連合艦隊の半数を超える千隻以上の戦艦が破壊されていた。
30分後、戦艦はもはや一隻も残っていなかった。
”水滴”はQuarkとBronzeAgeの逃げ去った方向へと加速したが、短時間で追跡を放棄した。すでに遠すぎ、相当なスピードに達していたからだ。
この2隻の戦艦だけが殲滅戦を生き延びた。
”水滴”は太陽の方向へと飛び去った。
to be continued 11:13 2024/07/16
二隻の戦艦のほかにも、この大虐殺から生還した人々が少数いた。
母艦が破壊される前に小型宇宙艇や戦闘機に乗って脱出した人々だ。
”水滴”は小型艦艇には襲ってこなかったが、高速で飛来する破片で一部は破壊された。生き延びた小型艇や戦闘機は、天王星軌道の外側を数日間さすらい、民間船に救出された。
3年後には同じような探査機があと9機太陽系に到達する。
15時間も眠ってjanpeihaiは目覚めた。
通路の突き当りまで来てドアを開け、艦内で最大の球形ホールに入った。
五千人以上の目が彼に集中した。
艦長たちが順番に敬礼し、最後にyenshuuが敬礼した。
あなたが人類のために救った5隻の宇宙戦艦が、現在、人類が保有する宇宙艦隊の全てです。どうか、指揮官になってください。
人類に残された宇宙戦艦は、NatureSelectと追撃艦4隻の計5隻のグループと、殲滅戦を生き延びたQuarkとBlonzeAgeの2隻。
この二つの小艦隊は太陽をはさんで、ほぼ反対の方角に向かって航行していた。
ホログラフィーに向かってjanpeihaiは小艦隊の全員に言った。
同志諸君、われわれは地球にはもう帰れない。
われわれは今はもう、一個の独立した社会だ。この世界に名前をつけるべきだろう
starship earthと呼びましょう、とyenshuuが言った。
*************************************************
star earthの現在の最大の敵は、ノスタルジアN問題だった。これは集団心理的な災厄を引き起こす潜在的な可能性がある。
主任心理学者lanshiiは考察し、N問題は心理的な暴走には程遠かった。大敗した地球や太陽系は心の支えにはならなかった。
その後、長時間ひとりで考えにふけって過ごす者が増えてきた。
この環境では、人間は非人類になる、とyenshuuはlanshiiに言った。
yenshuuは二人の副艦長を呼び、検討した。
航路はまだ不明確だが、前方に少なくとも二つの星間雲がある。宇宙塵の抵抗により、艦の速度は光速の0.02パーセントに低下する。
NH558J2までの距離は10光年以上。その速度では到着までに6万年を要する。艦は到達しても乗員が生き延びられない。冬眠システムが持ちこたえられない。
一部の人間の死か、すべての人間の死か。yenshuuが言った。
yenshuuと二人の副艦長はjanpeihaiの船室の前に来た。
janpeihaiは四つの標的に対する武器の発射前操作をつづけながら言った。
新たな文明の誕生は、新たな倫理の形成を意味する。未来からふりかえれば、われわれのしたことはまったく正常に見えるかもしれない。だから、われわれが地獄に落ちることはないだろう。
janpeihaiは発射ボタンを押した。
同時に戦艦AltimetLawから超低周波水素爆弾ミサイル12発が他の4隻の戦艦に向かって発射された。
NatureSelectは爆発した。
追撃艦隊の他の3隻のうち、不測の事態に対する準備がもっとも整っていたのはBlueSpaceだった。
BlueSpaceはレーザー兵器でAltimetLawを爆発させた。
太陽系の反対側でも、BlonzeAgeがQuarkを奇襲攻撃し、船体を傷つけずに全乗員を殺害した。
BlueSpaceは生命反応の消えたEnterPrise及びDeepSkyにランデヴーしてすべての核燃料を運び出し、3隻の戦艦の残骸を切断して環状列石のように並べて宇宙墓所をつくり、戦いの犠牲者全員のための葬儀を行った。
BlueSpaceは、じゅうぶんな核燃料と基幹部品の予備を搭載して深宇宙を航行した。
BlonzeAgeも射手座方向に航行しはじめた。
二隻の船は太陽系を間にはさんでたがいに遠ざかっていった。
************************* ***
（読者考）
NatureSelectを指揮したjanpeihaiの逃亡計画は、自身は破壊されたが、4隻の追跡戦艦のうち、BlueSpaceを生存させた。
”水滴”の攻撃をからくも遁れた2隻の戦艦のうち、BlonzeAgeが生存した。
************************* ***
Heinzは砂漠にひざまずく人々の群れを指して言った。
大衆の目に映るあなたには、二つの顔がある。神の信奉者にとっては正義の天使。無神論者にとっては銀河系における正義の超文明の代弁者。
luojiiはひとつだけ、現状を説明できる事態に思い当たった。
呪文が、、、効いた？
Heinzはうなずいた。
187J3X1星が破壊されました。
いつ？
51年前です。その位置にはいま、残骸の塵の星間雲だけが残っています。
破壊される過程が観測されていて、光速に近いスピードで移動する物体が、187J3X1を直撃しました。そのサイズはとても小さく、光粒と呼ばれています。
相対論効果によって質量が増し、目標に直撃したときは187J3X1の8分の1の質量に達し、恒星は破壊され、四つの惑星は蒸発しました。
じゃあ、ぼくはこれからなにをしたらいい？
WallfacerとしてWallface法の範囲内でいかなることをしてもよいです。
では、二つの要求をします。
ひとつは、すべての都市の秩序を回復し、正常な生活に戻すこと。
もうひとつは、全員、家に帰ってください。
やっぱり！
太陽系をはさんだ二つの宙域でほぼ同時に暗黒の戦いが起きたことを知ったとき、luojiiが最初に言った言葉だった。
shiichian、ぼくは人類勝利の鍵をつかんだよ
はあ？
水滴はいつ地球に着くんだっけ？
ニュースでは、10時間後か20時間後って言ってたな
水滴がなんのために地球に来るかわかるか？
ぼくを殺しに来るんだ。
この二世紀のあいだ、気配を消していた逃亡主義が息を吹き返した。
欧州連邦に至っては、全市民の抽選により10万人の候補者を選ぶ計画を立てた。しかし、くじに外れた市民の多くが荒れ狂い、大規模な暴動が起きて、世論は一転、逃亡主義は人類に対する罪だとみなすようになった。
水滴が地球に迫るにつれ、逃亡主義に対する世間の態度は過敏になり、軌道エレベーターや宇宙基地に小型レーザー銃を持った大勢の人々が集まって、封鎖しようとしていた。
混乱は激化し、宇宙ステーションが逃亡宇宙船に改造されているというデマが大量に流れた。
中央公園の撮影映像を見ると、十万人を超える裸の人間たちのフリーセックスパーティーが行われていた。
水滴はラグランジュ点を通過して、変わらない速度で地球に向かっている。
テレビは8分後に水滴は地球に衝突すると伝えていた。
予想される衝突地点の経緯度を発表した。それは、中国首都の北西だった。
luojiiはそれをとっくに知っていた。（！）
luojiiが必死に心の空白を保とうとしているあいだ、頭皮がぴんと張りつめ、巨大な手のひらが地上の空をすっぽり覆って、自分を上から押さえつけているような感じがした。そのとき、その巨大な手がゆっくりひっこめられた。
水滴は高度2万メートルで方向を変えると、まっすぐ太陽に向かいはじめ、急激に減速した。
見上げると水滴が見えた。それほど明るくなかったが、流星のように夜空を横切り、西の空に消えた。
水滴は地球との相対速度がゼロになるまで減速して、地球から150万キロメートル離れたラグランジュ点で静止した。
監視システムによれば、水滴は宇宙空間に静止している。尾部の推進光輪は消え、まるい頭部は太陽の方に向き、陽光を反射していた。
最終的な分析結果によれば、水滴は絶間なく太陽に向かって強力な電磁波を出し続けている。その強さは太陽の増幅限界をはるかに超え、周波数は太陽が増幅できる全帯域をカバーしている。
luojiiは大笑いした。
重要なのは太陽だった。
いま以降、人類が太陽というスーパーアンテナを通じて宇宙に強力なメッセージを送ることは不可能になった。
shiichian、ぼくらはこの先、自分の人生を歩める。いまほんとうに、すべてが終わったんだ。
ハイウェイを降りると、目の前に奇怪な景色が広がっていた。
けばけばしい異様な人間たちが車の前に立ちふさがった。
彼らの衣装に映像が映っている。
luojiiの写真だ！
主よ、世界を救いたまえ！
正義の天使よ、人類をお救いください！
一人の人間が歩み寄ってきた。
Heinzだった。
luojii博士、わたしは先ほど、国連Wallface計画委員会から、あなたの連絡担当官に任命されました。
Wallface計画は復活し、あなたはただひとりのWallfacerに指名されました。
呪文が、、、効いた？
Heinzはうなずいた。
187J3X1星が破壊されました。
いつ？
51年前です。その位置にはいま、残骸の塵の星間雲だけが残っています。
破壊される過程が観測されていて、光速に近いスピードで移動する物体が、187J3X1を直撃しました。そのサイズはとても小さく、光粒と呼ばれています。
相対論効果によって質量が増し、目標に直撃したときは187J3X1の8分の1の質量に達し、恒星は破壊され、四つの惑星は蒸発しました。
じゃあ、ぼくはこれからなにをしたらいい？
WallfacerとしてWallface法の範囲内でいかなることをしてもよいです。
では、二つの要求をします。
ひとつは、すべての都市の秩序を回復し、正常な生活に戻すこと。
もうひとつは、全員、家に帰ってください。
*************** ******************
Wallfacerとしての職務をluojiiに強制するために、国連はluojiiの妻子の冬眠を解除しなかった。
luojiiは自分が住んでいる冬眠者居住地に住むことを求め、忠実に実行された。
二日後、luojiiはWallface計画復活後はじめての公聴会にリモート参加した。
議長が言った。
luojiiが住んでいる場所は、太陽系防衛の司令センターのひとつとしてふさわしくない。
呪文の秘密を公表してほしい、とも言った。
それは言えない。ぼくが呪文の秘密を守るのはWallfacerとしての責任です。
9機の水滴が3年後には太陽系に到達する。それに対処する態勢を整えなければならない。委員会からある任務を提供したい。
9機の水滴が太陽系に到達する予想日時は、4年前、星間雲を最後に通過した際の速度と加速度から計算されたものだ。すでに太陽系に到達している1号水滴とは異なり、推進システム駆動時にも発光せず、位置を特定できる電磁放射線も出していないため、航跡を見失ってしまった。
で、ぼくになにができる？
まだら雪計画を率いてほしいのです。
恒星型水素爆弾と海王星の油膜物質を使って、星間雲をつくります。
3年以内にプロジェクトを完成させるためには、あなたの地位と権威を借りてインターナショナルからリソースを引き出す必要があります。
その使命を引き受けたら、ぼくの家族を蘇生させてくれますか？
プロジェクトが本格的に動き出したときは問題ありません。
*************** ******************
地球インターナショナルと艦隊インターナショナルは、Wallfacer自身の発案ではないことを知っていたため、まだら雪計画は遅々として進まなかった。
しかし、それでもluojiiは独自のアイデアをいくつも提案した。
たとえば、軌道上のすべての核弾頭に小型のイオンエンジンを搭載し、一定の機動力を持たせ、また、水爆を宇宙機雷として利用し、どこに配備するかをみずから決定した。
世間は、luojiiの努力は妻子を蘇生するためだと言い、救世計画が出てこないのに苛立った。
まだら雪計画は一年半後、停滞した。
国際天文学連合の総会では、187J3X1の爆発は単なる偶然に過ぎないとされた。
大衆の目に映るluojiiのイメージは救世主から凡人へ、さらに大ペテン師へと変わっていった。
国連から授与されたWallfacerの身分はいまだ保持されているものの、luojiiにはなんの実権もなくなった。
三体艦隊の太陽系到達まで、あと2.07光年
新生活ヴィレッジ5区の住民代表会議は、地区住民の日常生活に司法が出ていることを理由に、luojiiの立ち退きを求める決定を下した。
居住者理事会の理事長がluojiiの部屋に入ると、中はゴミの山だった。
眼球が血走り、やせ衰えたluojiiが床を見つめていた。
*********** ********* ********
210年前のあの夕暮れ時、この場所でyewenjeといっしょに星空を眺めた。
yewenjeの墓石にもたれかかっているうちに、眠ってしまった。
目を覚ますと、すでに白々と明けはじめていて、まわりの墓石を見渡すと、古代のストーンサークルの中にいるような気がした。
yewenjeの墓石に寄りかかって立ち上がろうとしたとき、墓碑の上を一匹の蟻がよじ登っていた。
もしぼくがまちがったことをしたら、どうか許してください。luojiiは蟻に言った。
上着のポケットから装填済みの拳銃をとりだした。
三体世界に話がある。luojiiはあまり大きくない声で言った。
彼らに聞こえているのはわかっていた。
luojiiは左手を上げ、手首に巻いている腕時計ほどのサイズのものをむきだしにした。
これは生体モニターで、送信機を介してゆりかごシステムとリンクしている。
2世紀前のWallfacer Ray Diasのことは覚えているだろう。このモニターが発するシグナルは、ゆりかごシステムのリンクを通じて、まだら雪計画で太陽軌道上に配備された3614発の恒星型水素爆弾に届くようになっている。
シグナルが1秒間に1回送られることで、水爆は爆発をまぬがれている。
もしぼくが死んで、このゆりかごシステムのシグナルが止まると、まもなくすべての水爆が爆発する。
すると、水爆を包む油膜物質が、その爆発によって、太陽を囲む3614個の星間雲を形成する。
太陽系外から観測すれば、太陽の可視光やその他の放射線が、それらの星間雲を通して明滅するように見える。
太陽を囲む軌道上のすべての水爆は、厳密な計算に基づいて配置されていて、太陽の明滅がつくりだすシグナルは、ぼくが二世紀前に送信したのと同じような3枚のシンプルな画像を全宇宙に向かって送信することになる。
どの画像にも30個の点が配置してあり、そのうちの一個につけられたラベルをもとに、他の2枚の画像と組み合わせることで、ひとつの三次元座標系になる。
今回発信するのは、三体世界とその周囲の恒星、合計30個の相対位置だ。
太陽は天の川銀河の灯台となって、この呪文を全宇宙に送り出す。
もちろん、太陽系と地球の位置も同時に暴露することになる。
このデータを受信できる文明は少なからず存在する。
いま、ぼくは自分の心臓の鼓動を止めようとしている。そうすることによって、二つの世界で有史以来最大の罪を犯すことになる。
自分が犯す罪について、二つの文明に深く深くお詫びする。
sophonが近くにいるのはわかっているが、あなたたちはいままで人類の呼びかけを無視してきた。われわれは二世紀にわたってこの侮辱に耐えてきた。望むならこのまま沈黙を続ければいい。
いまから30秒だけ猶予を与える。
10秒くらい経ったかもしれない。世界が四つの部分に分かれるのを見た。ひとつは周囲の現実世界。あとの三つはとつぜん地上に現れた三個の球体。
三つの球体に同じ言葉が表示された。
やめろ！
まず、銃を下ろせ、それから交渉に応じる。
三体世界はluojiiの要求をただちに受け入れた。
太陽系に向かって進んでいる9機の水滴はただちに進路を変えて太陽系を離れた。
三体艦隊はオールトの雲を越えない。
艦隊は地球時間で10分後に方向転換を開始し、いまから2年後、人類の宇宙空間観測システムが三体艦隊の進路変更を探知可能になること。
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宇宙帆の面積は25平方キロメートル、質量20キログラムまで縮小できるが、探査機の質量の上限は200キログラム。
探査機が拿捕されなくても、光速の5パーセントの速度ですれ違う可能性もある。
また、能動型レーダーの搭載は難しく受動型になるが、敵が電磁波を利用している可能性は極めて低い。
さらに、sophonにより、計画は筒抜けになる。
核爆発推進による探査機計画（階梯計画）は見送られた。
では、次の一歩は？
人間を一人送る。
だれもがwadeの発言を呑み込めずにいた。
人工冬眠技術はすでに成熟しているから、2世紀後、三体艦隊と遭遇したときに覚醒させ、敵の心臓部に送り込む。
wadeは、4光年彼方でsophonにより耳を澄ませている異星の参加者を考えていた。
彼らは人類の生きたサンプルを研究するチャンスに興味をそそられるだろう。
NASAが実施した小規模核爆弾推力実験によると、探査システム全体で10キログラムにする必要があるという報告があった。
その結果、搭載重量は最大500グラムになる。
wadeが言った。
われわれは脳だけを送る。
探査機本体は動力を持たないので、針路はすべて爆発する核爆弾との位置関係で決まる。航路上に配置されるすべての核爆弾には、位置制御用の小型エンジンが搭載されている。
探査機が数百メートルの距離で通過する際の核爆発による推進力で探査機の針路をコントロールする。
探査機全体は全長500キロメートルでパラシュートに似ている。冬眠槽は厚い冷却材で覆われ、核爆発のたびに表面が蒸発して内部を冷却し、同時に総重量も減らす。
危機紀元1年～4年
階梯計画によって宇宙に送り出す人間にだれを選ぶのか。
wadeは語った。
三体人はたとえ脳だけでも蘇生させることができるだろう。
外部インターフェイスを通じて脳とコミュニケーションすることも可能だろう。
11次元の陽子を2次元展開してその上に電子回路をエッチングできるテクノロジーを有する文明にとって容易なことだろう。
だれの脳を送るかという人選のむずかしさが浮き彫りになった。
最大の障害は、選ばれた人間が死ななければならないという点にある。
余命宣告された末期患者の中から探すしかなくなった。
雲天明yuntienminのがん細胞はすでに肺から全身に転移していて手術もできないので、化学療法と放射線治療を続けていくしかないと医師は答えた。
tienminは安楽死の申請書を書いて医師に渡した。
tienminの病室に大学時代の同級生の胡文fuuwenが訪ねてきた。
昔、tienminが飲んでいる緑色の液体はなんだとfuuwenが訊いたので、雑草をすりつぶして水に混ぜた本物の自然飲料だと答えたが、それをヒントにfuuwenは会社を興して「緑色暴風」という商品名で売り出し、バカ売れしているそうだ。
もともとはお前のアイデアだから、と言ってtienminに300万元のクレジットカードをくれた。
いま唯一やり残しているのは、この金の使い道を決めることだった。
その夜、tienminはテレビでこんなニュースを見た。
国連惑星防衛理事会で、星の群れ航行計画が採択された。
太陽系から100光年以内の恒星をオークションにかけて、未来の宇宙開発を推進しようとするものだ。
tienminはようやく金の使い道がわかった。
片思いの程心chensinに星をひとつプレゼントしよう。
翌日、tienminは星群計画の中国オフィスに電話した。
そのあと、fuuenに電話して、chensinの連絡先や身分証ナンバーを教えてくれと言った。彼女には内緒にしてくれと言った。
to be continued 15:00 2024/07/16
恒星を買いたいと申し出たのはtienmenが初めてだった。
所有権はそれを受け取る女性の名義にしてください。
予算内で買えるのは、太陽系から286.5光年の恒星DX3906です。
tienminは天文学者の何fuu博士の車で郊外に行き、5.5等級の星を見た。
tienminの安楽死の日が来た。白い壁に囲まれた安楽室にいるのは、公証人、案内係、看護師、病院の幹部。
「あなたは自分の命を終わらせることを望みますか？ 「はい」なら３を、「いいえ」なら０を押してください」
しばらく前から、ガラス仕切りの向う側でなにか騒動が起きていた。
tienminが３を押したと同時に、安楽室のドアが勢いよく押し開けられ、安楽係員が自動注射器の電源を切り、病院幹部はコンセントから電源をプラグを引っこ抜き、看護師は注射針を引きぬいた。
ガラスの仕切りの向う側にchensinが立っていた。
chensinは思いもかけないことを言った。安楽死法はあなたのためにつくられた。
chensinの説明を聞き終えて、yuntienminは茫然とした表情で、しばらくひとりにしてほしいと言った。
ぼくはなんて莫迦だったんだろう。愛している人に星を贈ればその人が自分を愛してくれるとでも思っていたのか。
彼女はぼくに死んでくれと頼みにきたんだ。
到着時刻から考えて、彼女はぼくがすでに安楽死を選択していたことを知らなかったに違いない。
もしぼくが安楽死を選択しなければ、そうするように説得することを試みただろう。
いや、違う。彼女がぼくに与えようとしているのは、安楽な死にはほど遠い。
姉がぼくの安楽死を望んだのは財産が浪費されるのを恐れたからだが、それは理解できる。
しかし、彼女はもっと残酷な死にざまを与えようとしている。僕の体の一部、魂がやどる部分が暗黒の深淵を永遠にさまようことを求めている。
もし、思惑どおり、ぼくの脳が三体人に捕獲され蘇生したとすれば、それこそがほんとうの悪夢になる。
人類と共通するものがなにもないエイリアンがぼくの脳にインターフェイスを接続し、五感を含む入力をテストするだろう。彼らにとってもっとも魅力的なのは痛みの感覚だ。
一番恐れている拷問がなんなのかを探るだろう。実験は繰り返され、永遠に終わりがないだろう。
tienminは笑いすぎて息が止まりそうだった。
chensinがドアを開けて入ってきた。
tienminどうしたの？
tienminの笑いが止まった。
わたしは、国連惑星防衛理事会全戦略情報局を代表して、質問します。
あなたは人類の一員としての責任を進んで行い、この使命を引き受けますか？
これは完全に自発的な任務です。拒絶してもかまいません
tienminはchensinの顔を見つめた。いかめしく、同時に熱意にあふれる表情。
苦痛と憂鬱が入りまじるかすかな笑みがtienminの口元に浮かび、しだいに広がっていった。
もちろん、引き受けるよ
階梯計画の任務遂行者にはtienminが選ばれた。
tienminの症状が急に悪化し、脳切除手術が行われた。
wadeはchensinに言った。
おまえのあの星、あれは彼のプレゼントだったよ
chensinは愕然として凍りついた。
いまになってようやく人生に本物の色彩が現れたかのようだった。
感情の大波が押し寄せて、足もとの大地が消え失せたかのようだった。
だしぬけに走り出し、脳外科病棟の手前で警備員に取り押さえられた。
作業台の上に高さ1メートルほどの円筒形をしてステンレス製断熱容器が置かれていた。超低温の液体ヘリウムから発生した白い霧があふれだしていた。
chensinの肩に手を置いてくれた老人は、ハーバード大学医学部の脳外科の権威で、今回の脳切除手術の執刀医だった。
三体人は身体のクローン再生も完璧にやるだろう。
じゃあ、彼はなにを食べるの？
次の日、chensinはオフィスに訪れ、tienminの冬眠カプセルにこの種を入れてくださいと要望した。
小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、唐辛子の種が小さなビニール袋に入っていた。
だめだ。
たった18グラムですよ
0.18グラム軽くするだけでも血のにじむような努力をしている。
wadeが言った。階梯計画ではtienminを知る人物をひとり、未来に送る必要がある。
未来に行くことに同意します、chensinが言った。
抑止紀元12年
青銅時代BronzeAge
地球連合艦隊の壊滅から14年が経っていた。
生存者たちは太陽系の両端で起きた暗黒の戦いを経て、母星と一切の連絡を絶った。
危機紀元208年11月初め、地球からの電磁波送信が途絶えた。
人類の科学技術が発達すると、ニュートリノと重力波による伝達方法が利用できるようになった。
重力波による伝達方法は三体文明に対抗する抑止手段として採用された。
抑止紀元12年
BronzeAge
地球からの電磁波送信がとつぜん途絶えたのは、太陽系が三体艦隊に占領されてしまったからだとBronzeAgeのほとんどの乗員が思った。
そこでBronzeAgeはさらに加速して、26光年彼方にある地球型惑星をもつ恒星を目指した。
だが、その10日後、ふいに宇宙艦隊司令部からの電波シグナルを受信した。
そのメッセージは、太陽系の反対側にいるBlueSpaceにも送信されていた。
地球でなにが起きたかを説明し、地球を三体文明から防衛する抑止システムの構築に成功したことを伝えていた。
両艦ともに地球に帰還するようにと命ずる内容だった。
太陽系を占領しようとした者の欺瞞工作の可能性を排除できず、BronzeAgeはこの内容を信じようとしなかった。
ところが、一個のsophonが低次元展開し、BronzeAgeとBlueSpaceの間に量子通信チャンネルを開いていた。
彼らは壊滅した地球連合艦隊の数少ない生き残りとなったことを知った。
BronzeAgeは太陽から2300天文単位の距離にいたが、ただちに帰還の途につき、地球に近づいたとき、出迎えのため派遣された恒星級戦艦Gravityに迎えられた。
Gravityの船体自体が事実上の重力波アンテナだった。
地球上の重力波アンテナとともに人類の三体世界に対する暗黒森林抑止システムとなっていた。
BronzeAgeが到着すると、盛大に迎えられたが、最後に一変した。
宇宙艦隊大佐が最後に宣言した。
きみたちは全員、不名誉除隊となる。
きみたちが艦隊に残した汚点は永遠に消すことはできない。
両親はきみたちのことを恥だと思っている。配偶者のほとんどもはるか昔に離婚を選んでいる。社会は君たちの子どもを差別こそしないが、彼らはこの十数年、君たちの子どもであることを恥として暮らしてきた。
きみたちの身柄は艦隊インターナショナルの司法制度に引き渡される。
同時に祝賀の群衆も姿を消した。
最終的に、元艦長およびその他六名の元上級士官は終身刑の判決が下され、残り1768名のうち、138名だけが無罪、それ以外は20年から300年までの刑に処せられた。
艦隊インターナショナルの刑務所は、火星と木星の間に位置する小惑星帯にあった。
艦隊基地を離れる前、Robinsky元副艦長とSchneider元少佐を含む十数名が、新たなクルーに艦を引き渡す作業に手を貸した。
説明は1時間ほどで終わったが、Schneiderは何気ない手つきで空中のインターフェイス画面を何度かタッチし、次の瞬間、無重力状態のキャビンの壁を強く蹴って、部屋の反対側に飛ぶと、同時に壁の位置が動き球形のキャビンを二つに分割した。
Schneiderはインターフェイス画面を呼び出し、高出力恒星間通信アンテナを起動した。
BlueSpace、応答せよ。こちらBronzeAge。戻ってくるな。ここはもう故郷じゃない！
レーザーがSchneiderの胸を貫いた。
BlueSpaceはBronzeAgeよりも懐疑的だったので、ゆっくりと減速していた。
Schneiderの警告を受けとるとただちに減速を中止し、フルパワーで加速して太陽系をあとにした。
目下のBlueSpaceが暗黒森林抑止を実行する能力を持ち合わせていないことに、地球と三体世界は安心した。
BlueSpaceが最大出力で二つの恒星系の座標を宇宙に送信しつづけたとしても、第三者が受信することはほぼ不可能だ。
恒星間宇宙船GravityがBlueSpaceの追跡を開始した。
当初、三体世界は”水滴”で追跡して破壊することを提案したが、地球世界は拒否した。人類の宇宙船に対する”水滴”の攻撃は許すことはできない。
GravityがBlueSpaceに追いつくには50年の時間を要する計算だった。
星の群れプロジェクトでは15人の顧客は17個の恒星を購入したが、14名は法定相続人の所在もわからず、264年後、chensinだけが冬眠から目覚めることになった。
法律により、tiemminが同意しなければ国連と太陽系艦隊はDX3906を所有することはできない。
chensinは階梯計画のその後をたしかめたが、三体艦隊は階梯探査機を鹵獲することはできず、tienminは虚無の中に消えた。
DX3906には二つの惑星があり、そのうちの一つは地球とよく似た惑星であると推定され、急激に価値が上昇した。
二つの惑星を発見したのは天文学の博士課程に在学中のaiAAという大学院生だった。
chensinは恒星の所有権は残して恒星のエネルギーを無償提供し、二つの惑星を売却した。
chensinは天文学的な資産を得て会社を設立し、aiAAを経営に参加させた。
ひとつの世界を破壊し、あらゆる生命を滅亡させた人物は救世主と崇められ、luojiiは裁判にかけられようとしています。
どうして？
luojiiがある恒星の座標を全宇宙に送信したことで、その恒星系が破壊されたことです。
そこに生命が存在したかはわからないけれど、その可能性はある。だから、luojiiを世界滅亡罪の容疑で起訴しようとしているのです。
aiAAが呼んだというエアカーにchensinは乗って、廃ビル群のあいだに着陸した。
ツタがからまる二階のバルコニーにひとりの男性が立っていた。
wadeだった。右手に銃を持っている。
wadeはchensinの右肩を撃ち、chensinは背後の壁まで飛ばされた。
どうして？
おれは執剣者になりたい。おまえが競争相手だが、このままでは負ける。
vadimovはあなたが殺したの？
ああ。おまえはいま、障害になっている。
wadeはもう一発撃ち、chensinの腹部の左側を貫通した。
また引き金を引いたが、3世紀の時間の経過による劣化のため発射されず、もう一度狙いをつけた瞬間、銃を握るwadeの右腕が爆発した。
一台のパトロールカーが急降下して、警官たちが飛び降りてきた。
aiAAが最後に降りてきた。
wadeはわたしのIDを偽装して、、とaiAAが言った。
すさまじい痛みが襲ってきてchensinは意識を失った。
目を覚ますと、全身が一枚の膜に包まれている。痛みは感じなかった。
執剣者ってなに？
luojiiが三体世界を相手に打ち立てた暗黒森林抑止は、まぎれもなく偉大な功績だった。
だが、この功績を生み出したwallface計画は、最終的に、きわめて幼稚で荒唐無稽な行為とみなされた。
人々は抑止そのものについて深く考えはじめ、抑止ゲーム理論が誕生した。
抑止を構成する主な要素は、抑止者と被抑止者である。
最終抑止の成功の鍵は、被抑止者を信用させることにある。
この確率は抑止ゲーム理論において、抑止度と呼ばれる指標となる。
最終抑止が成功するためには、抑止度が80パーセント以上に達する必要がある。
しかし、暗黒森林抑止システム制御権が人類全体に委ねられた場合、抑止度はほぼゼロになってしまう。
もし、抑止の失敗によって抑止行動が実施されると、二つの世界の座標が全宇宙に送信されることになる。
だが、個人の反応はそのかぎりではない。
暗黒森林抑止成功の基盤は、luojiiという個人の予測不可能性にあった。
地球と三体世界の両文明は、luojiiの人格的特性について詳細な分析を行い、数理モデルを構築した。
地球人類と三体人の抑止ゲーム理論研究者は、驚くほど似通った研究成果を導きだした。
luojiiの抑止度は91.9パーセントから98.4パーセントのあいだと推定された。このため、三体世界は絶対にリスクを冒そうとしなかった。
luojiiが制御権を国連及び太陽系艦隊にひきわたしてから返還されるまでは18時間しかなかったが、それだけの時間があれば、”水滴”は太陽を取り巻く核爆弾の輪を破壊して、人類が座標を送信するのを阻止できたはずだった。
これは三体世界最大の失策と見なされている。
人類は冷や汗をかきつつ、ほっと胸をなでおろした。
二つの世界の戦略的バランスは、luojiiという個人に支えられて成立していた。
このため、luojiiは執剣者と呼ばれた。
この奇妙なバランスのもとで60年過ぎ、百歳を超えたluojiiはいまも重力波送信を開始する制御権を握っていたが、大衆のluojiiに対するイメージも次第に変化していた。
強硬派はさらに厳しい条件を三体世界に課すべきだと主張した。
彼らの目標は、三体世界を完全に武装解除することだった。
穏健なハト派もluojiiのことを疎ましく思っていた。
彼らの主張によれば、この宇宙の文明を有するすべての知的生命は侵すべからざる基本的な権利を有する。この理想を現実のものにするには、luojiiに法の裁きを受けさせねばならない。
二つの世界の運命がluojiiの手に委ねられていることに、人々は不安を抱くようになっていた。
暗黒森林抑止が確立して以降、三体世界から送られてくる科学的技術情報を受けとるために、世界科学アカデミーが設立された。
情報を小出しにしてくるだろうという予想を裏切って、三体人はわずかな時間でおびただしい量の知識と情報を体系的に送信してきた。
貴重なコレクションは、主に数学、物理学、宇宙学、分子生物学などの基礎科学に関する情報だった。
加速器に対するsophonの干渉はストップした。
彼らは人類が三体世界の科学水準に到達することを熱望しているようだった。
抑止紀元10年以降、三体世界から送信されてくるのは、科学情報のほかに、映画、小説、詩歌、音楽、絵画など、人類の文化芸術を模倣した作品の山だった。
最近では、新作映画や小説のクリエーターが人類なのか三体人なのか見極めるのがむずかしくなっている。
ただ、三体人は、いまのところまだ、自分たち自身のありのままの文化は地球人類に見せられる段階ではないのだと説明していた。
退院の日、aiAAがchensinに言った。
tomokoがあなたに会いたいそうです。
tomokoは最先端の女性型アンドロイドで、複数のsophonに制御され、三体世界大使の役割を果たしている。
chensinは、tomokoが4光年も離れた強大な異星文明に操られていることを忘れてしまった。声も体も軽やかでしなやかだった。
tomokoと会った翌日、chensinは6名の二代目執剣者の候補たちと会った。
chensinはwadeの件で警察に警告の通報をしてくれた男性に感謝を伝えた。
しかし、彼らの言うことを聞いてchensinは黙り込んだ。
chensinは、luojiiがどんな境遇に耐えて来たかがいまやっとわかった。
あの時代の男にとって、全人類と全三体人の運命を自分の手に握ることは、すごく魅力的なのよ、とaiAAが言った。
彼らの中にもう一人のyewenjeやjanpeihaiが潜んでいないとも限らない。
この美しい世界は、その脆さをあらわにした。
一週間後、chensinはDX3906に属する二つの惑星の譲渡式に参加するため、国連本部へ向かった。
式典が終わってPDC議長と話をした。議長は、chensinが執剣者に立候補することを望んでいた。
他の6名の候補者は全員、三体世界に対して強い不信感を持ち、攻撃的な傾向がある。もし、彼らの中から第二代執剣者が選ばれれば、強硬政策を地球インターナショナルおよび艦隊インターナショナルのタカ派と合流して、強硬政策を進めるかもしれない。
暗黒森林抑止の力を借りて、三体世界にさらに厳しい要求を突きつければ、これまで両世界のあいだで築き上げてきた平和と科学文化交流が崩壊し、惨憺たる結果を招くことが予想できた。
だが、chensinが選ばれればそれが回避できる。
われわれは脳を送る。wadeのこの一言が無ければ、、、。
赤んぼを抱いた若い母親がchensinに駆け寄り、ほんもののマリア様と叫んだ。
どうかこの世界をお守りください。
chensinは母の愛情を一身に受けていた。母は一度も結婚したことがなかった。公園に捨てられていたchensinを見つけ、育てた。
それから3世紀後、chensinはようやく愛のために行動を起こすチャンスを得た。
わたしは執剣者に立候補します。
抑止紀元62年
宇宙艦Gravityはすでに半世紀にわたってBlueSpaceを追跡し、いま、3天文単位まで近づいている。
搭乗している100名あまりの兵士は、この50年間の大半は冬眠していた。
BlueSpaceは燃料に制限があり、継続的に加速することはできない。
また、Gravityは大量の予備燃料を搭載しているものの、帰途に必要な量を確保するために無制限に加速できない。
GravityはBlueSpaceに対して地球に戻り公正な裁判を受けることを提案したが、無視し続けた。
ちょうど一年前、両艦の距離が30天文単位まで縮まったとき、予期せぬ事件が起きた。
Gravityに同行している2機の”水滴”がsophonのブラインドゾーンに入ったため、量子もつれによる地球とのリアルタイム通信が途絶し、地球との通信が片道1年半もかかってしまった。
危機紀元の初期、三体世界はsophonシステムを使って地球を観察するとともに、銀河系の他の方向を探査すべく、さらに6個のsophonを亜光速で送り出したが、これらはほどなくブラインドゾーンに入って消息を絶った。
sophon同士の量子のもつれがいったん途切れると二度と回復できない。
地球以外の方向に送り出されたsophonが観測できた恒星系は二つだけで、どちらも生命や文明は存在しなかった。
だが、sophonにブラインドゾーンがあるということは、宇宙の本質が暗黒森林であるという仮説を証明しているように思われた。
GravityとBlueSpaceの距離は10万キロメートル。両艦とも加速を停止している。
2機の”水滴”は両艦から30万キロメートル離れた二等辺三角形の位置にいる。
とつぜん戦闘警報がすさまじい音をたてて鳴り響いた。
”水滴”が急加速し、1機はBlueSpaceに、もう1機はGravityに向かっている！
回避行動の時間はない、ほんの数秒だ。
2機の”水滴”は、どちらも目標に接触しなかった。
ほんの数十メートルをかすめて飛び去った。
警報解除の3分後、JosephMorovicci艦長は幹部たちを作戦司令室に集めた。
状況図に示されている”水滴”の軌跡は、攻撃ベクトルに対して、垂直な外力が加わり続けたように見える。
”水滴”を拡大すると、かたちは変わらないが、表面は鏡面ではなく、錆びたような黄銅色をしていた。
”水滴”の表面は内部メカニズムによって発生する力場で維持されていることがわかっている。この力場が粒子間の電磁気力を打ち消し、強い相互作用を外に及ぼす。
”水滴”は死んだ。
”水滴”がGravityをかすめたあと、垂直方向からの謎の力は消え失せ、以後の数秒間は、そのベクトルのまま等速直線運動している。それから、"水滴”は減速し始めた。
つまり、謎の力は進行方向に対して横向きに押したあと、進行方向と逆向きに転換した。
抑止紀元終了後、第1日～第5日
chuuyenとmorovicciとguanyifanはBlueSpaceの長い通路を移動していた。
前方の隔壁に直径1メートルほどの丸い穴がひとつ空いていた。
chuuyenがその穴に入った。あっという間にchuuyenは消えた。
ふいにその空間から両手が伸びてきて、morovicciとguanyifanの手をつかんでふたりを4次元空間にひっぱりこんだ。
二人の眼前にBlueSpaceが巨大な絵のように展開した。宇宙船のすべてが細部に至るまで見える。お互いに体の内部構造が細部まで見えている。
また、あらゆる方向に星々を見ることができた。
天の川銀河のまばゆい輝きが見える。
そろそろ戻ろう、とcheeyenが言った。
歪曲ポイントが安定しているのは一定時間だけで、やがて移動するか、消失する。
新たな歪曲ポイントを探すには、4次元空間を移動する必要がある。
あなたがたのような初心者(!？)には危険な行為だ。
guanyifanが言った。
ぼくらの三次元空間は、さしわたし160億光年のおおきな紙だ。
この紙の上のある場所に、ごく小さな四次元のシャボン玉がくっついている。
chuuyenが言った。
BlueSpaceはもっと早くから、四次元の秘密を解明することができた。
ただ、Gravityの後部3分の1がまるごと四次元空間に入り込み、そのまま数分間続いたことが確認されたが、この異常はだれも気づかなかった。
われわれは四次元空間から”水滴”を攻撃した。強い相互作用探査機がどれほど強大であっても、四次元から見ると広げられた一枚の絵に過ぎない。われわれは四次元空間から接近し、完全に開かれた状態の”水滴”の内部メカニズムを、でたらめに破壊した。
***************** ***************** **********
抑止紀元62年11月28日16:00～16:17
chensinは暗黒森林抑止システムの心臓部へ入っていった。
そこは空虚な巨大な空間だった。
白いホールの中央にluojiiがあぐらをかいて座っていた。
髪もひげも長く伸びているがきちんと整えられている。
抑止紀元が始まったばかりの頃は家族三人しあわせな生活を送っていた。
しかしやがて、すでにひとつの世界を滅ぼし、二つの世界の運命を握っているluojiiは妻子を恐れさせ、妻子は去った。
つねに複数のsophonが自分を監視していることをわかっており、すべてを犠牲にする冷たい視線を三体世界に送っていた。
このようにして54年間、luojiiと三体世界は見つめ合っていた。
いつでもそくざに必殺の一撃を加えられるよう、つねに剣を執って待ち続けていた。
重力波宇宙送信システム最終制御権を移譲する時間です。
PDC議長が宣言した。
101歳のluojiiは両手でスイッチを29歳のchensinに渡した。
スイッチはluojiiのぬくもりがまだ残っていた。剣の柄のようなかたちをして、四つのボタンがある。偶発的な起動を防ぐため、決まった順番にボタンを押さなければ作動しない。
luojiiが軽く会釈してドアのほうに去ると、ロビーでは、黒のスーツ姿の人間たちがluojiiの前に立ちふさがった。
国際裁判所の検察官として申し上げます。あなたは世界絶滅罪で訴えられています。いまからあなたは逮捕され、取り調べを受けることになります。
抑止紀元62年11月28日16:17:34～16:27:58
半円形の白い壁がとつぜん真っ赤になった。最高レベルの警戒警報だ。
強い相互作用宇宙探査機軍の接近を探知しました。
1機は、地球・太陽のラグランジュ点L1へ航行中。残る5機は、1・2・2のフォーメーションを組み、地球へ接近中。
速度：秒速2万5千キロメートル。地表到達までの予想残り時間：10分間
chensinのまわりに１から５までのホログラフィックボタンが現れた。
luojiiが半世紀ものあいだまちつづけていた霹靂が、彼が執剣者の座を離れた5分後、chensinに落ちてきた。
chensinは理解していなかった。
chensinが第二代執剣者に選ばれた理由そのものがミスでもあった。
chensinの潜在意識では、自分は庇護者であって、破壊者ではなかった。
執剣者として三体世界と向きあったとき、それが生死を分かつ決闘だという感覚がなかった。
chensinがluojiiからスイッチを受けとった瞬間、6機の”水滴”は潜伏していた場所から地球へ向かって全力で加速を開始した。
3編隊は月の軌道に接近し、北米、ヨーロッパ、アジアの重力波送信器は破壊され、太陽電波増幅機能は全ての帯域で封鎖された。
重力波宇宙送信システムは回復不能。暗黒森林抑止は終了した。
抑止紀元終了後、最初の1時間
chensinの背後から不意にかん高い笑い声が響いた。
tomokoだった。
人類があなたを選んだということは、人類がこの結果を選んだということです。全人類の中で、罪がないのはあなたひとりだけ。
chensinは抑止者ではなく、防護壁となっていた。
Gravityに同行していた”水滴”は、移譲が完了した瞬間にGravityを破壊せよとの命令を受けとっていた。
わたしたちの人格分析では、あなたの抑止度は10パーセント。luojiiは90パーセント付近。でもwadeは100パーセント。もし彼が執剣者になったら、いままでと同じ平和が続き、あと半世紀かそれ以上たてば、三体世界は技術力と武力で対等になった地球文明と対峙することになっただろう。
でも、人類があなたを選ぶと知っていた。
オーストラリアに行く準備をしなさい、哀れな虫けらたち！
抑止終了後、tomokoが初めて地球上に姿を現し、いまから4年後に三体文明の第二艦隊が太陽系の全面征服を完了すると、全世界に向かって宣言した。
4年後の占領に備えて、人類はすみやかに居留地への移住を始めなければならない。
人類を無害化し、将来ふたたび暗黒森林抑止やそれに類した脅威が生じることを防ぐために、人類は完全な武装解除と、身一つで1年以内に移住しなければならない。
火星および宇宙空間における人類の居住施設は最大300万人しか収容できないため、移住の主な目的地はオーストラリアとなった。
5日後、地球の大気層内を巡航していた5機の”水滴”のうち1機が、北米とヨーロッパとアジアの三つの大都市を攻撃した。
”水滴”は都市の巨木の森を攻撃し、30万人が死亡した。
もしオーストラリアへの移住がただちに行われない場合、”水滴”は都市への攻撃をつづける。
1年の期限を超えて、なおも居留地の外にいる人類は、三体領土への侵入者とみなされ、処刑される。
かくして、すべての人類のオーストラリアへの大移住が始まった。
chensinとaiAAは第一波に交じってオーストラリアにやってきた。
chensinは、陽炎にゆらめくグレート・ヴィクトリア砂漠を見つめていた。
もし、重力波送信を実施していれば、三体人は恐怖に駆られて逃げ出し、人類は少なくともあと数十年幸福な日々を享受できただろう。
もし、送信後ただちに地球が破壊されたとしても、こんな地獄で暮らすよりよっぽどましだ。
他の人間たちは最初は罵るだけだったが、やがて暴力をふるうようになり、配給の食料をを奪われはじめたが、aiAAが必死にchensinを守り、ようやくだれも手を出さなくなった。
ある日、flesという老人がchensinを訪ねてきた。
オーストラリアの先住民であるアボリジニだった。
白人がオーストラリアにやってきたとき、まだ50万人のアボリジニがいたが、ほとんど殺されてわずか3万人が逃げ延びたという。
flesは自分の家に二人を住まわせてくれた。
同時に宇宙への移住も進行していた。
抑止紀元が終了した時点で、宇宙にはおよそ150万人が住んでいた。
地球インターナショナルに50万人、太陽系艦隊に100万人。
艦隊が保持する恒星級戦艦は100隻をわずかに超える程度だった。
核融合推進はすでに技術的な限界にさしかかっていたため、艦船の速度が向上することはなかった。
どの戦艦もtomokoの命令にしたがって、火星軌道に戻った。
火星基地では100万人が快適な生活を送ることができる。
カイパーベルトから帰還した2機の”水滴”は火星都市の上空をたえずパトロールしていた。
火星の人類は重力波送信器の建造にはいっさい手を出さなかった。
宇宙における移民プロセスは3か月で完了した。
月軌道よりも内側にいた50万人は地球に戻ってオーストラリアに移住し、太陽系艦隊の100万人は火星へ移動した。
かくして太陽系内の宇宙空間には人類はいなくなった。
chensinがテレビを見ていると、2機の物資輸送機が到着して物資を地上に降ろしたとたん、群衆が押し寄せ、食料の山はたちまち消え失せた。
もう1機の輸送機が到着して物資を降ろしたとき、輸送機からtomokoが飛び出し、食料の山の上に立った。
整列！
tomokoが叫んだ。
一瞬、群衆は鎮まったが、すぐまた食料の山によじのぼりはじめた。
このクズどもが！ なぜ命令に従わない！
食料の山によじのぼっていた3人の男の体がtomokoの刀で真っ二つになった。
tomokoは群衆の中にふわりと飛び降り、たちまち数十人の死体の山を築いた。
tomokoから群衆は離れ、鎮まった。
整列！
群衆はたちまち長い行列をつくった。
人類の堕落した自由の時代は終わった。ここで生き延びたいなら、再学習し、種の尊厳をとりもどすがいい！
移民が始まって9か月目、オーストラリアの人口は34億人に達した。
tomokoは、ニュージーランドおよびオセアニアの島々を移民の一時滞在場所として使うことを認めた。
残りの2ヶ月半で、さらに6億3千万人がそれらの島々を経由してオーストラリアに移ってきた。
最終期限まであと三日に迫ったとき、最後の移民300万人を乗せた船体と飛行機がニュージーランドを出発してオーストラリアに向かい、大移住が完了した。
市政府の大型テントの上に、巨大な情報ウィンドウが出現し、tomokoが映った。
大移住は完了しました。ありがとう！ みなさん全員に感謝します。
これは数万年前、みなさんの祖先がアフリカを出て世界に広がったことに比肩するでしょう。わたしたち二つの文明にとって、新しい時代がはじまったのです！
オーストラリア居留地は外界と完全に切り離されました。オーストラリアを離れようとするものは三体文明の領土に対する侵略者として、容赦なく殺害します。
これから3か月の間、人類居住地は自給自足の農業社会にとどまり、電力をはじめとする現代技術の使用はすべて禁じます。
地球治安軍はいままさに、オーストラリア大陸にあるすべての電力施設を破壊しています。
移民の過程で多くの農業プラントがオーストラリアに移転し、すでに稼働しているものも少なくない。こうしたプラントでは従来の農作物の何十倍も収穫できるが、大量の電力を必要とする。
現在の食料備蓄では、42億人が生きていけるのは一か月だった。
出席者が叫んだ。
食料はどうなる？ どこから手に入れろと？
tomokoは言った。まわりじゅうに生きてる食料があるじゃないですか
三体文明が練り上げてきた人類絶滅計画が最終段階に達していたのだ。
tomokoは続けた。
来たるべき生存競争で、人類の大部分が淘汰されるでしょう。
三か月後に三体艦隊が到着したとき、この大陸には3千万人ないし5千万人しか残っていないはずです。
最終的な勝利者は自由で文明的な生活を送ることができます。
地球文明のともしびは消えることなく、小さくなって灯りつづけます、お墓みたいに。
いつからか人類は自分たちに生きる資格があるという幻想をもっていた。
これからはみなさんは生存のために戦うことになります。最後に残る5千万人に含まれることを祈ってます。
群衆の間からかん高い悲鳴が上がった。
chen博士ですか？
治安軍特殊部隊の隊長です。tomokoの命令であなたをオーストラリアから連れ出すために派遣されました。
tomokoと話せる？
携帯電話が渡された。
助けてほしい人が二人いる。aiAAとfles。
tomokoはaiAAのほかにfles老人を知っていた。
その二人をオーストラリアから連れ出して自由に暮らせるようにして。
お安いご用。あなたは？
わたしのことなら大丈夫
sophonを1体のこしておきます。いつでもわたしと話せます。
chensinとaiAAとflesは、この一年、十分な食料を配給されていて、家も接収されることがなかったが、tomokoが気にかけてくれていたからだった。
chensinはtomokoのことをひとりの人間、女性だと思っていた。
42億人の虐殺に着手したtomokoが、chensinという個人の幸福を気にかけている。
治安軍の隊長が、お知り合いの二人を逃がすように命じられたと言った。
ここはもうすぐ地獄になります。ここを離れた方がいい。
BlueSpaceの球形ホールの中央に、1400名あまりの人々が浮かんでいた。
そのうち1200名以上がBlueSpaceの兵士だった。
60数年前にも、BlueSpaceの兵士たちはjanpeihaiの指揮を受けていた。
いまも彼らはおおむね3歳から5歳くらい年齢を重ねただけだった。
残りの百数十名の兵士はGravityの乗員だった。
BlueSpaceの艦長chuuyen大佐が言った。
われわれのあいだの溝はまだ大きいが、同じ一つの世界に属していると考えたい。
まず喫緊の問題を処理する。
空中に巨大なホログラフィック・ウィンドウが出現し、恒星がまばらな宙域を映し出した。
その中に数百本の白い直線が刷毛のように平行に並んでいる。
これは三体星系近くの星間雲に残る航跡で、8日前に観測した。
この船団は光速に近いスピードで移動していて、4年後には太陽系に到達するだろう。
Gravityが出航したのち、地球世界は宇宙全体の平和と繁栄という夢に溺れ、状況判断を誤った。
三体世界は辛抱強くチャンスを待ち、そしていま、それをつかんだ。
この事件が起きたのは今から5時間前、”水滴”がわれわれ2隻に攻撃をかけてきたときだ。Gravityから得た情報によると、地球にいる二人の執剣者のあいだで権限の委譲が行われた時だ。
これこそ三体世界が半世紀もの間、待ち続けていたチャンスだった。
2機の”水滴”は、sophonがブラインドゾーンに入る前に三体世界から指令を受けていたのはまちがいない。
暗黒森林抑止による平和はすでに破られたと結論せざるを得ない。
重力波宇宙送信がすでに実行されたか、それともされていないか
われわれは実行されていないと考える。
地球の人類は暗黒森林抑止を維持する能力を失った。
つい先ほど知った事実によれば、重力波アンテナを形成する物質がまもなく半減期を迎えるため、重力波送信能力はあち2か月しかもたない。
いまや残された選択肢は、ただちに重力波宇宙送信を行うことだ。
GravityのMorovicci艦長が訊ねた。
世界絶滅罪を犯すつもりか？
chuuyen艦長はMorovicci艦長を相手にせず、クルーに向かって言った。
われわれにとって、重力波送信システムの起動にはなんの意味もない。
地球世界も、三体世界もわれわれには追いつけない。
だったら、あなたのやることは三体世界に対する報復じゃないか！、Gravityの士官が言った。
三体世界に対する報復はわれわれの正当な権利だ。彼らはすでに犯した罪について責任を取らねばならない。これは戦争だ。敵を滅ぼすことは正しく、当然の行為だ。
人類絶滅のプロセスはもう始まっている可能性がきわめて高い。
全宇宙に対する重力波送信は、地球に残された最後のチャンスだ。
太陽系の座標が全宇宙に知れわたってしまえば、地球を占領する価値はなくなる。
その結果、三体艦隊は二度と太陽系を目標とすることはない。
地球に時間を与えるため、三体星系の座標だけを送信する。
われわれは2隻あわせて一つの世界だ。
いま、重力波送信によって三体星系の座標を全宇宙に送信することに賛同する人はホログラフィックの赤ボタンを押してくれ。
総員1415名の3分の2の944票になったら、ただちに重力波送信を開始する。
944番目のボタンに手を置いた乗員の手の上に後ろの者の手がつぎつぎと置かれ、Morovicci艦長の手が置かれて、ボタンは押された。
重力波送信器が起動した。
その場にいたすべての人間が強い振動を感じた。わずか12秒間だった。
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抑止紀元終了後、第2年
大移住完了の翌朝
chensinは人々の歓喜の声を聞いた。
BlueSpaceとGravityという言葉が何度もくりかえされている。
だれかが呼びかけてきた。
市長から、あなたを連れ戻すようにことづかってきました。
みんな自分の家に帰るんです。
オーストラリアを離れて、もといた場所に帰るんです。
Gravityが全宇宙に向けて重力波送信を実行したんです。
三体人はすでに逃げ始めています。第二艦隊は方向転換し、太陽系を離れはじめました。”水滴”もすべて太陽系から去りました。
tomokoの説明によれば、太陽系も三体星系と同じく、死の星系になったからです。
三体世界が重力波送信を受信したのは1年前に送信されたものです。つまり、森林抑止が崩壊した時点です。
喜んでいいはずですよ、あなたのやるべき仕事を彼らがかわりにやってくれたんですから
人類は過去70年の間に、二度も滅亡の危機に瀕しながら、奇跡的に生き延びることができた。
暗黒森林抑止の成立と、Gravityから全宇宙に向けた重力波送信の実行。
これには多くの共通点がある。
ごく少数の個人の行動によってなされたこと。
2隻の宇宙戦艦と”水滴”が偶然、同時に四次元のかけらに入ったことにより、”水滴”を破壊できたこと。
二度の危機に際して、信者たちが祈祷集会を催したこと。
これらが神の救いにつながったと信じられるようになった。
かくして地球は、巨大な祈りの惑星となった。
地球低軌道に国際的な宇宙協会が建設された。
長さ40キロメートルと20キロメートルの長短2本の直方体が十字に交差し、まばゆい光を放っている。
三体人に対する人類のイメージは、邪悪な侵略者から同情すべき犠牲者に変わり、さらに、安全通知を送信する方法を知っている三体人こそ神に遣わされた救済の天使だと信じられるようになった。
深宇宙へ消えたBlueSpaceに対して、人類社会は救済の天使から、悪魔の宇宙戦艦に戻った。
Gravityをハイジャックし、三体世界を滅亡させた罪深いサタンになった。
tomokoの信者たちは、BlueSpaceとGravityを破壊してくれと嘆願したが、tomokoは反応しなかった。
同時に、chensinのイメージも変化し、ふたたび偉大な女性になった。
彼女の人類に対する愛と、その愛の深さがもたらした痛みにより失明した悲劇の聖女、、新時代の聖母マリアになった。
chensinにとって、人生はずっと重荷だった。
永遠に姿を消すことが果たすべき最後の仕事だった。
ひとつだけカプセルが残っている瓶をとりだした。これは、生命維持システムで生命維持しているかぎり、服用して人工冬眠できる薬だ。
カプセルを手にしたとき、flesから電話が来た。
子どもよ、世の中はもっとよくなるよ
午前三時過ぎ。flesから電話が来た。切羽詰まった緊張した口調だった。
急いで外へ出て空を見上げてくれ！
夜空にひとつの青い星を見た。
過去三世紀にわたって人々が真っ先に眺める場所だった。
その明るさは急激に増加し、地上に影を落とすほどになって、満月よりも明るくなり、しだいに光度は衰えはじめ、白から赤へと変わり、約30分ほどですっかり消えてしまった。
三体世界の消滅によって暗黒森林理論の正しさは決定的な確証を得た。
三体世界は、送信紀元が始まって3年と10か月後に破壊された。
重力波送信からこれほど短い時間で攻撃されるとはだれも予想していなかった。
光速に極めて近い小さな物体が、相対論的効果による質量増大で恒星を破壊した。
恒星の爆発は三体惑星も破壊した。
Gravityが重力波送信を開始した時点で、三体星系との距離は約3光年だった。
重力波は光速で伝搬するので、光粒photoidはGravityよりも三体星系に近い場所から、しかもGravityからの重力波メッセージを受信した直後に発進したことになる。
この宙域に他の星系はない。
つまり、photoidはどこかにいた宇宙船から射出されたことになる。
かつては水平線の彼方に見える影でしかなかった死神が、いまわれわれの目の前に現れた。
yuntienminの脳を運んでいた小型探査機は、光帆をつないでいるケーブルの一本が木星軌道付近で断裂して、予定された針路をはずれた。
探査機の発進後、sophonが追尾していたのではないか。
探査機を拿捕したのは三体第一艦隊所属の宇宙船だろう。
現在、この艦隊の大部分はシリウス方向へ進んでいる。
彼の大脳が生かされているのか、クローンで作られた体に移植されているかもわからない。
yuntienminは人類の利益のために働いてくれるだろうか。
yuntienminに関するニュースがおおやけになったとき、人々の最初の反応は次のようだった。
わたしたちの祈りは聞き届けられた。救済の天使がとうとう現れた。
tomokoは昨夜、自分が去ることを告げていた。
わたしは出発します。どうかお二人とも体に気をつけて。
縁があればこの先、きっとまた会えるでしょう。
お別れの前に最後の使命を果たします。伝言です。
yuntienminがあなたに会いたいそうです
電話が鳴った。tomokoからだった。
あした、chensinとluojiiをお茶に招待するという。
この誘いを断るわけにはいかない。
luojiiがtomokoに、質問してもいいかな、と言った。
少々お待ちください、とじっと動かなくなった。
2分ほどして
luojiiさま、ひとつだけでしたら質問をお受けします。
わたしの反応は、肯定するか、否定するか、わからないと答えるだけです。
わたしの答えはかならず真実です。
遠距離からの観測によって、三体世界が危険だというしるしが見えたのだとすれば、逆のしるしをみせることは可能だろうか。
つまり、ある文明が、自分たちは無害で、だれに対しても脅威にならないということを全宇宙に示し、それによって暗黒森林攻撃を回避することはできるのか。
そのような安全通知を地球文明が送信することは可能なのか。
tomokoはluojiiの目をまっすぐ見て答えた。
はい。
三日前、tomokoは会合の基本原則について、地球側に連絡してきた。
yuntienminとchensinの二人だけで行われる。
会話の内容は両者にかかわることだけに限定する。
三体世界のいかなるテクノロジー、政治、軍事についての話題はできない。
第三者の立ち合いも、記録も認めない。
会談場所は、地球から150万キロメートル離れたラグランジュ点。
会談はsophonが中継する映像と音声のリアルタイム通信によって行われる。
参謀総長がchensinに言った。
君たちの話は三体人に監視される。もし、知るべきでない情報が与えられたと彼らが判断したときは、赤いライトが点灯して3秒後に背後の天秤の錘のような物体が爆発する。
話の内容は二人の間のプライベートな話題に限ってくれ。
5時間後、chensinの乗った小型艇は出発した。
ラグランジュ点に到着したとき、目の前にとつぜんひとつの球が現れた。
球面に小麦畑が見えた。
麦畑の向うから歩いてきたのは、yuntienminだった。
3世紀前に別れたときと同じくらいの年齢に見えた。そのころよりもずっと健康的な体つきで、すこし日焼けしていた。
chensinに向かって微笑み、手を振った。
chensin、小さいころ、いっしょになにをして過ごしたか覚えてる？
思いがけない質問にとっさに反応できなかった。
首を振った。
きみがつくったあの物語の話をしようか。
tienminは三つの物語、王宮の新しい絵師、とうてつの海、深水王子をつづけざまに語った。
to be continued 21:41 2024/07/16
話し終わると、あと1分しか時間が残されていなかった。
じゃあ、会う場所を決めよう。
あなたが贈ってくれた星にしましょう
じゃあ僕たちの星で！
会談は終わり、球状の表面の映像が消えた。
chensinの乗った小型艇は帰路につき、ターミナルステーションのポートに着いた。
sophon遮蔽室の中で、chensinは会談の内容をすべて話した。
人類はsophonを遮蔽する技術を獲得していた。
*********************************** ***
yuntienminの第一の物語
王宮の新しい絵師
むかしあるところに、物語のない王国がありました。
王国には、賢明な王さま、善良なお妃さま、誠実で有能な大臣たち、勤勉で正直な民がいました。
毎日、毎年、同じ日と同じ年がくりかえされていました。
王さまには、深水王子と氷砂王子と露姫がいました。
深水王子は子どものころ、とうてつの海にある墓島に行って、二度と戻ってきませんでした。
氷砂王子は、頭はよかったのですが、幼いころから暴力をふるい、暴君のような性格でした。おつきの者たちに小動物をたくさん集めさせて、奴隷扱いにしました。
遊びが終わる頃は、たいてい小動物は皆殺しになりました。
王さまは氷砂王子から王位継承権をとりあげて、露姫に王位を継がせることにしました。
露姫は聡明で美
しく、民は露姫が女王となる日を待ち望んでいました。
ただ、氷砂王子の目つきは暗くなりました。
王さまは60歳の誕生日を迎えた日、王位の継承を正式に発表しました。
だれもが幸せな喜びに浸りました。
氷砂王子は、露姫はたしかに自分よりも王位にふさわしいと、妹を祝福しました。
王さまは王子の頭をなで、おまえのそのような姿を見て嬉しくおもうと言いました。
ひとりの大臣が王様に、祝宴の様子を大きな絵に描かせてはと、提案しました。
王宮の絵師は年老いた、もはやよい絵はかけまい、と王さまは言った。
氷砂王子が、父上、わたしに新しい絵師を紹介させてくださいと言った。
紹介された絵師は14、5歳くらいの少年だった。
名を針孔絵師と言った。
王さまはこんなに若くて大丈夫かと言ったが、少年の鋭い目を見て驚いた。
絵師は王妃と王女と大臣たちを一瞬だけ見て、言った。
わたくしはみなさまの姿、才能、知恵を心の中に描き終わりました。それを絵に薄しましょう。
ひとりひとりの頭と体の毛の一本一本まで、瓜二つに描くことができます。
翌朝、二頭の馬が王宮を出ました。馬には氷孔王子と針孔が乗っていました。
二人は王宮から数理離れた地下砦にやってきました。
まるで眠れる巨大な冷血動物の腹の中のようでした。
針孔は帆布の袋の中から長い巻物をとりだし、床にひろげました。
それは一枚の大きな絵で、ひとりの老人の肖像が描かれていました。
こちらがわが師、空霊大絵師でございます、わがきみ。
針孔はその絵を壁にかけました。
これで殿下のために新しい絵を描くことができます。
針孔は薄暗い片隅から雪のように白い巻物を抱えてきました。
それを黒曜石の石板の上に広げて、針孔は描きはじめました。
この筆と絵具はhooalsingenmoskenでつくられたものです。
針孔は絵筆をとってさまざまな色を使い分けながら描き、絵は徐々に色で埋め尽くされて行きました。
絵の中の王は宴で見たときと同じ服装で金色の王冠を戴いています。
でもその表情には夢からさめたような困惑と悲哀の表情がありました。
宮殿では国王が寝室から姿を消しました。
次に針孔は王妃を描きました。
王さまのときと同じように宴で見たときと同じ服装でした。
宮殿では王妃が寝室から姿を消しました。
次は王女さまを描きましょうか
いや、先に大臣たちを描け。国王に忠実な大臣たちだけを描け。
針孔は大臣たちを描きました。
大臣たちは宴で見たときと同じ服装でした。
ひとり描き終わるたびに、宮殿ではひとり姿が消えていきました。
露姫は夢の途中、あわただしく寝室の扉をたたく音に驚いて目を覚ましました。
同じ部屋に寝ていた乳母の寛おばあさんが扉を開けたところでした。
扉を開けたのは近衛隊長でした。
王女殿下、姫さまにお目にかかりたいと申す者が来ております！
うしろに白髪頭と白ひげの老人が立っていました。
この老人は、針孔が描いた老人でした。
老人は骨が折れてる奇妙な傘をくるくる回しつづけていました。
こうしていないとわたしも国王陛下や王妃陛下のように消えてしまうのです。
わたしは絵師の空霊です。針孔はわたしの弟子でございました。
やつは悪魔の画法を習得して、人を絵の中に描き込んでしまうのです。
針孔はどこにいようとも、王宮にいる人間を絵に描くことで殺せるのです。
氷砂王子は針孔絵師を使っ王位を奪おうとしているのです。
針孔を除くことができるのはわたしだけです。
針孔はすでにわたしを絵の中に描きこんでいますが、この傘のおかげで消えることを免れています。
わたしが針孔を絵に描けば、やつは消えてしまいます。
寛おばあさんは空霊絵師が持ってきた帆布の袋を開けて、白く光る巻物をほどいて広げましたが、黒曜石でできた石版の上に広げないと平らに伸ばすことができないのです。
寛おばあさんが思いつきました。あたしがもっているアイロンは黒曜石でできてるよ。
空霊絵師はアイロンを使いましたがなかなか紙は広く広がりません。
寛おばあさんと近衛隊長は針孔に見られてないですね。お二人は王女様のお供をして、とうてつの海の深水王子を探してください。
深水王子はこの世でただ一人、針孔が描くことができない人なのです。
あなたがたはかならず深水王子を王宮に連れ帰り、針孔を殺さなければなりません。
そして王女さまの肖像画を見つけて燃やすのです。そうすれば露姫は安全になります。
もし、父と母の絵を見つけることができたら、、
国王陛下と王妃殿下はもういなくなってしまいました。もしその絵を見つけたら、燃やさずに残して祀るのです。
露姫は泣き出しました。
王女様、いまは泣いている場合ではありません。急いで出発なさることです！
空霊絵師は、寛おばあさんからくるくる回してる傘をとって近衛隊長に渡し、露姫さまにくるくるまわしながらさしかけるようにといいました。
この傘はひとりしか守れないのです。
空霊絵師の体はだんだん透明になって消えていきました。
四半時後、夜明けとともに1台の馬車が搦め手門を通って王宮を出ていきました。
近衛隊長が馬を御し、寛おばあさんが露姫に傘をさしかけていました。
このとき、針孔は露姫の絵を描き上げたところでした。
いままで描いた中でもっとも美しい肖像画だと言いました。
*********************************** *** ***
yuntienminの第二の物語
とうてつの海
深水王子はどうして墓島に追放されたのですか？
露姫が寛おばあさんにたずねました。
噂では深水王子は巨人だとか。
浜辺に行けば見えます。巨人に違いありません、多くの人が見たのですから。
子どものころ、深水王子は船で墓島へ釣りに出かけたんです。
ちょうどそのとき、とうてつ魚が現れて帰ってこれなくなって、島で育つことになったんです。
夜になって、半分砂にうずもれている一艘の古い舟が見えました。
王女さま、海に入ってはいけません。
近衛隊長は板切れを拾い上げ、波打ち際に近寄って海にほうりこみました。
板切れが波にゆられると、近くから海面に三つか四つの黒い影が浮き上がり、板に襲いかかってかみ砕きました。
露姫が顔を洗おうと思って、石鹸を桶の水にちょっとつけると、ポンと音がして水面はたちまち雪のような白い泡でいっぱいになり、桶からとめどなくあふれだしてきました。
近衛隊長が石鹸を手に取ると、重さを感じませんでした。
これはhooalsingenmosken産だ！ まだ残っているなんて！
もう残りは二つだけ。姫さまのためにとっておきました。
寛おばあさんは石鹸を慎重につつみなおしました。
露姫は浜辺の砂の上で眠りました。波の音が子守唄のようでした。
寛おばあさんと近衛隊長は交替で傘をまわしていました。
近衛隊長はhooalsingenmoskenの出身でした。
hooalsingenmoskenで、近衛隊長の両親はいくつもの物語を話してくれました。
かつて王国を囲む海には、とうてつ魚はおらず、船は自由に航海していました。
王国とhooalsingenmoskenとのあいだをたくさんの船が毎日行き来していました。
王国は物語の王国と呼ばれていて、毎日いたるところで興奮と驚きに満ちたことが起きていました。
ある日、hooalsingenmoskenを発った一隻の貿易船が、珍しい小さな魚を鋳鉄製の樽に入れて運んできました。
この魚はhooalsingenmoskenの洞窟の奥深くにある暗い淵で見つかった淡水魚でした。
その歯はダイヤモンドのように硬く、錐の先にもなり、ひれは矢じりやナイフに加工できました。
その後、多くのとうてつ魚が運ばれてきましたが、ある嵐の日、貿易船が沈没して20樽のとうてつ魚が海に逃げ出しました。
とうてつ魚は海の中では非常に速く成長し、人間ほどの大きさになりました。
船の周りに集まるとみるみるうちにかみ砕いて、船は見えなくなりました。
とうてつ魚の群れは王国の沿岸を回遊しはじめ、他国の船は近寄らなくなりました。
王国は外界との接触を断たれ、いぎやかな街はなくなり、変化も興奮もなくなって、人々は物語を望まなくなり、物語のない王国になりました。
*********************************** *** *** ***
yuntienminの第三の物語
深水王子
露姫がふたたび目を覚ますと、海の色は黒から青に変わっていました。
近衛隊長は、あれが墓島です、と指さしていいました。
島に立つ巨人が見えました。
潮が満ちて、いつのまにか波が砂浜に押し寄せてきました。
ゆうべ露姫が顔を洗うのに使った木の桶が波に流されて、ひっくり返り、中に入っていた真っ白な石鹸の泡が海面に広がっていきました。
とうてつ魚が近づいてきてきましたが、泡に触れた瞬間、白い腹を見せて海面に浮かんでいました。
石鹸は、hooalsingenmoskenの森にある樹齢千年以上の魔法樹が噴き出す泡でつくられていました。
飛んでゆく百万個の泡を集めてやっとひとつの石鹸ができ、石鹸の泡からまた百万個の泡ができます。
to be continued 15:28 2024/07/02
近衛隊長は浜辺でいちばん小さな舟を見つけると、三人で乗りました。
すぐとうてつ魚が舟をとりかこんだので、露姫が石鹸を海水に浸すと、大きな泡が海面に湧きあがり、大きく広がって海面は雪のように白くなり、魚たちはおとなしくなりました。
舟はだんだん墓島に近づきました。
深水王子はまだ背を向けていましたが、背がすこし低くなりました。
王子がこちらを向き、驚いた表情をしました。
王子の足もとにふつうの背丈の人々が現れました。
王子の背丈がまた低くなりました。
島に到着したときは、王子の背丈はふつうの人と同じくらいになりました。
お兄さま、妹の露です
たしかに妹に似てるね
王子と家来たち八人は2隻の船に乗り、露姫たちは小さな舟に乗って、王国に向かいました。
とうてつ魚はまだ静かに浮かんでいました。
そのとき、彼方に見える王国の海岸に騎馬団が押し寄せてきました。
王子たちが上陸すると、将校が来て、氷砂王子が即位したことと、露姫を殺害するように命令を受けたことを述べました。
深水王子は、答えました。
露姫は正当な王位継承者である。氷砂王子は国王を殺した逆賊である。
わたしは、氷砂と対決して決着をつける。
王宮の大広間では、戴冠した氷砂王子が臣下たちと盛大な酒宴を開いていました。
とつぜん、深水王子の騎兵隊がまもなく到着するという報告がきて、臣下たちはおびえましたが、氷砂王子は針孔を呼びました。
針孔絵師が音もなく現れ、王子は、深水の姿を見たらすぐ絵に描けと命じました。
しばらくして針孔がもどりました。
わがきみ、わたしは深水を描くことはできませんでした。
深水王子はわたしの画法では描けません。王子は遠近法に従ってないのです。
深水王子は氷砂の前に来ました。
氷砂は思い出しました。父王が病気になったとき、この病気は墓島にいる魚でつくる肝油で治せると、深水王子に言って取りに行かせたのでした。
深水王子は、氷砂に言いました。おまえは許されない罪を犯した。
二人は剣を抜いて闘いました。
深水王子は遠近法に従わないので、間合をとることができず、氷砂は深水王子の剣で胸を貫かれて死にました。
近衛軍は歓喜の声を上げ、深水王子と露姫への忠誠を誓いました。
近衛隊長は針孔を探して王宮の離れの画室に行きました。
画室には針孔の姿はなく、描かれたばかりの針孔の自画像がありました。
近衛隊長は露姫の絵を壁から外して、蝋燭の火で燃やしました。
傘はもう必要ありません。
傘が閉じられると、骨の先につけられた石の玉がぶつかり合う音を最後に、傘は静かになりました。
わたしは兄上に王位をゆずって、あなたと海の果てまで行きましょう。
************** ************** *************
三つの物語に意味のある戦略的情報がほんとうに含まれているのか
IDCの情報解読が膠着状態に陥ったことで、世間の人々は奇跡に対する幻想を捨て、現段階で利用可能な技術を使って地球文明を保存する道を探り始めた。
人類は、太陽が暗黒森林攻撃を受けた場合に訪れる災厄について正確な数理モデルを構築することができた。
地球人類は恒星が破壊されるプロセスをつぶさに観測する機会を得て、この研究成果は掩体計画の誕生に直結した。
いまや、掩体計画はyuntienminメッセージにかわって、国際社会から注目を集めることになった。
石鹸が水の中で溶けると、舟の後方の水面の表面張力が低下し、舟の前方の表面張力は変わらないので、舟は前方の表面張力にひっぱられて前進する。
chensinの頭の中に稲妻がひらめいた。
浴槽の静かな平らな平面が漆黒の宇宙空間に変わり、白い小さな舟は果てしない海を光速で進みはじめた。
そのとき、別の考えがchensinの脳裏に浮かんだ。
折り紙の舟からむりやり目をそらし、できるだけ無関心な興味のないそぶりを見せようとした。
危険だ。
いまはもう太陽系内にsophonはいないと信じてはいたが、それでも慎重な行動をした方がいい。
あなたと遊んでるひまはないの、と言ってchensinは浴室を出た。
aiAAが追いかけてきて、とめどなくおしゃべりをした。
もし黙ってしまったら、その沈黙によって心に隠された喜びが消えてしまいそうだった。
曲率・・・
そう、曲率推進！
巻紙は、明らかに曲率ドライブで航行する宇宙船の前方と後方の空間の曲率の違いを示している。
この折り紙の舟が空間曲率ドライブのメタファーとなっている。
chensinは、tienminが邪悪な三体世界から情報を伝えるためにどれだけの思案と苦労を重ねたのかを思い、涙が出た。
tienminは3世紀前にchensinに星をプレゼントし、いま、人類に希望を贈った。
傘はぐるぐる回し続けなければならなかった。これは遠心調速機のメタファーだ。
観測者の目に映る深水王子の身長は観測者との距離にかかわらず一定だった。これは光速度を意味している。
魔法樹の泡は最速の速度で運動し、質量がない、これは光子を意味している。
光の速度を低下させることと、安全通知との関係が話題になった。
太陽系の中で光速度を低下させられたとすると、宇宙スケールの遠距離からでも観測可能な変化を人類がもたらしたことになる。
もし、光速度を100分の1に低下させたとすれば、観測者は人類が緩衝地帯に囲まれているのを観測する。この緩衝地帯のために人類の宇宙船が太陽系外に出るには長い時間がかかる。そうなれば遠方の観測者にとって、人類は安全な文明に見える。
いや、それはかえって地球文明が基本物理定数を変えられる高度な技術を持つことを全宇宙に知らせることになり、危険警告になってしまう！
地球文明生存のための三つの道
１ 掩体計画
成功の可能性が最も高い。理論的に未知の部分はない。
yuntienminメッセージにはこの選択肢はない。
２ ブラックドメイン計画
太陽系を低光速ブラックホールに変えることにより、全宇宙に安全通知を送信する。
技術的難度が最も高い。
photoidのような飛翔体が太陽系外から侵入した場合、その時点の速度はブラックドメイン内部の低速化された光速度をはるかに上回るが、境界を越えた瞬間、低速の光速度まで減速する。
相対性理論のもとでは光よりも早く移動することはできないため、最初に境界を超えた前方部分の質量が急激に増大し、後方部分は前方部分に光速で衝突するので、飛翔体は完全に破壊される。
強い相互作用物質でできた”水滴”のような物体でも境界で完全に破壊される。
このため、ブラックドメインは宇宙版耐火金庫と呼ばれている。
しかし、そのために莫大な代償を払うことになる。
太陽系は宇宙のほかの部分から完全に遮断され、事実上、人類が属する宇宙の広さは、直径160億光年から50天文単位へと縮んでしまう。
人類世界は低速でしか動かない電子機器の世界になり、テクノロジーを放棄することになる。
３ 光速宇宙船プロジェクト
曲率推進を可能にする理論的な基礎はまだ確立されていないが、ブラックドメイン計画にくらべれば実現の難易度は低い。
たとえ実現しても、深宇宙をさすらう人類の前途は危険に満ち、予測不可能だ。
突然、攻撃アラートが出た！
太陽系早期警戒システムの観測ユニットを始めて起動した直後だった。
photoidが見つかりました！
もしこのアラートが本物だったら、脱出して生き残る唯一の希望は、宇宙船で木星へ向かうことだった。
ちょうどいまは木星が太陽とは反対側の「衝」の位置にある。
だれかが駐機エリアで離昇シーケンスを強行した！
核融合エンジンから噴射されるプラズマが瞬時に地面を溶かした。
離昇したシャトルの周囲に駐機されていた数機が横倒しになった。
その数十秒後、べつの1機が離昇し、また、1機と次々に離昇し、駐機エリアは火葬場となった。
IDC委員からchensinに連絡があった。
アラートは誤報だった。
太陽系早期警戒システムの1号観測ユニットが異常を探知したことは、誤りではなく、ただ、photoidとはまったく関係がなかった。
観測員widnerが重要な事象を発見した。
星雲の中心から30天文単位ほど離れたところに、宇宙のシャボン玉のようなまるい輪郭が見えた。
さらに、三体星系から約6000天文単位離れた宙域にもうひとつのシャボン玉を見つけた。
もしかして、三体第二艦隊が光速に入った場所？
この情報はニュートリノビームを使って艦隊参謀本部に送られ、国連PDC本部にも転送された。
その段階で情報のリークが発生し、photoid攻撃に対する警報だと誤解された。
曲率ドライヴの航跡は、宇宙船が光速に入るときに残される。
光速に入ったあとは慣性航行することになり、航跡を残すことはない。
つづく一か月の間に、観測ユニットはさまざまな宙域で曲率ドライヴの航跡を六か所発見した。
中の一つは太陽系から6000天文単位の距離にあり、三体第二艦隊が光速から離脱したときのもののようだった。
残りの数か所は、三体第二艦隊とは無関係で、この宇宙にありふれたもののようだった。
航跡の一つは、太陽から1.4光年の距離にあるオールトの雲近くにあった。
かつて一隻の宇宙船がその宙域を航行し、そののち光速に入って飛び去ったことを示している。
BlueSpaceとGravityが四次元のかけらの中で発見した事実を裏づける証拠の一つになった。
この宇宙には多数の高度な知的文明が存在している。
艦隊インターナショナルと国連は曲率ドライヴ宇宙船の研究と建造を全面的に禁止し国際法をただちに制定し、各国も追随した。
表面上、光速宇宙船プロジェクトの頓挫には明確な理由があった。
曲率推進によって生成される航跡が地球文明の存在を宇宙全体に知らしめてしまう事態避けることだった。
しかし、もっと深い理由があった。
三世紀にわたる恐怖の一般の人たちは平穏な生活に対する憧れが強くなっていた。
ブラックドメインは宇宙から切り離された安全な生活を保障してくれるが、掩体計画と比べて関心は低かった。
大衆の無関心な態度とは対照的に、エリート層の間で光速船プロジェクトに対する熱狂的支持がひろがった。
この冷酷な宇宙では、外に向かって打って出る文明しか生き残れない。宇宙の片隅でひっそり生存するだけではいずれ滅亡する。
chensinは、艦隊インターナショナルと国連が共同で進めている掩体計画に関するシミュレーション実験のボランティアとして木星の裏側に来た。
自分の宇宙艇のすぐ横にいる宇宙艇が5人の乗員が見え、ひとりが手を振った。
ThomasWadeだった！
ドッキングしようと言ってきて、chensinの同意を待たずドッキングプログラムが起動して、wadeがハッチから船内に入ってきた。
一か月前に刑期を終えたんだ、減刑されて、とwadeが言った。
お前が持つものをすべておれによこせ
おまえの会社、財産、地位、可能ならおまえの栄光と名誉。それらすべてを使って、おれが光速船をつくってやる。おまえの理想のために。
二度と同じ過ちをくりかえすな
カウントダウン・タイマーがゼロになり、水素爆弾が爆発した。
四つの大きな小惑星片の裏側にいた50隻の宇宙艇はまったくの無傷だった。
二日後、星環グループ本社最上階にある大ホールで、chensinはwadeと対面した。
じゃあ、冬眠に入ってくれ。
おまえの存在がおれの事業に影響を与えるかもしれん
chensinはうなづいた。
成功したその日におまえを起こす。
もし、その日、光速船がまだ違法だったら、すべての責任はおれが負う。
逆にもし光速船が世界に受け入れられたら、その栄誉はすべておまえのものだ。
10日後、ThomasWadeは星環グループのCEOとなり、会社の経営権をすべて引き継いだ。
同じころ、chensinとaiAAは冬眠に入った。
掩体紀元11年
ナンバー37813、あなたの冬眠は終了しました。
あなたは62年8ヶ月21日と13時間、冬眠していました。
あなたには、あと、238年3ヶ月9日間、冬眠する権利があります。
ここはアジアⅠ冬眠センターです。
現在の日時は、掩体紀元11年5月9日14時17分です。
ここは宇宙都市アジアⅠ、木星の裏側です。
アジアⅠは、掩体プロジェクトでもっとも早く建設された宇宙都市のひとつだった。
幾何学的な円筒形をしていて、回転で生じる遠心力が人工重力をつくりだしている。
最大で2000万人あまりが生活していたときもあったが、たてつづけに新しい宇宙都市が完成したため、いまでは900万人まで減少し、当時のような過密状態は解消されていた。
人工太陽が10キロメートル間隔に三つあり、核融合でエネルギーを生み出し、24時間周期で都市に昼と夜をもたらしている。
chensinが見たのは、二十二の宇宙都市だった。
見えない都市が四つあり、ぜんぶで26の宇宙都市が4列に並んで木星の裏に隠れているという。
いま、木星、土星、天王星、海王星の裏側には６４の大型宇宙都市があり、それに加えて百近くの中型・小型宇宙都市、さらに大量の宇宙ステーションがあり、総計21億人が暮らしている。
地球の人口は激減し、人口はおよそ8億人になっている。
そのうちの大多数は新たに建設される宇宙都市への移住を望み、今後十年以内に移住が完了すると見込まれている。
しかし、なおも数千万人の人々が自発的に地球に住んでいる。
地球に残った人々は、野生動物の襲撃から身を守るためにかならず銃を携帯しているという。
真空中の光速度を低下させる研究は、掩体プロジェクトとほぼ同時に始まり、土星宇宙都市群に属する科学都市、ライトスピードⅠが建設された。
だが、60年におよんだ研究はなんの成果も出せなかった。
基礎研究における実質的な成果は、唯一、環太陽加速器の建造だけだった。
これがブラックホール計画の成功につながった。
ブラックホール計画の最高科学責任者がgaowayだった。
理論上も観測上も、ブラックホールでさえも光速は変えられない、変えられるのは光の通り道と周波数だけだった。
マイクロブラックホールを近距離から観測すれば、なにか思いがけない発見があるかもしれない。
環太陽加速器は短時間のうちにマイクロブラックホールを生み出せるが、たちまち蒸発してしまう。
加速器で生成されたマイクロブラックホールが木星の半径8キロメーテルの衛星レダに投入されました。
レダはあっというまにすべて溶かされてマグマの球に変わり、やがて超強力な閃光の中であとかたもなく消えてしまった。
観測によれば、レダの質量のほとんどがブラックホールに吸い込まれた。
そしてこのブラックホールは安定し、そのシュワルツシルト半径は、素粒子サイズから21ナノメートルにまで広がった。
こののち、このブラックホールを中心にしてライトスピードⅡが建設された。
ライトスピードⅡは事実上、このブラックホールを収めた巨大な容器だ。
ブラックホールの研究は何年も続き、基礎理論の発展に寄与したが、gaowayは研究が始まって6年後に命を落とした。
彼は研究中に起きた事故で、ブラックホールに吸い込まれたそうです。
結果的にブラックホールの研究は中止されました。
星環シティは20隻余りの恒星級戦艦に包囲されていた。
この戦艦は太陽系連邦艦隊の現有戦力の大部分だった。
掩体計画が始まってからは、艦隊の規模は大幅に縮小されている。
封鎖線からの命令を受けて前進をストップすると、軍の巡視艇が近づいてきた。
連邦議長の特使blairが出てきてchensin博士に丁重な挨拶をした。
特使は手を振って情報ウィンドウを開き、画面に太陽系連邦議長が現れた。
wade氏の話によれば、最終決定権はあなたにあります。
われわれは博士に大きな期待を寄せています。
ThomasWadeが経営を引き継いでから、星環グループは掩体計画の主要建設業者となった。
経営規模は8年間で10倍に成長し、いまや世界最大の企業体の一つになった。
この発展はひとえに彼が新たに組織した経営陣によるものであり、wadeは経営にはほとんど介入せず、会社の利益の多くを光速船開発事業に投資していた。
光速宇宙船の建造が星環グループの最終目標だということは公然の秘密だったが、基礎研究にとどまっているかぎり、連邦政府も規制違反で摘発することはなかった。
だが、いまから6年前、星環グループは突如、光速宇宙船の開発計画を発表した。
これが国際社会に大きな波乱を巻き起こし、それ以降、連邦政府との間で摩擦が絶えない。
何度も行われた交渉の結果、曲率推進によって生じる航跡で地球文明の存在が明るみに出ることを防ぐため、曲率ドライヴが有効性試験の段階に入ったら、実験基地を太陽から500天文単位以上離れた深宇宙に移動する。
しかし連邦政府は、ようやく安定したばかりの掩体世界の社会生活を揺るがすことになりかねないと考えている。
光速宇宙船に反対する勢力は、主として大衆や政界であり、支持者の大部分は科学界だった。
星環シティは車輪型の構造をしている。
宇宙艇は車輪の中心軸に入ってゆき、長さ8キロメートルのスポークを経由して街に入った。
wadeとbiiyunfonが出迎えた。
やあ、お嬢さん
wadeは星環グループを引き継いでから一度も冬眠していなかったので実年齢は110歳。
彼らは共通の理想のために60年余りを戦い抜き、いまは人生のおわりにさしかかっている。
平均寿命が150歳のこの時代にあって、chensinは33歳。少女も同然だった。
空気中に静電気のにおいが漂っている。sophon遮蔽室だった。
地球人はsophonが太陽系を離れたのかいまだ確信できずにいる。
ホールの中央に1台のマシンが置かれていた。
制御核融合実験装置の小型版を思わせた。
おまえの肉体の一部に、偉大な瞬間を経験させてやろう
wadeはchensinの頭に手を伸ばし、髪の毛をひと房つまみあげると鋏でカットした。
カットした髪の毛の長さを2,3ミリにし、実験装置のガラスカバーを開けて小さな台の上に置いた。
台の表面は赤い線で二分割されている。
髪の毛はその片方の側にあった。
wadeが合図すると、yunfonがマシンを起動した。
マシンの数本のパイプから赤い光が見えた。
低く沈んだブーンという音だけが聞こえる。
気がつくと、髪の毛が赤い線の反対側に移動していた！
マシンが停止した。
あなたたちは、半世紀以上の時間を費やして、3ミリの髪の毛を2センチだけ移動させたのね
もし同じやり方でその髪の毛を加速しつづけたら、およそ10メートル先で光速に到達します、とyunfonが言った。
50年以内にわれわれは曲率推進による光速宇宙船の建造を実現する。
これは技術的な研究開発で、大量のテストを行う必要がある。
だから、その環境を整備するために、連邦政府に手の内をさらけだした。
でも、いまみたいなやりかただと、すべてを失ってしまう
すべてはおまえの決断しだいだ
wadeは武装した4、50名の兵士を呼んだ。
彼らが携行している銃は一見、大昔のライフル銃だったが、その弾薬の構造は、驚くことに磁場で固定された反物質だった。
環太陽加速器で反物質を製造できた。
この銃で2000キロメートル先の大型戦艦を破壊できる。
すでにこの銃で武装した兵士をほかの宇宙都市に潜入させている。
いまchensinは、赤ん坊を抱いたまま悪い狼と相対しているような気分になった。
あの約束は、まだ有効？
もちろん、でなければわざわざおまえをここに呼ぶわけがない。
よかった。だったらすぐに戦争の準備を中止して、すべての抵抗をやめて。
反物質弾はひとつ残らず連邦政府に引き渡して。
とくに、ほかの宇宙都市に潜入している兵士についてはただちに！
兵士たちは焼き尽くすような目でchensinを凝視した。
兵士たちはひとりづつ視線をwadeに移した。
もうすこし考えてみたらどうだ
その必要はありません
yunfonがchensinに向かって口を開きかけたが、wadeが手を挙げて制した。
wadeの目がうつろになった。
武装解除しろ。すべての弾薬をここに置け
はじめはだれも動こうとしなかった。
ついにひとりが台に歩み寄り、2本の弾帯を置いた。
つづいて二人目がやってきて弾薬を置いた。
それから大勢の兵士がやってきてすべての弾帯が集まった。
掩体世界のすべての星環シティ工作員は、武器を捨て、連邦政府に投降せよ
星環シティ政府は連邦艦隊に協力し、街を連邦に引き渡す。
いかなる過激な行動をとることも禁ずる。
wadeが手を振って解散を命じると、隊員たちは静かに出ていった。
wadeはマシンの台に乗っていた髪の毛を息を吹きかけて飛ばした。
ほらな、約束は守っただろ、お嬢ちゃん
wadeをはじめとする星環グループ上層部と兵士300名あまりが逮捕され、太陽系連邦裁判所の法廷で、ThomasWadeは反人類罪、戦争罪、曲率技術禁止法違反の罪により、死刑を宣告された。
太陽系連邦の首都である宇宙都市・地球Ⅰの連邦最高裁判所の近くにある拘置所で、chensinはwadeと向き合い、葉巻を渡した。
あなたのこと、話してくれない？ わたしが語り継ぐから
話すことなどない。
葉巻をありがとう
chensinはwadeに別れを告げ、生まれてはじめて葉巻を吸った。
三日後、ThomasWadeは強力なレーザーで蒸発した。
掩体紀元67年
＜メインコア＞
宇宙のエントロピーが上昇すると、秩序が低下する。
しかし、低エントロピー体は例外で、エントロピーを減らし、秩序を増やした。
メインコアは空間を通過するあらゆるメッセージを呑み込む。
メインコアはすべての星の位置を覚えている。
受けとったデータをさまざまの形式のマップや位置情報と照らし合わせて、メッセージの発信元の座標を特定できる。
三つの恒星のひとつが消えていて、すでに浄められている。
破壊された恒星の近くでゆっくりと動いている霧が見える。
ゆっくり動く霧は、その世界が危険であることを物語っている。
送信された座標は最終的にひとつ残らず浄められることになる。
もうひとつの座標から、あるメッセージが送信され、このメッセージの中に自動解読システムが含まれていた。
死者が折り返し送信したメッセージが同じ文字コード体系を利用していることがわかり、相対座標が明らかになった。
彼らは自分では清めの能力を持っていなかった。
三恒星世界を浄めた低エントロピー体は、なぜこの座標を浄めないのだろう。
この座標の恒星の唯一の選択肢は、低速の霧に包んで、自分たちが完璧に安全であるように見せることだが、そうしてはいなかった。
メッセージを送信してから充分な時間があるのに、そうしていない。
彼らはただ、やりたくないだけかもしれない。
そうならば、死んだ三恒星世界よりもはるかに危険だ。
この星系は死角があるので質量点は使えないことに気がつき、双向箔を許可されて使うことにした。
母世界と周縁世界との戦争のために、双向箔により二次元化の準備をするのかもしれない。
双向箔は力場を使ってその星系に投げられた。
************* ************* ******
目覚めるとchensinは無重力下にいた。
aiAAが近くに浮かんでいる。
情報ウィンドウに白髪の老人が現れた。
tsaobinだった。
前回の蘇生から56年経っていた。
tsaobinとbiiyunfonは有罪判決を下され、tsaobinは短期間服役しただけで釈放されたが、biiyunfonは10年以上前に亡くなった。
20年前、太陽系早期警戒システムが改良され、宇宙都市は木星の衛星になり、アラートが出たときに軌道を変えて木星の裏側の掩体エリアに隠れる。
攻撃アラートが出ました。
この半世紀の間に二度の誤警報がありましたが、今回は本物です。
だれもが生気のない目をしている。
これは掩体域に身を隠し、攻撃に対して万全を期している姿じゃない。
どうして木星の影に入らないの？
photoiはどこまで来てるの？
photoidではありません。
tsaobinは一枚の小さな紙きれを見せた。
to be continued 15:10 2024/07/17
chensinが冬眠から蘇生する1年前、太陽系早期警戒システムは、光速に近いスピードでオールトの雲の外縁をかすめる未確認飛行物体を発見した。
最接近時、物体と太陽の距離はわずか1.3光年だった。
この物体は巨大で、宇宙に散らばる原子や塵との衝突によって強烈な放射線を発生した。
この物体が航行中に一度、わずかに方向転換して、前方の小さな星間物質雲を避けたあと、また方向返還してもとの針路に戻るところが観察された。
この物体は知的生命体の宇宙船であることが確実になった。
異星船はphotoidを発射することはなかったが、微弱な重力波を途切れることなく放射していた。
この重力波の周波数と強度はつねに一定で、なんの情報も含まれていなかった。
重力波の放射源は、宇宙船とは別の物体であることが判明した。
その放射源は光速で太陽系に接近していた。
標的は太陽ではないらしい。
太陽から150天文単位の距離まで接近したとき、重力波の周波数が急速に低下しはじめた。
それが、射出体の減速によるものであることが判明した。
光速から急減して光速の1000分の1になり、さらに減速しつづけた。
2隻の宇宙船が海王星宇宙都市群を出発し、射出体の調査に向かった。
その主要部分は巨大な重力アンテナで、大昔のヘリウム飛行船に似ている。
異星船との距離が1000キロメートルまで近づいても重力波放射源の位置にはなにも見えなかった。
距離150キロメートルまで接近すると、ひとつの小さな白い点が見えた。
無人機を送り出し、目標から5メートルのところで停止した。
一枚の紙きれが映し出された。
長さ8.5センチ、幅5.2センチ、厚み測定できず。表面は純白で、クレジットカードよりやや小さい。
この紙きれはどんな周波数の電磁波も反射しない。
それ自身が薄い白色光を発して、透明だった。
ロボットアームで紙きれをつかんで引き戻したが。紙きれは元の場所に残っていた。
紙きれは物体をなんの抵抗もなくすり抜けることができた。
艦載艇を一隻1000キロメートルのところに置いて、”紙きれ”から少しづつ離れ、距離が2000キロメートルになったところで、”紙きれ”と並んで航行しはじめた。
”紙きれ”が出している重力波は弱まりつづけ、白い光も暗くなっていった。
探知できなくなったまま、1時間が過ぎた。
とつぜん艦載艇から声が届いた。
上がってくる！
足がっ！ うわああっ
モニター画面を見ると、艦載艇が強い光を発し、艇の底が溶けている！
離れかけていた宇宙服のクルーは艦載艇のほうへ引き寄せられ、彼の足は見えない平面に触れて溶け、水たまりになった。
vasilenkoは艇をただちに離脱させた
。
艇は加速していません、操縦士が言った。
paiiceが言った。
加速していますよ。ただ、空間が反対方向に流動しています。
あれは二次元空間です。
四次元が三次元に崩壊するように、三次元空間も二次元空間へ崩壊するのかもしれません。
ひとつの次元が量子レベルに小さく折り畳まれるのです。
あの二次元空間のスライスひとつが占めている面は、急速に拡大し、さらに多くの三次元空間がそこに落ちていくでしょう。
最終的には、太陽系全体が崩壊ゾーンに入るでしょう。
つまり、太陽系は、厚さゼロの絵に変わってしまう。
ある一定の脱出速度を超えない限り、向こうに落ちてしまうことを避けられない。
太陽系が滑落ゾーンに入っているいま、そこから逃げようと思ったら、脱出速度に達するしかない。
脱出速度は、光速です。
2000キロメートル離れた二次元平面では、二次元化された艦載艇と宇宙服のクルーから放たれている光が消えた。
三次元物体のどの一点も、二次元平面に投影されていた。
もともとの三次元物体の内部に隠れていたすべての構造とその細部が二次元平面では平面上に展開される。
その解像度は素粒子レベルにまでおよぶ。
paiiceはvasilenkoに言った。
ぼくはyuntienminの童話の中の針孔絵師が描いた絵を思い出しました。
鍵となるこの情報を理解できなかったばかりに、人類は掩体計画に希望を託すことになってしまった。
photoidの攻撃を受けた恒星系は、太陽系とは異なる構造だった。
恒星187J3X1の三つの木星型惑星の主星からの平均距離は、太陽系の木星の軌道半径のわずか3パーセントだった。
そのため、恒星が爆発したときに完全に破壊され、掩体にはならなかった。
三体星系には惑星がひとつしかなく、掩体となるべき惑星はなかった。
高い技術レベルにある文明は、掩体のことよりも脱出の可能性を考えたことだろう。
宇宙艇は数秒で二次元化した。
地球に帰りましょう、とchensinがtsaobinに言った。
たしかに終末を待つにはいい場所だけど、冥王星に行きましょう。
二次元空間からいちばん遠い遠日点にあります。
時間はあとどれくらい？
カイパーベルトの内側の太陽系宙域は、8日から10日の間ですべて二次元空間へと崩壊します。
やっぱり地球へ帰りましょう、とaiAAが言った。
じつは連邦政府から、お二人にお願いしたいことがあるのです。
理論的には、ある仮想的な画像処理ソフトウェアを使うことで、三次元物体の二次元化された画像から、もとの三次元物体を復活させることが可能になるかもしれない。
遠い未来、どこかの異星文明が二次元の太陽系から、人類世界の三次元像を復活させてくれるのではないかという希望があります。
冥王星には地球文明博物館があります。
お二人には一部の収蔵品を地下博物館から運び出し、それぞれ単体で二次元化されるように、宇宙空間にばらまいてほしいのです。
それと、
冥王星にはluojii氏がいます。
恒星間宇宙船「星環」には、2～3平方キロメートルの庭が六つあり、それぞれの庭には草原を流れる小川や林、ビーチがあり小さいながらも自然の景観が楽しめる。
出航して2時間後、太陽系連邦政府が正式に発令した暗黒森林攻撃アラートを受信した。
いまから5時間後、太陽系早期警戒システムは、太陽系に対して暗黒森林攻撃が行われたことを確認しました。
今回の攻撃は、次元攻撃のかたちをとっています。
太陽系内の空間を三次元空間から二次元空間に崩壊させ、それによって太陽系内のあらゆる生命が殲滅されることになります。
このプロセスが完了するまでの時間は8日から10日と見積もられています。
次元崩壊宙域からの脱出速度は光速であることが確認されています。
脱出速度は、人類が保有するいかなる宇宙船の最高速度よりもはるかに大きく、次元崩壊から逃亡する可能性はゼロです。
太陽系連邦政府、連邦議会、太陽系最高裁判所、太陽系連邦艦隊は、最後まで職責をまっとうします。
***************** *********** *************
二つの巨大な眼が宇宙から二人を見下ろしていた。
土星と海王星がすでに二次元化されていた。
二つの二次元惑星はもはや厚さもなく、体積もなかった。
宇宙都市は船底に裂け目ができた巨大な船のように二次元平面の海に沈みはじめた。
二次元平面が上昇するにつれて、見えない手でカーテンがゆっくり持ち上げられるように、中心軸上の人間の雲が平面と反対方向に広がりはじめた。
二次元の人体は動かず、生きている気配はなかった。
死を描いた一幅の絵だった。
太陽は二次元平面に接触すると同時に運動を停止する。
二次元に崩壊した部分がただちに平面上に円のかたちで展開され、30秒で直径が三次元の太陽を超えた。
三次元の太陽の滑落が進むとともに、二次元平面の太陽が昇りはじめた。
1時間後、太陽が完全に二次元平面に崩壊した。
二次元の太陽が没しはじめ、コアの輝度が低下して暗くなり、対流層のループが変形して崩れ、あっという間に消滅した。
三次元世界のすべてが二次元に崩壊したあと、なにもかも息絶えた。厚さのない絵の中では、なにものも生きてはいけなかった。
太陽はいま、完全に光が消えて、果てしなく広がる黒ずんだ赤い死の海になっている。
二次元平面はゆっくりとうねっていた。
滑落が加速したことで、「星環」の中でも空間が引き伸ばされてきた。
luojiiが「星環」AIに空間推進を命令した。AIに対する最高位命令権者だった。
曲率推進エンジンが起動した。
luojiiの映像と音声が届いてきた。
光速船の航跡内では、真空中の光速が低下する。理論上ではゼロまで下がりうるが、エンジンの曲率を最大にすれば、秒速16.7キロメートルまで下げることができるだろう。
ブラックドメインができる。
もちろん、恒星系がすっぽり入るくらいのドメインをつくるには1000隻以上の光速船が太陽を中心に放射状に広がり、光速まで加速する必要がある。
そうすると、各船の航跡が広がり一体化して、太陽系全体を覆う球を形成する。
この球体内での光速は秒速16.7キロメートルになる。
航跡が星系から離れたところにあれば、危険のしるしになり、星系を航跡の中に包みこめば安全通知になる。
実験の規模が大きくなってから、航跡の秘密が発見され、連邦政府はようやく共同研究に応じた。
星環シティ事件から水星基地の完成までの35年の空白が無駄だった。
chensinを見るluojiiの目が厳しかった。
chensinは二度目の過ちをおかしていた。
どこへ行けばいいの？
彼らを探しに行け
luojiiの映像はぼやけてきた。
彼らはまだ生きている。5年前、掩体世界は彼らが発信した重力波メッセージを受信した。
絵の中に入る時が来たようだ。よい旅を、子どもたち
「星環」は光速に入った。
目的地は、恒星DX3906
ホログラフィック恒星マップに恒星のひとつが赤く輝き、矢印がそれを指示した。
ドップラー効果で宇宙は真っ青に変化していた。
とつぜん急激な変化が起き、前方のすべての星が針路の示す方向に集まった。
星は青から緑、黄色へと変化して後方へ去っていった。
to be continued 20:35 2024/07/17
「星環」は曲率エンジンを切り、光速で慣性航行をはじめた。
chensinのただひとつの望みは、tienminに会って、すべてを聞いてもらうことだった。
287光年の道のりだが、船の基準系では52時間だと星環AIが告げた。
目覚めるとすでに目標の恒星に近づき、船体を180度回転させて減速しはじめた。
太陽系から286.5光年の距離にあった。
恒星DX3906は太陽とだいたい同じくらいのサイズだった。
曲率エンジンが停止し、核融合推進システムが起動した。
二つの惑星があり、恒星から遠い方の灰色の惑星は火星とほぼ同じ大きさで、近い方の惑星は地球とほぼ同じサイズで、惑星表面の特徴も地球に似ていた。
酸素を含む大気を持ち、明確な生命反応もある。
灰色の惑星をPlanetGray、青い惑星をPlanetBlueと名づけた。
しかし、PlanetBlueの青色は海ではなく、陸地を覆う植生の色だった。
星環AIが重大ニュースを伝えた。
惑星の地表から、電磁波シグナルを受信しました。
着陸誘導ビーコンです。
着陸しますか？
着陸して
20分後、「星環」は赤道近くに着陸した。
「星環」の近くに小型航空機が停まっていた。
tienminではない男が歩いてきた。
船外に出るのにヘルメットは必要ではないというジェスチャーをした。
大気組成は酸素35パーセント、窒素63パーセント、二酸化炭素2パーセント。
大気圧は地球の0.53倍です、とAIが答えた。
あの生物は？、とaiAAが訊いたが、標準的な人類ですとAIは答えた。
もうすこし休んでから出てくればよかったのに、と男は強い抑止紀元訛りで言った。
きみたちは太陽系から来たの？
ええ
もう太陽系はありませんよ
知ってる。ほかに脱出できた人間は？
たぶん、いない
そうか
ぼくはguanyifan、きみたちをここで待っていた。
重力波シグナルを受信したからね、とguanyifanは言った。
ぼくはGravityに乗り込んでいた研究員です。この4世紀ずっと冬眠していて、5年前に蘇生しました。
いま、世界は四つあって、さらに二つを開拓中です。
この惑星には何人いるの？
chensin博士、来訪は歓迎しますが、この惑星に対する所有権を認めることはできません。
大昔に放棄してますよ
でも、どうしてだれもここに植民してないんですか？
地球外知性がよく来るからです。このあたりはオリオン腕の中心に近い。交通量の多い航路二つがここを通っています。
それじゃ、あなたはなぜここにいるの？
ぼくは探査隊といっしょに来たけど、ぼくだけ残ってきみたちを待っていました。
PlanetBlueの夜空は地球にくらべると明るかった。
天の川銀河の光で三人の影ができている。
太陽系の宙域はなにも存在してない。
二次元世界は透明で見ることができない。
三体文明の第一艦隊と第二艦隊は合流していないようだ。
60年以上前、おうし座の近くで大規模な戦争が起こり、その残骸が星間雲になった。
その一方が第二艦隊だったことはわかっているが、戦争の結果は不明。
guanyifanの宇宙艇は「星環」の数十分の一の大きさだが、曲率エンジンを搭載している。
PlanetBlueの生態系は単純で、移動する青い植物、原始的な昆虫、海に二、三種の魚のほかは見つからない。
guanyifanは装着しているコミュニケーターのアラームで目を覚ました。
送信元は、探査チームがPlanetGrayの軌道上に残した小型監視衛星だった。
35分前、5機からなる正体不明の飛行体編隊が着陸し、12分後に離陸して姿を消したという。
guanyifanとchensinは、シャトルで静止軌道上の宇宙艇hunterにドッキングして乗り込んだ。
hunterは曲率推進エンジンと核融合推進エンジンを搭載している。
新世界で光速宇宙船が建造されたのはいつごろ？ 、とchensinが訊くと、
1世紀前だ。
yuntienminの隠されたメッセージをchensinが解読した結果、太陽系人類は銀河系人類よりも2世紀近くも早く開発することができたはずだったが、太陽系文明はせっかくのチャンスを生かせなかった。
無駄に費やされた35年のために。
chensinの死んだ心はもはやなんの痛みも感じなかった。
技術的にはほとんど無限の能力を持つ文明に対して、もっとも脅威となる武器は
物理法則だ。
いちばんよく使われるのは、空間次元と光速。
空間次元を減らすことは攻撃手段になる。
光速を遅くすることは防御手段になる。
太陽系は次元攻撃を受けた。この武器を使ったのは人類を重視している証拠だ。
三次元空間の二次元空間への崩壊は、いつ止まるの？
永遠に止まらない
攻撃者は、自分たちを二次元宇宙で生きられるような生命体に変えてから、攻撃する。
この宇宙の三次元空間はやがて完全に消えてなくなり、宇宙は二次元になる。
宇宙船は、5隻の未確認飛行体が飛び立った場所に到着した。
DeathLineだ！
5本の黒い線の一端が地表にあり、他の端が宇宙に向かって伸びている。
曲率推進の航跡だった。
線の直径は2、30メートル。
DeathLineは光速がゼロで、ブラックホールとして存在する。
そこに入ったら、二度と出られない。
一瞬に光速に移行する極端な曲率推進で生み出されるが、われわれの光速船では作れない。
この規模のDeathLineだと、ひとつの恒星系を覆う大きさまで広がることが予想されるが、広がったあとはふつうの曲率航跡と同じになり、内部の光速は速くなる。
つまり、ブラックドメインになる。
一定距離内の複数の曲率航跡のあいだには、感応作用が生じるので、われわれは核融合推進で40天文単位くらい離れる必要がある。
無事に帰路について、宇宙船hunterに近づいたとき、aiAAから呼びかけがあった。
大事件！ yuntienminが来てる！
chensinにプレゼントを持って来たって
二人はシャトルに乗り、大気圏に突入して急速に落下しはじめた。
とつぜん、切り裂くような異音が響き、時を漂っているような奇妙な感覚があった。
ぼくらは光速でPlanetBlueの軌道上を周回している。ただし、光速はきわめて遅くなっている。
DeathLineが乱された結果、航跡が星系全体に広がり、ぽくらはその中に囚われてしまった。
yuntienminの宇宙船が乱れを起こしたの？
たぶんね。彼はこの星系にDeathLineがあることを知らなかった。
yuntienminとaiAAは地表にいるから安全だ。
guanyifanは、曲率航跡にあやまって侵入した場合に備えているニューラルコンピューターを起動した。
低光速でも動くように、化学物質の伝達によるコンピュータだ。
システム全体のロード完了まで297時間52分
12日後にシャトルと宇宙船内の生存リソースを使えるが、それまでは宇宙服だけで生き延びなけらばならない。
短期冬眠用の冬眠剤で冬眠することにした。
いま言っておきたいことがある、guanyifanが言った。
人類世界がきみを選んだのは、生命その他すべてに愛情をもって接することを選んだということだ。たとえそのためにどんなに大きな代償を払うとしても。
きみがやったことは、なにひとつまちがっていなかった。
ひとりの人間が世界をほろぼすことなんてありえない。仮にあの世界が滅んだとするなら、それはすべての人間の行いの結果だ。
**************************************************
時のはじまりから約170億年
ニューラルコンピュータの起動が成功し、シャトルは復活した。
船内の気圧と温度は快適だった。
低光速に入って、PlanetBlueの軌道上を周回していたときと同じ景色がつづいている。
guanyifanが言った。
低光速下では核融合エンジンの出力は小さすぎるから、予備の反物質エンジンを使うよ。
130分後、シャトルとhunterは同時に反物質エンジンを起動し、減速を開始した。
減速が十数分つづいたあと、エンジンは停止し光速から離脱した。
宇宙の星々が輝く細い線に変わり、様々な角度で交わっている。
シャトルとhunterはブラックドメインの中にいた。
DX3906星系はすでに低光速ブラックホールと化し、宇宙のほかの部分から切り離されている。
シャトルはPlanetBlueの軌道から急降下し、最初に着陸した地点に着陸した。
しかし、「星環」もyuntienminの宇宙船もどこにも見当たらなかった。
別々の地域から採取した岩石サンプルをつかい、原子崩壊の測定機器で現在時間を確定することにした。
30分後、結果が表示された。
恒星周期：6177906
地球年：18903729
ぼくらは通り過ぎてしまった。
DX3906星系が低光速ブラックホールと化してから1890万年経ってしまった。
石に字を刻む、chensinがぽつりと言った。
hunterで地下になにかないか調べてほしい。
遠隔地層探査の深度を20～30メートルに上げたところ、発見があった。
黒色の岩石層から、かろうじて判別できる白い文字の跡がいくつか見つかった。
一文字の大きさはおよそ1メートル四方で、四行に分けて書かれていた。
シャトルで現場に到着して探査波を投射し、遠隔探査画像が映し出された。
私たちはともに幸福な人生を生きた
君たちに贈るこの小..
無事に収縮を生き延..
新しい宇..
と、そのとき、かすかに輝く光の線で囲まれた長方形が空き地の上に浮かんでいるのに気がついた。
なんだか、、ドアみたい
小枝を拾って投げつけてみたが、ドアをすどおりして向う側に落ちた。
yifanがなにげなく手を突っ込んで、悲鳴を上げて手をひっこめた。
突っ込んだ手が消えたように見えたからだが、なんの異常もなかった。
通過するものを自動識別するようだ。
10分後、二人は手をつないでドアをくぐった。
chensinとguanyifanはふたたび時間の真空地帯に入った。
太陽の輝きが強くなってきた。
太陽が明るくなるにつれ、のどかな田園風景が見えてきた。
地平線に二人の人間のうしろ姿が見えてきた。
chensinとguanyifanだった。
世界の複製がいたるところにあった。
ドアは消えていた。
時間はいま流れはじめたばかりだった。
1キロメートルたらず進んだところで、この小さな世界の果てに来た。
yuntienminは今度はきみに宇宙をひとつプレゼントした。
ドアが開く音がした。
tomoko！
宇宙は大きい。でも、生命はもっと大きい。縁があればまた会える、と前に言いましたね。
宇宙#647にようこそ。わたしはこの宇宙の管理者です。
お二人はこの宇宙のご主人で、絶対的な権限をお持ちです。
yuntienmin氏からお二人へのプレゼントです。
yuntienmin氏は、大宇宙の終末のとき、この小宇宙に身を隠して、重力崩壊をやりすごし、次のビッグバンのあと、新たに生まれる大宇宙の中で、エデン時代を体験してほしいと願っていました。
いま、わたしたちは独立した時間線に存在していますが、外の大宇宙では飛ぶように時間が流れています。
お二人が生きている間に、大宇宙は重力崩壊して特異点になると推定されます。
恐ろしい可能性があると、guanyifanは思った。
三体文明は小宇宙を創造できるレベルまで到達している。これは、人類にとって大変な脅威になる。
しかし、guanyifanは思わず笑い声をあげた。
小宇宙に入る前でさえ、銀河系人類の世界Ⅱを離れて、すでに1890万年経っているのに、いまはもう大宇宙では数億年過ぎ去っているだろう。太古の歴史を心配してどうなる。
tomoko、あなたはどうやってここに来たの？
完成したときからずっとここにいます。わたしはデジタルビットの集合に過ぎませんから、コピーはいくらでもつくれます。
識別システムには最初からyuntienmin氏の権限が設定されています。
to be continued 6:34 2024/07/10
外に出ると、柱型のロボットたちが熊手で畑の土をならしたり、種を蒔いたりしていた。
いま播いている種は、chensinさんがyuntienmin氏に届けた種の子孫で、すべて遺伝子改良されています。
**************************************************
宇宙#647での1年が過ぎた。
畑の小麦も二度目の収穫期にさしかかっていた。隣には野菜畑がある。
この世界には生活に必要なものがすべてそろっていた。どれも三体世界でつくられたもので、見た目は地球文明の製品と同じだった。
どこでもターミナルウィンドウを開くことができ、地球人類の文字資料や映像資料を見ることができた。
その大部分は送信紀元前のもので、三体世界が集めた人類情報だった。
三体言語で記された大量のデータバンクがあり、二人は三体文字を学習して読み進めた。三体文字は表意文字であり、概念を直接表現していて、表音文字を読むよりも10倍速く読み進むことができる。
三体文明と地球文明の歴史と、この小宇宙の構築の仕組みを理解したかった。
宇宙#647の観測システムは、超膜上にある他の大宇宙からの信号をしばしば受信していて、そのいくつかは知的生命からの解読不可能なメッセージだった。
ただ、二人がやってきた大宇宙からのメッセージは受信していない。
tomokoの説明によれば：
小宇宙から大宇宙に情報を送ることはできないが、大宇宙からのメッセージを受信できる可能性はある。すべての宇宙はどれも、同じ超膜上の泡粒なので、大宇宙は一定のエネルギーを費やして超膜のべつの泡に情報を伝達できるが、膨大なエネルギーを必要とする。
新宇宙は四つ以上のマクロ次元を持っている。
新宇宙の誕生後、宇宙#647は新宇宙への入り口を自動的に構築し、向こう側の状況を探査できる。
新宇宙に四つ以上の次元があれば、小宇宙の出口は、生存に適した環境が新宇宙に見つかるまで移動させることができる。
ある晩chensinは、隣に寝ていたyifanがいないのに気づいて、外に出て、小川にたたずんでいたyifanを見つけた。
yifanがぽつりと言った。
このところ、三体の宇宙論を読んでいる。
宇宙の総質量はビッグクランチを引き起こす質量と完璧に同じになるように設計されていることを三体人は証明していた。
ほかの文明世界が、ビッグクランチを逃れるために、あるいはなにかべつの目的のために、創り出した小宇宙が大宇宙から質量をうばっているはずだ。
しかし、三体文明では、宇宙#647の創造がおわったとき、質量損失の影響が観測されなかったらしい。
それで、宇宙はまだ閉じていて、最終的に一点に収縮するという予測を立てた。
to be continued 18:18 2024/07/10
大宇宙からの超膜メッセージを受信しました。
tomokoが報告した。
ビットマップ画像だが、見慣れない記号で解読不能だった。
すでに十万種類の言語で送信されつづいていた。
130万種類の言語が送信されたとき、三体文字と地球の言語が送信された。
その後157万種類を超えたところで送信は終わった。
大宇宙にかつて存在していた文明の総数にくらべれば、きわめて少ない。
天の川銀河オリオン腕の中の二つの文明の光を、宇宙は記憶していた。
二つの言語で書かれたメッセージの内容は同一だった。
回帰運動声明
この宇宙の総質量の減少が臨界値を超えました。
このままでは、閉じた宇宙は開いた宇宙へと変わり、
永遠の膨張の中でゆっくりと死んでいくでしょう。
それとともに、すべての生命と記憶も死ぬことになります。
奪った質量を返還し、記憶だけを新宇宙に送ってください。
tomokoが言った。
お二人がここに来てから、大宇宙では少なくとも100億年が経っています。
PlanetBlueはとうに消滅し、yuntienmin氏がプレゼントした星もすでに光を失っているでしょう。
ここにとどまるのが最善の方法だと思います。
仮に回帰運動が成功した場合、大宇宙は特異点になり、新たなビッグバンが起こるでしょう。そうなれば、わたしたちも新宇宙へ行くことができます。
逆に、回帰運動が失敗した場合、大宇宙は死ぬことになりますが、それでもお二人はここで一生を過ごすことができます。
tomokoは無言でchensinを見つめた。
tomokoは#647のコントロールシステムで大宇宙の中にある小宇宙の出口を動かした。
一度だけレベル３の環境を探知した。
劣悪で危険な環境だったが、ドアが宇宙#647に出現した。
ドアを通過した物質は消え、大宇宙のほうに再出現した。
三体世界はかつて数百の小宇宙を創造したが、#647が大宇宙から運び込んだ物質量は約50万トン。大宇宙にとってはとるに足りない量だ。
#647から大宇宙へ物質を返す段階になった。
ロボットたちが土壌をドアに運び、次に金属板をはがして運ぶと、小型宇宙船が現れた。
これは三体世界の技術が凝縮されていて、三名分の座席が用意されていた。
核融合エンジン、曲率エンジン、物質循環システム、人工冬眠装置が装備されていた。
この宇宙船は、宇宙#647の住人が新宇宙に移住するときに使用されるはずだった。
金属の床をさらに掘り起こすと、三体文明の特徴をもつ機械設備が現れ、それをロボットたちは解体し、パーツをドアに入れていった。
最後に、空を表現する薄膜を解体してドアに運んだ。
機械設備の解体に伴い、物質循環システムも停止したのでchensinとyifanは宇宙服を着た。
tomokoがドアの通過パラメーターを変更し、気体の通過がはじまった。
大渦が竜巻に変化し、空間の透明度が高まるにつれ、残っているのは、太陽、白い家、宇宙船だけになった。
ロボットたちは太陽を運び、白い家を解体して運び、さいごにロボットたちはドアをくぐり、いま、小宇宙に残るのは宇宙船一隻とchensinたちだけになった。
tomokoは金属の箱をひとつ残した。次のビッグバンで生まれる新宇宙で、だれかに見つけてもらうための漂流瓶だった。
その中の小型のコンピュータの量子メモリに、三体文明と地球文明のほぼすべての情報が含まれている。
回帰運動の呼びかけに答えた他の小宇宙も、おそらく同じことをしているだろう。
新宇宙の新しい文明は、それらの情報を利用して、旧宇宙の文明を復元できるかもしれない。
もしかしたら、原子一個分の質量が足りないだけでも、閉じた宇宙が開いた宇宙に変わってしまうかもしれない。
無数の文明が創造した無数の小宇宙の中で、回帰運動の呼びかけに応じなかったものが一定数あるだろうから、最終的に大宇宙はかなりの質量を失うことになるだろう。
その程度の誤差を大宇宙が見逃してくれますようにと、guanyifanは祈った。
chensinとguanyifanが宇宙船に乗り込み、最後にtomokoが乗り込んで核融合ドライヴが始動し、宇宙船はドアをくぐりぬけた。
小宇宙には漂流瓶とエコスフィアだけが残された。
この1立方キロメートルの宇宙で光を放つのは、エコスフィアの中にあるマイクロ太陽だけだった。
極小の生命世界には、透きとおった水の球がいくつか浮かび、一匹の小さな魚がひとつの水球から飛び出してもうひとつの水球に飛び込み、緑の藻のあいだを優雅に泳いでいた。
end 21:20 2024/07/17
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2024.7.11最終章
目次へ
tomokoは#647のコントロールシステムで大宇宙の中にある小宇宙の出口を動かした。
一度だけレベル３の環境を探知した。
劣悪で危険な環境だったが、ドアが宇宙#647に出現した。
ドアを通過した物質は消え、大宇宙のほうに再出現した。
三体世界はかつて数百の小宇宙を創造したが、#647が大宇宙から運び込んだ物質量は約50万トン。大宇宙にとってはとるに足りない量だ。
#647から大宇宙へ物質を返す段階になった。
ロボットたちが土壌をドアに運び、次に金属板をはがして運ぶと、小型宇宙船が現れた。
これは三体世界の技術が凝縮されていて、三名分の座席が用意されていた。
核融合エンジン、曲率エンジン、物質循環システム、人工冬眠装置が装備されていた。
この宇宙船は、宇宙#647の住人が新宇宙に移住するときに使用されるはずだった。
金属の床をさらに掘り起こすと、三体文明の特徴をもつ機械設備が現れ、それをロボットたちは解体し、パーツをドアに入れていった。
最後に、空を表現する薄膜を解体してドアに運んだ。
機械設備の解体に伴い、物質循環システムも停止したのでchensinとyifanは宇宙服を着た。
tomokoがドアの通過パラメーターを変更し、気体の通過がはじまった。
大渦が竜巻に変化し、空間の透明度が高まるにつれ、残っているのは、太陽、白い家、宇宙船だけになった。
ロボットたちは太陽を運び、白い家を解体して運び、さいごにロボットたちはドアをくぐり、いま、小宇宙に残るのは宇宙船一隻とchensinたちだけになった。
tomokoは金属の箱をひとつ残した。次のビッグバンで生まれる新宇宙で、だれかに見つけてもらうための漂流瓶だった。
その中の小型のコンピュータの量子メモリに、三体文明と地球文明のほぼすべての情報が含まれている。
回帰運動の呼びかけに答えた他の小宇宙も、おそらく同じことをしているだろう。
新宇宙の新しい文明は、それらの情報を利用して、旧宇宙の文明を復元できるかもしれない。
もしかしたら、原子一個分の質量が足りないだけでも、閉じた宇宙が開いた宇宙に変わってしまうかもしれない。
無数の文明が創造した無数の小宇宙の中で、回帰運動の呼びかけに応じなかったものが一定数あるだろうから、最終的に大宇宙はかなりの質量を失うことになるだろう。
その程度の誤差を大宇宙が見逃してくれますようにと、guanyifanは祈った。
chensinとguanyifanが宇宙船に乗り込み、最後にtomokoが乗り込んで核融合ドライヴが始動し、宇宙船はドアをくぐりぬけた。
小宇宙には漂流瓶とエコスフィアだけが残された。
この1立方キロメートルの宇宙で光を放つのは、エコスフィアの中にあるマイクロ太陽だけだった。
極小の生命世界には、透きとおった水の球がいくつか浮かび、一匹の小さな魚がひとつの水球から飛び出してもうひとつの水球に飛び込み、緑の藻のあいだを優雅に泳いでいた。
15:30 2024/07/11
2024.7.10
目次へ
chensinとguanyifanはふたたび時間の真空地帯に入った。
太陽の輝きが強くなってきた。
太陽が明るくなるにつれ、のどかな田園風景が見えてきた。
地平線に二人の人間のうしろ姿が見えてきた。
chensinとguanyifanだった。
世界の複製がいたるところにあった。
ドアは消えていた。
時間はいま流れはじめたばかりだった。
1キロメートルたらず進んだところで、この小さな世界の果てに来た。
yuntienminは今度はきみに宇宙をひとつプレゼントした。
ドアが開く音がした。
tomoko！
宇宙は大きい。でも、生命はもっと大きい。縁があればまた会える、と前に言いましたね。
宇宙#647にようこそ。わたしはこの宇宙の管理者です。
お二人はこの宇宙のご主人で、絶対的な権限をお持ちです。
yuntienmin氏からお二人へのプレゼントです。
yuntienmin氏は、大宇宙の終末のとき、この小宇宙に身を隠して、重力崩壊をやりすごし、次のビッグバンのあと、新たに生まれる大宇宙の中で、エデン時代を体験してほしいと願っていました。
いま、わたしたちは独立した時間線に存在していますが、外の大宇宙では飛ぶように時間が流れています。
お二人が生きている間に、大宇宙は重力崩壊して特異点になると推定されます。
恐ろしい可能性があると、guanyifanは思った。
三体文明は小宇宙を創造できるレベルまで到達している。これは、人類にとって大変な脅威になる。
しかし、guanyifanは思わず笑い声をあげた。
小宇宙に入る前でさえ、銀河系人類の世界Ⅱを離れて、すでに1890万年経っているのに、いまはもう大宇宙では数億年過ぎ去っているだろう。太古の歴史を心配してどうなる。
tomoko、あなたはどうやってここに来たの？
完成したときからずっとここにいます。わたしはデジタルビットの集合に過ぎませんから、コピーはいくらでもつくれます。
識別システムには最初からyuntienmin氏の権限が設定されています。
to be continued 6:34 2024/07/10
外に出ると、柱型のロボットたちが熊手で畑の土をならしたり、種を蒔いたりしていた。
いま播いている種は、chensinさんがyuntienmin氏に届けた種の子孫で、すべて遺伝子改良されています。
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宇宙#647での1年が過ぎた。
畑の小麦も二度目の収穫期にさしかかっていた。隣には野菜畑がある。
この世界には生活に必要なものがすべてそろっていた。どれも三体世界でつくられたもので、見た目は地球文明の製品と同じだった。
どこでもターミナルウィンドウを開くことができ、地球人類の文字資料や映像資料を見ることができた。
その大部分は送信紀元前のもので、三体世界が集めた人類情報だった。
三体言語で記された大量のデータバンクがあり、二人は三体文字を学習して読み進めた。三体文字は表意文字であり、概念を直接表現していて、表音文字を読むよりも10倍速く読み進むことができる。
三体文明と地球文明の歴史と、この小宇宙の構築の仕組みを理解したかった。
宇宙#647の観測システムは、超膜上にある他の大宇宙からの信号をしばしば受信していて、そのいくつかは知的生命からの解読不可能なメッセージだった。
ただ、二人がやってきた大宇宙からのメッセージは受信していない。
tomokoの説明によれば：
小宇宙から大宇宙に情報を送ることはできないが、大宇宙からのメッセージを受信できる可能性はある。すべての宇宙はどれも、同じ超膜上の泡粒なので、大宇宙は一定のエネルギーを費やして超膜のべつの泡に情報を伝達できるが、膨大なエネルギーを必要とする。
新宇宙は四つ以上のマクロ次元を持っている。
新宇宙の誕生後、宇宙#647は新宇宙への入り口を自動的に構築し、向こう側の状況を探査できる。
新宇宙に四つ以上の次元があれば、小宇宙の出口は、生存に適した環境が新宇宙に見つかるまで移動させることができる。
ある晩chensinは、隣に寝ていたyifanがいないのに気づいて、外に出て、小川にたたずんでいたyifanを見つけた。
yifanがぽつりと言った。
このところ、三体の宇宙論を読んでいる。
宇宙の総質量はビッグクランチを引き起こす質量と完璧に同じになるように設計されていることを三体人は証明していた。
ほかの文明世界が、ビッグクランチを逃れるために、あるいはなにかべつの目的のために、創り出した小宇宙が大宇宙から質量をうばっているはずだ。
しかし、三体文明では、宇宙#647の創造がおわったとき、質量損失の影響が観測されなかったらしい。
それで、宇宙はまだ閉じていて、最終的に一点に収縮するという予測を立てた。
to be continued 18:18 2024/07/10
大宇宙からの超膜メッセージを受信しました。
tomokoが報告した。
ビットマップ画像だが、見慣れない記号で解読不能だった。
すでに十万種類の言語で送信されつづいていた。
130万種類の言語が送信されたとき、三体文字と地球の言語が送信された。
その後157万種類を超えたところで送信は終わった。
大宇宙にかつて存在していた文明の総数にくらべれば、きわめて少ない。
天の川銀河オリオン腕の中の二つの文明の光を、宇宙は記憶していた。
二つの言語で書かれたメッセージの内容は同一だった。
回帰運動声明
この宇宙の総質量の減少が臨界値を超えました。
このままでは、閉じた宇宙は開いた宇宙へと変わり、
永遠の膨張の中でゆっくりと死んでいくでしょう。
それとともに、すべての生命と記憶も死ぬことになります。
奪った質量を返還し、記憶だけを新宇宙に送ってください。
tomokoが言った。
お二人がここに来てから、大宇宙では少なくとも100億年が経っています。
PlanetBlueはとうに消滅し、yuntienmin氏がプレゼントした星もすでに光を失っているでしょう。
ここにとどまるのが最善の方法だと思います。
仮に回帰運動が成功した場合、大宇宙は特異点になり、新たなビッグバンが起こるでしょう。そうなれば、わたしたちも新宇宙へ行くことができます。
逆に、回帰運動が失敗した場合、大宇宙は死ぬことになりますが、それでもお二人はここで一生を過ごすことができます。
tomokoは無言でchensinを見つめた。
to be continued 21:24 2024/07/10
2024.7.9
目次へ
ひとりの人間が世界をほろぼすことなんてありえない。仮にあの世界が滅んだとするなら、それはすべての人間の行いの結果だ。
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時のはじまりから約170億年
ニューラルコンピュータの起動が成功し、シャトルは復活した。
船内の気圧と温度は快適だった。
低光速に入って、PlanetBlueの軌道上を周回していたときと同じ景色がつづいている。
guanyifanが言った。
低光速下では核融合エンジンの出力は小さすぎるから、予備の反物質エンジンを使うよ。
130分後、シャトルとhunterは同時に反物質エンジンを起動し、減速を開始した。
減速が十数分つづいたあと、エンジンは停止し光速から離脱した。
宇宙の星々が輝く細い線に変わり、様々な角度で交わっている。
シャトルとhunterはブラックドメインの中にいた。
DX3906星系はすでに低光速ブラックホールと化し、宇宙のほかの部分から切り離されている。
シャトルはPlanetBlueの軌道から急降下し、最初に着陸した地点に着陸した。
しかし、「星環」もyuntienminの宇宙船もどこにも見当たらなかった。
別々の地域から採取した岩石サンプルをつかい、原子崩壊の測定機器で現在時間を確定することにした。
30分後、結果が表示された。
恒星周期：6177906
地球年：18903729
ぼくらは通り過ぎてしまった。
DX3906星系が低光速ブラックホールと化してから1890万年経ってしまった。
石に字を刻む、chensinがぽつりと言った。
hunterで地下になにかないか調べてほしい。
遠隔地層探査の深度を20～30メートルに上げたところ、発見があった。
黒色の岩石層から、かろうじて判別できる白い文字の跡がいくつか見つかった。
一文字の大きさはおよそ1メートル四方で、四行に分けて書かれていた。
シャトルで現場に到着して探査波を投射し、遠隔探査画像が映し出された。
私たちはともに幸福な人生を生きた
君たちに贈るこの小..
無事に収縮を生き延..
新しい宇..
と、そのとき、かすかに輝く光の線で囲まれた長方形が空き地の上に浮かんでいるのに気がついた。
なんだか、、ドアみたい
小枝を拾って投げつけてみたが、ドアをすどおりして向う側に落ちた。
yifanがなにげなく手を突っ込んで、悲鳴を上げて手をひっこめた。
突っ込んだ手が消えたように見えたからだが、なんの異常もなかった。
通過するものを自動識別するようだ。
10分後、二人は手をつないでドアをくぐった。
to be continued 21:31 2024/07/09
2024.7.8
目次へ
重力波シグナルを受信したからね、とguanyifanは言った。
ぼくはGravityに乗り込んでいた研究員です。この4世紀ずっと冬眠していて、5年前に蘇生しました。
いま、世界は四つあって、さらに二つを開拓中です。
この惑星には何人いるの？
chensin博士、来訪は歓迎しますが、この惑星に対する所有権を認めることはできません。
大昔に放棄してますよ
でも、どうしてだれもここに植民してないんですか？
地球外知性がよく来るからです。このあたりはオリオン腕の中心に近い。交通量の多い航路二つがここを通っています。
それじゃ、あなたはなぜここにいるの？
ぼくは探査隊といっしょに来たけど、ぼくだけ残ってきみたちを待っていました。
PlanetBlueの夜空は地球にくらべると明るかった。
天の川銀河の光で三人の影ができている。
太陽系の宙域はなにも存在してない。
二次元世界は透明で見ることができない。
三体文明の第一艦隊と第二艦隊は合流していないようだ。
60年以上前、おうし座の近くで大規模な戦争が起こり、その残骸が星間雲になった。
その一方が第二艦隊だったことはわかっているが、戦争の結果は不明。
guanyifanの宇宙艇は「星環」の数十分の一の大きさだが、曲率エンジンを搭載している。
PlanetBlueの生態系は単純で、移動する青い植物、原始的な昆虫、海に二、三種の魚のほかは見つからない。
guanyifanは装着しているコミュニケーターのアラームで目を覚ました。
送信元は、探査チームがPlanetGrayの軌道上に残した小型監視衛星だった。
35分前、5機からなる正体不明の飛行隊編隊が着陸し、12分後に離陸して姿を消したという。
guanyifanとchensinは、シャトルで静止軌道上の宇宙艇hunterにドッキングして乗り込んだ。
hunterは曲率推進エンジンと核融合推進エンジンを搭載している。
新世界で光速宇宙船が建造されたのはいつごろ？ 、とchensinが訊くと、
1世紀前だ。
yuntienminの隠されたメッセージをchensinが解読した結果、太陽系人類は銀河系人類よりも2世紀近くも早く開発することができたはずだったが、太陽系文明はせっかくのチャンスを生かせなかった。
無駄に費やされた35年のために。
chensinの死んだ心はもはやなんの痛みも感じなかった。
技術的にはほとんど無限の能力を持つ文明に対して、もっとも脅威となる武器は
物理法則だ。
いちばんよく使われるのは、空間次元と光速。
空間次元を減らすことは攻撃手段になる。
光速を遅くすることは防御手段になる。
太陽系は次元攻撃を受けた。この武器を使ったのは人類を重視している証拠だ。
三次元空間の二次元空間への崩壊は、いつ止まるの？
永遠に止まらない
攻撃者は、自分たちを二次元宇宙で生きられるような生命体に変えてから、攻撃する。
この宇宙の三次元空間はやがて完全に消えてなくなり、宇宙は二次元になる。
宇宙船は、5隻の未確認飛行体が飛び立った場所に到着した。
DeathLineだ！
5本の黒い線の一端が地表にあり、他の端が宇宙に向かって伸びている。
曲率推進の航跡だった。
線の直径は2、30メートル。
DeathLineは光速がゼロで、ブラックホールとして存在する。
そこに入ったら、二度と出られない。
一瞬に光速に移行する極端な曲率推進で生み出されるが、われわれの光速船では作れない。
この規模のDeathLineだと、ひとつの恒星系を覆う大きさまで広がることが予想されるが、広がったあとはふつうの曲率航跡と同じになり、内部の光速は速くなる。
つまり、ブラックドメインになる。
一定距離内の複数の曲率航跡のあいだには、感応作用が生じるので、われわれは核融合推進で40天文単位くらい離れる必要がある。
無事に帰路について、宇宙船hunterに近づいたとき、aiAAから呼びかけがあった。
大事件！ yuntienminが来てる！
chensinにプレゼントを持って来たって
二人はシャトルに乗り、大気圏に突入して急速に落下しはじめた。
とつぜん、切り裂くような異音が響き、時を漂っているような奇妙な感覚があった。
ぼくらは光速でPlanetBlueの軌道上を周回している。ただし、光速はきわめて遅くなっている。
DeathLineが乱された結果、航跡が星系全体に広がり、ぽくらはその中に囚われてしまった。
yuntienminの宇宙船が乱れを起こしたの？
たぶんね。彼はこの星系にDeathLineがあることを知らなかった。
yuntienminとaiAAは地表にいるから安全だ。
guanyifanは、曲率航跡にあやまって侵入した場合に備えているニューラルコンピューターを起動した。
低光速でも動くように、化学物質の伝達によるコンピュータだ。
システム全体のロード完了まで297時間52分
12日後にシャトルと宇宙船内の生存リソースを使えるが、それまでは宇宙服だけで生き延びなけらばならない。
短期冬眠用の冬眠剤で冬眠することにした。
いま言っておきたいことがある、guanyifanが言った。
人類世界がきみを選んだのは、生命その他すべてに愛情をもって接することを選んだということだ。たとえそのためにどんなに大きな代償を払うとしても。
きみがやったことは、なにひとつまちがっていなかった。
to be continued 16:45 2024/07/08
.
2024.7.7
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第6部
「星環」は曲率エンジンを切り、光速で完成航行をはじめた。
chensinのただひとつの望みは、tienminに会って、すべてを聞いてもらうことだった。
287光年の道のりだが、船の基準系では52時間だと星環AIが告げた。
目覚めるとすでに目標の恒星に近づき、船体を180度回転させて減速しはじめた。
太陽系から286.5光年の距離にあった。
恒星DX3906は太陽とだいたい同じくらいのサイズだった。
曲率エンジンが停止し、核融合推進システムが起動した。
二つの惑星があり、恒星から遠い方の灰色の惑星は火星とほぼ同じ大きさで、近い方の惑星は地球とほぼ同じサイズで、惑星表面の特徴も地球に似ていた。
酸素を含む大気を持ち、明確な生命反応もある。
灰色の惑星をPlanetGray、青い惑星をPlanetBlueと名づけた。
しかし、PlanetBlueの青色は海ではなく、陸地を覆う植生の色だった。
星環AIが重大ニュースを伝えた。
惑星の地表から、電磁波シグナルを受信しました。
着陸誘導ビーコンです。
着陸しますか？
着陸して
20分後、「星環」は赤道近くに着陸した。
「星環」の近くに小型航空機が停まっていた。
tienminではない男が歩いてきた。
船外に出るのにヘルメットは必要ではないというジェスチャーをした。
大気組成は酸素35パーセント、窒素63パーセント、二酸化炭素2パーセント。
大気圧は地球の0.53倍です、とAIが答えた。
あの生物は？、とaiAAが訊いたが、標準的な人類ですとAIは答えた。
もうすこし休んでから出てくればよかったのに、と男は強い抑止紀元訛りで言った。
きみたちは太陽系から来たの？
ええ
もう太陽系はありませんよ
知ってる。ほかに脱出できた人間は？
たぶん、いない
そうか
ぼくはguanyifan、きみたちをここで待っていた。
to be continued 22:45 2024/07/07
2024.7.6
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環太陽粒子加速器の実験の結果、超ひも理論の裏づけを実証することができず、また、三体世界から伝えられた情報は、地球人に対して嘘をついていたというのが結論だった。
だが、物理学者paiiceが危機紀元末に発表した理論モデルは、部分的に実証された数少ない仮設の一つだった。
この物体はまちがいなく武器の可能性があり、2隻の宇宙船を破壊する力があるかもしれない。
現実世界にあるどんな物体とも相互作用しない幻のような物体。
vasilenko中将がグラブをはめた手で”紙きれ”にさわった。
”紙きれ”が貫通して、てのひらの断面が見えた。
”紙きれ”は宇宙艇と同じ速度で同じ距離で航行しているとも考えられる。
透明で、向こう側を見ることができる。
paiiceは夢を見ていた。
穴が広がり、砂漠全体を呑み込んで、砂が滝のように流れ落ちてゆく。
必死にアクセルを踏んだが逃げられない。
なぜ脱出速度を計算しない！
汗びっしょりになって夢から覚めたpaiiceはvalenkovに言った。
あれを船内に置いといちゃいけない！
”水滴”のことを思い出してください！
艦載艇を一隻1000キロメートルのところに置いて、”紙きれ”から少しづつ離れ、距離が2000キロメートルになったところで、”紙きれ”と並んで航行しはじめた。
”紙きれ”が出している重力波は弱まりつづけ、白い光も暗くなっていった。
探知できなくなったまま、1時間が過ぎた。
とつぜん艦載艇から声が届いた。
上がってくる！
足がっ！ うわああっ
モニター画面を見ると、艦載艇が強い光を発し、艇の底が溶けている！
離れかけていた宇宙服のクルーは艦載艇のほうへ引き寄せられ、彼の足は見えない平面に触れて溶け、水たまりになった。
vasilenkoは艇をただちに離脱させた
。
艇は加速していません、操縦士が言った。
paiiceが言った。
加速していますよ。ただ、空間が反対方向に流動しています。
あれは二次元空間です。
四次元が三次元に崩壊するように、三次元空間も二次元空間へ崩壊するのかもしれません。
ひとつの次元が量子レベルに小さく折り畳まれるのです。
あの二次元空間のスライスひとつが占めている面は、急速に拡大し、さらに多くの三次元空間がそこに落ちていくでしょう。
最終的には、太陽系全体が崩壊ゾーンに入るでしょう。
つまり、太陽系は、厚さゼロの絵に変わってしまう。
ある一定の脱出速度を超えない限り、向こうに落ちてしまうことを避けられない。
太陽系が滑落ゾーンに入っているいま、そこから逃げようと思ったら、脱出速度に達するしかない。
脱出速度は、光速です。
2000キロメートル離れた二次元平面では、二次元化された艦載艇と宇宙服のクルーから放たれている光が消えた。
三次元物体のどの一点も、二次元平面に投影されていた。
もともとの三次元物体の内部に隠れていたすべての構造とその細部が二次元平面では平面上に展開される。
その解像度は素粒子レベルにまでおよぶ。
paiiceはvasilenkoに言った。
ぼくはyuntienminの童話の中の針孔絵師が描いた絵を思い出しました。
鍵となるこの情報を理解できなかったばかりに、人類は掩体計画に希望を託すことになってしまった。
photoidの攻撃を受けた恒星系は、太陽系とは異なる構造だった。
恒星187J3X1の三つの木星型惑星の主星からの平均距離は、太陽系の木星の軌道半径のわずか3パーセントだった。
そのため、恒星が爆発したときに完全に破壊され、掩体にはならなかった。
三体星系には惑星がひとつしかなく、掩体となるべき惑星はなかった。
高い技術レベルにある文明は、掩体のことよりも脱出の可能性を考えたことだろう。
宇宙艇は数秒で二次元化した。
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地球に帰りましょう、とchensinがtsaobinに言った。
たしかに終末を待つにはいい場所だけど、冥王星に行きましょう。
二次元空間からいちばん遠い遠日点にあります。
時間はあとどれくらい？
カイパーベルトの内側の太陽系宙域は、8日から10日の間ですべて二次元空間へと崩壊します。
やっぱり地球へ帰りましょう、とaiAAが言った。
じつは連邦政府から、お二人にお願いしたいことがあるのです。
理論的には、ある仮想的な画像処理ソフトウェアを使うことで、三次元物体の二次元化された画像から、もとの三次元物体を復活させることが可能になるかもしれない。
遠い未来、どこかの異星文明が二次元の太陽系から、人類世界の三次元像を復活させてくれるのではないかという希望があります。
冥王星には地球文明博物館があります。
お二人には一部の収蔵品を地下博物館から運び出し、それぞれ単体で二次元化されるように、宇宙空間にばらまいてほしいのです。
それと、
冥王星にはluojii氏がいます。
恒星間宇宙船「星環」には、2～3平方キロメートルの庭が六つあり、それぞれの庭には草原を流れる小川や林、ビーチがあり小さいながらも自然の景観が楽しめる。
出航して2時間後、太陽系連邦政府が正式に発令した暗黒森林攻撃アラートを受信した。
いまから5時間後、太陽系早期警戒システムは、太陽系に対して暗黒森林攻撃が行われたことを確認しました。
今回の攻撃は、次元攻撃のかたちをとっています。
太陽系内の空間を三次元空間から二次元空間に崩壊させ、それによって太陽系内のあらゆる生命が殲滅されることになります。
このプロセスが完了するまでの時間は8日から10日と見積もられています。
次元崩壊宙域からの脱出速度は光速であることが確認されています。
脱出速度は、人類が保有するいかなる宇宙船の最高速度よりもはるかに大きく、次元崩壊から逃亡する可能性はゼロです。
太陽系連邦政府、連邦議会、太陽系最高裁判所、太陽系連邦艦隊は、最後まで職責をまっとうします。
**************************************************
「星環」は冥王星に到着し、chensinとaiAAは宇宙服を着て降りた。
遠くに長方形の黒い物体モノリスがあった。
モノリスの丸いハンドルを回すと、大きなドアがスライドして開いた。
下り坂のトンネルの突き当りから声が聞こえて、そこにひとりの老人が立っていた。
luojiiだった。
愚か者たちはみんな宇宙船に乗って逃げだした。最終的には脱出できないとわかってるくせに。
400年も前に死んだsei国連事務総長が、人類文明が滅亡したあとも長期にわたって文化遺産を保存できるようにするべきだと言った。
情報を1億年程度保存する方法がひとつ見つかった。石に字を刻むことだ。
一文字あたりおよそ1平方センチの字が壁に刻まれていた。
絵画が保存されている場所に行った。
どれでも持って行っていい。
ゴッホの「星月夜」の絵があった。
かつてchensinはこの絵を見て、空間表現が印象的だった。
彼の潜在意識では空間はかならず構造をもっていたのではないか。
luojiiはこれだけは残しておいてくれと言った。モナリザの絵だった。
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二つの巨大な眼が宇宙から二人を見下ろしていた。
土星と海王星がすでに二次元化されていた。
二つの二次元惑星はもはや厚さもなく、体積もなかった。
宇宙都市は船底に裂け目ができた巨大な船のように二次元平面の海に沈みはじめた。
二次元平面が上昇するにつれて、見えない手でカーテンがゆっくり持ち上げられるように、中心軸上の人間の雲が平面と反対方向に広がりはじめた。
二次元の人体は動かず、生きている気配はなかった。
死を描いた一幅の絵だった。
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二人とluojiiが収蔵品をモノリスから運び出したとき、ちょうど地球が崩壊していくところが見えた。
二次元の地球を月よりも大きい巨大な雪の結晶が取り巻いていた。
chensinたちは太陽の二次元化を待ち受けた。
太陽は二次元平面に接触すると同時に運動を停止する。
二次元に崩壊した部分がただちに平面上に円のかたちで展開され、30秒で直径が三次元の太陽を超えた。
三次元の太陽の滑落が進むとともに、二次元平面の太陽が昇りはじめた。
1時間後、太陽が完全に二次元平面に崩壊した。
二次元の太陽が没しはじめ、コアの輝度が低下して暗くなり、対流層のループが変形して崩れ、あっという間に消滅した。
三次元世界のすべてが二次元に崩壊したあと、なにもかも息絶えた。厚さのない絵の中では、なにものも生きてはいけなかった。
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子どもたち、準備はいいか
luojiiが言った。
いまから、美術品を宇宙に放出するところです。
ぜんぶとっておくといい。放出する必要はない。
ぜんぶもって出発しろ
出発するって、どこへ？
天の川銀河のどこへでも、好きなところへ行くといい
「星環」は唯一、曲率推進ドライヴが搭載されている宇宙船だ。
wadeの死の35年後、科学者たちは、RayDiasが超大型水素爆弾で開けた水星の巨大な穴の中に秘密研究基地をつくり、いまから3年前、3台の曲率推進エンジンを建造して、無人航行テストを行った。
「星環」に搭載しているのは1号エンジンだ。
to be continued 18:34 2024/07/06
tsaobinが乗らずに「星環」を出発させたのは、luojiiを乗せるためだったが、luojiiは乗船を断った。
本来なら、木星を離れる段階で光速まで加速させるべきだった。
「星環」を含む二次元平面への滑落は、さらに加速していた。
太陽はいま、完全に光が消えて、果てしなく広がる黒ずんだ赤い死の海になっている。
二次元平面はゆっくりとうねっていた。
滑落が加速したことで、「星環」の中でも空間が引き伸ばされてきた。
luojiiが「星環」AIに空間推進を命令した。AIに対する最高位命令権者だった。
曲率推進エンジンが起動した。
luojiiの映像と音声が届いてきた。
光速船の航跡内では、真空中の光速が低下する。理論上ではゼロまで下がりうるが、エンジンの曲率を最大にすれば、秒速16.7キロメートルまで下げることができるだろう。
ブラックドメインができる。
もちろん、恒星系がすっぽり入るくらいのドメインをつくるには1000隻以上の光速船が太陽を中心に放射状に広がり、光速まで加速する必要がある。
そうすると、各船の航跡が広がり一体化して、太陽系全体を覆う球を形成する。
この球体内での光速は秒速16.7キロメートルになる。
航跡が星系から離れたところにあれば、危険のしるしになり、星系を航跡の中に包みこめば安
通知になる。
実験の規模が大きくなってから、航跡の秘密が発見され、連邦政府はようやく共同研究に応じた。
星環シティ事件から水星基地の完成までの35年の空白が無駄だった。
chensinを見るluojiiの目が厳しかった。
chensinは二度目の過ちをおかしていた。
どこへ行けばいいの？
彼らを探しに行け
luojiiの映像はぼやけてきた。
彼らはまだ生きている。5年前、掩体世界は彼らが発信した重力波メッセージを受信した。
絵の中に入る時が来たようだ。よい旅を、子どもたち
「星環」は光速に入った。
目的地は、恒星DX3906
ホログラフィック恒星マップに恒星のひとつが赤く輝き、矢印がそれを指示した。
ドップラー効果で宇宙は真っ青に変化していた。
とつぜん急激な変化が起き、前方のすべての星が針路の示す方向に集まった。
星は青から緑、黄色へと変化して後方へ去っていった。
**************************************************
to be continued 20:56 2024/07/06
2024.7.5
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連邦政府議会は、星環シティと環太陽加速器を接収することと、空間曲率ドライヴに関する理論研究や技術開発を停止し、星環グループの今後の活動について厳しく監督することを決議した。
これを受けて、星環シティは太陽系連邦から独立し、連邦法の制約をいっさい受けないと宣言し、衝突は本格化した。
chensinとtsaobinの二人だけが乗っている宇宙艇は星環シティに向かっていた。
前方に直径200メートルの円環体が見えてきた。環の幅は50メートルほど。
これは加速コイルの一部で、およそ150万キロメートルの感覚で、3200個設置され、木星軌道付近で太陽を囲んでいる。
tsaobinが言った。
ビッグバン時点のエネルギーレベルにまで粒子を加速できます。
数年前事故が起きました。進路を見失った貨物宇宙船が誤って加速器の軌道に入り、超高エネルギー粒子が衝突して一瞬のうちに蒸発しました。
光速宇宙船に反対する勢力は、主として大衆や政界であり、支持者の大部分は科学界だった。
星環シティは車輪型の構造をしている。
宇宙艇は車輪の中心軸に入ってゆき、長さ8キロメートルのスポークを経由して街に入った。
wadeとbiiyunfonが出迎えた。
やあ、お嬢さん
wadeは星環グループを引き継いでから一度も冬眠していなかったので実年齢は110歳。
彼らは共通の理想のために60年余りを戦い抜き、いまは人生のおわりにさしかかっている。
平均寿命が150歳のこの時代にあって、chensinは33歳。少女も同然だった。
空気中に静電気のにおいが漂っている。sophon遮蔽室だった。
地球人はsophonが太陽系を離れたのかいまだ確信できずにいる。
ホールの中央に1台のマシンが置かれていた。
制御核融合実験装置の小型版を思わせた。
おまえの肉体の一部に、偉大な瞬間を経験させてやろう
wadeはchensinの頭に手を伸ばし、髪の毛をひと房つまみあげると鋏でカットした。
カットした髪の毛の長さを2,3ミリにし、実験装置のガラスカバーを開けて小さな台の上に置いた。
台の表面は赤い線で二分割されている。
髪の毛はその片方の側にあった。
wadeが合図すると、yunfonがマシンを起動した。
マシンの数本のパイプから赤い光が見えた。
低く沈んだブーンという音だけが聞こえる。
気がつくと、髪の毛が赤い線の反対側に移動していた！
マシンが停止した。
あなたたちは、半世紀以上の時間を費やして、3ミリの髪の毛を2センチだけ移動させたのね
もし同じやり方でその髪の毛を加速しつづけたら、およそ10メートル先で光速に到達します、とyunfonが言った。
50年以内にわれわれは曲率推進による光速宇宙船の建造を実現する。
これは技術的な研究開発で、大量のテストを行う必要がある。
だから、その環境を整備するために、連邦政府に手の内をさらけだした。
でも、いまみたいなやりかただと、すべてを失ってしまう
すべてはおまえの決断しだいだ
wadeは武装した4、50名の兵士を呼んだ。
彼らが携行している銃は一見、大昔のライフル銃だったが、その弾薬の構造は、驚くことに磁場で固定された反物質だった。
環太陽加速器で反物質を製造できた。
この銃で2000キロメートル先の大型戦艦を破壊できる。
すでにこの銃で武装した兵士をほかの宇宙都市に潜入させている。
いまchensinは、赤ん坊を抱いたまま悪い狼と相対しているような気分になった。
あの約束は、まだ有効？
もちろん、でなければわざわざおまえをここに呼ぶわけがない。
よかった。だったらすぐに戦争の準備を中止して、すべての抵抗をやめて。
反物質弾はひとつ残らず連邦政府に引き渡して。
とくに、ほかの宇宙都市に潜入している兵士についてはただちに！
兵士たちは焼き尽くすような目でchensinを凝視した。
兵士たちはひとりづつ視線をwadeに移した。
もうすこし考えてみたらどうだ
その必要はありません
yunfonがchensinに向かって口を開きかけたが、wadeが手を挙げて制した。
wadeの目がうつろになった。
武装解除しろ。すべての弾薬をここに置け
はじめはだれも動こうとしなかった。
ついにひとりが台に歩み寄り、2本の弾帯を置いた。
つづいて二人目がやってきて弾薬を置いた。
それから大勢の兵士がやってきてすべての弾帯が集まった。
掩体世界のすべての星環シティ工作員は、武器を捨て、連邦政府に投降せよ
星環シティ政府は連邦艦隊に協力し、街を連邦に引き渡す。
いかなる過激な行動をとることも禁ずる。
wadeが手を振って解散を命じると、隊員たちは静かに出ていった。
wadeはマシンの台に乗っていた髪の毛を息を吹きかけて飛ばした。
ほらな、約束は守っただろ、お嬢ちゃん
to be continued 10:56 2024/07/05
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星環シティ事件の解決後、連邦政府は反物質の武器のことをすぐには公表しなかった。
世論は彼らに対して寛容だった。
連邦政府の厳しい監督下で企業活動を行うことを条件に、事業を継続できることになった。
だが、押収した反物質の弾丸を全世界に公表すると、一変した。
星環グループは非合法組織であるとして、全資産が没収され、環太陽加速器も連邦政府に引き渡された。
wadeをはじめとする星環グループ上層部と兵士300名あまりが逮捕され、太陽系連邦裁判所の法廷で、ThomasWadeは反人類罪、戦争罪、曲率技術禁止法違反の罪により、死刑を宣告された。
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太陽系連邦の首都である宇宙都市・地球Ⅰの連邦最高裁判所の近くにある拘置所で、chensinはwadeと向き合い、葉巻を渡した。
あなたのこと、話してくれない？ わたしが語り継ぐから
話すことなどない。
葉巻をありがとう
chensinはwadeに別れを告げ、生まれてはじめて葉巻を吸った。
三日後、ThomasWadeは強力なレーザーで蒸発した。
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chensinはアジアⅠの冬眠センターでaiAAを冬眠から蘇生させ、いっしょに地球に帰った。
星環グループが接収されたあと、連邦政府はchensinに会社の膨大な資産の一部を返還した。wadeに引き継いだ当時の資産総額に匹敵するものだった。
それといっしょに、定員3名の小型恒星間宇宙船「星環」も返還された。
二人はオーストラリアに戻り、モスケン島に行った。
jasonが建てた灯台はまだあったが、点灯することはなく、周囲一帯も無人になっていた。
二人はまたアジアⅠで冬眠するために木星宇宙都市群へ戻った。
予定している冬眠期間は200年だったが、契約書には、期間内に暗黒森林攻撃が発生した場合、予告なしに蘇生される。
**************************************************
第5部
掩体紀元67年
宇宙のエントロピーが上昇すると、秩序が低下する。
しかし、低エントロピー体は例外で、エントロピーを減らし、秩序を増やした。
メインコアは空間を通過するあらゆるメッセージを呑み込む。
メインコアはすべての星の位置を覚えている。
受けとったデータをさまざまの形式のマップや位置情報と照らし合わせて、メッセージの発信元の座標を特定できる。
三つの恒星のひとつが消えていて、すでに浄められている。
破壊された恒星の近くでゆっくりと動いている霧が見える。
ゆっくり動く霧は、その世界が危険であることを物語っている。
送信された座標は最終的にひとつ残らず浄められることになる。
もうひとつの座標から、あるメッセージが送信され、このメッセージの中に自動解読システムが含まれていた。
死者が折り返し送信したメッセージが同じ文字コード体系を利用していることがわかり、相対座標が明らかになった。
彼らは自分では清めの能力を持っていなかった。
三恒星世界を浄めた低エントロピー体は、なぜこの座標を浄めないのだろう。
この座標の恒星の唯一の選択肢は、低速の霧に包んで、自分たちが完璧に安全であるように見せることだが、そうしてはいなかった。
メッセージを送信してから充分な時間があるのに、そうしていない。
彼らはただ、やりたくないだけかもしれない。
そうならば、死んだ三恒星世界よりもはるかに危険だ。
この星系は死角があるので質量点は使えないことに気がつき、双向箔を許可されて使うことにした。
母世界と周縁世界との戦争のために、双向箔により二次元化の準備をするのかもしれない。
双向箔は力場を使ってその星系に投げられた。
**************************************************
目覚めるとchensinは無重力下にいた。
aiAAが近くに浮かんでいる。
情報ウィンドウに白髪の老人が現れた。
tsaobinだった。
前回の蘇生から56年経っていた。
tsaobinとbiiyunfonは有罪判決を下され、tsaobinは短期間服役しただけで釈放されたが、biiyunfonは10年以上前に亡くなった。
20年前、太陽系早期警戒システムが改良され、宇宙都市は木星の衛星になり、アラートが出たときに軌道を変えて木星の裏側の掩体エリアに隠れる。
攻撃アラートが出ました。
この半世紀の間に二度の誤警報がありましたが、今回は本物です。
だれもが生気のない目をしている。
これは掩体域に身を隠し、攻撃に対して万全を期している姿じゃない。
どうして木星の影に入らないの？
photoiはどこまで来てるの？
photoidではありません。
tsaobinは一枚の小さな紙きれを見せた。
**************************************************
chensinが冬眠から蘇生する1年前、太陽系早期警戒システムは、光速に近いスピードでオールトの雲の外縁をかすめる未確認飛行物体を発見した。
最接近時、物体と太陽の距離はわずか1.3光年だった。
この物体は巨大で、宇宙に散らばる原子や塵との衝突によって強烈な放射線を発生した。
この物体が航行中に一度、わずかに方向転換して、前方の小さな星間物質雲を避けたあと、また方向返還してもとの針路に戻るところが観察された。
この物体は知的生命体の宇宙船であることが確実になった。
異星船はphotoidを発射することはなかったが、微弱な重力波を途切れることなく放射していた。
この重力波の周波数と強度はつねに一定で、なんの情報も含まれていなかった。
重力波の放射源は、宇宙船とは別の物体であることが判明した。
その放射源は光速で太陽系に接近していた。
標的は太陽ではないらしい。
太陽から150天文単位の距離まで接近したとき、重力波の周波数が急速に低下しはじめた。
それが、射出体の減速によるものであることが判明した。
光速から急減して光速の1000分の1になり、さらに減速しつづけた。
2隻の宇宙船が海王星宇宙都市群を出発し、射出体の調査に向かった。
その主要部分は巨大な重力アンテナで、大昔のヘリウム飛行船に似ている。
異星船との距離が1000キロメートルまで近づいても重力波放射源の位置にはなにも見えなかった。
距離150キロメートルまで接近すると、ひとつの小さな白い点が見えた。
無人機を送り出し、目標から5メートルのところで停止した。
一枚の紙きれが映し出された。
長さ8.5センチ、幅5.2センチ、厚み測定できず。表面は純白で、クレジットカードよりやや小さい。
この紙きれはどんな周波数の電磁波も反射しない。
それ自身が薄い白色光を発して、透明だった。
ロボットアームで紙きれをつかんで引き戻したが。紙きれは元の場所に残っていた。
紙きれは物体をなんの抵抗もなくすり抜けることができた。
to be continued 21:34 2024/07/05
2024.7.4
目次へ
誤警報事件は、大移住以来、最大の社会動乱だった。
世界中の何千もの宇宙港でシャトルが群衆に囲まれながら離昇を強行するという犯罪行為が発生していた。
核融合エンジンの激しい炎による死者は1万人を超えた。
また、軌道エレベーターの基地ステーションでは武力衝突も起きた。
地球静止軌道と月の裏側で、数十隻の小型恒星間宇宙船と準恒星間宇宙船が秘密裏に建造中だった。
これらの宇宙船は大企業や超富裕層が所有するものだった。
彼らの目的は巨大惑星の裏側に長期にわたって身を隠すことだった。
いま構築中の太陽系早期警戒システムは、約24時間前にアラートを出すのが限界だったので、その時点では地球からの脱出は間に合わない。
現在、木星には5万人以上が長期居住しているが、そのほとんどは艦隊の木星基地に勤務する宇宙軍の人間で、残りは掩体計画の事前準備作業にあたっている要員の一部だった。
木星や土星の裏側に隠れて宇宙船の中に閉じこもっていれば、暗黒森林攻撃のあと生き延びることができるが、それは人がうらやむような暮らしではない。
しかし、光速船が利用できた場合は、地球から木星までは数十分で到達できるので、アラートが出てから脱出してじゅうぶん間に合う。
ということは、光速船を所有する特権階級や超富裕層は、地球上でいままでと変わらない快適な生活を送れることになる。
大多数の人は、光速船の出現がまた世界的な動乱を引き起こす可能性があると考えていた。
太陽系早期警戒システムの1号観測ユニットが異常を探知したことは、誤りではなく、ただ、photoidとはまったく関係がなかった。
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photoidは、相対論的な質量が生み出す巨大な運動エネルギーで標的を破壊する。
photoidは極めて光速であるため、宇宙空間に希薄に散らばる原子や星間塵と激しく衝突し、可視光からガンマ線まで放出するが、この特徴的な放射は探知可能だった。
photoidの速度と放射線の光速とはわずかの差があり、photoidの進む距離が長ければ、
検知可能だ。
また、photoidの質量により、付近にある天体の重力の影響を受け、軌道がわずかに曲がる。
このため、photoidの通過によって生じる電磁波は、photoid自体よりも先に太陽系に到達する。この時間差がアラート発令を可能にする。
しかし、もしphotoidが太陽系の近くにいる宇宙船から発射された場合は、アラートを発するチャンスはほとんどない。
太陽系早期警戒システムは、35基の観測ユニットを建造し、全方位的に宇宙空間のphotoid放射線を監視する計画である。
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送信紀元8年
太陽系早期警戒システム1号観測ユニットは、危機紀元末期に建造された。
この観測ステーションが、”水滴”をはじめて発見した。
可視光観測部分は、1200メートルだった望遠鏡レンズが2000メートルになった。
全長10キロメートルのレンズユニット群が向きを変え、三体星系の方角を向いた。
恒星が爆発してから7年経っているが、現在観測しているのは爆発から3年後の姿だ。
星雲の上方には残された二つの恒星が見え、安定した連星系となったが、星間物質はたえまなくその恒星に吸い込まれ、その過程で強い放射線が生み出されて生命の生存はできない。
観測員widnerが重要な事象を発見した。
星雲の中心から30天文単位ほど離れたところに、宇宙のシャボン玉のようなまるい輪郭が見えた。
さらに、三体星系から約6000天文単位離れた宙域にもうひとつのシャボン玉を見つけた。
もしかして、三体第二艦隊が光速に入った場所？
この情報はニュートリノビームを使って艦隊参謀本部に送られ、国連PDC本部にも転送された。
その段階で情報のリークが発生し、photoid攻撃に対する警報だと誤解された。
曲率ドライヴの航跡は、宇宙船が光速に入るときに残される。
光速に入ったあとは慣性航行することになり、航跡を残すことはない。
tomokoはかつて言っていた。
遠距離から観測すると、三体星系は太陽系よりもはるかに危険に見える。
これは、三体星系に残された曲率ドライブの航跡を指していたと推定される。
つづく一か月の間に、観測ユニットはさまざまな宙域で曲率ドライヴの航跡を六か所発見した。
中の一つは太陽系から6000天文単位の距離にあり、三体第二艦隊が光速から離脱したときのもののようだった。
残りの数か所は、三体第二艦隊とは無関係で、この宇宙にありふれたもののようだった。
航跡の一つは、太陽から1.4光年の距離にあるオールトの雲近くにあった。
かつて一隻の宇宙船がその宙域を航行し、そののち光速に入って飛び去ったことを示している。
BlueSpaceとGravityが四次元のかけらの中で発見した事実を裏づける証拠の一つになった。
この宇宙には多数の高度な知的文明が存在している。
艦隊インターナショナルと国連は曲率ドライヴ宇宙船の研究と建造を全面的に禁止し国際法をただちに制定し、各国も追随した。
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表面上、光速宇宙船プロジェクトの頓挫には明確な理由があった。
曲率推進によって生成される航跡が地球文明の存在を宇宙全体に知らしめてしまう事態避けることだった。
しかし、もっと深い理由があった。
三世紀にわたる恐怖の一般の人たちは平穏な生活に対する憧れが強くなっていた。
ブラックドメインは宇宙から切り離された安全な生活を保障してくれるが、掩体計画と比べて関心は低かった。
大衆の無関心な態度とは対照的に、エリート層の間で光速船プロジェクトに対する熱狂的支持がひろがった。
この冷酷な宇宙では、外に向かって打って出る文明しか生き残れない。宇宙の片隅でひっそり生存するだけではいずれ滅亡する。
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chensinは地球と太陽のラグランジュ点にいた。
chensinは掩体計画に関するシミュレーション実験のボランティアとしてこに来た。
シミュレーションは艦隊インターナショナルと国連が共同で進めている。
この実験で、太陽爆発に際して、ガス巨星が掩体として有効かどうかを検証することになっていた。
300メガトンの超大型水爆を太陽とし、小惑星から採取した八つの岩石を惑星に見立てた。
”太陽”からの距離は、”水星”が4キロメートル、”海王星”は300キロメートル。
コンピュータによるシミュレーションで充分だったが、これは一般大衆に対するアピールだった。
このために”木星”の裏側に立つ人間を募集した。
aiAAはchensinに応募するようすすめた。星環グループが掩体計画に参画するためのまたとない宣伝のチャンスだと考えたからだ。
”木星”の裏側に、chensinの宇宙艇のほかに、19隻が待機した。
chensinの宇宙艇は最前列に位置し、”木星”から10メートル離れている。
19隻の宇宙艇には総計百人以上のボランティアが搭乗している。
chensinはaiAAと一緒に搭乗するはずだったが、aiAAは急な仕事で会社を離れられなくなり、一人で搭乗した。
自分の宇宙艇のすぐ横にいる宇宙艇が5人の乗員が見え、ひとりが手を振った。
ThomasWadeだった！
ドッキングしようと言ってきて、chensinの同意を待たずドッキングプログラムが起動して、wadeがハッチから船内に入ってきた。
一か月前に刑期を終えたんだ、減刑されて、とwadeが言った。
お前が持つものをすべておれによこせ
おまえの会社、財産、地位、可能ならおまえの栄光と名誉。それらすべてを使って、おれが光速船をつくってやる。おまえの理想のために。
二度と同じ過ちをくりかえすな
chensinは言うべき言葉を思いつかなかった。
カウントダウン・タイマーがゼロになり、水素爆弾が爆発した。
ガス巨星にあたる四つの大きな岩塊はバーナーで焙られたアイスクリームのようになり、水爆側は熱に溶かされて滑らかな半球になった。
水爆の外殻層の破片からなる”恒星物質”が”木星”を襲った。
岩塊は激しく震動し、衝突エネルギーに押されてゆっくりと”太陽”から離れはじめた。
20隻の宇宙船はスラスターを始動し、”木星”との距離を保った。
火球は30秒ほど燃え続けてからふいに消えた。
四つの大きな小惑星片の裏側にいた50隻の宇宙艇はまったくの無傷だった。
5秒後に映像が地球に届き、全世界が歓喜に沸いた。
二度と同じ過ちをくりかえすな、wadeはもういちど言った。
すこし考えさせて。
もちろん、よく考える必要があるだろう
wadeは自分の宇宙艇に戻った。
to be continued 15:59 2024/07/04
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chensinはaiAAに電話して、wadeと対面したいきさつを話した。
wadeが欲しいというものぜんぶくれてやればいい
彼の言うとおり、あなたにはこのプロジェクトを実行する能力がない。
自分でやろうとしたら、きっと破滅する。
でもあいつならやれる。あの悪魔、殺人鬼、野心家、政治プロ、マッドエンジニア。
行き先は地獄。だから、あいつを飛び込ませてやればいい。
じゃあ、あなたはどうするの？
もちろん、あんな男の下で働くつもりはない。自分の分け前をもらったら、後は好きなことをして暮らす。chensinそうして。
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二日後、星環グループ本社最上階にある大ホールで、chensinはwadeと対面した。
じゃあ、冬眠に入ってくれ。
おまえの存在がおれの事業に影響を与えるかもしれん
chensinはうなづいた。
成功したその日におまえを起こす。
もし、その日、光速船がまだ違法だったら、すべての責任はおれが負う。
逆にもし光速船が世界に受け入れられたら、その栄誉はすべておまえのものだ。
でも、ひとつ条件があります
このプロジェクトに人類を危険にさらす可能性が出てきたら、わたしを蘇生させること。
最終決定権はわたしにあります。
そして、あなたに与えた権限全てをとりもどす権利があります。
その条件は受け入れられない
じゃあ、話はこれまで。あなたにはなにもあげられない。
それぞれ別の道を進みましょう。
考えさせてくれ
わかった。受け入れよう
約束する。もし光速船の開発途中で人類に危険を及ぼす可能性が出てきたら、その危険の性質にかかわらず、おまえを蘇生させる。
最終決定権はおまえにあり、すべての権限をおれからとり戻すことができる。
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会談の結果を聞いて、aiAAは自分も一緒に冬眠すると言った。
彼が約束を守ると思う？、とchensinが訊いた。
あの悪魔はきっと約束を守りますよ。
でも、あなたにとってかならずしもいいことじゃないかも。
10日後、ThomasWadeは星環グループのCEOとなり、会社の経営権をすべて引き継いだ。
同じころ、chensinとaiAAは冬眠に入った。
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第四部
掩体紀元11年
ナンバー37813、あなたの冬眠は終了しました。
あなたは62年8ヶ月21日と13時間、冬眠していました。
あなたには、あと、238年3ヶ月9日間、冬眠する権利があります。
ここはアジアⅠ冬眠センターです。
現在の日時は、掩体紀元11年5月9日14時17分です。
蘇生したばかりのchensinの目の前に浮かんでいた小さな情報ウィンドウは。1分もしないうちに消えた。
若い女性の看護師がchensinにつながれている医療機器をはずしているらしい。
chensinのベッドを看護師が押している。
廊下にはおおぜいの歩行者が行き交い、抑止紀元に消え失せた男性が復活したようだ。
chensinのベッドは小さな部屋に運ばれた。
前二回の蘇生時と違って、かなり早く回復した。
翌日の午前中、物理学者のtsaobinが病室にやってきた。62年も時が過ぎたようには見えなかった。
ThomasWade氏から、迎えを頼まれました。
あなたはどうしたの？
chensinさんと同じころに冬眠しました。
その17年後、環太陽粒子加速器の運転が始まり、冬眠から覚醒して、基礎理論の研究に従事しました。
その後、応用段階に入ると、また冬眠に戻りました。2年前に蘇生しました。
曲率推進プロジェクトはどうなってるの？
多少の進展はありましたが、その件についてはまたのちほど
外を見るとすべてのビルがきわめて規則的に直方体で設計されていた。
地平線では、大地が山の斜面のように隆起し、街はその上にまで広がっていた。
ここは宇宙都市アジアⅠ、木星の裏側です。
アジアⅠは、掩体プロジェクトでもっとも早く建設された宇宙都市のひとつだった。
幾何学的な円筒形をしていて、回転で生じる遠心力が人工重力をつくりだしている。
最大で2000万人あまりが生活していたときもあったが、たてつづけに新しい宇宙都市が完成したため、いまでは900万人まで減少し、当時のような過密状態は解消されていた。
人工太陽が10キロメートル間隔に三つあり、核融合でエネルギーを生み出し、24時間周期で都市に昼と夜をもたらしている。
chensinが見たのは、二十二の宇宙都市だった。
見えない都市が四つあり、ぜんぶで26の宇宙都市が4列に並んで木星の裏に隠れているという。
それからの三日間、tsaobinに連れられて四つの宇宙都市を周遊した。
最初に訪れたのはアジアⅠに最も近い北米Ⅰで、完全な球形だった。
球の直径は40キロメートルで、都市群の中で最大の人口2000万人が居住し、商業的な中心になっている。
三番目に訪れたのは、長球形のヨーロッパⅣだった。
全長40キロメートルで、内部は無重力状態になっていて、人口は450万人。
掩体世界ではもっとも富裕な都市だった。どの邸宅にもプールがあり、小さな太陽に照らされている家々があった。
パシフィックⅠはヨーロッパⅣの反対側にあった。
北米Ⅰと同様な標準的な球体だった。
居住許可なしに自由に移住できる唯一の宇宙都市だったため、600万人あまりの人口の大部分は失業者、ホームレス、社会保障を失った貧しい人々、放浪の芸術家などで占められたが、のちに、急進的な政治組織の拠点ともなった。
土地所有権の概念はなく、すべての建物が定位置を持たずに浮遊している。
連邦政府は多額の予算を投じて、社会の福利厚生を整えた。
この都市には推進装置がない。
前回蘇生した時代と比べれば、掩体世界は理想的な社会からほど遠いが、とうに失われてしまった社会形態をふたたび出現させた。
これは後退ではなく、新たな世界の開拓には必然だった。
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パシフィックⅠを出てから、車輪形の都市に行った。
ここは、chensinが60年ほど前に地球から軌道エレベーターで訪れたターミナル駅の拡大版だった。
巨大な外殻構造を建造するよりも難易度は低く、完成後も高い強度と防災力があり、拡張もしやすい。
木星と土星の宇宙都市のあとから建設された天王星と海王星の都市群では新たな建設モデルが次々に考案され、都市と都市のドッキングが行われた。
いま、木星、土星、天王星、海王星の裏側には６４の大型宇宙都市があり、それに加えて百近くの中型・小型宇宙都市、さらに大量の宇宙ステーションがあり、総計21億人が暮らしている。
地球の人口は激減し、人口はおよそ8億人になっている。
そのうちの大多数は新たに建設される宇宙都市への移住を望み、今後十年以内に移住が完了すると見込まれている。
しかし、なおも数千万人の人々が自発的に地球に住んでいる。
地球に残った人々は、野生動物の襲撃から身を守るためにかならず銃を携帯しているという。
その一方、彼らは王侯貴族のような暮らしをしているとも噂された。
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chensinとtsaobinは中型宇宙都市の星環シティに着いた。
星環シティに着く前に、宇宙艇はライトスピードⅡを通過した
。
ライトスピードⅡはかつては科学都市で、ブラックドメインを実現する方法を研究していたが、いまは放棄され、無人の街になっているという。
chensinはその科学都市を見てみたいといい、tsaobinは不承不承承知した。
この宇宙都市は廃墟になっていた。廃屋の中に、ごくかすかな青い光が見えた。
光源は規則性もなく明滅していた。
宇宙塵がブラックホールに落ちるときに発する光です
5キロメートル先にブラックホールがあります。
シュワルツシルト半径は21ナノメートル。質量は木星のレダと同じくらいです。
tsaobinはchensinにライトスピードⅡとgaowayの物語を語りはじめた。
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真空中の光速度を低下させる研究は、掩体プロジェクトとほぼ同時に始まり、土星宇宙都市群に属する科学都市、ライトスピードⅠが建設された。
だが、60年におよんだ研究はなんの成果も出せなかった。
基礎研究における実質的な成果は、唯一、環太陽加速器の建造だけだった。
これがブラックホール計画の成功につながった。
ブラックホール計画の最高科学責任者がgaowayだった。
理論上も観測上も、ブラックホールでさえも光速は変えられない、変えられるのは光の通り道と周波数だけだった。
マイクロブラックホールを近距離から観測すれば、なにか思いがけない発見があるかもしれない。
環太陽加速器は短時間のうちにマイクロブラックホールを生み出せるが、たちまち蒸発してしまう。
加速器で生成されたマイクロブラックホールが木星の半径8キロメーテルの衛星レダに投入されました。
レダはあっというまにすべて溶かされてマグマの球に変わり、やがて超強力な閃光の中であとかたもなく消えてしまった。
観測によれば、レダの質量のほとんどがブラックホールに吸い込まれた。
そしてこのブラックホールは安定し、そのシュワルツシルト半径は、素粒子サイズから21ナノメートルにまで広がった。
こののち、このブラックホールを中心にしてライトスピードⅡが建設された。
ライトスピードⅡは事実上、このブラックホールを収めた巨大な容器だ。
ブラックホールの研究は何年も続き、基礎理論の発展に寄与したが、gaowayは研究が始まって6年後に命を落とした。
彼は研究中に起きた事故で、ブラックホールに吸い込まれたそうです。
結果的にブラックホールの研究は中止されました。
星環シティに行きましょう、とchensinは言った。
この宇宙都市の廃墟と同じように、心の中はからっぽだった。
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星環シティは20隻余りの恒星級戦艦に包囲されていた。
この戦艦は太陽系連邦艦隊の現有戦力の大部分だった。
掩体計画が始まってからは、艦隊の規模は大幅に縮小されている。
封鎖線からの命令を受けて前進をストップすると、軍の巡視艇が近づいてきた。
連邦議長の特使blairが出てきてchensin博士に丁重な挨拶をした。
特使は手を振って情報ウィンドウを開き、画面に太陽系連邦議長が現れた。
wade氏の話によれば、最終決定権はあなたにあります。
われわれは博士に大きな期待を寄せています。
ThomasWadeが経営を引き継いでから、星環グループは掩体計画の主要建設業者となった。
経営規模は8年間で10倍に成長し、いまや世界最大の企業体の一つになった。
この発展はひとえに彼が新たに組織した経営陣によるものであり、wadeは経営にはほとんど介入せず、会社の利益の多くを光速船開発事業に投資していた。
光速宇宙船の建造が星環グループの最終目標だということは公然の秘密だったが、基礎研究にとどまっているかぎり、連邦政府も規制違反で摘発することはなかった。
だが、いまから6年前、星環グループは突如、光速宇宙船の開発計画を発表した。
これが国際社会に大きな波乱を巻き起こし、それ以降、連邦政府との間で摩擦が絶えない。
何度も行われた交渉の結果、曲率推進によって生じる航跡で地球文明の存在が明るみに出ることを防ぐため、曲率ドライヴが有効性試験の段階に入ったら、実験基地を太陽から500天文単位以上離れた深宇宙に移動する。
しかし連邦政府は、ようやく安定したばかりの掩体世界の社会生活を揺るがすことになりかねないと考えている。
to be continued 22:04 2024/07/04
2024.7.3
目次へ
もし、宇宙船が自身の後方の空間を平らに熨斗して、曲率を減少させることができれば、その船は曲率がより大きい前方の空間にひっぱられて前に進む。
しかし、yuntienminメッセージが正確に解読される以前、曲率推進は幻想に過ぎなかった。
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送信紀元7年
yuntienminのおとぎ話
雪浪紙、chensinがささやいた。
＜この巻紙はhooalsingenmoskenの黒曜石の石板で平らにするしかありません＞
巻紙は、明らかに曲率ドライブで航行する宇宙船の前方と後方の空間の曲率の違いを示している。
二日後、sophon遮蔽室の中で行われたIDCの会議で、議長が発表した。
曲率推進という解釈がすべての作業部会で支持された。
yuntienminは、三体世界の光速船が空間曲率ドライブを使っていることを伝えたのだ。
tienminは物語を、二層メタファーと二次元メタファーという二つのパターンで語った。
二層メタファーは、伝えるべきメッセージをダイレクトに示さず、単純な第一のメタファーで示し、その上に第二のメタファーを乗せる。
王女が乗る舟、hooalsingenmosken石鹸、とうてつの海、これらが組み合わさって、石鹸で進む折り紙の舟を占めした。
この折り紙の舟が空間曲率ドライブのメタファーとなっている。
二次元メタファーは、戦略情報を伝えるため、文学を利用したことで生まれた多義性に対処するための方法だ。
to be continued 11:47 2024/07/03
雪浪紙が巻紙状に巻かれて曲がっていること、アイロンで熨斗して平らにしなければならないこと、という文字がメタファーとして与えられたことを言う。
物語を二次元平面として見た場合、二層メタファーはひとつの座標しか示していない。それをサポートする一層メタファーが三次元の座標を示す。
委員会はchensinとaiAAに謝意を表した。
chensinは、tienminが邪悪な三体世界から情報を伝えるためにどれだけの思案と苦労を重ねたのかを思い、涙が出た。
tienminは3世紀前にchensinに星をプレゼントし、いま、人類に希望を贈った。
その後の解読作業は着実に進んだ。
最初に解読に成功した情報が、太陽系からの脱出に関するものだった以上、残りの情報は安全通知に関するものである可能性が高いという推測である。
しかしほどなく、物語に隠された情報が、最初に解読された情報よりはるかに複雑なものであることがわかってきた。
傘はぐるぐる回し続けなければならなかった。これは遠心調速機のメタファーだ。
観測者の目に映る深水王子の身長は観測者との距離にかかわらず一定だった。これは光速度を意味している。
魔法樹の泡は最速の速度で運動し、質量がない、これは光子を意味している。
光の速度を低下させることと、安全通知との関係が話題になった。
太陽系の中で光速度を低下させられたとすると、宇宙スケールの遠距離からでも観測可能な変化を人類がもたらしたことになる。
もし、光速度を100分の1に低下させたとすれば、観測者は人類が緩衝地帯に囲まれているのを観測する。この緩衝地帯のために人類の宇宙船が太陽系外に出るには長い時間がかかる。そうなれば遠方の観測者にとって、人類は安全な文明に見える。
いや、それはかえって地球文明が基本物理定数を変えられる高度な技術を持つことを全宇宙に知らせることになり、危険警告になってしまう！
ちょうどそのとき、hooalsingenmoskenの意味がついに解読された。
IDCはこの言葉を研究するために、言語学チームを編成した。
moskenはノルウェーのロフォーテン諸島の小さな島の名前と同じだ。
二日後、chensinとaiAAはモスケン島に立った。
モスケン島の居住者はたったひとり、jasonという80歳過ぎの男性だった。
島には白い灯台があった。
少し暗くなった海から地響きのような音が大きくなってきた。
chensinは思い出した。エドガー・アラン・ポーの「大渦に呑まれて」の中でモスケンの大渦についての短編があった。
tienminも読んでいたにちがいない。
jasonのボートにみんな乗った。ボートは激しく揺れ、そのあと安定した。
渦潮につかまった！
水の壁は30度はあった。渦の壁の表面はなめらかで個体のようだった。
接線に沿って全速力で突っ込んで！
aiAAが叫び、jasonは言われたとおりに操縦し、脱出に成功したかにみえた瞬間、頂点を越えた石ころのように運動量を失い、さらに深いところへ落ちていった。
渦に入ってから、20分すぎていた。
上空で待機していたヘリコプターがホバリングして縄梯子を降ろし、全員を救助した。
30分後、ボートはすり鉢の底に達し、呑まれて消えた。
ヘリコプターはsophon遮蔽室のあるオスロに向かった。
光速度が低下することとブラックホールとのあいだにどんな関係があるのか。
ブラックホールと安全通知とどんな関係があるのか。
１６．７！
物理学者tsaobinが叫んだ。秒速16.7キロメートル、それは太陽系の第三宇宙速度だ。この速度に達しない宇宙船は太陽系の外に出られない。
光についても同じことが言える。
太陽系内において、真空中の高速度が秒速16.7キロメートル以下になると、光は重力から抜け出せなくなり、太陽系は一個のブラックホールと化す。
低光速太陽系ブラックホールは、宇宙的遠距離からどのように観察されるだろうか。
文明度が低い観測者の目には、太陽系は消滅したように見えるだろう。
文明レベルが高度に発達した観測者なら、このかろうじて天のように見える星系は脅威にならないと判断するだろう。
のちに、光速度を低下させることで生まれるブラックホールのことはブラックドメインと呼ばれるようになる。
この時点で、yuntienminのジグソーパズルは大部分が完成していた。
ひとつだけ残されたピースは針孔絵師の絵だった。
絵の中に閉じ込められるというモチーフは生と死にかかわる大きな秘密を暗示しているはずだった。
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地球文明生存のための三つの道
１ 掩体計画
成功の可能性が最も高い。理論的に未知の部分はない。
yuntienminメッセージにはこの選択肢はない。
２ ブラックドメイン計画
太陽系を低光速ブラックホールに変えることにより、全宇宙に安全通知を送信する。
技術的難度が最も高い。
photoidのような飛翔体が太陽系外から侵入した場合、その時点の速度はブラックドメイン内部の低速化された光速度をはるかに上回るが、境界を越えた瞬間、低速の光速度まで減速する。
相対性理論のもとでは光よりも早く移動することはできないため、最初に境界を超えた前方部分の質量が急激に増大し、後方部分は前方部分に光速で衝突するので、飛翔体は完全に破壊される。
強い相互作用物質でできた”水滴”のような物体でも境界で完全に破壊される。
このため、ブラックドメインは宇宙版耐火金庫と呼ばれている。
しかし、そのために莫大な代償を払うことになる。
太陽系は宇宙のほかの部分から完全に遮断され、事実上、人類が属する宇宙の広さは、直径160億光年から50天文単位へと縮んでしまう。
人類世界は低速でしか動かない電子機器の世界になり、テクノロジーを放棄することになる。
３ 光速宇宙船プロジェクト
曲率推進を可能にする理論的な基礎はまだ確立されていないが、ブラックドメイン計画にくらべれば実現の難易度は低い。
たとえ実現しても、深宇宙をさすらう人類の前途は危険に満ち、予測不可能だ。
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送信紀元8年
chensinははじめてaiAAが経営する星環グループの本社を訪れた。
yuntienminが現れてから、大衆の軌跡に対する幻想はすこしづつ色褪せ、掩体計画が始動するとともに世界的な宗教ブームは沈静化した。
十字架建設プロジェクトは中断され、解体作業が進行していた。
あたしはブラックドメインは好きじゃない、とaiAAが言った。
個人的にはわたしも光速船の方が好き、とchensinが言った。
曲率推進とブラックドメインの研究は基礎理論で重なる部分があるかもしれない。
突然、攻撃アラートが出た！
太陽系早期警戒システムの観測ユニットを始めて起動した直後だった。
photoidが見つかりました！
もしこのアラートが本物だったら、脱出して生き残る唯一の希望は、宇宙船で木星へ向かうことだった。
ちょうどいまは木星が太陽とは反対側の「衝」の位置にある。
二人はエアカーに滑り込み、aiAAはライフルを後部座席に放り投げて、発進させた。
星環グループのシャトルに搭乗しようとしたとき、若い女性教師と子どもたちの一団が茫然と立っていた。
スペースキャンプに来たんですが、アラートが鳴ったあと、搭乗を拒否されて、わたしたちの席はほかの人にとられてしまって
aiAAは、あと三人しか乗せられないと言った。
深海加速液カプセルが5席しかないから。
aaiAAは即座に子どもたちにクイズを出し、正解した子どもを三人選んで乗せることにした。残された子どもたちと教師をおいて。
だれかが駐機エリアで離昇シーケンスを強行した！
核融合エンジンから噴射されるプラズマが瞬時に地面を溶かした。
離昇したシャトルの周囲に駐機されていた数機が横倒しになった。
その数十秒後、べつの1機が離昇し、また、1機と次々に離昇し、駐機エリアは火葬場となった。
こっちが飛び立てないなら、あいつらも行かせない
aiAAはシャトルを飛び出し、周囲の8機のすべての尾翼をライフルで撃った。
宇宙艇のモニタリングシステムが尾翼部分に異常を検知すると、AIシステムは離昇プログラムを実行しなくなる。
IDC委員からchensinに連絡があった。
アラートは誤報だった。
目下のところ、暗黒森林攻撃の形跡は発見されていない。
外は戦場のような悲惨な光景だった。
to be continued 22:50 2024/07/03
2024.7.2
目次へ
深水王子はどうして墓島に追放されたのですか？
露姫が寛おばあさんにたずねました。
噂では深水王子は巨人だとか。
浜辺に行けば見えます。巨人に違いありません、多くの人が見たのですから。
子どものころ、深水王子は船で墓島へ釣りに出かけたんです。
ちょうどそのとき、とうてつ魚が現れて帰ってこれなくなって、島で育つことになったんです。
夜になって、半分砂にうずもれている一艘の古い舟が見えました。
王女さま、海に入ってはいけません。
近衛隊長は板切れを拾い上げ、波打ち際に近寄って海にほうりこみました。
板切れが波にゆられると、近くから海面に三つか四つの黒い影が浮き上がり、板に襲いかかってかみ砕きました。
露姫が顔を洗おうと思って、石鹸を桶の水にちょっとつけると、ポンと音がして水面はたちまち雪のような白い泡でいっぱいになり、桶からとめどなくあふれだしてきました。
近衛隊長が石鹸を手に取ると、重さを感じませんでした。
これはhooalsingenmosken産だ！ まだ残っているなんて！
もう残りは二つだけ。姫さまのためにとっておきました。
寛おばあさんは石鹸を慎重につつみなおしました。
露姫は浜辺の砂の上で眠りました。波の音が子守唄のようでした。
寛おばあさんと近衛隊長は交替で傘をまわしていました。
近衛隊長はhooalsingenmoskenの出身でした。
hooalsingenmoskenで、近衛隊長の両親はいくつもの物語を話してくれました。
かつて王国を囲む海には、とうてつ魚はおらず、船は自由に航海していました。
王国とhooalsingenmoskenとのあいだをたくさんの船が毎日行き来していました。
王国は物語の王国と呼ばれていて、毎日いたるところで興奮と驚きに満ちたことが起きていました。
ある日、hooalsingenmoskenを発った一隻の貿易船が、珍しい小さな魚を鋳鉄製の樽に入れて運んできました。
この魚はhooalsingenmoskenの洞窟の奥深くにある暗い淵で見つかった淡水魚でした。
その歯はダイヤモンドのように硬く、錐の先にもなり、ひれは矢じりやナイフに加工できました。
その後、多くのとうてつ魚が運ばれてきましたが、ある嵐の日、貿易船が沈没して20樽のとうてつ魚が海に逃げ出しました。
とうてつ魚は海の中では非常に速く成長し、人間ほどの大きさになりました。
船の周りに集まるとみるみるうちにかみ砕いて、船は見えなくなりました。
とうてつ魚の群れは王国の沿岸を回遊しはじめ、他国の船は近寄らなくなりました。
王国は外界との接触を断たれ、いぎやかな街はなくなり、変化も興奮もなくなって、人々は物語を望まなくなり、物語のない王国になりました。
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yuntienminの第三の物語
深水王子
露姫がふたたび目を覚ますと、海の色は黒から青に変わっていました。
近衛隊長は、あれが墓島です、と指さしていいました。
島に立つ巨人が見えました。
潮が満ちて、いつのまにか波が砂浜に押し寄せてきました。
ゆうべ露姫が顔を洗うのに使った木の桶が波に流されて、ひっくり返り、中に入っていた真っ白な石鹸の泡が海面に広がっていきました。
とうてつ魚が近づいてきてきましたが、泡に触れた瞬間、白い腹を見せて海面に浮かんでいました。
石鹸は、hooalsingenmoskenの森にある樹齢千年以上の魔法樹が噴き出す泡でつくられていました。
飛んでゆく百万個の泡を集めてやっとひとつの石鹸ができ、石鹸の泡からまた百万個の泡ができます。
to be continued 15:28 2024/07/02
近衛隊長は浜辺でいちばん小さな舟を見つけると、三人で乗りました。
すぐとうてつ魚が舟をとりかこんだので、露姫が石鹸を海水に浸すと、大きな泡が海面に湧きあがり、大きく広がって海面は雪のように白くなり、魚たちはおとなしくなりました。
舟はだんだん墓島に近づきました。
深水王子はまだ背を向けていましたが、背がすこし低くなりました。
王子がこちらを向き、驚いた表情をしました。
王子の足もとにふつうの背丈の人々が現れました。
王子の背丈がまた低くなりました。
島に到着したときは、王子の背丈はふつうの人と同じくらいになりました。
お兄さま、妹の露です
たしかに妹に似てるね
王子と家来たち八人は2隻の船に乗り、露姫たちは小さな舟に乗って、王国に向かいました。
とうてつ魚はまだ静かに浮かんでいました。
そのとき、彼方に見える王国の海岸に騎馬団が押し寄せてきました。
王子たちが上陸すると、将校が来て、氷砂王子が即位したことと、露姫を殺害するように命令を受けたことを述べました。
深水王子は、答えました。
露姫は正当な王位継承者である。氷砂王子は国王を殺した逆賊である。
わたしは、氷砂と対決して決着をつける。
王宮の大広間では、戴冠した氷砂王子が臣下たちと盛大な酒宴を開いていました。
とつぜん、深水王子の騎兵隊がまもなく到着するという報告がきて、臣下たちはおびえましたが、氷砂王子は針孔を呼びました。
針孔絵師が音もなく現れ、王子は、深水の姿を見たらすぐ絵に描けと命じました。
しばらくして針孔がもどりました。
わがきみ、わたしは深水を描くことはできませんでした。
深水王子はわたしの画法では描けません。王子は遠近法に従ってないのです。
深水王子は氷砂の前に来ました。
氷砂は思い出しました。父王が病気になったとき、この病気は墓島にいる魚でつくる肝油で治せると、深水王子に言って取りに行かせたのでした。
深水王子は、氷砂に言いました。おまえは許されない罪を犯した。
二人は剣を抜いて闘いました。
深水王子は遠近法に従わないので、間合をとることができず、氷砂は深水王子の剣で胸を貫かれて死にました。
近衛軍は歓喜の声を上げ、深水王子と露姫への忠誠を誓いました。
近衛隊長は針孔を探して王宮の離れの画室に行きました。
画室には針孔の姿はなく、描かれたばかりの針孔の自画像がありました。
近衛隊長は露姫の絵を壁から外して、蝋燭の火で燃やしました。
傘はもう必要ありません。
傘が閉じられると、骨の先につけられた石の玉がぶつかり合う音を最後に、傘は静かになりました。
わたしは兄上に王位をゆずって、あなたと海の果てまで行きましょう。
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送信紀元7年
あの王女さま、chensinに似てる、とaiAAが言った。
児童文学者が発言を求めた。
残念ながら、このメッセージが解読できるとは思いません。
ありうべき解読結果の可能性が大きすぎて、どれが正しいのか確定できません。
ただ、おとぎ話として、これはたいへんすばらしい作品です。
人物を絵に描くというモチーフ
とうてつ魚がなんのメタファーか
hooalsingenmoskenとは
三つの物語に意味のある戦略的情報がほんとうに含まれているのか
IDCの情報解読が膠着状態に陥ったことで、世間の人々は奇跡に対する幻想を捨て、現段階で利用可能な技術を使って地球文明を保存する道を探り始めた。
人類は、太陽が暗黒森林攻撃を受けた場合に訪れる災厄について正確な数理モデルを構築することができた。
地球人類は恒星が破壊されるプロセスをつぶさに観測する機会を得て、この研究成果は掩体計画の誕生に直結した。
いまや、掩体計画はyuntienminメッセージにかわって、国際社会から注目を集めることになった。
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掩体計画ーー地球文明の方舟
Ⅰ 太陽系に対する暗黒森林攻撃発生時期の予測
楽観的予測では、100～150年後。
一般的予測では、50～80年後。
悲観的予測では、10～30年後。
Ⅱ 救出する必要のある人口
現在の人口減少率で計算すると、70年後には6～8億人程度。
Ⅲ 暗黒森林攻撃に対する包括的予測
もしphotoidが太陽に衝突した場合、火星軌道より内側にある地球型惑星はすべて破壊される。
太陽からの距離が比較的遠い木星型惑星は、攻撃を生き延びられる。
木星表面には大きな擾乱が起こるが、全体的な構造は維持される。
土星、天王星、海王星は、惑星表面に擾乱は起こるが、惑星構造は維持される。
Ⅳ 過去に放棄された人類生存計画
１ 恒星間脱出計画
技術的に不可能。恒星間脱出用の方舟群に乗ることのできる人間の数は総人口の1000分の1にも満たない。
２ 長距離避難計画
実現可能性が非常に低い。
安全な距離とは、太陽から60天文単位、すなわちカイパーベルト以遠となる。
その宙域は資源に乏しく、宇宙都市を建設する材料の調達が困難。
Ⅴ 掩体計画
木星、土星、天王星、海王星を掩体として、太陽爆発の影響を回避する。
四つの惑星の近傍に、全人類を収容できる宇宙都市を建設し、太陽の周りを公転する。
太陽から見てつねに惑星の裏側にとどまる。
1500万人を収容できる宇宙都市を50か所建設する。
木星の裏側に20、土星の裏側に20、海王星の裏側に6、天皇制の裏側に4。
建設のための資材は、4惑星の衛星および土星と海王星の環から採掘する。
Ⅵ 掩体計画における技術的問題点
宇宙都市は巨大ガス惑星の衛星とならないので、惑星に落下する危険性がある。このため、惑星の重力と相殺するように推進装置を取り付ける必要がある。
Ⅶ 暗黒森林攻撃後の地球人類の太陽系における生存
宇宙都市は核融合エネルギーによって生存することになる。
太陽爆発によって形成された星間物質には、核融合の燃料となる資源が無尽蔵に含まれ、容易に採取できる。
木星の衛星エウロパは、深さ160キロメートルにおよぶ海に覆われており、豊富な水資源を含み、貯水量は地球の海の全体よりも多い。
Ⅷ 掩体計画の地球インターナショナルへの影響
第二次大峡谷時代を招く不安が広がっているため、掩体計画を完全に地球外プロジェクトとする。
必要とされる資源はすべて地球外から調達する。
Ⅸ 掩体計画の概略的な進捗計画
木星と土星における資源開発のための工業生産システムを20年かけて構築し、60年かけて宇宙都市建設を進める。
Ⅹ 第二次暗黒森林攻撃の可能性
第一次攻撃の結果を見て、遠方の観測者たちは、太陽系文明がすでに破壊されたと思うだろう。
第二次暗黒森林攻撃の可能性はゼロに近いと推定される。
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送信紀元7年
yuntienminのおとぎ話
yuntiemninメッセージの解読に関して、思いがけない突破口が見つかった。
ある日、aiAAがchensinを訪れて、石鹸が一つほしい、と言った。
あのお姫さまみたいに、泡のお風呂に入りたい
いまの時代は超音波洗浄か、ナノロボットのボディークリーナーで洗うので、石鹸はない。
二人は博物館に行った。
純白の石鹸が展示されていたが、貴重な文化財で売り物ではないといい、小さな日用品工場を買えるくらいの値段をふっかけてきた。
二人はその化粧石鹸を購入し、帰ってからaiAAは浴室にお湯をみたして、これで舟を折れる？とchensinに訊いた。
一枚の紙で舟を折れるかというのだ。
chensinは小さな屋根つき舟を折ってaiAAに渡すと、彼女は石鹸の角を剃刀でちょっとだけ切り落として、舟の尾部に小さな穴をあけて石鹸のかけらを差し込んだ。
紙の舟は浴槽のヘリからヘリまで進みはじめた。
石鹸が水の中で溶けると、舟の後方の水面の表面張力が低下し、舟の前方の表面張力は変わらないので、舟は前方の表面張力にひっぱられて前進する。
chensinの頭の中に稲妻がひらめいた。
浴槽の静かな平らな平面が漆黒の宇宙空間に変わり、白い小さな舟は果てしない海を光速で進みはじめた。
そのとき、別の考えがchensinの脳裏に浮かんだ。
折り紙の舟からむりやり目をそらし、できるだけ無関心な興味のないそぶりを見せようとした。
危険だ。
いまはもう太陽系内にsophonはいないと信じてはいたが、それでも慎重な行動をした方がいい。
あなたと遊んでるひまはないの、と言ってchensinは浴室を出た。
aiAAが追いかけてきて、とめどなくおしゃべりをした。
もし黙ってしまったら、その沈黙によって心に隠された喜びが消えてしまいそうだった。
曲率・・・
そう、曲率推進！
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空間歪曲駆動
to be continued 22:15 2024/07/02
2024.7.1 3巻下
目次へ
情報解読委員会IDCの第一回会議は、狭いsophon遮蔽室で行われ、30人以上の出席者がいた。
一般に公開されているのは、tienminとchensinの対話だけであり、おとぎ話については秘匿されていた。
tienminは三体世界に入り込んだ唯一の地球人であり、地球文明にとって何物にも代えがたい重要性があった。
chensinが議長に発言を求めた。
今回得られた成果は、階梯計画の最終的な産物です。
このプロジェクトは3世紀前のひとりの人間と切り離して考えることはできません。
その人物は惑星防衛理事会戦略情報局FIA長官だったThomsonWadeです。
わたしは彼に対して敬意を表するべきだと思います。
出席している人々は意外な発言に心の中で身震いした。
三つの物語の作者がchensinだとすることで、それらの物語が無害だという説得力があったと考えられる。
この物語の中に人類文明を救うヒントが隠されているかもしれない。
遮蔽室の外に持ち出すことは厳禁され、全員が真剣に物語の文章を読み始めた。
tienminが言った、会う場所を地球以外の場所、銀河系のどこかでという言葉は、自分が太陽系に戻ることは不可能であることなどを意味していると思われる。
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yuntienminの第一の物語
王宮の新しい絵師
むかしあるところに、物語のない王国がありました。
王国には、賢明な王さま、善良なお妃さま、誠実で有能な大臣たち、勤勉で正直な民がいました。
毎日、毎年、同じ日と同じ年がくりかえされていました。
王さまには、深水王子と氷砂王子と露姫がいました。
深水王子は子どものころ、とうてつの海にある墓島に行って、二度と戻ってきませんでした。
氷砂王子は、頭はよかったのですが、幼いころから暴力をふるい、暴君のような性格でした。おつきの者たちに小動物をたくさん集めさせて、奴隷扱いにしました。
遊びが終わる頃は、たいてい小動物は皆殺しになりました。
王さまは氷砂王子から王位継承権をとりあげて、露姫に王位を継がせることにしました。
露姫は聡明で美
しく、民は露姫が女王となる日を待ち望んでいました。
ただ、氷砂王子の目つきは暗くなりました。
王さまは60歳の誕生日を迎えた日、王位の継承を正式に発表しました。
だれもが幸せな喜びに浸りました。
氷砂王子は、露姫はたしかに自分よりも王位にふさわしいと、妹を祝福しました。
王さまは王子の頭をなで、おまえのそのような姿を見て嬉しくおもうと言いました。
ひとりの大臣が王様に、祝宴の様子を大きな絵に描かせてはと、提案しました。
王宮の絵師は年老いた、もはやよい絵はかけまい、と王さまは言った。
氷砂王子が、父上、わたしに新しい絵師を紹介させてくださいと言った。
紹介された絵師は14、5歳くらいの少年だった。
名を針孔絵師と言った。
王さまはこんなに若くて大丈夫かと言ったが、少年の鋭い目を見て驚いた。
絵師は王妃と王女と大臣たちを一瞬だけ見て、言った。
わたくしはみなさまの姿、才能、知恵を心の中に描き終わりました。それを絵に薄しましょう。
ひとりひとりの頭と体の毛の一本一本まで、瓜二つに描くことができます。
翌朝、二頭の馬が王宮を出ました。馬には氷孔王子と針孔が乗っていました。
二人は王宮から数理離れた地下砦にやってきました。
まるで眠れる巨大な冷血動物の腹の中のようでした。
針孔は帆布の袋の中から長い巻物をとりだし、床にひろげました。
それは一枚の大きな絵で、ひとりの老人の肖像が描かれていました。
こちらがわが師、空霊大絵師でございます、わがきみ。
針孔はその絵を壁にかけました。
これで殿下のために新しい絵を描くことができます。
針孔は薄暗い片隅から雪のように白い巻物を抱えてきました。
それを黒曜石の石板の上に広げて、針孔は描きはじめました。
この筆と絵具はhooalsingenmoskenでつくられたものです。
針孔は絵筆をとってさまざまな色を使い分けながら描き、絵は徐々に色で埋め尽くされて行きました。
絵の中の王は宴で見たときと同じ服装で金色の王冠を戴いています。
でもその表情には夢からさめたような困惑と悲哀の表情がありました。
宮殿では国王が寝室から姿を消しました。
次に針孔は王妃を描きました。
王さまのときと同じように宴で見たときと同じ服装でした。
宮殿では王妃が寝室から姿を消しました。
次は王女さまを描きましょうか
いや、先に大臣たちを描け。国王に忠実な大臣たちだけを描け。
針孔は大臣たちを描きました。
大臣たちは宴で見たときと同じ服装でした。
ひとり描き終わるたびに、宮殿ではひとり姿が消えていきました。
露姫は夢の途中、あわただしく寝室の扉をたたく音に驚いて目を覚ましました。
同じ部屋に寝ていた乳母の寛おばあさんが扉を開けたところでした。
扉を開けたのは近衛隊長でした。
王女殿下、姫さまにお目にかかりたいと申す者が来ております！
うしろに白髪頭と白ひげの老人が立っていました。
この老人は、針孔が描いた老人でした。
老人は骨が折れてる奇妙な傘をくるくる回しつづけていました。
こうしていないとわたしも国王陛下や王妃陛下のように消えてしまうのです。
わたしは絵師の空霊です。針孔はわたしの弟子でございました。
やつは悪魔の画法を習得して、人を絵の中に描き込んでしまうのです。
針孔はどこにいようとも、王宮にいる人間を絵に描くことで殺せるのです。
氷砂王子は針孔絵師を使っ王位を奪おうとしているのです。
針孔を除くことができるのはわたしだけです。
針孔はすでにわたしを絵の中に描きこんでいますが、この傘のおかげで消えることを免れています。
わたしが針孔を絵に描けば、やつは消えてしまいます。
寛おばあさんは空霊絵師が持ってきた帆布の袋を開けて、白く光る巻物をほどいて広げましたが、黒曜石でできた石版の上に広げないと平らに伸ばすことができないのです。
寛おばあさんが思いつきました。あたしがもっているアイロンは黒曜石でできてるよ。
空霊絵師はアイロンを使いましたがなかなか紙は広く広がりません。
寛おばあさんと近衛隊長は針孔に見られてないですね。お二人は王女様のお供をして、とうてつの海の深水王子を探してください。
深水王子はこの世でただ一人、針孔が描くことができない人なのです。
あなたがたはかならず深水王子を王宮に連れ帰り、針孔を殺さなければなりません。
そして王女さまの肖像画を見つけて燃やすのです。そうすれば露姫は安全になります。
もし、父と母の絵を見つけることができたら、、
国王陛下と王妃殿下はもういなくなってしまいました。もしその絵を見つけたら、燃やさずに残して祀るのです。
露姫は泣き出しました。
王女様、いまは泣いている場合ではありません。急いで出発なさることです！
空霊絵師は、寛おばあさんからくるくる回してる傘をとって近衛隊長に渡し、露姫さまにくるくるまわしながらさしかけるようにといいました。
この傘はひとりしか守れないのです。
空霊絵師の体はだんだん透明になって消えていきました。
四半時後、夜明けとともに1台の馬車が搦め手門を通って王宮を出ていきました。
近衛隊長が馬を御し、寛おばあさんが露姫に傘をさしかけていました。
このとき、針孔は露姫の絵を描き上げたところでした。
いままで描いた中でもっとも美しい肖像画だと言いました。
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yuntienminの第二の物語
とうてつの海
to be continued 21:45 2024/07/01
2024.7.1
目次へ
tienminが言った。
この世界に子ども時代をプレゼントしようと思って、むかし、ぼくらがつくった物語を語ることにした。
こっちの子たちはみんなとても喜んでくれた。
地球のおとぎ話という短編集まで出して、すごい人気だったよ。
みんなきみの名前で出したから、きみはこっちじゃ人気作家だよ。
（三体人について地球人が知っている知識はいまもまだごくわずかだ。
三体人の男女は体を融合して結婚する。
融合した体は三つから五つの幼体に分離し、これが彼らの子たちにあたる。
これらの幼体は両親の記憶を部分的に受け継ぎ、生まれたときから比較的成熟してい るので地球人のような子ども時代を持たない。）
きみがつくったあの物語の話をしようか。
tienminは三つの物語、王宮の新しい絵師、とうてつの海、深水王子をつづけざまに語った。
****************
とうてつ：
とう：号と虎を冠にして食、むさぼる
てつ：むさぼる
****************
話し終わると、あと1分しか時間が残されていなかった。
おとぎ話の夢から覚めたchensinは思わず、口に出した。
宇宙は大きい。でも、生命はもっと大きい。縁があればこの先きっとまた会えるでしょう。
自分がtomokoの言葉をくりかえしていたことに気づいた。
じゃあ、会う場所を決めよう。
あなたが贈ってくれた星にしましょう
じゃあ僕たちの星で！
会談は終わり、球状の表面の映像が消えた。
chensinの乗った小型艇は帰路につき、ターミナルステーションのポートに着いた。
sophon遮蔽室の中で、chensinは会談の内容をすべて話した。
人類はsophonを遮蔽する技術を獲得していた。
同じころ、地球上ではtomokoの家が炎上していた。
tomokoのアバターとなっていたアンドロイドも焼却された。
焼却される前、tomokoは全世界に向けて、太陽系内のsophonはすべて撤退すると宣言していた。
人々はtomokoの言葉に半信半疑だった。
もし、真実であれば、二つの文明は二度と出会うことはないだろう。
しかし、どちらの世界にも未来があるかはわからない。
to be continued to the last story 11:40 2024/07/01
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2024.6.29
目次へ
茶の湯会談
luojiiがtomokoに、質問してもいいかな、と言った。
少々お待ちください、とじっと動かなくなった。
2分ほどして
luojiiさま、ひとつだけでしたら質問をお受けします。
わたしの反応は、肯定するか、否定するか、わからないと答えるだけです。
わたしの答えはかならず真実です。
遠距離からの観測によって、三体世界が危険だというしるしが見えたのだとすれば、逆のしるしをみせることは可能だろうか。
つまり、ある文明が、自分たちは無害で、だれに対しても脅威にならないということを全宇宙に示し、それによって暗黒森林攻撃を回避することはできるのか。
そのような安全通知を地球文明が送信することは可能なのか。
tomokoはluojiiの目をまっすぐ見て答えた。
はい。
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茶の湯会談の内容が公表されたあと、いかにして全宇宙に安全通知を送信するかについてだれもが考えはじめた。
すべての提案は宣言派と自傷派に分類された。
宣言派：地球文明は安全であるというメッセージを、この冷酷な宇宙で信じてもらえるのか。
自傷派：地球文明は他の文明にとって脅威となる潜在的な可能性をみずから切り捨てなければならない。人類の低知能宣言に等しい。
攻撃者は目標を近距離から観察する手間をかけない。
大多数の文明にとって、人類の太陽系は特徴のない星系に過ぎない。
安全通知は全宇宙に向けて送信するメッセージであり、すべての受信者にその内容を信じてもらえるようにしなければならない。
tomokoはなぜ、そうした安全通知を送信する方法を教えてくれなかったのか。
三体艦隊が地球から遠ざかっていくにつれ、二つの文明の関係も細くはかないものになる。
根本的な原因は三体世界にある。彼らが先に太陽系への侵略を企て、地球人類の滅亡をはかり、ほとんど成功しかけていた。
地球人類は、彼らの生き残りを追跡し、地球が暗黒森林攻撃によって滅亡する前に復讐を果たすかもしれない。
しかし、地球が無害であるという通知を全宇宙に送信できれば、地球は三体文明にとっても安全になる。
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送信紀元7年
ヨーロッパのあるNGOが、太陽の増幅能力を利用したアンテナを建造して、自分たちで考案した安全通知を送信しようとした。
さいわい、実行に移す前に警察が踏み込んで中止させた。
もし、彼らが成功していれば、地球の座標が知らされてしまう深刻な危険性があった。
偏在する死の恐怖と死後生の誘惑により、宗教がふたたび社会生活の中心となった。
人類は過去70年の間に、二度も滅亡の危機に瀕しながら、奇跡的に生き延びることができた。
暗黒森林抑止の成立と、Gravityから全宇宙に向けた重力波送信の実行。
これには多くの共通点がある。
ごく少数の個人の行動によってなされたこと。
2隻の宇宙戦艦と”水滴”が偶然、同時に四次元のかけらに入ったことにより、”水滴”を破壊できたこと。
二度の危機に際して、信者たちが祈祷集会を催したこと。
これらが神の救いにつながったと信じられるようになった。
かくして地球は、巨大な祈りの惑星となった。
地球低軌道に国際的な宇宙協会が建設された。
長さ40キロメートルと20キロメートルの長短2本の直方体が十字に交差し、まばゆい光を放っている。
三体人に対する人類のイメージは、邪悪な侵略者から同情すべき犠牲者に変わり、さらに、安全通知を送信する方法を知っている三体人こそ神に遣わされた救済の天使だと信じられるようになった。
深宇宙へ消えたBlueSpaceに対して、人類社会は救済の天使から、悪魔の宇宙戦艦に戻った。
Gravityをハイジャックし、三体世界を滅亡させた罪深いサタンになった。
tomokoの信者たちは、BlueSpaceとGravityを破壊してくれと嘆願したが、tomokoは反応しなかった。
同時に、chensinのイメージも変化し、ふたたび偉大な女性になった。
彼女の人類に対する愛と、その愛の深さがもたらした痛みにより失明した悲劇の聖女、、新時代の聖母マリアになった。
chensinにとって、人生はずっと重荷だった。
永遠に姿を消すことが果たすべき最後の仕事だった。
ひとつだけカプセルが残っている瓶をとりだした。これは、生命維持システムで生命維持しているかぎり、服用して人工冬眠できる薬だ。
カプセルを手にしたとき、flesから電話が来た。
子どもよ、世の中はもっとよくなるよ
flesはそう言って電話を切った。
また、電話が鳴った。tomokoからだった。
あした、chensinとluojiiをお茶に招待するという。
この誘いを断るわけにはいかない。
カプセルを瓶にもどした。
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翌朝、chensinとluojiiはtomokoの空中の住まいを訪れた。
数百メートル下に、数えきれないほどの人々が集まっている。
tomokoは昨夜、自分が去ることを告げていた。
わたしは出発します。どうかお二人とも体に気をつけて。
縁があればこの先、きっとまた会えるでしょう。
お別れの前に最後の使命を果たします。伝言です。
yuntienminがあなたに会いたいそうです
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yuntienminの脳を運んでいた小型探査機は、光帆をつないでいるケーブルの一本が木星軌道付近で断裂して、予定された針路をはずれた。
探査機の発進後、sophonが追尾していたのではないか。
探査機を拿捕したのは三体第一艦隊所属の宇宙船だろう。
現在、この艦隊の大部分はシリウス方向へ進んでいる。
彼の大脳が生かされているのか、クローンで作られた体に移植されているかもわからない。
yuntienminは人類の利益のために働いてくれるだろうか。
yuntienminに関するニュースがおおやけになったとき、人々の最初の反応は次のようだった。
わたしたちの祈りは聞き届けられた。救済の天使がとうとう現れた。
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送信紀元7年
chensinは軌道エレベーターのキャビンの窓から外を見ていた。
出発して1時間、海面からの距離はすでに1000キロメートルを超えた。
終着駅はまだ3万キロメートル先にある。
いつのまにか眠りに落ちて、気がつくと二段ベッドの下の段に横たわっていた。
ターミナルはいくつもの同心円状の建造物からなり、それぞれ5本のスポークで連結されている。外側のリングほど新しい。
chensinと随行員は小さな宇宙艇にやってきた。
PDCと艦隊インターナショナルの合同チームが待っていた。
三日前、tomokoは会合の基本原則について、地球側に連絡してきた。
yuntienminとchensinの二人だけで行われる。
会話の内容は両者にかかわることだけに限定する。
三体世界のいかなるテクノロジー、政治、軍事についての話題はできない。
第三者の立ち合いも、記録も認めない。
会談場所は、地球から150万キロメートル離れたラグランジュ点。
会談はsophonが中継する映像と音声のリアルタイム通信によって行われる。
参謀総長がchensinに言った。
君たちの話は三体人に監視される。もし、知るべきでない情報が与えられたと彼らが判断したときは、赤いライトが点灯して3秒後に背後の天秤の錘のような物体が爆発する。
話の内容は二人の間のプライベートな話題に限ってくれ。
5時間後、chensinの乗った小型艇は出発した。
ラグランジュ点に到着したとき、目の前にとつぜんひとつの球が現れた。
球面に小麦畑が見えた。
麦畑の向うから歩いてきたのは、yuntienminだった。
3世紀前に別れたときと同じくらいの年齢に見えた。そのころよりもずっと健康的な体つきで、すこし日焼けしていた。
chensinに向かって微笑み、手を振った。
やあ、chensin！
ひさしぶり
わたしが見える？
うん
なにをしてるの？
麦を育ててる
自分のために？
もちろん。でなきゃなにを食べればいい？
種を送ってくれてありがとう
ぜんぶ植えて元気に育ったよ。キュウリはうまく育たなかったけど
宇宙船の中に土があるなんて思わなかった
これは隕石でできているんだよ、こういう土が、・・
緑が消えて黄色のライトが点灯した。
yuntienminが話の途中で口をつぐんだ。
もうどのくらい経つかしら
長い時間だ
麦は順調に育ってるみたいね
うん、今年は作柄がいい、エンジンの出力が高いと良くなる。でも出力が、・・
黄色のライトが点灯した。
わたしがいままでなにをしてきたか知りたい？
ぜんぶ知ってるよ。ぼくはいつもきみといっしょだったんだから
sophonを通じてリアルタイムで観察されていた。
じゃあ、あなたの経験は？ なにか話してくれない？
そうだね、ちょっと考えさせてくれ
黄色のライトが点灯した。
ないよ、きみに言えることはなにもない、ほんとうになにもないんだ
chensin、小さいころ、いっしょになにをして過ごしたか覚えてる？
思いがけない質問にとっさに反応できなかった。
首を振った。
to be continued 22:54 2024/06/29
2024.6.28
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pakyigun少佐はGravityの中尉の軍服を着ていた。
Hunterの銃弾は彼の胸に命中し、その衝撃で少佐は背後のドアまで飛ばされた。
駆けつけてきた艦長たちが見た光景は次のとおりだった。
Hunterの銃は遠くに浮かび、彼の身体は硬直して口から噴水のように血を噴きだし、こぶしほどの赤黒いものが脈打って浮遊していた。
Hunterの心臓だった？！
pakyigun少佐が言った。
彼ら(？)は木の枝からリンゴをもぐように、きみたちの心臓や脳をつかみだせる。
すぐに手術すれば彼の命は助かる、心臓を戻すのに開胸する必要はない。
BlueSpaceは魔法を操る超自然の軍艦に変貌した。
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BlueSpaceの球形ホールの中央に、1400名あまりの人々が浮かんでいた。
そのうち1200名以上がBlueSpaceの兵士だった。
60数年前にも、BlueSpaceの兵士たちはjanpeihaiの指揮を受けていた。
いまも彼らはおおむね3歳から5歳くらい年齢を重ねただけだった。
残りの百数十名の兵士はGravityの乗員だった。
BlueSpaceの艦長chuuyen大佐が言った。
われわれのあいだの溝はまだ大きいが、同じ一つの世界に属していると考えたい。
まず喫緊の問題を処理する。
空中に巨大なホログラフィック・ウィンドウが出現し、恒星がまばらな宙域を映し出した。
その中に数百本の白い直線が刷毛のように平行に並んでいる。
これは三体星系近くの星間雲に残る航跡で、8日前に観測した。
この船団は光速に近いスピードで移動していて、4年後には太陽系に到達するだろう。
Gravityが出航したのち、地球世界は宇宙全体の平和と繁栄という夢に溺れ、状況判断を誤った。
三体世界は辛抱強くチャンスを待ち、そしていま、それをつかんだ。
この事件が起きたのは今から5時間前、”水滴”がわれわれ2隻に攻撃をかけてきたときだ。Gravityから得た情報によると、地球にいる二人の執剣者のあいだで権限の委譲が行われた時だ。
これこそ三体世界が半世紀もの間、待ち続けていたチャンスだった。
2機の”水滴”は、sophonがブラインドゾーンに入る前に三体世界から指令を受けていたのはまちがいない。
暗黒森林抑止による平和はすでに破られたと結論せざるを得ない。
重力波宇宙送信がすでに実行されたか、それともされていないか
われわれは実行されていないと考える。
地球の人類は暗黒森林抑止を維持する能力を失った。
つい先ほど知った事実によれば、重力波アンテナを形成する物質がまもなく半減期を迎えるため、重力波送信能力はあち2か月しかもたない。
いまや残された選択肢は、ただちに重力波宇宙送信を行うことだ。
GravityのMorovicci艦長が訊ねた。
世界絶滅罪を犯すつもりか？
chuuyen艦長はMorovicci艦長を相手にせず、クルーに向かって言った。
われわれにとって、重力波送信システムの起動にはなんの意味もない。
地球世界も、三体世界もわれわれには追いつけない。
だったら、あなたのやることは三体世界に対する報復じゃないか！、Gravityの士官が言った。
三体世界に対する報復はわれわれの正当な権利だ。彼らはすでに犯した罪について責任を取らねばならない。これは戦争だ。敵を滅ぼすことは正しく、当然の行為だ。
人類絶滅のプロセスはもう始まっている可能性がきわめて高い。
全宇宙に対する重力波送信は、地球に残された最後のチャンスだ。
太陽系の座標が全宇宙に知れわたってしまえば、地球を占領する価値はなくなる。
その結果、三体艦隊は二度と太陽系を目標とすることはない。
地球に時間を与えるため、三体星系の座標だけを送信する。
われわれは2隻あわせて一つの世界だ。
いま、重力波送信によって三体星系の座標を全宇宙に送信することに賛同する人はホログラフィックの赤ボタンを押してくれ。
総員1415名の3分の2の944票になったら、ただちに重力波送信を開始する。
944番目のボタンに手を置いた乗員の手の上に後ろの者の手がつぎつぎと置かれ、Morovicci艦長の手が置かれて、ボタンは押された。
重力波送信器が起動した。
その場にいたすべての人間が強い振動を感じた。わずか12秒間だった。
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抑止紀元終了後、第2年
大移住完了の翌朝
chensinは人々の歓喜の声を聞いた。
BlueSpaceとGravityという言葉が何度もくりかえされている。
だれかが呼びかけてきた。
市長から、あなたを連れ戻すようにことづかってきました。
みんな自分の家に帰るんです。
オーストラリアを離れて、もといた場所に帰るんです。
Gravityが全宇宙に向けて重力波送信を実行したんです。
三体人はすでに逃げ始めています。第二艦隊は方向転換し、太陽系を離れはじめました。”水滴”もすべて太陽系から去りました。
tomokoの説明によれば、太陽系も三体星系と同じく、死の星系になったからです。
三体世界が重力波送信を受信したのは1年前に送信されたものです。つまり、森林抑止が崩壊した時点です。
喜んでいいはずですよ、あなたのやるべき仕事を彼らがかわりにやってくれたんですから
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抑止紀元終了後、第1日～第5日
chuuyenとmorovicciとguanyifanはBlueSpaceの長い通路を移動していた。
前方の隔壁に直径1メートルほどの丸い穴がひとつ空いていた。
chuuyenがその穴に入った。あっという間にchuuyenは消えた。
ふいにその空間から両手が伸びてきて、morovicciとguanyifanの手をつかんでふたりを4次元空間にひっぱりこんだ。
二人の眼前にBlueSpaceが巨大な絵のように展開した。宇宙船のすべてが細部に至るまで見える。お互いに体の内部構造が細部まで見えている。
また、あらゆる方向に星々を見ることができた。
天の川銀河のまばゆい輝きが見える。
そろそろ戻ろう、とcheeyenが言った。
歪曲ポイントが安定しているのは一定時間だけで、やがて移動するか、消失する。
新たな歪曲ポイントを探すには、4次元空間を移動する必要がある。
あなたがたのような初心者(!？)には危険な行為だ。
guanyifanが言った。
ぼくらの三次元空間は、さしわたし160億光年のおおきな紙だ。
この紙の上のある場所に、ごく小さな四次元のシャボン玉がくっついている。
chuuyenが言った。
BlueSpaceはもっと早くから、四次元の秘密を解明することができた。
ただ、Gravityの後部3分の1がまるごと四次元空間に入り込み、そのまま数分間続いたことが確認されたが、この異常はだれも気づかなかった。
われわれは四次元空間から”水滴”を攻撃した。強い相互作用探査機がどれほど強大であっても、四次元から見ると広げられた一枚の絵に過ぎない。われわれは四次元空間から接近し、完全に開かれた状態の”水滴”の内部メカニズムを、でたらめに破壊した。
どうすれば四次元のかけらを三次元宇宙に出現させられるんだろう
その謎を解くのはguanyifan博士、あなたの仕事ですよ
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望遠鏡を歪曲ポイントから四次元空間に送り、周囲の空間を観測すると、衝撃的な発見がなされた。
ドーナツ型の物体が見つかった。直径が80キロメートルから100キロメートルほど。切り口の円の直径はおよそ20キロメートル。
このリングの表面には電子回路のような複雑なパターンが見分けられた。
リングは知的生命体によってつくられたものと考えられた。
このマジックリングは密閉されている。
四次元空間ではじめて見た四次元の実体だった。
to be continued 14:46 2024/06/28
リングはゆっくり回転していた。
さらに観測すると、正体不明の物体が多数発見された。
ピラミッド形、十字形、多面体構造など。
その後、2隻の戦艦では流星塵の衝突事故が一日に6回起きた。
BlueSpaceでは核融合炉コアの磁気浮上制御ユニットに直径140ナノメートルの流星塵がぶつかり、完全に破壊された。
さいわい、予備のユニットが即座に投入して原子炉を停止させることができた。
四次元のかけらの内部深くに進入するにつれて、流星塵の密度が明らかに増えてきた。
四次元のかけらは太陽系から離れつつあり、2隻の針路と同じ進行方向を維持している。
いまならまだ、かけらの奥深くまで入り込んでいるわけではないので、減速すれば離脱できる。
協議した結果、探検隊を編成することになり、guanyifan、juowen大尉、west医師の三名が指名された。
宇宙艇は2隻の戦艦のあいだにある歪曲ポイントから四次元空間に入った。
リングはかすかに見える点だったが、とつぜんコインサイズの輪になり、2時間後、巨大な構造物になった。
リングの表面は暗褐色に輝いている。
juowenは中波の電波で素数を表すビット配列を送った。
すぐに反応があった！
宇宙艇の情報ウィンドウに素数が表示された。
ロゼッタシステムを送ってみた。
これは地球の言語を三体人に教えるために開発されたデータベースで、地球の自然史や人類史に関する200万字相当の文字資料のほか、大量の動画や静止画が収録されている。
64個のドットが送られてきてカウントダウンが始まった。
ゼロになったとき、メッセージが現れた。
我是墓地
誰の墓ですか？
かつては宇宙船だったが、いまは墓となった。
あなたはだれですか？
わたしは墓だ。わたしは死んでいる。
あなたは遠くから来たのですか？
わたしは遠くから来た。
あなたにとっては、もしくはあなたの創造者にとっては、この四次元空間はわたしたちにとっての海のようなものですか？
海は干上がり、潮だまりのようなものだ。
海を干上がらせた魚は、陸に上がり、別の暗黒森林に移動した。
すぐにこの潮だまりを離れろ
2時間後、宇宙艇はBlueSpaceに戻った。
BlueSpaceとGravityは四次元のかけらから撤退する方向に加速した。
加速を始めてから5日目、四次元にいた人たち全員が、歪曲ポイントを経由することなく、一瞬にして三次元に戻った。
どちらの艦内にも歪曲ポイントはなかった。
2隻とも四次元のかけらの外にいる。
加速を停止し、最大出力で減速しはじめ、四次元のかけらの境界近くに安全な距離を置いて相対的に静止した。
ほどなく、前方の宇宙空間にときおり、光り輝く長い線がみえるようになった。
長さは5000キロメートルから3万キロメートのあいだ。
四次元のかけらの境界線と思われた。
観測の結果、三次元空間に入ってきた四次元物質によって生じたものという結論に達した。
四次元のかけらの後退速度から計算すると、あと20日間で魔法の指輪が三次元宇宙に落ちてくる。
過去3世紀のあいだに発展した理論によれば、マクロ形態で存在する高次元は、不可避的に低次元へと崩壊するが、失われた次元はマクロからミクロに収縮し、量子レベルで折り畳まれた七つの微小次元のうちのひとつになる。
22日後、四次元のかけらの境界がリングを残したままさらに後退した。
置き去りにされたリングが三次元に入ってきた瞬間、まるで神が宇宙という製図版にT型定規をあてて、一本の線を引いたかのようだった。
観測によれば、宇宙を二分割した線の長さは1天文単位に近い。
リング内部のあらゆる四次元構造は一瞬にして完全に破壊された。
リングはごく普通の元素に変化し、大部分は水素とヘリウムだった。
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BlueSpaceとGravityが共同で組織した臨時委員会は、全乗員に対し、二つの選択肢を提示し、好きな方を選んでほしいと発表した。
2隻の戦艦とともに航行を続けるか、または太陽系に帰還するか
200名が太陽系に戻る選択をして、1基の核融合エンジンを装備した冬眠用の方舟で太陽系に向かった。
2隻は四次元のかけらを迂回して新たな目的地に出発した。
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第三部
送信紀元7年
chensinとaiAAがオーストラリアから帰国して6年が経っていた。
chensinの会社はaiAAの経営のもとで急成長し、低軌道建設業界の巨大企業となっていた。
chensinは6年の間、冬眠していた。
幹細胞から網膜を再生して移植し、視力を回復した。
BlueSpaceとGravityは救世宇宙船として崇められ、BlueSpaceの殺人容疑は攻撃されたことによる正当防衛だと断定された。
大移住に際し、最後まで戦った地球抵抗運動の志士は英雄視された。
地球治安軍に対しては、狂気じみた報復がはじまった。将来やってくる三体人のために結果的には都市と基幹設備を無傷で保存し、物資の供給と治安維持を保証して混乱なく移民の帰還が完了したのだが。
治安軍のすべてのメンバーが反人類罪で処刑された。
社会はほどなく落ち着きを取り戻し、人々は生活の再建にとりかかった。
このおだやかな平和は一つの事実に基づいていた。
luojiiによる暗黒森林実験で、187J3X1の恒星座標を全宇宙に向かって送信してから、その星系が破壊されるまでに157年の歳月を要した。
重力波は、luojiiが太陽アンテナを利用して増幅した電波よりも送信能力がはるかに高い。
しかし、人類は自分たちを安心させることのできる効果的な論拠を見つけ出した。
暗黒森林理論そのものの妥当性を疑うことだった。
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送信紀元7年
状況が落ち着くにつれ、世間の興味は重力波送信を離れ、執剣者に対して激しい非難と糾弾の声が上がりはじめた。
たとえば、”水滴”による攻撃が判明した時点で、chensinが重力波送信システムを起動していれば、少なくとも大移住という災厄は避けられたはずだった。
世論の非難の大部分は執剣者が選出されるまでの過程に集中した。
ほとんどの人はchensinもまた犠牲者であるという見方に傾いていた。
chensinの生活を支えたのはflesだった。
老人の声を聞くたびに、外の世界を寄せつけない静寂に守られて暮らしているような気がした。
午前三時過ぎ。flesから電話が来た。切羽詰まった緊張した口調だった。
急いで外へ出て空を見上げてくれ！
夜空にひとつの青い星を見た。
過去三世紀にわたって人々が真っ先に眺める場所だった。
その明るさは急激に増加し、地上に影を落とすほどになって、満月よりも明るくなり、しだいに光度は衰えはじめ、白から赤へと変わり、約30分ほどですっかり消えてしまった。
三体世界の消滅によって暗黒森林理論の正しさは決定的な確証を得た。
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三体世界は、送信紀元が始まって3年と10か月後に破壊された。
重力波送信からこれほど短い時間で攻撃されるとはだれも予想していなかった。
光速に極めて近い小さな物体が、相対論的効果による質量増大で恒星を破壊した。
恒星の爆発は三体惑星も破壊した。
Gravityが重力波送信を開始した時点で、三体星系との距離は約3光年だった。
重力波は光速で伝搬するので、光粒photoidはGravityよりも三体星系に近い場所から、しかもGravityからの重力波メッセージを受信した直後に発進したことになる。
この宙域に他の星系はない。
つまり、photoidはどこかにいた宇宙船から射出されたことになる。
かつては水平線の彼方に見える影でしかなかった死神が、いまわれわれの目の前に現れた。
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送信紀元7年
三世紀近くにわたった三体文明の脅威は消滅したが、もっと冷酷な宇宙がそれにとってかわった。
しかし、世界的パニックは起こらなかった。
三体世界の滅亡から三日経って、とつぜんtomokoからchensinとluojiiが招かれた。
大移住の間、luojiiはレジスタンスと行動を共にし、治安軍と”水滴”は彼を探し出して抹殺しようとしたが、探せなかった。
tomokoは4年前の時点で三体世界の滅亡を知っていた。そして三日前、三体星系の恒星が爆発した光が地球に届いたあと、人類に対し短いスピーチを行った。
現在、彼女をコントロールしているのは、三体艦隊に搭乗している三体人である可能性が高い。
tomokoによれば、三体星系の滅亡の模様は次のようだ。
三体惑星は星系のうちのひとつが0.6天文単位離れて公転する恒紀（安定期）に入ったところだった。
photoidはその恒星に衝突し、光球と対流層に孔を開けた。孔の直径は5万キロメートルに達した。photoidが衝突した個所は三体惑星の黄道面上だった。
屋外にいたすべての生物が数秒で黒焦げになった。
太陽コアが噴出し、直径5万キロメートルの火柱が立ち昇り、1000万度を超えるコア物質の大部分が宇宙空間に飛び出して三体惑星の公転軌道までに達した。
核融合が収束すると外殻はコアに落ち込んで最後の大爆発を起こした。
残った二つの太陽は二重星系を形成した。
どれだけの人が逃げ出せたの？
すでに母星を離れていた三体艦隊も含めても、全人口の千分の一にもなりません。
送信されたメッセージに含まれていたのは、三体星系の座標だけだというので、そこから太陽系の存在を発見するには、三世紀前から双方がやり取りしてきた情報を調べる必要があるから、ある程度時間はかかるでしょう。
遠く離れたところから観測した場合、三体星系は太陽系よりもはるかに危険に見えるということです。
どうして？
その理由はあなたがたには永遠に教えられません。
to be continued 22:41 2024/06/28
2024.6.27
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抑止紀元終了後、第60日
抑止の終了から38日目、小惑星帯の外縁に位置するリンギア・フィッツロイ観測基地が、三体星系近傍の星雲間に415本の新たな航跡を発見した。
三体世界が第二艦隊を派遣した明白な証左だ。
三体文明は早くも5年前の時点で、暗黒森林抑止に対する地球文明の感じ方が変化していることを察知し、第二代執剣者としてどんなタイプの人間が選ばれるか正確に予測していた。
第二艦隊が最初の星間雲を離れた3日後、二つ目の星間雲に415本の新たな航跡を発見した。第一艦隊は5年かかったのに、5日間しか要していない。415本の航跡は秒速30万キロメートルで伸びていた。
三体文明は光速推進を実現していた。
艦隊はいま、巡航速度を光速の15パーセントにまで落としている。
いまから1年後に太陽系に到着すると計算された。
光速推進が生み出すエネルギーは、恒星のエネルギーより2桁大きい。これにより太陽系が破壊されるのを防ぐためと思われた。
三体世界の技術発展はいつから爆発的に加速したのか
原因の一つは、地球文明の影響だ。初代のsophonが地球に到達して以降、人間的な価値のいくつかは三体人の共感を呼び、乱紀という困難に立ち向かうために必要だった全体主義に代わって、思想の自由が奨励された結果、地球のルネサンスに似た変革が起きて科学技術の飛躍的な発展につながったのかもしれない。
もうひとつ考えられるのは、ブラインドゾーンに入る前にsophonは少なくともひとつの文明を発見し、そこから新しい科学技術や暗黒森林状況に関する情報を得たのかもしれない。
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抑止終了後、tomokoが初めて地球上に姿を現し、いまから4年後に三体文明の第二艦隊が太陽系の全面征服を完了すると、全世界に向かって宣言した。
4年後の占領に備えて、人類はすみやかに居留地への移住を始めなければならない。
人類を無害化し、将来ふたたび暗黒森林抑止やそれに類した脅威が生じることを防ぐために、人類は完全な武装解除と、身一つで1年以内に移住しなければならない。
5日後、地球の大気層内を巡航していた5機の”水滴”のうち1機が、北米とヨーロッパとアジアの三つの大都市を攻撃した。
”水滴”は都市の巨木の森を攻撃し、30万人が死亡した。
tomokoはさらに声明を発表した。
三体世界が人類文明を絶滅させる方針を撤回したのは、地球文化に対する愛情と敬意によるものである。
人類がオーストラリアに移住したのち、しばらくは苦難の日がつづくだろうが、三体艦隊が到着すれば、それ以降、快適な生活を送ることができる。
艦隊到着の5年後には、火星と宇宙空間への大規模な移住計画がはじまり、15年ほどで完了すると見積もられ、二つの文明は太陽系で平和裡に共存できるようになる。
だが、それは第一次の移住が順調に実行されることが前提となる。
もしオーストラリアへの移住がただちに行われない場合、”水滴”は都市への攻撃をつづける。
1年の期限を超えて、なおも居留地の外にいる人類は、三体領土への侵入者とみなされ、処刑される。
かくして、すべての人類のオーストラリアへの大移住が始まった。
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抑止紀元終了後、第2年
chensinとaiAAは第一波に交じってオーストラリアにやってきた。
chensinは、陽炎にゆらめくグレート・ヴィクトリア砂漠を見つめていた。
もし、重力波送信を実施していれば、三体人は恐怖に駆られて逃げ出し、人類は少なくともあと数十年幸福な日々を享受できただろう。
もし、送信後ただちに地球が破壊されたとしても、こんな地獄で暮らすよりよっぽどましだ。
他の人間たちは最初は罵るだけだったが、やがて暴力をふるうようになり、配給の食料をを奪われはじめたが、aiAAが必死にchensinを守り、ようやくだれも手を出さなくなった。
ある日、flesという老人がchensinを訪ねてきた。
オーストラリアの先住民であるアボリジニだった。
白人がオーストラリアにやってきたとき、まだ50万人のアボリジニがいたが、ほとんど殺されてわずか3万人が逃げ延びたという。
flesは自分の家に二人を住まわせてくれた。
引っ越してきたばかりのころ、flesはアボリジニの武器タイアハを持って、ハカと呼ばれるマオリの戦士の踊りを見せてくれた。
逃げるな、殺してやる、食ってやるという鋭い視線だった。
躍り終わるとまたいつもの温和な顔にもどった。
マオリの勇者にとって大切なのは、敵の眼をにらみながら、自分の眼で相手をうちまかすこと。それからタイアハで一撃するのさ。
子どもよ、おまえは敵の眼をにらみつけなかった。
だが、それはおまえのせいじゃない。
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翌日、chensinは、自分でもびっくりするような行動をとった。
chensinはwadeに会いに行った。
wadeは殺人未遂事件で懲役30年の刑に処せられていて、現在、オーストラリアのチャールズビルの刑務所に収監されていた。
wadeを一目見て、彼がまだあきらめていないことがわかった。
帰れ、とwadeが言った。
急げ、大移住が完了しないうちに
行け、この建物から出ていけと言ってるんだ
帰る道すがら、密集する仮設住宅のあいだで大勢の群衆が労働していた。
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大移住が始まって三か月が経ち、オーストラリアにやってきた人間は10億人を超え、各国政府もオーストラリアの大都市に移り、国連はシドニーへ移転した。
いまや、ニューヨーク、東京、上海は、仮設住宅で構成された難民キャンプの名前に過ぎなかった。
屋根の下で寝起きできるのは全人口の5分の1に過ぎなかった。
食料も不足し始めた。
世界で起きていることはごく限られたルートでしか知ることができなくなった。
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同時に宇宙への移住も進行していた。
抑止紀元が終了した時点で、宇宙にはおよそ150万人が住んでいた。
地球インターナショナルに50万人、太陽系艦隊に100万人。
艦隊が保持する恒星級戦艦は100隻をわずかに超える程度だった。
核融合推進はすでに技術的な限界にさしかかっていたため、艦船の速度が向上することはなかった。
どの戦艦もtomokoの命令にしたがって、火星軌道に戻った。
火星基地では100万人が快適な生活を送ることができる。
カイパーベルトから帰還した2機の”水滴”は火星都市の上空をたえずパトロールしていた。
火星の人類は重力波送信器の建造にはいっさい手を出さなかった。
宇宙における移民プロセスは3か月で完了した。
月軌道よりも内側にいた50万人は地球に戻ってオーストラリアに移住し、太陽系艦隊の100万人は火星へ移動した。
かくして太陽系内の宇宙空間には人類はいなくなった。
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chensinがテレビを見ていると、2機の物資輸送機が到着して物資を地上に降ろしたとたん、群衆が押し寄せ、食料の山はたちまち消え失せた。
もう1機の輸送機が到着して物資を降ろしたとき、輸送機からtomokoが飛び出し、食料の山の上に立った。
整列！
tomokoが叫んだ。
一瞬、群衆は鎮まったが、すぐまた食料の山によじのぼりはじめた。
このクズどもが！ なぜ命令に従わない！
食料の山によじのぼっていた3人の男の体がtomokoの刀で真っ二つになった。
tomokoは群衆の中にふわりと飛び降り、たちまち数十人の死体の山を築いた。
tomokoから群衆は離れ、鎮まった。
整列！
群衆はたちまち長い行列をつくった。
人類の堕落した自由の時代は終わった。ここで生き延びたいなら、再学習し、種の尊厳をとりもどすがいい！
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移住
始まって半年、世界人口の半分にあたる21億人が移住した。
tomokoは人類に裸移民を要求した。
移民は一切の大型設備を携行できず、各国が移民区に派遣した兵士のみが最小限の武器を携行することが認められた。
オーストラリア政府だけは武装解除を免除された。
移住が開始された当初、オーストラリア政府の行動には非の打ちどころはなかったが、移民が洪水のように流れ込むと、オーストラリア政府の態度が変わった。
オーストラリア人だけが居住できる保護領土が指定され、移民が禁じられた。
内陸の移民区に割り当てられた移住者たちがシドニーに押し寄せてたちまち人口が過密になり、軍と警察は移民たちと衝突した。
1億人以上の移民がニューサウスウェールズに入り、数千万人がシドニーに乗り込み、都市を略奪した。市内は無法地帯となり、生き残った市民の生活環境は移民区以下のレベルになった。
さらに移民の集団は200キロメートル離れたキャンベラに移り、オーストリア軍は発砲を余儀なくされ、50万人以上の死者が出た。死者のほとんどは飢えと渇きによるものだった。
オーストラリア軍は強い抑止力を持つようになり、オーストラリア以外の各国の軍の一般的な武器は建築資材の鉄骨で作った棍棒や、博物館に貯蔵された古代の刀剣さえ再利用されていた。
わずか半年のうちに、人類文明は中世にもどったようになった。
社会が完全に崩壊するのを食い止めていたのは、三体文明第二艦隊の存在だった。
人々は、艦隊の到着が快適で平和な生活をもたらしてくれるのを夢見ていた。
移民が進むにつれ、オーストラリア以外の都市は無人の抜け殻に変わっていった。
移民が始まって9か月目、オーストラリアの人口は34億人に達した。
tomokoは、ニュージーランドおよびオセアニアの島々を移民の一時滞在場所として使うことを認めた。
残りの2ヶ月半で、さらに6億3千万人がそれらの島々を経由してオーストラリアに移ってきた。
最終期限まであと三日に迫ったとき、最後の移民300万人を乗せた船体と飛行機がニュージーランドを出発してオーストラリアに向かい、大移住が完了した。
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この時点で、オーストラリアには人類の大部分にあたる41億6千万人がいた。
ほかに、火星基地に100万人、地球治安軍が500万人、地球抵抗運動のメンバーが200万人いる。
地球治安軍は移住プロセスを監視するためにtomokoが招集した。
移住機関が過ぎて、居留区以外の場所にいるすべての人類を抹消するようにtomokoが命令を下すと、治安軍は見つけ次第射殺した。
地球抵抗運動は山奥や都市の地下に分散して潜伏し、治安軍を相手にゲリラ戦を挑みながら4年後に襲来する侵略艦隊との最後の戦いを待っていた。
メンバー全員が絶望的な戦いだとわかっていた。彼らは人類の最後の尊厳のために戦っていた。
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だれもが緊張した面持ちで東の方を眺めながらなにか議論している。
1時間前、治安軍がオーストラリアに対して、大規模な空爆を開始したことがわかった。
電力網、港、大型の輸送設備が主な標的になっているらしい。
やはり、wadeは正しかった。
chensinは自分にこのときのための準備ができていたことに気づいた。
chensinは自転車で市政府に入り、市長と対面した。
彼の目には、”われわれはなぜおまえを選んだのか”という気持ちが表れていた。
tomokoと連絡を取りたいとchensinは言った。
それは不可能です、と市長は言った。
市政府の大型テントの上に、巨大な情報ウィンドウが出現し、tomokoが映った。
大移住は完了しました。ありがとう！ みなさん全員に感謝します。
これは数万年前、みなさんの祖先がアフリカを出て世界に広がったことに比肩するでしょう。わたしたち二つの文明にとって、新しい時代がはじまったのです！
オーストラリア居留地は外界と完全に切り離されました。オーストラリアを離れようとするものは三体文明の領土に対する侵略者として、容赦なく殺害します。
これから3か月の間、人類居住地は自給自足の農業社会にとどまり、電力をはじめとする現代技術の使用はすべて禁じます。
地球治安軍はいままさに、オーストラリア大陸にあるすべての電力施設を破壊しています。
移民の過程で多くの農業プラントがオーストラリアに移転し、すでに稼働しているものも少なくない。こうしたプラントでは従来の農作物の何十倍も収穫できるが、大量の電力を必要とする。
現在の食料備蓄では、42億人が生きていけるのは一か月だった。
出席者が叫んだ。
食料はどうなる？ どこから手に入れろと？
tomokoは言った。まわりじゅうに生きてる食料があるじゃないですか
三体文明が練り上げてきた人類絶滅計画が最終段階に達していたのだ。
tomokoは続けた。
来たるべき生存競争で、人類の大部分が淘汰されるでしょう。
三か月後に三体艦隊が到着したとき、この大陸には3千万人ないし5千万人しか残っていないはずです。
最終的な勝利者は自由で文明的な生活を送ることができます。
地球文明のともしびは消えることなく、小さくなって灯りつづけます、お墓みたいに。
いつからか人類は自分たちに生きる資格があるという幻想をもっていた。
これからはみなさんは生存のために戦うことになります。最後に残る5千万人に含まれることを祈ってます。
群衆の間からかん高い悲鳴が上がった。
chensinは自分が倒れたことに気づいてなかった。立ち上がって目を開いたが見えなかった。視力を失っていた。
だれかが自分を呼んでいた。
chen博士ですか？
治安軍特殊部隊の隊長です。tomokoの命令であなたをオーストラリアから連れ出すために派遣されました。
tomokoと話せる？
携帯電話が渡された。
助けてほしい人が二人いる。aiAAとfles。
tomokoはaiAAのほかにfles老人を知っていた。
その二人をオーストラリアから連れ出して自由に暮らせるようにして。
お安いご用。あなたは？
わたしのことなら大丈夫
sophonを1体のこしておきます。いつでもわたしと話せます。
chensinとaiAAとflesは、この一年、十分な食料を配給されていて、家も接収されることがなかったが、tomokoが気にかけてくれていたからだった。
chensinはtomokoのことをひとりの人間、女性だと思っていた。
42億人の虐殺に着手したtomokoが、chensinという個人の幸福を気にかけている。
治安軍の隊長が、お知り合いの二人を逃がすように命じられたと言った。
ここはもうすぐ地獄になります。ここを離れた方がいい。
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抑止紀元62年11月28日16:17:34～16:27:58
GravityのJamesHunterは最高齢の78歳で、半世紀前、当時27歳のHunterは調理管理者として乗り込むことになった。
きみの真の任務は重力波送信システムを監視することだと言われた。
艦の上層部が指揮権を失うような事態が生じた場合は、すみやかに送信器を破壊せよ。
Gravityの重力波送信システムは、アンテナと送信器から成る。アンテナとは船体そのもののことなので、破壊することは不可能だが、送信器さえ破壊すればシステム全体が無効になる。
艦内のあらゆる動向に目を光らせろ。そのため、きみは冬眠できない。
80歳まで生きればじゅうぶんだ。そのころには船体の振動弦をつくる縮退物質が半減期を迎えて重力波送信システムが無効になる。
今回、きみには数十億人を救うチャンスがある。
最も重要なのは、重力波送信システムがまちがった勢力の手に落ちるのを防ぐためだ。
このとき、Gravityと2機の”水滴”から成る編隊は、sophonのブラインドゾーンに入った。
sophonとの接触が断たれたことでGravityの内部の状況をリアルタイムで把握することができなくなった。
艦内のあちこちで奇妙な出来事が次々と起きた。どこからともなく現れた流星塵1個が船体の中心近くにある生態エリアに衝突したり、隔壁にとつぜん穴が開いたりあいたのをクルーが目撃したり、あるものが忽然と消えたあと、しばらくしてもとにもどったりした。
巨大なアンテナとは対照的に、重力波送信システムの制御ユニットはきわめて小さく、船尾の小さな球形キャビンの中にあった。
重力波送信システムを起動できるのは、地球にいる執剣者だけだった。
執剣者がシステムを起動すれば、ただちにニュートリノビームでGravityに信号が送信されて、重力波送信システムが起動する。
こうした信号が届くには1年かかる。
Hunterの腕時計には小さなボタンがついている。これを押せば球形キャビン内の燃料気化爆弾が爆発し、一瞬で蒸発させる。
ある意味、Hunterは反執剣者だった。
いまは”水滴”との距離が編隊飛行していたときより離れていることがわかった。
衝突までおよそ10秒から20秒ある。
30秒後に警報が解除されたとき、Hunterは安堵を感じなかった。
彼の任務からすれば、警報の解除というのは大きな危険を意味している。
大きな不確実性をはらむこの状況下で、Hunterは迷わず腕時計のボタンを押した。
しかし、なにも起こらない。
腕時計のディスプレイに、作動不能、自己破壊モジュールが見つかりません、と表示された。
最悪な事態が起きた。
2機の”水滴”は、どちらも目標に接触しなかった。
ほんの数十メートルをかすめて飛び去った。
警報解除の3分後、JosephMorovicci艦長は幹部たちを作戦司令室に集めた。
状況図に示されている”水滴”の軌跡は、攻撃ベクトルに対して、垂直な外力が加わり続けたように見える。
”水滴”を拡大すると、かたちは変わらないが、表面は鏡面ではなく、錆びたような黄銅色をしていた。
”水滴”の表面は内部メカニズムによって発生する力場で維持されていることがわかっている。この力場が粒子間の電磁気力を打ち消し、強い相互作用を外に及ぼす。
”水滴”は死んだ。
”水滴”がGravityをかすめたあと、垂直方向からの謎の力は消え失せ、以後の数秒間は、そのベクトルのまま等速直線運動している。それから、"水滴”は減速し始めた。
つまり、謎の力は進行方向に対して横向きに押したあと、進行方向と逆向きに転換した。
Morovicci艦長もHunterと同じ腕時計を持っていた。ボタンを押したが。作動不能だった。
制御ユニットの前にいたのは、BlueSpaceの海兵隊を率いるPakyigun少佐だった。
to be continued 23:06 2024/06/27
2024.6.26
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抑止紀元を通じて、地球三体協会は少しづつ表舞台から消えていったが、それにかわって、またあらたな過激派組織が台頭してきた。
彼らは人類中心主義を信奉し、三体世界の殲滅を提唱していて、それらのうち最大の勢力は”地球の息子たち”。
彼らは南極大陸に設置された重力波送信基地を襲撃した。送信機を奪うことで抑止制御権を掌握することが目的だった。
この事件は、地球世界と三体世界を大混乱に陥れた。
人類は重力波送信器がいかに危険なものであるかを理解しはじめた。
三体世界は、地球に圧力をかけて、重力波通信技術を厳しく管理することを求めると同時に、すでに完成していた23基を3基までに削減させた。
このうち1基はGravityに搭載されていた。
すべての重力波送信器は、luojiiが独力で抑止を実現していたときと違って、アクティヴトリガーによって操作され、もし、執剣者が不慮の死を遂げても、他の人間が引き継げる。
当初、重力波アンテナは地上にしか建設できなかったが、抑止紀元12年、送信アンテナ3基と関連設備は地下深くに移された。主に人類自身からの脅威に対してであって、三体世界からの水滴”の攻撃に対しては意味がなかった。
暗黒森林抑止の成立後、太陽系に向かっていた三体艦隊が一斉に方向を転換したことは、観測された。
問題はすでに太陽系に到達していた10機の”水滴”のゆくえだった。
三体世界は太陽系に4機の”水滴”をとどめておくことを主張した。人類内部の過激派が重力波送信器を奪取する可能性があり、そうした事態に備えて、三体世界は二つの世界を守るために行動する力を保持しておくべきだというのが根拠だった。
4機の”水滴”を太陽系外縁のカイパーベルト以遠にとどまることを求めた。
4機のうち2機はGravityに同行したため、カイパーベルトには2機残された。
三体世界の説明では、6機は太陽系を離脱し、方向転換した三体艦隊を追いかけているということだったが、地球の人間はだれも信じていなくて、いまもなお太陽系内に潜伏していると多くの地球人は確信していた。
”水滴”のサイズは極めて小さく、高速で、しかも電磁波レーダーに映らないため、位置をつきとめて追跡することは困難で、地球から0.1天文単位以内に近づいたときに監視することができた。
”水滴”はこの距離を10分で飛行できる。
もし暗黒森林抑止が破られた場合、執剣者が決断をくだすのに使える時間は10分だけ。
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抑止紀元62年11月28日16:00～16:17
chensinは暗黒森林抑止システムの心臓部へ入っていった。
そこは空虚な巨大な空間だった。
白いホールの中央にluojiiがあぐらをかいて座っていた。
髪もひげも長く伸びているがきちんと整えられている。
抑止紀元が始まったばかりの頃は家族三人しあわせな生活を送っていた。
しかしやがて、すでにひとつの世界を滅ぼし、二つの世界の運命を握っているluojiiは妻子を恐れさせ、妻子は去った。
つねに複数のsophonが自分を監視していることをわかっており、すべてを犠牲にする冷たい視線を三体世界に送っていた。
このようにして54年間、luojiiと三体世界は見つめ合っていた。
いつでもそくざに必殺の一撃を加えられるよう、つねに剣を執って待ち続けていた。
重力波宇宙送信システム最終制御権を移譲する時間です。
PDC議長が宣言した。
101歳のluojiiは両手でスイッチを29歳のchensinに渡した。
スイッチはluojiiのぬくもりがまだ残っていた。剣の柄のようなかたちをして、四つのボタンがある。偶発的な起動を防ぐため、決まった順番にボタンを押さなければ作動しない。
luojiiが軽く会釈してドアのほうに去ると、ロビーでは、黒のスーツ姿の人間たちがluojiiの前に立ちふさがった。
国際裁判所の検察官として申し上げます。あなたは世界絶滅罪で訴えられています。いまからあなたは逮捕され、取り調べを受けることになります。
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抑止紀元62年11月28日16:17:34～16:27:58
半円形の白い壁がとつぜん真っ赤になった。最高レベルの警戒警報だ。
強い相互作用宇宙探査機軍の接近を探知しました。
1機は、地球・太陽のラグランジュ点L1へ航行中。残る5機は、1・2・2のフォーメーションを組み、地球へ接近中。
速度：秒速2万5千キロメートル。地表到達までの予想残り時間：10分間
chensinのまわりに１から５までのホログラフィックボタンが現れた。
luojiiが半世紀ものあいだまちつづけていた霹靂が、彼が執剣者の座を離れた5分後、chensinに落ちてきた。
chensinは理解していなかった。
chensinが第二代執剣者に選ばれた理由そのものがミスでもあった。
chensinの潜在意識では、自分は庇護者であって、破壊者ではなかった。
執剣者として三体世界と向きあったとき、それが生死を分かつ決闘だという感覚がなかった。
chensinがluojiiからスイッチを受けとった瞬間、6機の”水滴”は潜伏していた場所から地球へ向かって全力で加速を開始した。
3編隊は月の軌道に接近し、北米、ヨーロッパ、アジアの重力波送信器は破壊され、太陽電波増幅機能は全ての帯域で封鎖されました。
重力波宇宙送信システムは回復不能です。暗黒森林抑止は終了しました。
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抑止紀元終了後、最初の1時間
chensinはエレベーターで地上に出た。
1時間前にセレモニーが行われた広場が見えた。式典の参加者はすでにひきあげていた。
その向こうには広大なゴビ砂漠が一望できた。
うしろをふりかえると、地平線上にキノコ雲があった。
aiAAが車でやってきた。
火山の噴火ですか？ いまの地震もそのせい？
いまさっき終わってしまった美しい時代の余韻がすこしでも長くつづいてほしいとchensinは願った。
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抑止が失敗した最大の要因は、執剣者の人選を誤ったことだ。
完成していた送信機23基のうち、20基を解体したことは当初、過ちの一つと考えられたが、”水滴”が送信機1基を壊滅させるのに要した時間は十数秒だったから、これは要因ではない。
問題はこのシステムが破壊可能だったことにある。
仮に送信機を地上ではなくて宇宙に分散配置すればどうだったか。
縮退物質で船体と同じ長さの振動弦を持った宇宙船が、単独で宇宙に存在した場合、全宇宙に対して情報を送信する力を持ち、人類世界の命運をその手に握ることになる。
恐るべき危険の種子を星々の間にばらまくことになる。このような恐怖は暗黒森林抑止そのものに対する恐怖であり、威嚇する者も威嚇される者も同じ恐怖を共有する。
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抑止紀元終了後、最初の1時間
chensinはaiAAと一緒にエアカーに乗り、キノコ雲に向かった。
chensinはマグマ溜まりになったクレーターを見た。この真下45キロメートルの地点に重力波アンテナがあった。
あと一歩踏み出すだけで、求めていた解放が手に入る。
じっと見つめていたchensinの背後から不意にかん高い笑い声が響いた。
tomokoだった。
人類があなたを選んだということは、人類がこの結果を選んだということです。全人類の中で、罪がないのはあなたひとりだけ。
chensinは抑止者ではなく、防護壁となっていた。
Gravityに同行していた”水滴”は、移譲が完了した瞬間にGravityを破壊せよとの命令を受けとっていた。
わたしたちの人格分析では、あなたの抑止度は10パーセント。luojiiは90パーセント付近。でもwadeは100パーセント。もし彼が執剣者になったら、いままでと同じ平和が続き、あと半世紀かそれ以上たてば、三体世界は技術力と武力で対等になった地球文明と対峙することになっただろう。
でも、人類があなたを選ぶと知っていた。
オーストラリアに行く準備をしなさい、哀れな虫けらたち！
to be continued 22:07 2024/06/26
2024.6.25
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危機紀元の初期、三体世界はsophonシステムを使って地球を観察するとともに、銀河系の他の方向を探査すべく、さらに6個のsophonを亜光速で送り出したが、これらはほどなくブラインドゾーンに入って消息を絶った。
sophon同士の量子のもつれがいったん途切れると二度と回復できない。
地球以外の方向に送り出されたsophonが観測できた恒星系は二つだけで、どちらも生命や文明は存在しなかった。
だが、sophonにブラインドゾーンがあるということは、宇宙の本質が暗黒森林であるという仮説を証明しているように思われた。
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抑止紀元62年
sophonがブラインドゾーンに入っても、Gravityの任務に重大な影響はなかった。
Gravityは、BlueSpaceの内部に潜入したsophonにより、艦内の状況を把握できたが、”水滴”は三体世界によるリアルタイム制御を失い、いまは内蔵のAIに制御されている。
Gravityの艦長は加速を命じ、BlueSpaceに急速に接近し、15天文単位の距離になったとき、BlueSpaceは投降した。
BlueSpaceはフルパワーで減速をはじめ、Gravityの全乗員が冬眠から蘇生し、戦闘態勢を整えた。
BlueSpaceは目の前にいるが地球との通信が途絶えた。
Gravityに奇妙な現象が起き始めた。
軍事警察部隊の指揮官であるDevon中佐が、sophonによる監視映像でBlueSpaceの艦内を観ていたときの乗員が、昨日、艦内で敬礼してすれ違ったという。
そのあと、監視映像がとつぜん切断した。
生態エリア内で、微小隕石の衝突事故が起きた。
養分補給パイプの一本の壁に数ミクロンの小さな黒い粒がいくつも埋まっていた。
直径100ミクロン程度の流星体が最初にパイプにぶつかって貫通した際に粉々になり、裂け目の反対側の壁に埋まったと推定された。
相対速度秒速3万メートルで衝突したと考えられるが、パイプの上の天井は無傷だった。
ike中尉がキャビンのベッドに寝ていたとき、向かい側の壁にとつぜん直径1メートルほほどの丸い穴が出現した。丸い穴のふちはなめらかな鏡面で光を反射している。
隣は片思いの女性乗員の部屋だったので、もっけのさいわいとその穴から忍びこもうとした。
（彼女の信念は、、もし、抑止が成立していなかったら、BlueSpaceが人類唯一の希望だった。わたしたちはいま、人類の敵と手を組んで、彼らを追撃している。恥ずかしくないの！）
まるい開口部の下半分によって、壁ぎわのキャビネットの上部も消えていて、残った部分はなめらかな鏡面になっている。
彼女のひざから下もすっぱり切り落とされている。
睡眠時間を30分にして目覚めたが、まだまるい穴はあった。
睡眠時間を1時間にして目覚めたら、なにもかも元通りになっていた。
心配して隣室のドアをたたいて開けてもらったら、彼女は別に変わりはなく、莫迦と言われてドアを勢いよく閉められた。
liushaomin軍曹は超自然現象に遭遇した。
軍曹は船外に出て船殻の定期検査にあたっていた。
Gravityは完全な円筒形だが、いま、その後部が斜めになっていて、しかも全長が20パーセントほど短い。
まるで斜めに切り落とされたかのようだった。
軍曹は目をつぶって数を十までかぞえて、眼を開けたら、ようやく完全な姿のGravityが見えた。
宇宙にいると、感覚的にも精神的にも世界は物質的な手ざわりを失い、虚無の空間がすべてを支配する。そのため。宇宙旅行者の潜在意識にある世界像は非物質化されてしまう。
宇宙旅行者は強烈な孤独感を味わい、超観察者になったような幻想を潜在意識下で抱く。
ところが、民間人の研究者guanyifanの場合はちがった。
閉所恐怖症を発症している。宇宙に向かって開かれている広々とした空間に身を置いても安堵した様子が見られなかった。
もし宇宙がひとりの人間だとしたら、その神経信号は全身をカバーできない。脳は手足の存在を知らないし、手足も脳の存在を知らない。肢体麻酔と変わらない。
宇宙はただの膨張する死体だと言った。
GravityとBlueSpaceの距離は10万キロメートル。両艦とも加速を停止している。
2機の”水滴”は両艦から30万キロメートル離れた二等辺三角形の位置にいる。
とつぜん戦闘警報がすさまじい音をたてて鳴り響いた。
”水滴”が急加速し、1機はBlueSpaceに、もう1機はGravityに向かっている！
回避行動の時間はない、ほんの数秒だ。
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抑止紀元62年11月28日16:00～16:17
半年前、chensinは第二代の執剣者に選ばれ、抑止制御権の移譲セレモニーのため、地下45キロメートルにある抑止制御センターへ向かっていた。
いまここで、最後の引継ぎを監督するのは、PDC議長と、太陽系艦隊参謀総長の二人だけだった。
PDC議長は、この中は好きなように改装できると言ってくれた。
参謀総長は、luojiiのような生活を強いるつもりはないと言った。
だが、頭上45キロメートルにわたって堆積する土と同じ重さでchensinの心に重圧がかかっていた。
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三体初期の暗黒森林抑止システムは、油膜物質で包んだ3千基余の核爆弾を太陽の周囲に配置することで成り立っていた。
核爆弾が爆発すると、油膜物質が太陽の光を部分的にさえぎり、その明暗のパターンによって三体世界の座標が全宇宙に対して公開される。
しかしこの方式は不安定で、信頼性も低かった、この弱点を補完するため、”水滴”による太陽の電磁波封鎖が解除されて以降、太陽をスーパーアンテナとして利用する電波送信システムがただちに整備された。
この二つのシステムは可視光電磁波を媒体としている。電磁波シグナルは距離とともに急速に減衰して情報にゆがみが生じるため、伝達範囲が限定される。
三体文明のおかげで、ニュートリノと重力波通信技術を短時日で確立した。
ニュートリノ束は特定の方向にしか放射できないため、重力波が暗黒森林抑止の主要手段となった。
重力波送信の基本は、きわめて密度が高い物質でできた長い弦を振動させることにある。
人類は縮退物質で直径数ナノメートルの弦をつくることに成功した。
縮退物質は白色矮星と中性子星の内部に存在し、時間とともに崩壊して通常物質に戻る。
地球人類が製造する振動弦は、いまのところ半減期が50年程度のもので、半世紀ごとに交換する必要があった。
2024.6.24
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星の群れプロジェクトでは15人の顧客は17個の恒星を購入したが、14名は法定相続人の所在もわからず、264年後、chensinだけが冬眠から目覚めることになった。
法律により、tiemminが同意しなければ国連と太陽系艦隊はDX3906を所有することはできない。
chensinは階梯計画のその後をたしかめたが、三体艦隊は階梯探査機を鹵獲することはできず、tienminは虚無の中に消えた。
DX3906には二つの惑星があり、そのうちの一つは地球とよく似た惑星であると推定され、急激に価値が上昇した。
二つの惑星を発見したのは天文学の博士課程に在学中のaiAAという大学院生だった。
chensinは恒星の所有権は残して恒星のエネルギーを無償提供し、二つの惑星を売却した。
chensinは天文学的な資産を得て会社を設立し、aiAAを経営に参加させた。
道行く人々を見ていたchensinは美しい女性たちばかりなのに気づき、aiAAに男の人はどうなったの？と訊いた。
そこら中にいますよ
粗野で野蛮な男は存在しなくなり、男性は女性のようなしなやかな姿になっていた。
ひとつの世界を破壊し、あらゆる生命を滅亡させた人物は救世主と崇められ、luojiiは裁判にかけられようとしています。
どうして？
luojiiがある恒星の座標を全宇宙に送信したことで、その恒星系が破壊されたことです。
そこに生命が存在したかはわからないけれど、その可能性はある。だから、luojiiを世界滅亡罪の容疑で起訴しようとしているのです。
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翌朝、aiAAが呼んだというエアカーにchensinは乗って、廃ビル群のあいだに着陸した。
ツタがからまる二階のバルコニーにひとりの男性が立っていた。
wadeだった。右手に銃を持っている。
wadeはchensinの右肩を撃ち、chensinは背後の壁まで飛ばされた。
どうして？
おれは執剣者になりたい。おまえが競争相手だが、このままでは負ける。
vadimovはあなたが殺したの？
ああ。おまえはいま、障害になっている。
wadeはもう一発撃ち、chensinの腹部の左側を貫通した。
また引き金を引いたが、3世紀の時間の経過による劣化のため発射されず、もう一度狙いをつけた瞬間、銃を握るwadeの右腕が爆発した。
一台のパトロールカーが急降下して、警官たちが飛び降りてきた。
aiAAが最後に降りてきた。
wadeはわたしのIDを偽装して、、とaiAAが言った。
すさまじい痛みが襲ってきてchensinは意識を失った。
目を覚ますと、全身が一枚の膜に包まれている。痛みは感じなかった。
執剣者ってなに？
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luojiiが三体世界を相手に打ち立てた暗黒森林抑止は、まぎれもなく偉大な功績だった。
だが、この功績を生み出したwallface計画は、最終的に、きわめて幼稚で荒唐無稽な行為とみなされた。
人々は抑止そのものについて深く考えはじめ、抑止ゲーム理論が誕生した。
抑止を構成する主な要素は、抑止者と被抑止者である。
最終抑止の成功の鍵は、被抑止者を信用させることにある。
この確率は抑止ゲーム理論において、抑止度と呼ばれる指標となる。
最終抑止が成功するためには、抑止度が80パーセント以上に達する必要がある。
しかし、暗黒森林抑止システム制御権が人類全体に委ねられた場合、抑止度はほぼゼロになってしまう。
もし、抑止の失敗によって抑止行動が実施されると、二つの世界の座標が全宇宙に送信されることになる。
だが、個人の反応はそのかぎりではない。
暗黒森林抑止成功の基盤は、luojiiという個人の予測不可能性にあった。
地球と三体世界の両文明は、luojiiの人格的特性について詳細な分析を行い、数理モデルを構築した。
地球人類と三体人の抑止ゲーム理論研究者は、驚くほど似通った研究成果を導きだした。
luojiiの抑止度は91.9パーセントから98.4パーセントのあいだと推定された。このため、三体世界は絶対にリスクを冒そうとしなかった。
luojiiが制御権を国連及び太陽系艦隊にひきわたしてから返還されるまでは18時間しかなかったが、それだけの時間があれば、”水滴”は太陽を取り巻く核爆弾の輪を破壊して、人類が座標を送信するのを阻止できたはずだった。
これは三体世界最大の失策と見なされている。
人類は冷や汗をかきつつ、ほっと胸をなでおろした。
二つの世界の戦略的バランスは、luojiiという個人に支えられて成立していた。
このため、luojiiは執剣者と呼ばれた。
この奇妙なバランスのもとで60年過ぎ、百歳を超えたluojiiはいまも重力波送信を開始する制御権を握っていたが、大衆のluojiiに対するイメージも次第に変化していた。
強硬派はさらに厳しい条件を三体世界に課すべきだと主張した。
彼らの目標は、三体世界を完全に武装解除することだった。
穏健なハト派もluojiiのことを疎ましく思っていた。
彼らの主張によれば、この宇宙の文明を有するすべての知的生命は侵すべからざる基本的な権利を有する。この理想を現実のものにするには、luojiiに法の裁きを受けさせねばならない。
二つの世界の運命がluojiiの手に委ねられていることに、人々は不安を抱くようになっていた。
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抑止紀元61年
chensinの回復は早かった。
警察の話によれば、wadeの目論見はもうちょっとで成功するところだった。
wadeがaiAAからの電話を偽装した事実を発見したあと、警察はようやく行動を起こした。
この時代の文化と芸術は、美学的な新しい基礎の上にポストポストモダニズムが築かれ発展している。21世紀のポストモダン文化芸術で流行していた絶望感や奇怪なノイズは消え失せ、温かなのどかさとオプティミズムにとってかわられていた。
aiAAが言った。
こういう映画や絵や音楽を生み出したアーティストはみんな、4光年離れたところにいる三体人です。
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暗黒森林抑止が確立して以降、三体世界から送られてくる科学的技術情報を受けとるために、世界科学アカデミーが設立された。
情報を小出しにしてくるだろうという予想を裏切って、三体人はわずかな時間でおびただしい量の知識と情報を体系的に送信してきた。
貴重なコレクションは、主に数学、物理学、宇宙学、分子生物学などの基礎科学に関する情報だった。
加速器に対するsophonの干渉はストップした。
彼らは人類が三体世界の科学水準に到達することを熱望しているようだった。
抑止紀元10年以降、三体世界から送信されてくるのは、科学情報のほかに、映画、小説、詩歌、音楽、絵画など、人類の文化芸術を模倣した作品の山だった。
最近では、新作映画や小説のクリエーターが人類なのか三体人なのか見極めるのがむずかしくなっている。
ただ、三体人は、いまのところまだ、自分たち自身のありのままの文化は地球人類に見せられる段階ではないのだと説明していた。
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退院の日、aiAAがchensinに言った。
tomokoがあなたに会いたいそうです。
tomokoは最先端の女性型アンドロイドで、複数のsophonに制御され、三体世界大使の役割を果たしている。
chensinは、tomokoが4光年も離れた強大な異星文明に操られていることを忘れてしまった。声も体も軽やかでしなやかだった。
tomokoと会った翌日、chensinは6名の二代目執剣者の候補たちと会った。
chensinはwadeの件で警察に警告の通報をしてくれた男性に感謝を伝えた。
しかし、彼らの言うことを聞いてchensinは黙り込んだ。
chensinは、luojiiがどんな境遇に耐えて来たかがいまやっとわかった。
あの時代の男にとって、全人類と全三体人の運命を自分の手に握ることは、すごく魅力的なのよ、とaiAAが言った。
彼らの中にもう一人のyewenjeやjanpeihaiが潜んでいないとも限らない。
この美しい世界は、その脆さをあらわにした。
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一週間後、chensinはDX3906に属する二つの惑星の譲渡式に参加するため、国連本部へ向かった。
式典が終わってPDC議長と話をした。議長は、chensinが執剣者に立候補することを望んでいた。
他の6名の候補者は全員、三体世界に対して強い不信感を持ち、攻撃的な傾向がある。もし、彼らの中から第二代執剣者が選ばれれば、強硬政策を地球インターナショナルおよび艦隊インターナショナルのタカ派と合流して、強硬政策を進めるかもしれない。
暗黒森林抑止の力を借りて、三体世界にさらに厳しい要求を突きつければ、これまで両世界のあいだで築き上げてきた平和と科学文化交流が崩壊し、惨憺たる結果を招くことが予想できた。
だが、chensinが選ばれればそれが回避できる。
われわれは脳を送る。wadeのこの一言が無ければ、、、。
赤んぼを抱いた若い母親がchensinに駆け寄り、ほんもののマリア様と叫んだ。
どうかこの世界をお守りください。
chensinは母の愛情を一身に受けていた。母は一度も結婚したことがなかった。公園に捨てられていたchensinを見つけ、育てた。
それから3世紀後、chensinはようやく愛のために行動を起こすチャンスを得た。
わたしは執剣者に立候補します。
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抑止紀元62年
宇宙艦Gravityはすでに半世紀にわたってBlueSpaceを追跡し、いま、3天文単位まで近づいている。
搭乗している100名あまりの兵士は、この50年間の大半は冬眠していた。
BlueSpaceは燃料に制限があり、継続的に加速することはできない。
また、Gravityは大量の予備燃料を搭載しているものの、帰途に必要な量を確保するために無制限に加速できない。
GravityはBlueSpaceに対して地球に戻り公正な裁判を受けることを提案したが、無視し続けた。
ちょうど一年前、両艦の距離が30天文単位まで縮まったとき、予期せぬ事件が起きた。
Gravityに同行している2機の”水滴”がsophonのブラインドゾーンに入ったため、量子もつれによる地球とのリアルタイム通信が途絶し、地球との通信が片道1年半もかかってしまった。
2024.6.23
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chensinは冬眠技術の研究のため、ハイナン島に来ていた。
十数人の被験者は実験的な短期の冬眠に入っている。まだ世紀をまたぐ長い冬眠は行われていない。
冬眠者の体温をマイナス50度に保つため宇宙空間では温める必要があり、大量の放射性同位元素を積載しなければならず、重量制限をはるかに超えてしまう。
chensinが発言した。マイナス200度以下の超低温まで急速冷凍した人体を送ればいいんです。
今の技術では解凍すれば破壊されるか瞬時に蒸発するかしてしまうが、三体人の技術では破壊を防げるかもしれない。
しかし、その人物はだれだろう
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PDC常任理事会で階梯計画の最新バージョンは採択された。
人類と地球外文明との物理的なファーストコンタクトであり、探査機を送ることよりも一段レベルの高い意義がある。
会議が終わったあと、ひとりの男が出口から出ていった。
たったいま、wallfacerのだれかが頭を撃たれたらしい！
NASAが実施した小規模核爆弾推力実験によると、探査システム全体で10キログラムにする必要があるという報告があった。
その結果、搭載重量は最大500グラムになる。
wadeが言った。
われわれは脳だけを送る。
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探査機本体は動力を持たないので、針路はすべて爆発する核爆弾との位置関係で決まる。航路上に配置されるすべての核爆弾には、位置制御用の小型エンジンが搭載されている。
探査機が数百メートルの距離で通過する際の核爆発による推進力で探査機の針路をコントロールする。
探査機全体は全長500キロメートルでパラシュートに似ている。冬眠槽は厚い冷却材で覆われ、核爆発のたびに表面が蒸発して内部を冷却し、同時に総重量も減らす。
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危機紀元1年～4年
大陸間弾道弾の大量発射が続いている。
wadeとvadimovとchensinはミサイルの発射を見ていた。
階梯計画によって宇宙に送り出す人間にだれを選ぶのか。
wadeは語った。
三体人はたとえ脳だけでも蘇生させることができるだろう。
外部インターフェイスを通じて脳とコミュニケーションすることも可能だろう。
11次元の陽子を2次元展開してその上に電子回路をエッチングできるテクノロジーを有する文明にとって容易なことだろう。
だれの脳を送るかという人選のむずかしさが浮き彫りになった。
最大の障害は、選ばれた人間が死ななければならないという点にある。
余命宣告された末期患者の中から探すしかなくなった。
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四日前、chensinはDX3906の所有権利証書を受けとり、びっくり仰天した。
今までに味わったことのない幸福感に包まれた。
だれかがわたしに星をプレゼントしてくれた、、
vadimovは、世界中の女の子がきみに嫉妬するよ、と言った。
夜、chensinは軍用双眼鏡でかすかに赤く光るDX3906を見つけ、長いあいだ見つめた。
vadimovは言った。
階梯計画の候補としてベストな人材は、わたしだ
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chensinの大学時代の同級生の女性がニューヨークに訪ねてきたとき、fuuwenから聞いた話だけどといって、yuntienminが末期の肺がんで病床にあると言った。
そのあとすぐ、chensinは階梯計画の候補者選びの責任者であるyuuweiminに連絡し、yuntienminを候補者として推薦した。
yuuweiminはchensinに対し、この件についてyuntienminと話し合うように求めた。
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chensinの説明を聞き終えて、yuntienminは茫然とした表情で、しばらくひとりにしてほしいと言った。
ぼくはなんて莫迦だったんだろう。愛している人に星を贈ればその人が自分を愛してくれるとでも思っていたのか。
彼女はぼくに死んでくれと頼みにきたんだ。
到着時刻から考えて、彼女はぼくがすでに安楽死を選択していたことを知らなかったに違いない。
もしぼくが安楽死を選択しなければ、そうするように説得することを試みただろう。
いや、違う。彼女がぼくに与えようとしているのは、安楽な死にはほど遠い。
姉がぼくの安楽死を望んだのは財産が浪費されるのを恐れたからだが、それは理解できる。
しかし、彼女はもっと残酷な死にざまを与えようとしている。僕の体の一部、魂がやどる部分が暗黒の深淵を永遠にさまようことを求めている。
もし、思惑どおり、ぼくの脳が三体人に捕獲され蘇生したとすれば、それこそがほんとうの悪夢になる。
人類と共通するものがなにもないエイリアンがぼくの脳にインターフェイスを接続し、五感を含む入力をテストするだろう。彼らにとってもっとも魅力的なのは痛みの感覚だ。
一番恐れている拷問がなんなのかを探るだろう。実験は繰り返され、永遠に終わりがないだろう。
tienminは笑いすぎて息が止まりそうだった。
chensinがドアを開けて入ってきた。
tienminどうしたの？
tienminの笑いが止まった。
わたしは、国連惑星防衛理事会全戦略情報局を代表して、質問します。
あなたは人類の一員としての責任を進んで行い、この使命を引き受けますか？
これは完全に自発的な任務です。拒絶してもかまいません
tienminはchensinの顔を見つめた。いかめしく、同時に熱意にあふれる表情。
苦痛と憂鬱が入りまじるかすかな笑みがtienminの口元に浮かび、しだいに広がっていった。
もちろん、引き受けるよ
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危機紀元5年～7年
vadimovが死んだ。
白血病による眼底出血が原因で、彼の車は橋の欄干を越えてハーレム川に飛び込んだ。
技術職スタッフの大部分は彼の死を悼んだが、情報部員は遺体の回収が遅れて、脳が使えなくなったことを惜しんでいた。
偶然にしてはタイミングがよすぎる。もし、殺人者がいるとしたらかなりの凄腕だ。
vadimovの症状の進行具合から判断すると、PDCが安楽死法を推進したばかりの時点で、白血病工作に着手したのではないか。
vadimovには美しい妻とあどけない娘がいた。
tienminは現在、他の六人の候補とともに、PIA本部からほど近い秘密拠点に移され、さまざまなテストを受けている。
tienminに初めて出会ったのは、大学に入学したばかりのころだった。孤独と弱さが強く感じとれ、心の奥まで侵入して秘密を覗き見たような気がした。
tienminと話すときは、いつも遠慮がちに控えめに接し、とても気を遣った。
たしかにわたしはPIAの要望をtienminに伝えただけだ。彼には拒絶する自由があった。
彼をを推薦したのは、地球文明を守るという崇高な目的のためだった。
さらに、tienminの命はほとんど尽きかけていた。
わたしの到着が少し遅れていたら、彼の命はなかっただろう。
わたしは恥じるようなことはなにもしていない。
良心の呵責を感じるいわれはない。
でも、wadeが言っていた、”母親を売春宿に売り飛ばす”行為とは、つまりこういうことだったのだ。
現在、第一陣の被験者が長期冬眠に入っている。そのほとんどは未来で治療されることに望みを託す末期患者だ。
ほんとうは、tienminも生存できたかもしれない。わたしの手助けがあれば可能だったかもしれない。
でも、わたしはその機会を奪ってしまった。
chensinはオフィスに入り、wadeに、tienminの推薦を取り消すので、候補からはずしてくださいと言った。
wadeは彼が全候補の中でいちばん適性があると言った。
特殊な全身麻酔をし、意識だけが正常な状態にたも
たれ、脳が体を離れて独立して存在する状態を模擬体験する。
彼は周囲の社会に適応する能力をまったく持ち合わせていません
それこそが最大のアドバンテージになる。社会に依頼心を抱いている人間を異質な社会に放り込んだら、致命的な精神崩壊を来すだろう。
chensinおまえがそのタイプの典型的な例だ。
彼にはもうひとつ、すばらしい資質がある。創造性だ。彼のシンプルなアイデアがおまえの同級生のひとりを億万長者にしたんだぞ。
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chensinは階梯計画候補の宣誓式に参加した。
wallface計画発表のときとはちがって、外部には公開されず、参加者も少なかった。
どの候補者も病状が体にはっきり現れていた。車椅子に乗っているのは二人だけだった。
tienminの番になって、seiから青い旗を受けとりそれを演題に置いた。
ぼくは宣誓しません。この世界でぼくはのけ者だと思ってきたし、楽しみや幸福もほとんど味わったことがない。愛情だってそうだ。
人類に対して自分がどんな責任を担っているとも認めない。
では、あなたはどうして階梯計画の使命を引き受けたのですか、seiが訊ねた。
ぼくは別の世界が見たい。人類に対して忠誠を誓うかどうかは、ぼくが見た三体文明がどんなものか次第だ。
tienminの予期せざる宣誓拒否によって、ホールの空気が変化したようだった。
候補者の最後のひとりの女性も宣誓を拒否した。
彼女は翌日深夜、症状が悪化して明けがた亡くなった。
階梯計画の任務遂行者にはtienminが選ばれた。
tienminの症状が急に悪化し、脳切除手術が行われた。
wadeはchensinに言った。
おまえのあの星、あれは彼のプレゼントだったよ
chensinは愕然として凍りついた。
いまになってようやく人生に本物の色彩が現れたかのようだった。
感情の大波が押し寄せて、足もとの大地が消え失せたかのようだった。
だしぬけに走り出し、脳外科病棟の手前で警備員に取り押さえられた。
作業台の上に高さ1メートルほどの円筒形をしてステンレス製断熱容器が置かれていた。超低温の液体ヘリウムから発生した白い霧があふれだしていた。
chensinの肩に手を置いてくれた老人は、ハーバード大学医学部の脳外科の権威で、今回の脳切除手術の執刀医だった。
三体人は身体のクローン再生も完璧にやるだろう。
じゃあ、彼はなにを食べるの？
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次の日、chensinはオフィスに訪れ、tienminの冬眠カプセルにこの種を入れてくださいと要望した。
小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、唐辛子の種が小さなビニール袋に入っていた。
だめだ。
たった18グラムですよ
0.18グラム軽くするだけでも血のにじむような努力をしている。
wadeが言った。階梯計画ではtienminを知る人物をひとり、未来に送る必要がある。
未来に行くことに同意します、chensinが言った。
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階梯探査機が地球周回軌道上で25万平方キロメートルの光帆を展開して、束の間、陽光を地球に反射させたとき、chensinは上海で見ていた。
宇宙農業部は、chensinが選んでいたものとは違うが、種を積み込んでいた。
地球から木星軌道までの区間で、航路にそって、1004個の核爆弾が配置されている。
階梯探査機が近くを通過すると起爆する。3分の2は原子爆弾で、残りは水素爆弾。ほかに多数の観測器が配置され、次の核爆弾の位置をリアルタイムで調整する。
階梯探査機が木星軌道に近づいたとき、997個目の核爆弾が爆発し、速度が光速の1パーセントに到達したことが確認された。
しかし、問題が発生した。カプセルを牽引しているケーブルの一本が切れたと思われる。これを計算に入れた調整が間に合わず、帆のゆがみが大きくなり、観測システムから消えてしまった。
いまから6000年後に他の恒星の近傍を通過し、500万年後には銀河系を離れるだろう。
もはやchensinを未来に送り出す意味は失われたが、PIAは冬眠させる方針を変えず、未来において階梯計画の連絡係を務めることが新たな任務になった。
これでわたしも何世紀もの間、果てしない暗黒の深淵を漂うことになる、chensinは冷気で朦朧となる意識の中で思った。
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第二部
抑止紀元12年
青銅時代BronzeAge
地球連合艦隊の壊滅から14年が経っていた。
生存者たちは太陽系の両端で起きた暗黒の戦いを経て、母星と一切の連絡を絶った。
危機紀元208年11月初め、地球からの電磁波送信が途絶えた。
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人類の科学技術が発達すると、ニュートリノと重力波による伝達方法が利用できるようになった。
重力波による伝達方法は三体文明に対抗する抑止手段として採用された。
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抑止紀元12年
BronzeAge
地球からの電磁波送信がとつぜん途絶えたのは、太陽系が三体艦隊にせんりょうされてしまったからだとBronzeAgeのほとんどの乗員が思った。
そこでBronzeAgeはさらに加速して、26光年彼方にある地球型惑星をもつ恒星を目指した。
だが、その10日後、ふいに宇宙艦隊司令部からの電波シグナルを受信した。
そのメッセージは、太陽系の反対側にいるBlueSpaceにも送信されていた。
地球でなにが起きたかを説明し、地球を三体文明から防衛する抑止システムの構築に成功したことを伝えていた。
両艦ともに地球に帰還するようにと命ずる内容だった。
太陽系を占領しようとした者の欺瞞工作の可能性を排除できず、BronzeAgeはこの内容を信じようとしなかった。
ところが、一個のsophonが低次元展開し、BronzeAgeとBlueSpaceの間に量子通信チャンネルを開いていた。
彼らは壊滅した地球連合艦隊の数少ない生き残りとなったことを知った。
BronzeAgeは太陽から2300天文単位の距離にいたが、ただちに帰還の途につき、地球に近づいたとき、出迎えのため派遣された恒星級戦艦gravityに迎えられた。
gravityの船体自体が事実上の重力波アンテナだった。
地球上の重力波アンテナとともに人類の三体世界に対する暗黒森林抑止システムとなっていた。
BronzeAgeが到着すると、盛大に迎えられたが、最後に一変した。
宇宙艦隊大佐が最後に宣言した。
きみたちは全員、不名誉除隊となる。
きみたちが艦隊に残した汚点は永遠に消すことはできない。
両親はきみたちのことを恥だと思っている。配偶者のほとんどもはるか昔に離婚を選んでいる。社会は君たちの子どもを差別こそしないが、彼らはこの十数年、君たちの子どもであることを恥として暮らしてきた。
きみたちの身柄は艦隊インターナショナルの司法制度に引き渡される。
同時に祝賀の群衆も姿を消した。
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抑止紀元13年
審判
被告：BronzeAge元艦長NeilScot
戦艦Quarkを攻撃するという決定に至るまでの経緯について。
艦内の乗員1775名のうち、攻撃に賛成したのは59名でした
あなたはほんとうの投票結果を提出する必要がある。
そんなものはありません
国際法により、人類に対する反逆者が罰をまぬがれないようにする。
あなたがたは人類のもっとも基本的な道徳基準に背いている。
この裁判の冒頭で、あなたはQwarkの乗員1847名の死に対する悔恨を表明した。
ほんとうの投票結果を提出します
賛成票の数は1670名、乗員の94パーセントです
たとえ賛成票が半分以下であっても、わたしは攻撃を命令していたでしょう
被告：SebastianSchneider元兵器システム目標設定および攻撃管制担当士官
二度と地球に戻れないことがわかり、宇宙船がわたしの世界のすべてだと知ったとき、一瞬でわたしは変わりました
その瞬間、わたしは自我を捨てて集団の生存だけに自分の生存意義を求めたということです
被告：PolisRobinsky元副艦長
攻撃後、最初に小隊を率いてQuarkに進入しましたか？
はい
生存者はいましたか？
いいえ
遺体の状況は？
水素爆弾の爆発による電磁パルスを受けて、船体が発生させた低周波音波により全員死亡しましたが、保存状態は良好でした
その遺体をどうしましたか？
BrueSpaceと同じく、彼らのための記念碑を建てました
BronzAgeの食糧備蓄に加えました
われわれはべつの道徳規範に縛られていました
システムは大きな損傷を被り、人工冬眠システムにも不具合が生じて500名ほどしか収容できなくなりました
貴重なタンパク源を宇宙に捨ててしまうなどできません
最終的に、元艦長およびその他六名の元上級士官は終身刑の判決が下され、残り1768名のうち、138名だけが無罪、それ以外は20年から300年までの刑に処せられた。
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艦隊インターナショナルの刑務所は、火星と木星の間に位置する小惑星帯にあった。
艦隊基地を離れる前、Robinsky元副艦長とSchneider元少佐を含む十数名が、新たなクルーに艦を引き渡す作業に手を貸した。
説明は1時間ほどで終わったが、Schneiderは何気ない手つきで空中のインターフェイス画面を何度かタッチし、次の瞬間、無重力状態のキャビンの壁を強く蹴って、部屋の反対側に飛ぶと、同時に壁の位置が動き球形のキャビンを二つに分割した。
Schneiderはインターフェイス画面を呼び出し、高出力恒星間通信アンテナを起動した。
BlueSpace、応答せよ。こちらBronzeAge。戻ってくるな。ここはもう故郷じゃない！
レーザーがSchneiderの胸を貫いた。
BlueSpaceはBronzeAgeよりも懐疑的だったので、ゆっくりと減速していた。
Schneiderの警告を受けとるとただちに減速を中止し、フルパワーで加速して太陽系をあとにした。
目下のBlueSpaceが暗黒森林抑止を実行する能力を持ち合わせていないことに、地球と三体世界は安心した。
BlueSpaceが最大出力で二つの恒星系の座標を宇宙に送信しつづけたとしても、第三者が受信することはほぼ不可能だ。
恒星間宇宙船GravityがBlueSpaceの追跡を開始した。
当初、三体世界は”水滴”で追跡して破壊することを提案したが、地球世界は拒否した。人類の宇宙船に対する”水滴”の攻撃は許すことはできない。
GravityがBlueSpaceに追いつくには50年の時間を要する計算だった。
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2024.6.22
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PIAは、ほどなく、米、中、ロシア、EUからの実行可能性報告を受け取った。宇宙帆の面積は25平方キロメートル、質量20キログラムまで縮小できるが、探査機の質量の上限は200キログラム。
探査機が拿捕されなくても、光速の5パーセントの速度ですれ違う可能性もある。
また、能動型レーダーの搭載は難しく受動型になるが、敵が電磁波を利用している可能性は極めて低い。
さらに、sophonにより、計画は筒抜けになる。
この結果、核爆発推進による探査機計画（階梯計画）は見送られた。
では、次の一歩は？
人間を一人送る。
だれもがwadeの発言を呑み込めずにいた。
人工冬眠技術はすでに成熟しているから、2世紀後、三体艦隊と遭遇したときに覚醒させ、敵の心臓部に送り込む。
wadeは、4光年彼方でsophonにより耳を澄ませている異星の参加者を考えていた。
彼らは人類の生きたサンプルを研究するチャンスに興味をそそられるだろう。
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人工冬眠の技術は三体危機に先立つ二、三世紀のあいだに一般化したものだが、発明された当初は、末期患者に未来で治療するチャンスを与えるぐらいに考えられていた。
しかし、現実のものとなったとたん、人類文明の様相を一変させる可能性が現れた。
ただ、もっとも憂慮すべきは、未来に待ち受ける最大の誘惑、不死だった。
あと一、二世紀すれば永遠の生が現実のものになると人々は信じた。
だが、三体危機がすべてを変え、未来は一夜のうちに天国から地獄に変わった。
冬眠技術は実用段階に入り、時を超えることを可能にした。
2024.6.21
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危機紀元4年
雲天明yuntienminの病室に回診にやってきたjan医師が新聞を投げてよこした。
最初に気づいたのは、三体世界と地球三体協会に関するニュースが紙面を埋めつくしていないことだった。
4世紀後に起こる事態についての心配は現在の生活に関する問題に少しづつ場所を譲りつつあるが、ある記事に目が留まった。
「第三回全人代常務委特別会議で安楽死法が可決」
jan医師はこの記事を見せたかったのか。
となりのベッドの李liさんが、わしはもう発つよと言った。
安楽死のことだった。
liさんの安楽死は希望どおり実施されることとなった。この都市で初めてのことだった。
tienminの病室に大学時代の同級生の胡文fuuwenが訪ねてきた。
昔、tienminが飲んでいる緑色の液体はなんだとfuuwenが訊いたので、雑草をすりつぶして水に混ぜた本物の自然飲料だと答えたが、それをヒントにfuuwenは会社を興して「緑色暴風」という商品名で売り出し、バカ売れしているそうだ。
もともとはお前のアイデアだから、と言ってtienminに300万元のクレジットカードをくれた。
jan医師に助かる見込みはありますかと訊いたら、がん細胞はすでに肺から全身に転移していて手術もできないので、化学療法と放射線治療を続けていくしかないと答えた。
tienminは安楽死の申請書を書いてjan医師に渡した。
いま唯一やり残しているのは、この金の使い道を決めることだった。
その夜、tienminはテレビでこんなニュースを見た。
国連惑星防衛理事会で、星の群れ航行計画が採択された。
tienminはようやく金の使い道がわかった。
彼女、程心chensinに星をひとつプレゼントしよう。
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三体危機が人類文明に与えた衝撃は、予想をはるかに超える深刻な影響をもたらした。
人類が経験してきた歴史の全てはとるに足りないものだった。
人類に幼稚症が発症した。
幼稚症の典型的な産物として、wallface計画と星群計画が挙げられる。
wallface計画は後世の文明全体に強い影響を与えた。
一方、星群計画はわずかの期間だけ実施されたが、すぐに消滅した。
三体危機到来以降、全人類ははじめて共通の敵を持つこととなり、国連に対する期待が高まった。
小国にとっては、大国から技術や経済援助を手に入れる好機だったが、大国の対応は冷ややかで、国連が提唱する国際共同宇宙防衛計画に対する投資額はきわめて小さかった。
歴史を顧みれば、国連事務総長を務めていたseiこそがキーパーソンだったと言える。
seiは星群計画により国連が充分なリソースを動かせるようにした。
三体危機以前は、太陽系資源はカイパーベルトより内側に限定されていたが、カイパーベルト以遠の天然資源を国連主導のもとで行う宇宙法条約が定められた。
太陽系から100光年以内の恒星をオークションにかけて、未来の宇宙開発を推進しようとするものだが、落札された恒星はわずか17個で、売り上げはわずかだった。
しかし、seiは計画は失敗とは思わず、本質は国連の政治宣言だと語った。
星群計画はすぐに忘れ去られたが、この計画の特徴はwallface計画にも備わっていた。
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chensinに星をプレゼントしようと思った翌日、tienminは星群計画の中国オフィスに電話した。
そのあと、fuuenに電話して、chensinの連絡先や身分証ナンバーを教えてくれと言った。彼女には内緒にしてくれと言った。
翌日fuuenからメールが届き、連絡先が上海とニューヨークだった。
その日の午後、tienminは外出許可をもらい、タクシーでユネスコ中国事務所の星群計画オフィスに行き、所長に面会した。
恒星を買いたいと申し出たのはtienmenが初めてだった。
所有権はそれを受け取る女性の名義にしてください。
予算内で買えるのは、太陽系から286.5光年の恒星DX3906です。
tienminは天文学者の何fuu博士の車で郊外に行き、5.5等級の星を見た。
tienminの安楽死の日が来た。白い壁に囲まれた安楽室にいるのは、公証人、案内係、看護師、病院の幹部。
「あなたは自分の命を終わらせることを望みますか？ 「はい」なら３を、「いいえ」なら０を押してください」
しばらく前から、ガラス仕切りの向う側でなにか騒動が起きていた。
tienminが３を押したと同時に、安楽室のドアが勢いよく押し開けられ、安楽係員が自動注射器の電源を切り、病院幹部はコンセントから電源をプラグを引っこ抜き、看護師は注射針を引きぬいた。
ガラスの仕切りの向う側にchensinが立っていた。
chensinは思いもかけないことを言った。安楽死法はあなたのためにつくられた。
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危機元1年～4年
tiensin
三体危機が訪れたのは、tiensinが大学院研究科を出て、次世代長征ロケット用のエンジン開発研究グループに採用された時だった。
tiensinは以前から核エネルギーに関する課程を履修してきた。
国連が惑星防衛に関連する研究機関を設立しはじめ、惑星防衛理事会戦略情報局PIAは三体艦隊とその母星を偵察目標としていた。
PIAが航空宇宙技術の高度専門知識を有する人材を求めていたとき、tiensinは躊躇なくそのオファーを受けた。
tiensinが着任して二日後、PIAの第一回全体会議が開かれた。
何人かのスピーチが終わったあと、PIA長官wadeは、航空宇宙技術畑の人員を残らせて解散させて、こう言った。
PIAは三体艦隊に向けて、探査機を送らねばならない。
探査機は光速の1パーセントの速度を達成する必要がある。
sophonが飛び回ってわれわれを絶えずスパイし、基礎研究を妨害している以上、未来のテクノロジーは期待できない。
tiensinは提案した。
いまのところ最も有望なリソースは世界中に備蓄されている核兵器です。
化学ロケットで核爆弾を打ち上げ、探査機の航行ルートの第一段階に配置します。
宇宙船は羽毛のように軽い帆と探査機のみで構成し、探査機がそれぞれの核爆弾を通過した瞬間、核爆発の放射により加速します。
出席者全員がこの案に同調した。
2024.6.20
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コンスタンティヌス11世は静かに待った。
予期した瞬間に重々しく激しい振動が伝わってきた。オスマン帝国軍の巨大砲弾が城壁に大きな穴を穿った音だ。
四日前、貴重な文献と聖物を梱包させておいたが、聖杯だけが見当たらなかった。
オスマン帝国軍の主力のアナトリア軍の士官が虜囚になっていたが、彼はとつぜん痙攣して死に、1時間後、ディオレナという女が彼の脳を持ってきた。
医師が彼の頭蓋骨を切り開くとからっぽだった。
皇帝は彼女に命じた。オスマン帝国のメフメト2世の生首を持ってこい。
しかし、ディオレナはメフメト2世に近づくことはなく、皇帝の大臣の命令で殺された。
ディオレナは、人類史上はじめての本物の魔法使いだったのかもしれない。
魔法紀元は、高次元のかけらがはじめて地球に接触した1453年5月3日16時にはじまり、1453年5月28日21時、かけらが完全に地球を離れたときに幕を閉じた。
翌29日の夕方、コンスタンチノープルは陥落した。
楊冬yandonは管制センター最上階のバルコニーから、全周20キロメートルの加速器を見下ろしていた。
加速器は運用が停止されている。
yandonはあるとき偶然、母親yewenjeのコンピュータが受信したメッセージに、きわめてハイレベルな暗号化が施されていることに気づいた。
yandonは削除されたデータの一部を復元し、母親の別の顔を知った。
管制センターにいるのは青年ひとりだけだった。
地球の数理モデルで地球上で起こる変化の過去と未来をシミュレートできるという。
ねえ、あなたは神を信じる？
yandonは自分が言ったことに自分でも驚いた。
信じませんね
yandonは言った。ビッグバン時のパラメータが千億分の一ずれていても重元素は現れなかった。地球に生命が存在しうる環境は物理的パラメータが厳しい基準値をクリアする必要がある。
地球は生命を育んだけど、生命もまた地球を改変してきた。両者の相互作用の結果ですよ
生命の選択をオフにしてシミュレーションしてみましょう。
海も川もない、砂漠と巨大な盆地が現れた。
いまの地球は生命が自分たちのためにつくりだした故郷ですよ
だったら、宇宙は？
いまみたいに、生命のチェックを外したら宇宙はどうなる？
当然、いまのままだと思います。生命の影響は地球に限ってのことです。
母のあの文書によれば、宇宙は生命であふれている。
宇宙は生命によってすでにどれだけ変わってしまっているのだろう
自然は、ほんとうに自然なんだろうか。
to be continued 22:00 2024/06/20
2024.5.24
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5年後
luojii一家は車で重力波アンテナに到着した。
長さ1.5キロメートル、直径50メートルの巨大な円筒が、地面から2メートルほどの高さで浮いている。
完成以来、重力波を放射し続けていて、超新星爆発や中性子性やブラックホールが出す重力波と区別がつかない。
この重力波により、空気中の水蒸気がアンテナの上空に集まって雨を降らせているため、半径3、4キロメートルの範囲は小さなオアシスをかたちづくっている。
luojiiとjuanyenは草地の上を走りまわる娘のあとをついていった。
二人は見つめ合った。モナリザの微笑のつづきだった。
とつぜん、低次元展開したsophonが現れた。
鏡面の球体にテキストが表示された。
それが愛ですか？
だれなのか、相手が三体世界にいるのか、太陽系から遠ざかりつつある艦隊にいるのかもわからない。
あなたに抗議しに来ました。
この宇宙で愛を持つ種族は人類だけだろうと、あなたは言いました。
三体世界にも愛があります。
しかし、文明全体の生存戦略にとって利益にならないため、愛は芽生えたばかりの時点で抑圧されました。
あなたはどなたです？
わたしは、二世紀前、地球に警告を送った監視員です。
わたしはひとつの可能性について、あなたと議論したかっただけです。
もしかしたら、愛の種子は宇宙の他の場所にも存在するかもしれない。わたしたちは、その種子が芽生え、成長することを助けるべきです。
ぼくには、ある日いつか、暗黒の森にまばゆい陽光が差し込むという夢がありますよ
もうすぐ太陽が沈みますね、お嬢さんは怖くないのですか？
もちろん。あしたも太陽がのぼってくるのを知っていますから。
2巻下終わり
to be continued 14:09 2024/05/24
2024.5.22
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Wallfacerとしての職務をluojiiに強制するために、国連はluojiiの妻子の冬眠を解除しなかった。
luojiiは自分が住んでいる冬眠者居住地に住むことを求め、忠実に実行された。
二日後、luojiiはWallface計画復活後はじめての公聴会にリモート参加した。
議長が言った。
luojiiが住んでいる場所は、太陽系防衛の司令センターのひとつとしてふさわしくない。
呪文の秘密を公表してほしい、とも言った。
それは言えない。ぼくが呪文の秘密を守るのはWallfacerとしての責任です。
9機の水滴が3年後には太陽系に到達する。それに対処する態勢を整えなければならない。委員会からある任務を提供したい。
9機の水滴が太陽系に到達する予想日時は、4年前、星間雲を最後に通過した際の速度と加速度から計算されたものだ。すでに太陽系に到達している。
1号水滴とは異なり、推進システム駆動時にも発光せず、位置を特定できる電磁放射線も出していないため、航跡を見失ってしまった。
で、ぼくになにができる？
まだら雪計画を率いてほしいのです。
恒星型水素爆弾と海王星の油膜物質を使って、星間雲をつくります。
3年以内にプロジェクトを完成させるためには、あなたの地位と権威を借りてインターナショナルからリソースを引き出す必要があります。
その使命を引き受けたら、ぼくの家族を蘇生させてくれますか？
プロジェクトが本格的に動き出したときは問題ありません。
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地球インターナショナルと艦隊インターナショナルは、Wallfacer自身の発案ではないことを知っていたため、まだら雪計画は遅々として進まなかった。
しかし、それでもluojiiは独自のアイデアをいくつも提案した。
たとえば、軌道上のすべての核弾頭に小型のイオンエンジンを搭載し、一定の機動力を持たせ、また、水爆を宇宙機雷として利用し、どこに配備するかをみずから決定した。
世間は、luojiiの努力は妻子を蘇生するためだと言い、救世計画が出てこないのに苛立った。
まだら雪計画は一年半後、停滞した。
国際天文学連合の総会では、187J3X1の爆発は単なる偶然に過ぎないとされた。
大衆の目に映るluojiiのイメージは救世主から凡人へ、さらに大ペテン師へと変わっていった。
国連から授与されたWallfacerの身分はいまだ保持されているものの、luojiiにはなんの実権もなくなった。
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（読者考）：呪文はともかく、luojiiに向かってきた”水滴”が急に進路を変更して太陽に向かい、太陽を宇宙へのアンテナとして利用させなくしたのは、三体艦隊の考えだろう。であれば、かれらはluojiiの脳を読んでいることになる。
luojiiがshiichianに話している内容をsophonは聞いていたのかもしれない。
頭皮が突っ張り、巨大な手でおさえつけられたように感じたのは、”水滴”の作用がluojiiに及んで、脳内の情報をコピーされたのかもしれない。
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危機紀元208年
三体艦隊の太陽系到達まで、あと2.07光年
新生活ヴィレッジ5区の住民代表会議は、地区住民の日常生活に司法が出ていることを理由に、luojiiの立ち退きを求める決定を下した。
居住者理事会の理事長がluojiiの部屋に入ると、中はゴミの山だった。
眼球が血走り、やせ衰えたluojiiが床を見つめていた。
あした出ていきます。
ハイウェイに上がって、通りかかった車に乗せてもらったが、子どもがWallfacerの顔に似ていると言い、車は停まり、父親が降りてくれと言った。
1時間待ってluojiiは公共の無人バスに乗ったが、誰かがWallfacerだと気づき、降りるしかなかった。
雨の夜を1時間ほど歩いたあと、墓地にたどりついた。
目指す墓石が以外にもすぐ見つかった。yandonの墓という文字が鮮やかに刻まれている。yewenjeの墓も娘の墓もすぐそばにあった。
休み休み掘っているうちに夜が更けていった。210年前のあの夕暮れ時、この場所でyewenjeといっしょに星空を眺めた。
yewenjeの墓石にもたれかかっているうちに、眠ってしまった。
目を覚ますと、すでに白々と明けはじめていて、まわりの墓石を見渡すと、古代のストーンサークルの中にいるような気がした。
yewenjeの墓石に寄りかかって立ち上がろうとしたとき、墓碑の上を一匹の蟻がよじ登っていた。
もしぼくがまちがったことをしたら、どうか許してください。luojiiは蟻に言った。
上着のポケットから装填済みの拳銃をとりだした。
三体世界に話がある。luojiiはあまり大きくない声で言った。
彼らに聞こえているのはわかっていた。
luojiiは左手を上げ、手首に巻いている腕時計ほどのサイズのものをむきだしにした。
これは生体モニターで、送信機を介してゆりかごシステムとリンクしている。
2世紀前のWallfacer Ray Diasのことは覚えているだろう。このモニターが発するシグナルは、ゆりかごシステムのリンクを通じて、まだら雪計画で太陽軌道上に配備された3614発の恒星型水素爆弾に届くようになっている。
シグナルが1秒間に1回送られることで、水爆は爆発をまぬがれている。
もしぼくが死んで、このゆりかごシステムのシグナルが止まると、まもなくすべての水爆が爆発する。
すると、水爆を包む油膜物質が、その爆発によって、太陽を囲む3614個の星間雲を形成する。
太陽系外から観測すれば、太陽の可視光やその他の放射線が、それらの星間雲を通して明滅するように見える。
太陽を囲む軌道上のすべての水爆は、厳密な計算に基づいて配置されていて、太陽の明滅がつくりだすシグナルは、ぼくが二世紀前に送信したのと同じような3枚のシンプルな画像を全宇宙に向かって送信することになる。
どの画像にも30個の点が配置してあり、そのうちの一個につけられたラベルをもとに、他の2枚の画像と組み合わせることで、ひとつの三次元座標系になる。
今回発信するのは、三体世界とその周囲の恒星、合計30個の相対位置だ。
太陽は天の川銀河の灯台となって、この呪文を全宇宙に送り出す。
もちろん、太陽系と地球の位置も同時に暴露することになる。
このデータを受信できる文明は少なからず存在する。
いま、ぼくは自分の心臓の鼓動を止めようとしている。そうすることによって、二つの世界で有史以来最大の罪を犯すことになる。
自分が犯す罪について、二つの文明に深く深くお詫びする。
sophonが近くにいるのはわかっているが、あなたたちはいままで人類の呼びかけを無視してきた。われわれは二世紀にわたってこの侮辱に耐えてきた。望むならこのまま沈黙を続ければいい。
いまから30秒だけ猶予を与える。
10秒くらい経ったかもしれない。世界が四つの部分に分かれるのを見た。ひとつは周囲の現実世界。あとの三つはとつぜん地上に現れた三個の球体。
三つの球体に同じ言葉が表示された。
やめろ！
まず、銃を下ろせ、それから交渉に応じる。
では、要求を述べよ
水滴が太陽へ向けて電磁波を放射するのをやめさせろ
そのとおりにした
太陽系に向かって進んでいる9機の水滴が、ただちに進路を変えて太陽系を離れるようにしろ
そのとおりにした
人類にその真偽を確認する手段を与えてくれ
9機の探査機はすべて可視光を発している。おまえたちのLingia Fitzloy望遠鏡で観測できる
最後の条件だ。三体艦隊はオールトの雲を越えてはならない
艦隊はすでに減速を最大にしている。オールトの雲に到達する前に太陽との相対速度をゼロにすることは不可能だ
では、水滴編隊のように方向転換し、太陽系から離れろ
どの方向に針路を転換しても死に至る道だ。太陽系近傍を通過して深宇宙に入ることになる。艦隊の生命維持システムはそれほど長くもたない。
かならずしも死に至る道とはかぎらない。人類が追いついて救出できる可能性がある。
その決定には元首の命令が必要だ。
方向転換は時間がかかる。いますぐはじめないとまにあわない。
艦隊は地球時間で10分後に方向転換を開始する。いまから2年後、人類の宇宙空間観測システムは三体艦隊の進路変更を探知可能になる。
それでじゅうぶんだ
球は消えて、sophonは11次元の極微状態に戻った。
墓石のいちばん上までたどりついた蟻は、昇ってきた太陽に向かって触覚を振った。地球上のすべての生命の中で、いましがた起きたことを目撃したのは、この一匹の蟻だけだった。
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（読者考）：ふーっ。すごい結末だ。
sophonが絶えずluojiiを観測していたのは確かだった。
Ray Diasの装置と水爆の配置とがキーだったのか。
じゃあ、三巻はどうなるのか、楽しみだな
しかし、luojiiはいつか死ぬ。この装置を解除しない限り、地球の座標は宇宙に送信されて、例の恒星のように攻撃されてしまうだろう。
すると、luojiiは死ぬ前に装置を解除する。
その時期を三体艦隊が知れば、引き返してきて、今度は徹底的に地球を攻撃することができるだろう。
まあ、読者の心配は杞憂として、ここまですばらしいストーリーだった。
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to be continued when the third book is published
22:50 2024/05/22
2024.5.21
目次へ
Heinzは砂漠にひざまずく人々の群れを指して言った。
大衆の目に映るあなたには、二つの顔がある。神の信奉者にとっては正義の天使。無神論者にとっては銀河系における正義の超文明の代弁者。
luojiiはひとつだけ、現状を説明できる事態に思い当たった。
呪文が、、、効いた？
Heinzはうなずいた。
187J3X1星が破壊されました。
いつ？
51年前です。その位置にはいま、残骸の塵の星間雲だけが残っています。
破壊される過程が観測されていて、光速に近いスピードで移動する物体が、187J3X1を直撃しました。そのサイズはとても小さく、光粒と呼ばれています。
相対論効果によって質量が増し、目標に直撃したときは187J3X1の8分の1の質量に達し、恒星は破壊され、四つの惑星は蒸発しました。
じゃあ、ぼくはこれからなにをしたらいい？
WallfacerとしてWallface法の範囲内でいかなることをしてもよいです。
では、二つの要求をします。
ひとつは、すべての都市の秩序を回復し、正常な生活に戻すこと。
もうひとつは、全員、家に帰ってください。
shiichianがluojiiに言った。
まったくわけがわからん。正義の天使？ 超文明の代弁者？ 正直言って信じられん。宇宙の正義について教えてもらえるか？
いいとも、ついてきてくれ
二人はハイウェイの向う側の暗い場所に腰を下ろした。
shiichian、真実は単純なんだ。数学の公理は知ってるよね。同一平面上の二つの点を通る直線は一本だけ。
宇宙文明の二つの公理のその一：生存は文明の第一欲求である。
その二：文明は絶えず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である。
それから？
それだけだよ
この二つの公理から、銀河と宇宙の文明モデルを導きだすことができる。
宇宙の物質の総量は一定だが、生命は指数関数的に増大する。
人類世界と三体世界はとても小さい。でも。それは文明の揺籃期だからにすぎない。文明が有する技術がある閾値を超えると、生命が宇宙に広がる。
人類文明がいま有している宇宙船の航行速度に基づけば、百万年後には地球文明は銀河系全体に広がることができる。しかも、百万年というのは、宇宙規模ではほんの短い時間だ。
いま現在、宇宙全体がすでに死の手札を配られている。
Heinzが言ったとおり、文明は数十億年前に宇宙に芽生えたのかもしれない。この銀河系に、あるいは宇宙全体に、あとどれくらい空きがあるのか。占有されていない資源がどのくらい残っているのか、だれにもわからない。
二つの文明があると、その文明間には善意と悪意が存在する。
善意とは、積極的に攻撃して他の文明を消滅することはしないこと。
悪意とは、その反対。
相手の文明とコミュニケーションすることを選んだ場合、自分の存在をさらすことになる。
いちばん大きい暴露は、自分の星の正確な恒星間座標を相手に教えること。
その次は、おおまかな方向を教えること。
一番弱い暴露は、宇宙に存在することだけを知らせること。
コミュニケーションを始める段階では、相手が善意の文明であるかどうか判断できない。
重要な概念がある。それは猜疑連鎖だ。
相手が善意なのか悪意なのか、お互いにわからない状態が連鎖して行く。
地球ではこの連鎖は第一段から第二段に伸びるだけで、それはコミュニケーションで解決できる。
しかし宇宙
では猜疑連鎖がとても長く伸びてゆく可能性があり、コミュニケーションによって解決される前に、暗黒の戦いのようなことが起きてしまうだろう。
star earthの5隻の宇宙船がつくっていたのは、一種の疑似宇宙社会だ。死の手札を配られると、猜疑連鎖が出現した。
善意の文明であろうと悪意の文明であろうと、結果は同じ。
技術爆発という重要な概念がある。
現代の科学技術は、人類が三百年の間に発展させてきたものだ。宇宙の時間的なスケールから見れば、これは爆発だ。技術爆発の導火線に火が付くと、他の文明にとって大きな危険因子になる。
相手の存在を知ったあとでは、コミュニケーションも沈黙も役に立たない。
みずからの存在を曝す生命はたちまち一掃される。
これまでのところ、人類が宇宙に向かって、地球と太陽系の位置に関する正確な情報を送ったことはない。すでに送信された情報からわかるのは、太陽系と三体星系の距離と、この二つの星系の天の川銀河におけるおおまかな方向だけだ。両者の正確な位置はまだ判明していない。
じゃあ、おまえの呪文はどういうことなんだ？
ぼくは太陽を通じて、三つの画像を全宇宙に向けて送信した。
各画像を構成する30個の点は、30個の恒星の位置関係を含む3次元座標系の平面投影を示している。
この三つの画像を組み合わせた3次元座標で矢印をつけた187J3X1を確定できる。
数ある文明の中で、探査よりも攻撃の方が手間がかからず安全だという狩人が、いま現れた。
太陽というアンテナが封じられたので、もう呪文は送れない。
あのとき、三体世界を威嚇すべきだったが、決心できなかった。
to be continued 22:43 2024/05/21
2024.5.20
目次へ
yenshuuは二人の副艦長を呼び、検討した。
航路はまだ不明確だが、前方に少なくとも二つの星間雲がある。宇宙塵の抵抗により、艦の速度は光速の0.02パーセントに低下する。
NH558J2までの距離は10光年以上。その速度では到着までに6万年を要する。艦は到達しても乗員が生き延びられない。冬眠システムが持ちこたえられない。
一部の人間の死か、すべての人間の死か。yenshuuが言った。
yenshuuと二人の副艦長はjanpeihaiの船室の前に来た。
janpeihaiは四つの標的に対する武器の発射前操作をつづけながら言った。
新たな文明の誕生は、新たな倫理の形成を意味する。未来からふりかえれば、われわれのしたことはまったく正常に見えるかもしれない。だから、われわれが地獄に落ちることはないだろう。
janpeihaiは発射ボタンを押した。
同時に戦艦AltimetLawから超低周波水素爆弾ミサイル12発が他の4隻の戦艦に向かって発射された。
NatureSelectは爆発した。
追撃艦隊の他の3隻のうち、不測の事態に対する準備がもっとも整っていたのはBlueSpaceだった。
BlueSpaceはレーザー兵器でAltimetLawを爆発させた。
太陽系の反対側でも、BlonzeAgeがQuarkを奇襲攻撃し、船体を傷つけずに全乗員を殺害した。
BlueSpaceは生命反応の消えたEnterPrise及びDeepSkyにランデヴーしてすべての核燃料を運び出し、3隻の戦艦の残骸を切断して環状列石のように並べて宇宙墓所をつくり、戦いの犠牲者全員のための葬儀を行った。
BlueSpaceは、じゅうぶんな核燃料と基幹部品の予備を搭載して深宇宙を航行した。
BlonzeAgeも射手座方向に航行しはじめた。
二隻の船は太陽系を間にはさんでたがいに遠ざかっていった。
to be continued 12:22 2024/05/20
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やっぱり！
太陽系をはさんだ二つの宙域でほぼ同時に暗黒の戦いが起きたことを知ったとき、luojiiが最初に言った言葉だった。
shiichian、ぼくは人類勝利の鍵をつかんだよ
はあ？
水滴はいつ地球に着くんだっけ？
ニュースでは、10時間後か20時間後って言ってたな
水滴がなんのために地球に来るかわかるか？
ぼくを殺しに来るんだ。だから水滴が来るときはぼくのそばから離れててくれ
わはは
そのときになったら、おまえのそばにいないようにするさ
しかし、どうしたってその話、信じられないな
二人は早朝、地下都市の入り口にやってきた。
冬眠者の方ですか？ なんで下に降りるんです？ 街は大混乱ですよ
地下都市に入ると、人々は、絶望の苦しみに耐えて生気がないか、または興奮状態で快楽に浸っている。
市長はluojiiを知っていて握手してきた。
とにかく、わたしになにをしてほしいかを言ってください。
この二世紀のあいだ、気配を消していた逃亡主義が息を吹き返した。
欧州連邦に至っては、全市民の抽選により10万人の候補者を選ぶ計画を立てた。しかし、くじに外れた市民の多くが荒れ狂い、大規模な暴動が起きて、世論は一転、逃亡主義は人類に対する罪だとみなすようになった。
水滴が地球に迫るにつれ、逃亡主義に対する世間の態度は過敏になり、軌道エレベーターや宇宙基地に小型レーザー銃を持った大勢の人々が集まって、封鎖しようとしていた。
混乱は激化し、宇宙ステーションが逃亡宇宙船に改造されているというデマが大量に流れた。
中央公園の撮影映像を見ると、十万人を超える裸の人間たちのフリーセックスパーティーが行われていた。
水滴の地球到達まであとどれぐらいですか？
ニュースチャンネルに切り替えた。
水滴は減速しなかった場合、いまから4時間54分後に地球に到達します。
科学界は冷静に分析していた。
さまざまなデータから考えて、この物体はエネルギー消耗の問題に直面している。なぜなら、連合艦隊を壊滅させたのち、太陽方向への加速が非常に小さくなっている。水滴のエネルギーがゼロに近づいていることが示唆される。
ここを離れないとほんとうにこの街は壊滅する。
この男は、水滴が自分を殺すために来たと思ってるのさ、とshiichianが言った。
二人はエレベーターで地上に出て地上車に乗った。
大渋滞を抜けてハイウェイに乗り、西に向かってフルスピードで走り出した。
水滴は秒速75キロメートルで接近中で、このままだと3時間後に到達する。
地下都市からの誘導電場の強度が下がるにつれ、車の速度が落ちてくる。
この車でできるだけ人がいないところまで行ってみる。shiichianはなんとかひとりで帰ってくれ。ぼくからなるべく遠ざかるようにして。
水滴はラグランジュ点を通過して、変わらない速度で地球に向かっている。
テレビは8分後に水滴は地球に衝突すると伝えていた。
予想される衝突地点の経緯度を発表した。それは、中国首都の北西だった。
luojiiはそれをとっくに知っていた。（！）
luojiiが必死に心の空白を保とうとしているあいだ、頭皮がぴんと張りつめ、巨大な手のひらが地上の空をすっぽり覆って、自分を上から押さえつけているような感じがした。そのとき、その巨大な手がゆっくりひっこめられた。
水滴は高度2万メートルで方向を変えると、まっすぐ太陽に向かいはじめ、急激に減速した。
見上げると水滴が見えた。それほど明るくなかったが、流星のように夜空を横切り、西の空に消えた。
水滴は地球との相対速度がゼロになるまで減速して、地球から150万キロメートル離れたラグランジュ点で静止した。
監視システムによれば、水滴は宇宙空間に静止している。尾部の推進光輪は消え、まるい頭部は太陽の方に向き、陽光を反射していた。
最終的な分析結果によれば、水滴は絶間なく太陽に向かって強力な電磁波を出し続けている。その強さは太陽の増幅限界をはるかに超え、周波数は太陽が増幅できる全帯域をカバーしている。
luojiiは大笑いした。
重要なのは太陽だった。
いま以降、人類が太陽というスーパーアンテナを通じて宇宙に強力なメッセージを送ることは不可能になった。
shiichian、ぼくらはこの先、自分の人生を歩める。いまほんとうに、すべてが終わったんだ。
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（読者考：わからない。なぜこの結果になったのか。巨大な手のひらとは？）
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なんか妙だぞ、shiichianが言った。
ハイウェイを降りると、目の前に奇怪な景色が広がっていた。
けばけばしい異様な人間たちが車の前に立ちふさがった。
彼らの衣装に映像が映っている。
luojiiの写真だ！
主よ、世界を救いたまえ！
正義の天使よ、人類をお救いください！
一人の人間が歩み寄ってきた。
Heinzだった。
luojii博士、わたしは先ほど、国連Wallface計画委員会から、あなたの連絡担当官に任命されました。
Wallface計画は復活し、あなたはただひとりのWallfacerに指名されました。
to be continued 22:40 2024/05/20
2024.5.19
目次へ
star earthの第2回国民総会で、janpeihaiが発言した。
憲法の基本原則を決めなくてはいけない。
長い旅路の間に、独自の科学技術を発達させ、艦隊の規模も大きくする必要がある。
われわれは宇宙空間という過酷な環境を旅している。
janpeihaiは満場一致で統治委員会議長に選出された。この決議に対して国民投票が実施され、100パーセントの賛成票を得た。
しかし、janpeihaiはこの任命を辞退した。
わたしを艦長代行に戻してほしい。
艦長はきみだ。
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star earthの現在の最大の敵は、ノスタルジアN問題だった。これは集団心理的な災厄を引き起こす潜在的な可能性がある。
主任心理学者lanshiiは考察し、N問題は心理的な暴走には程遠かった。大敗した地球や太陽系は心の支えにはならなかった。
その後、長時間ひとりで考えにふけって過ごす者が増えてきた。
この環境では、人間は非人類になる、とyenshuuはlanshiiに言った。
状況は悪化の一途をたどった。ナビゲーションシステムを担当する中佐が、同じ船室に住む将校を銃で撃った。被害者の記憶によれば、その中佐は夜中にとつぜん目を覚まし、被害者も起きているのに気づくと、寝言を盗み聞きしたと非難し、口論の最中に興奮して発砲したという。
lanshiiはその中佐とすぐ面会したが、彼は、寝言を言ったからと言って、それがなんだ！とlanshiiの首を強く締めたので、憲兵が入ってきてやっと引き離した。
lanshiiは戦艦Enterpriseの心理学者Scot大佐に連絡したが、彼は疲れきった声で、エデンの園は暗黒がすべて呑み込むだろう、と言った。
二日後、戦艦Altimet lawの艦長が銃で自殺した。
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Altimet lawの艦長の自殺を知らされたあと、yenshuuは二人の副艦長を緊急招集した。
うしろからyenshuuに声をかけたjanpeihaiの悠然とした様子に、yenshuuは嫉妬さえ感じた。
最近どうもきみたちの様子がおかしい、なにが起きてる？
その質問はほかの人間にはしないでください。
なぜ？
とても危険だからです
どんなことだろうと、自然にまかせろ。それで万事うまくいく。
to be continued 22:42 2024/05/19
2024.5.18
目次へ
二隻の戦艦のほかにも、この大虐殺から生還した人々が少数いた。
母艦が破壊される前に小型宇宙艇や戦闘機に乗って脱出した人々だ。
”水滴”は小型艦艇には襲ってこなかったが、高速で飛来する破片で一部は破壊された。生き延びた小型艇や戦闘機は、天王星軌道の外側を数日間さすらい、民間船に救出された。
3年後には同じような探査機があと9機太陽系に到達する。
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15時間も眠ってjanpeihaiは目覚めた。
通路の突き当りまで来てドアを開け、艦内で最大の球形ホールに入った。
五千人以上の目が彼に集中した。
艦長たちが順番に敬礼し、最後にyenshuuが敬礼した。
あなたが人類のために救った5隻の宇宙戦艦が、現在、人類が保有する宇宙艦隊の全てです。どうか、指揮官になってください。
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現実がようやく精神印章と一致して、Heinzは正気をとり戻した。
艦隊が壊滅した映像が20天文単位の彼方から3時間を経て地球に伝えられたとき、一般大衆は絶望し、一切の社会秩序が失われてしまった。
shiichianの住む冬眠者コミュニティでは、彼より地位の高い役員が辞職するか、精神を病んだので、行政当局はshiichianを臨時の地区行政長官に任命した。
さいわい、地下の都市部にくらべてここはまだ安定を保っている。
もし、人工環境システムに問題が起きたら、地下都市の住民が地表に押し寄せてくるだろう。人口の少ないところに移民を考えた方がいい。
”水滴”が地球を攻撃しますかね？
そんな心配してどうなる。しかし、そうなるまでは生活していかなきゃならん。
そのとおりだ。心配するだけ無駄だ、と黙り込んでいたluojiiが言った。
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人類に残された宇宙戦艦は、NatureSelectと追撃艦4隻の計5隻のグループと、殲滅戦を生き延びたQuarkとBlonzeAgeの2隻。
この二つの小艦隊は太陽をはさんで、ほぼ反対の方角に向かって航行していた。
ホログラフィーに向かってjanpeihaiは小艦隊の全員に言った。
同志諸君、われわれは地球にはもう帰れない。
われわれは今はもう、一個の独立した社会だ。この世界に名前をつけるべきだろう
starship earthと呼びましょう、とyenshuuが言った。
いまからわれわれはstarship earthの市民だ。今この瞬間は人類文明の第二の出発点かもしれない。
翌日、starship earthは第一回市民総会を招集した。
まず現在の航路を維持することで一致した。方角は白鳥座方面。janpeihaiが設定したNH558J2という恒星が目的地だった。
そこには二つの木星型の巨大惑星があり、人類の生存には適していないが、核融合燃料は補給できる。
違う方向に、1.5光年遠いが、惑星を持つ恒星がもう一つあり、観測によればその惑星は地球に近い自然環境を有している。
現在の速度で航行すれば、いまから2000年後に到達できる。
この決議は太陽系に送信され、国連と艦隊連合会議は、はっきりした態度を示さなかった。
この結果、人類世界は三つのインターナショナルに分けられることになった。
地球インターナショナル、艦隊インターナショナル、そして、starship earth。
to be continued 23:00 2024/05/18
2024.5.17
目次へ
艦の権限移譲の認証は昔と変わらず、瞳孔、指紋、パスワードで行われた。
janpeihaiが認証を始めて5分が過ぎた。
パスワードをリセットするだけにしては時間がかかりすぎる。
ああ、まさかそんな、神さま！
yenshuuが小さな驚きの声をあげた。
艦はすでに第4速に先立つ乗員の深海状態確認を必要としない無人リモート制御モードに設定され、外部との通信を完全に遮断している。ボタンをあとひとつ押すだけで、星図に設定された目標に向かって第4速で航行しはじめる。
janpeihaiが命令した。艦はまもなく第4速に入る。総員ただちに深海状態に入れ。
あなたは刻印族だったの？ それともETO？
違う。加速が完了したら説明する。総員、深海状態に入れ！
yenshuu、いつかきみを殺さなければならない日が来たら許してくれと、前に言ったはずだ。もうあまり時間の余裕がない
彼の言うとおりにしなさい、艦長が言った。
深海加速液に保護されないまま第4速に入ったら、体は重力の120倍の力を受けて即死する。
janpeihaiは深海加速液の中に浮遊しながら、インターフェイス画面の最後のボタンを押した。
艦は第4速に入った。
**************************************************
木星の軌道上にとつぜん小さな太陽が出現し、この小さな太陽を背にして艦NatureSelectはゆっくり出航し、その後、急激に加速した。
艦が向かっている方向は、三体艦隊がやってくるのとはまったく反対の方向だった。
反逆逃亡だ！
追撃艦隊も深海状態に入る必要があり、45分遅れて出航した。
NatureSelectは光速の100分の1まで加速した。
アジア艦隊司令官はjanpeihaiと十数秒の遅れで会話した。
反逆の理由は？
離脱したのは事実ですが、反逆ではありません。
理由は？
この戦争で人類はかならず負ける。わたしは地球のために恒星間宇宙船を一隻、温存したいだけです。
だとすればきみは、逃亡主義者ということになる。
わたしはみずからの責任を果たそうとする一軍人にすぎません
精神印章を受けたのか？
わたしが冬眠したとき、その技術はまだ存在しませんでした。
とうてい理解できない。
三体危機の初期、父と私のまわりに学者が集まり、討論し、彼らの研究を通じて、わたしの人類敗北思想が確立しました。
しかし、現在の状況を見れば、その思想が誤りだったことは明白ではないか
司令官、あなたは彼らを過小評価しています。彼らは大峡谷時代、第二次啓蒙運動、第二次ルネッサンスも予言し、文明大隆盛時代の予言は、いまの現実とほとんど変わりません。そして彼らは、終末決戦において人類が徹底的に敗北し、絶滅することを予言したのです。
しかし、きみが乗船している宇宙船は光速の15パーセントで航行できるのだぞ
それだけでは対抗できません。滅亡前の一次的な隆盛で生まれた低レベルの技術に目がくらんでいるだけです。まもなく訪れる人類の命運をかけた最終決戦に向けて、精神面の準備がまったくないではありませんか。
反逆逃亡計画はいつ生まれたのだ？
自分は反逆していません。ですが、逃亡は事実です。
きみの計画は失敗する。核融合燃料は、容量の5分の1しかない。
艦は光速の100分の1までしか加速できない。稼働時間は短くて二、三十年、長ければ二、三世紀になる。追撃を受けて艦が加速すれば燃料を使い果たすだろう。
わたしは、それでもなお、艦は正しい進路にあると信じています。
**************************************************
luojiiは新生活ヴィレッジ5区で暮らしはじめている。
妻と娘の蘇生手続きは済んでいるが、蘇生予定は2か月後になっていた。
テレビニュースで、三体艦隊が七度目の星間雲を通過したと報道していた。
三体艦隊はすでに加速と巡航の期間を終えている。10年前には過半数が減速状態に入った。
一隻の艦船だけがまだ加速状態にあり、このまま加速を続けると艦隊本体よりも半世紀早く太陽系に到達する。
考えられることは、この艦船の目的は、太陽系を通り抜けるまえに、交渉団が乗った小型シャトルを射出するということだった。
しかし、交渉したいのなら、なぜsophonを使わないのか、とshaominに訊いてみたら、思考様式の違いで、自分の思っていることは、われわれも知っていると思ってるからですよ
新しいニュースでは、三体世界に交渉の意思があることを示す決定的な証拠はまだみつかっていないと言っていた。
夜のニュースが入ってきた。
艦隊インターナショナルが、アジア艦隊、ヨーロッパ艦隊、北米艦隊に属するすべての恒星級戦艦2015隻で連合艦隊を編成して出撃し、敵探査機を海王星軌道で捕獲します。
木星基地からライブ映像が届き、人々は興奮し、歓呼の声をあげた。
to be continued 17:56 2024/05/17
（読者考：これから恐ろしいことが起きるのではないか。探査機は反陽子爆弾を搭載していて、二千隻の地球艦隊を一瞬のうちに壊滅する！生き残るのはNatureSelectのみ）
**************************************************
shiichianは最近、新生活ヴィレッジ5区の警察長官に任命されていた。
彼は巨大なホログラフィックテレビを見て浮かれ騒ぐ人々を眺めている。
shiichianがHeinzに気がついた。
あなたを探しに来た、とHeinzが言った。
われわれ二人だけがわかりあえるから。
奥さんは？
彼女は鉄鉱石のかたまりのあった部屋で自決しました。
死ぬ前にわたしに向かって言いました。人類が勝者となるにもかかわらず、あなたは敗北主義者を精神印章されて生きるのだから。
しかしわたしは人類の勝利を信じることは、水を飲めると信じることよりむずかしい。
**************************************************
NatureSelectは光速の1パーセントでおおよそ白鳥座の方向を航行していた。
追撃艦隊が120万キロメートルの距離まで迫ってきています、とyenshuuが言った。
きみが全艦を深海状態に保ったのは賢明な判断だった。
そうしなければ興奮した将兵がこの船室を襲撃したでしょう。
あなたの考えていることが全然わかりません
あなたの逃亡計画に、もうどんな希望もありません。投降してください。
すべての責任はわたしが負う
**************************************************
dinyiiは戦艦Qwarkで外を眺めていた。
彼は7年前に冬眠から蘇生し、北京大学で教鞭をとったのち、探査機を実地調査する候補にあがった。
長方形の隊形の艦同士の間隔は約20キロメートルになる。
通常の巡航隊形では、300から500キロメートルが望ましいとされているので、かなりの密集隊形だ。
現在、敵の主力は2光年の彼方にある。
探査機の大きさは全長3.5メートルの涙滴型で、頭部が丸く、尾部が尖っていて、全反射鏡面の美しい形だった。その表面は可視光を含む高周波電磁波を100パーセント反射する。
質量は高精度重力計による概算では10トン以下。
dinyiiが艦長に訊いた。
わたしたちが実地調査に出発したあと、このQwarkを深海状態に移行できますか？
なぜですか？
いやな予感がするんです
捕獲が失敗して長距離にわたり追跡する場合があるとして、深海状態への移行を艦隊から許可を受け、恒星級戦艦二隻が深海状態に入ることになった。
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探査機が自爆する可能性について様々な推測がなされていた。
考慮すべき最大規模の爆発は、質量5トンづつの物質と反物質の対消滅だろう。
このような対消滅が仮に地球上で起こったら、すべての生命を消滅させるだろう。
宇宙空間の場合は、1000キロメートルの距離があれば安全だ。
小型無人宇宙船が探査機に接近し、ロボットアームで船内に格納した。
2時間過ぎたがなにも起こらなかった。
探査機が自爆しなかったという事実によって、三体世界に対する世間の感情は微妙に変化しはじめた。
国連と艦隊は和平交渉の準備を加速させ、人類代表団を共同で組織することになった。
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NatureSelectは探査機が自爆しなかったという情報を受け取った。
では、艦長権限を引き渡していただけますか？
いいだろう。だが、権限を取り戻したら、どうするつもりだ
減速して追撃艦隊と合流します。
減速するな
なぜです？
減速すれば艦の燃料を使い果たすことになる。なにが起こるかわからない。
戦争はまもなく終わり、人類が勝利します。そしてあなたが完全にまちがっていたと証明されます。
わたしはリアリストだ。わかっているのは、敵がまだ存在し、太陽系に迫りつつあるということだけだ。減速するな。これが艦長権限を引き渡す条件だ。もちろんわたしとしては、きみという人間を信じるしかないが。
約束します。減速しません
ありがとうございます。しかし、しばらくは船室から出ないでください。乗員たちは覚醒しはじめています。過激な行動をとるのではないかと心配なので。
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探査機の調査チームは四名で構成され、dinyiiと助手のshiizと二人の将校だった。
調査チームのシャトルは探査機を格納している艦にドッキングし、一行は実物を見た。
まるで聖母の涙ですね、とshiizが言った。
表面を電子顕微鏡で観察したが、倍率を1000万倍にしても滑らかな表面しか見えなかった。
dinyiiは推測した。
こいつの分子は自身の震動さえ押さえつけて、絶対零度になっている。
dinyiiはとつぜん、逃げろ！と言った。
撤退！ 全艦撤退！
強力な電波干渉がすべての通信チャンネルを遮断した。
探査機の尾の先端に青い光輪が出現して、急激に大きくなり、青色から黄色へと変化し最後に赤色になった。
尾部から次々と光輪が現れて消え、その頻度は1秒間に二、三回で、それらが生み出す推進力で探査機は急加速した。
艦船が蝋のように溶け始めたかと思うと白熱して爆発した。
探査機が自爆したというのが当初の判断だったが、飛散した破片の中にひとつだけ加速している物体があった。
爆発してからまだ51秒しか経過していなかったが、この物体”水滴”は第3速を超え、30度の鋭角でターンして、戦艦InfinitFrontiaに衝突して灼熱状態にし、つづいて次々と他の戦艦の核融合燃料室を貫き、核の火球が膨張していった。
100隻の戦艦が1分もかからず爆発した。
1分21秒後、第2列の戦艦100隻も一隻残らず破壊された。
”水滴”はジグザグに進んでもスピードは落ちず、秒速約30キロメートルで飛んだ。
”水滴”が第3列の全艦を破壊するのに要した時間は2分35秒だった。
13分間で連合艦隊の600隻以上の戦艦が破壊された。
艦同士の間隔が広がるにつれて、”水滴”は加速し秒速60キロメートルになった。
戦艦同士の衝突事故が多数発生し、また、”水滴”から逃げるために深海状態にすることなく戦艦を第4速に進入させて全員を即死させた艦もあった。
このときすでにたった20分間の攻撃により、連合艦隊の半数を超える千隻以上の戦艦が破壊されていた。
30分後、戦艦はもはや一隻も残っていなかった。
”水滴”はQuarkとBronzeAgeの逃げ去った方向へと加速したが、短時間で追跡を放棄した。すでに遠すぎ、相当なスピードに達していたからだ。
この2隻の戦艦だけが殲滅戦を生き延びた。
”水滴”は太陽の方向へと飛び去った。
to be continued 23:19 2024/05/17
（読者考：恐ろしい結果だった。janpeihaiの鉄の判断は正しかった）
2024.5.16
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shiichianの家は最上階にある。leafと呼ばれている広々とした家で、ジムや噴水付きの屋内ガーデンまであった。
退職扱いになったよ、とshiichianが言った。
刑務所に入っていた息子がまだ生きている。出所後、あいつも冬眠したんだ。明日こっちに来るそうだ。
shiichianはluojiiを高級レストランに連れて行った。ウェイトレスたちは美しいロボットだったが、動作はまだ人間的でない。
家に戻って、shiichianはluojiiのために睡眠薬をネットで注文した。数分後、小型の配送エアカーが透明な壁の外にやってきて、細いアームを延ばし、壁のポータルに薬を届けた。
luojiiが薬を飲もうとすると、shiichianが制止した。薬の名前が違うと言う。
ネットで医師を呼び出して問い合わせると、処方箋のいる薬で、短期用の冬眠薬と言われた。服用後、体内の循環機能全体を維持するシステムが必要です。この薬を飲むだけだったら確実に死ねます。よく自殺に使われます。
玄関ドアのベルが鳴った。私服刑事だった。三人が部屋に入り、他の二人は部屋の外の警戒に当たった。リーダー格の刑事が、公安局デジタルリアリティ課のguojonminですと言った。
実はお二人の行動はずっと追跡していました。今回の件はこちらの不注意です。
Killer5.2というネットワーク・ウィルスの一種で、危機紀元1世紀ごろ、ETOがはじめてネットに放ち、以後、変異とバージョンアップを繰り返している殺人ウィルスです。
このウィルスは、人間の体内に埋め込まれているIDチップを利用してターゲットを発見し、あらゆる外部ハードウェアを使って殺害を試みます。
Killerウィルスが出現した当初、多くの人を殺しました。国家元首も含まれています。
しかし、ウィルス対策プログラムとファイアウォールによって抑え込まれ、しだいに消えていきました。いまこのバージョンのKillerはluojii博士を攻撃するためだけにプログラムされたもので、博士が冬眠状態にあったため、潜伏していました。
偽の身元を与えても絶対に安全ではありません。一世紀前、保護対象者に偽の身元を与えたところ、Killerは標的の幅を広げ、標的本人を含む百人以上を殺害しました。
個人的に推薦したいのが、お二人に地上で生活していただくことです。地上にはKillerが操作できるハードウェアがありません。
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アジア艦隊木星基地で、未来増援特別分遣隊janpeihaiは冬眠から覚醒し、その六日目に、アジア艦隊司令官に会った。
いま、あなたがたが持っている知識を学ぶために覚醒してもらいました。chanweisuu中国宇宙軍司令官からよろしくことづかりました。
あなたがたが出発したあと、宇宙軍は未来増援分遣隊をさらにいくつも冬眠させました。最終的に、まだ冬眠状態にある未来増援分遣隊は、あなたがただけになった。
敗北主義は事実上消え失せていたから、あなたがたを目覚めさせる必要もなかったので、艦隊は終末決戦まで温存することを決断しました。
しかし、現在の状況は、終末決戦が起こらない可能性さえあります。
特別分遣隊全員の階級は一階級か二階級上がることになり、きわめて重要な使命を果たしてもらうことになります。
最近の調査によると、刻印派の痕跡はあいかわらず確認されていない。もし、刻印族が存在するとしたら、宇宙への逃亡を究極の使命とするはずです。そしてこの目標を実現するために、自分たちの真の思想を隠さなければならない。
三体艦隊の探査機が太陽系に間近に迫っているいま、かれらの動きはとても危険です。
精神印章が脅威となるのは、分散型指揮システムではなく、集中型指揮システムです。
現在、三大艦隊は、三体探査機を拿捕する作戦の準備を進めています。
艦隊司令部は、集中型指揮システムの艦長権限をあなたがたに任せるという決断をくだしました。
あなたがたの任務は、本来の艦長の命令が正常かどうかを判断し、正常であればそれを管制システムに伝達することだけです。
指揮システムには艦長代行からの命令のみを受けつけるようにしなければなりません。
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アジア艦隊木星基地には現在、アジア艦隊の全艦隊の三分の二に相当する400隻の艦船が停泊している。
参謀長によれば、三大艦隊は、敵探査機の要撃任務を勝ちとろうと競い合い、軋轢が生じている。そこで、各艦隊が保有する艦船のすべてを基地に戻し、専門委員会がその行動を監視することになった。
janpeihaiが乗ったシャトルはアジア艦隊第三艦隊の巨大な旗艦に接近した。
最新の非媒質型核融合推進システムを搭載し、最大出力時には光速の15パーセントまで加速でき、超長時間の連続航行が可能だ。
兵器システムは、ガンマ線レーザー砲、電磁エネルギー砲、高エネルギー粒子ビーム、恒星魚雷からなり、これらの攻撃兵器は、地球サイズの惑星の表面を焼き尽くすことができる。
janpeihaiと参謀長は旗艦に乗船し、サッカー・フィールドほどの直径がある巨大な球体の中に入った。
球の中心部には二千人の将兵が隊列を組んで浮かんでいる。
艦長のyenshuuです、と女性がjanpeihaiに敬礼した。
もしわたしがほんとうに敗北主義思想と逃亡主義を奉じていたら、この銃でわたしを射殺してください
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to be continued 10:04 2024/05/16
shiichianとluojiiは、エレベーターに乗って300メートル以上の厚さの岩盤層を抜け、密閉ドアを開けると熱い風が吹きつけてきた。
空は黄色だった。太陽は輪郭のはっきりしないぼんやりした輝きにしか見えない。
旧時代のマンションが一棟建っていた。一部の部屋には人が住んでいるらしい。
shiichianが見知らぬ中年男性に歩み寄り、腕を回して背中を叩き合っている。
shiichianの息子のshiishaominだった。
三人は停めてあった車に乗った。車のルーフには大きな板があり、地下都市から漏れてくる電気を拾うアンテナだ。
shaominの妻は9歳年下で、危機紀元21年に肝臓がんを患い、未来の治療のために冬眠して、いまはとても健康だという。
冬眠者は国からの補助金で快適に暮らせるが、このあたりの人は農場で作った農産物を都市部に売って、結構金になる。
近所の人が三人呼ばれて賑やかな食事が始まった。
食事が終わってから、shaominが説明した。
父さんたちが冬眠してからの十数年はまあまあの暮らしだったが、そのあと、世界経済の環境変化が急すぎて戦時中みたいな飢餓状態になった。
環境変化は重要な要因だが、悲観的な空気が支配して、環境保護運動はETO以上に反人類的な行為とみなされ、弾圧されました。
宇宙軍強化に向けて重工業が急速に発展した結果、環境破壊を止めることは不可能になり、温室効果、異常気象により地球は砂漠化していった。
大峡谷時代という悲惨な時代が半世紀ほど続いて世界人口は83億から50億に減り、未来がどうあれ、文明に歳月を与えるより、歳月に文明を与えよ、という格言が流行して、第二次啓蒙運動、第二次ルネッサンス、第二次フランス革命みたいなのが世界中で起きた。
この大革命のあと、新たに出来た各国政府は、宇宙戦略計画をすべて中止し、市民生活の改善に全力を注いだ。遺伝子工学と核融合エネルギーにより大規模な食糧生産が始まり、人類が飢餓に襲われることはなくなり、わずか20年あまりで、生活水準は大峡谷時代前に戻って、その後、黄金時代のレベルになった。
冬眠前まで経済学者だった隣人のひとりが言った。
文明免疫と呼ばれるものです。人類世界が深刻な病気にかかったら、文明の免疫システムにスイッチが入って、危機時代初期のような事態は二度と起こらなくなる。人道主義が第一、文明存続は第二という考え方が現代の社会基盤です。
shaominが続けた。
三体危機のことは頭から消え去り、あらゆる分野で急速な進歩が始まって、なかでもテクノロジーが急速に進歩しました。
これが半世紀ぐらい続いたあと、世界は三体文明の侵略のことを思い出し、人類は戦争に向かうべきだと考え始めました。
世界はふたたび戦時体制に入り、宇宙艦隊の建設を宣言しましたが、どの国も宇宙戦略計画に消費する資源に制限をかけました。宇宙艦隊はちょうどその時期に独立国家になりました。
luojiiはいい話をしてくれた人たちに礼を述べたあと、心の中ではyenと娘のことを思っていた。できるだけ早く覚醒させたかった。
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to be continued 15:17 2024/05/16
旗艦に乗艦したjanpeihaiは、現代の指揮システムが想像以上に発達していることを知った。巨漢の体積は21世紀の空母三隻分に相当しているが、操縦室も司令室も艦長室もなく、船室は同一規格のサイズの違う球体だった。
システム権限さえあればどこにいても艦長以下、各レベルの指揮インターフェイスを自由に呼び出せる。
いま、janpeihaiとyenshuuは同じ船室にいる。
では、いまから最初の艦上訓練をはじめます、とyenshuuが言った。
ホログラフィック・ディスプレイに映し出された星図は、半径百光年以内のすべての天体の位置を正確に示しています。
もしわたしが刻印族でこの艦を乗っ取って宇宙に逃亡しようとする場合、最初に方向を選ぶ必要があります。こんなふうに、、、
わたしは先輩が艦長権限を取得した時点で、あなたを通してこの操作を行うことになりますが、もしわたしがほんとうにその操作を要求したら、あなたは拒否し、艦隊司令部に通報すべきです。
もしわたしが刻印族だったら、推力をいきなり第4速に設定して三大艦隊が追いつけないようにします。
それは不可能だな。加速の前に乗員全員を深海状態にして加速Gに耐えられるようにしなければならない。
それを迂回する方法があるのをご存知でしょう？ 艦をリモートモードにすれば、システムは艦内の人間チェックを行いませんから。
とつぜんyenshuuが、わたしの目をきれいだと思いますか？ と言った。
娘の目みたいだよ
お嬢さんと奥さんはいっしょに来なかったのですか？
わたしが来ることにも反対し、妻は娘を連れて出ていった。妻は危機紀元47年に、娘は81年に亡くなった。
もしいつか、わたしがきみを殺さなければならない日が来たら、どうか許してくれ
わたしが刻印族に見えますか？
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探査機が消えました！という報告に、Kuhn博士とRobinson少将は衝撃を受けた。
最新の速度観測結果によれば、探査機は6日後に木星の軌道を通過するはずだった。
いま二人は、小惑星帯外縁の太陽周回軌道上に位置する観測ステーションにいる。
探査機が消えたというのは、探査機がエンジンを停止したことを意味する。
エンジンが停止すると光は消え、もはや宇宙望遠鏡では小さすぎて観測できない。
探査機のコースを計算して進路を予測できないですか？
精度が低すぎる
艦隊側には利用できるものはない
地球側では、新たに探査機追尾のための小型宇宙艇3隻がすでに出発していた。
二世紀前、Wallfacer Ray Diasが自身の戦略計画のために恒星型水素爆弾を開発したときに予言したとおり、人類間の宇宙戦争に備えて保有することを望んだ。
新時代に入ると、5000発以上のこの恐ろしい兵器は宇宙空間で保管されることになった。その一部はすでに他惑星の爆破工事に使用され、また、長距離宇宙船の燃料補充用に太陽系外縁の太陽周回軌道に投入されている。
海王星軌道の近くに危機時代初期の恒星型爆弾があった。海王星の環に存在する油膜物質を核爆発によって宇宙空間に蒸発・拡散させ、”油膜塵”の傘を形成すればいい。
そうすれば人工星間雲に残した航跡から位置とコースを正確に測定できる。
巨大宇宙船Pacific Oceanが海王星からこの宙域に到着し、搭載していた恒星型水素爆弾と、油膜物質を格納した直径30メートルから50メートルの四つの球体を、配置した。
Pacific Oceanが現場宙域を離脱したのち、恒星型水爆が爆発して油膜気体が急速に拡散し、さしわたし200万キロメートルの星間雲を形成した。
Pacific Oceanは帰還する際、船内に格納されていた小型宇宙船3隻を残した。探査機が航跡を残して去ったら追尾できる。
Blue Shadowはそのうちの一隻だった。
観測ステーションからBlue Shadowにメッセージが届いた。
三体文明の探査機はすでに星間雲に入り、航跡を残した。Blue Shadowは近距離から追尾せよ
Blue Shadowは一万四千キロメートルの彼方に三体文明の探査機を発見した。探査機はエンジンに再点火し、ふたたび減速を始めている。太陽系を通りぬけず、ここにとどまろうとしている。
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to be continued 21:44 2024/05/16
2024.5.15
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応接室でluojiiはヨーロッパ人風の男性と会った。
太陽系艦隊連合会議SFJCの特別理事、Ben Jonathanと名乗った。
あなたの蘇生はSFJCの指示でわたしが手配しました。
これからわれわれは、Wallface計画に関する最後の公聴会に出席することになっています。
しゃべる言語は中国語と英語が融合したようなものになっていた。
（過去はいまもなお、自分のところを訪ねてくる）
Jonathanが壁の表面をタップすると、周囲の壁と天井が消えて議場のホログラフィー映像に切り替わった。
会議までの時間のあいだに、Jonathanがluojiiに説明した。
ヨーロッパは欧州連邦と呼ばれるひとつの国になりました。ロシアはベラルーシと統合してロシア連邦になりました。
カナダはフランス語圏と英語圏に分裂し、二つの国になりました。
大きく変化したのは主にこれらの国々だけです。
いまはもう覇権国家はなく、宇宙艦隊が国家を超越した存在になっています。
太陽系にはアジア艦隊、ヨーロッパ艦隊、北米艦隊があり、領土と主権の範囲は宇宙に限られています。
三大艦隊は太陽系艦隊を構成し、PDCから発展したSFJCは名目上の最高司令機関となっていますが、実権はそれぞれの最高司令部が掌握しています。
新しいウィンドウが開き、Heinz夫妻の映像が現れた。
二人の外見は以前と変わりがなかった。
わたしもさっき覚醒したばかりだ、とHeinzが笑みを浮かべて言った。
きみが呪いをかけたあの惑星が、まだ50光年彼方の恒星のまわりを回っていると聞いたよ。
成功したWallfacerはあなただけのようですね
いや、それは実現しなかった。われわれが冬眠に入って間もなく、思考に関する研究は量子レベルにアプローチすることを意味し、sophonの壁にぶつかった。なにか成し遂げられたとすれば、一部の人間の自信を強化したことぐらいだな
ウィンドウが消え、議場は満席になっていた。出席者のほとんどは軍服姿だった。
SFJC議長は輪番制で、現在の議長は文官だった。
議長が発言した。
北米艦隊とヨーロッパ艦隊が合同で提出した649号議案について、最終評決を実施します。
三体危機紀元二年、PDCはWallface計画を策定し、翌年より始動させました。四名のWallfacerがそれぞれ完全に独立した状態で黙考することで、sophonによる人類社会の監視をかいくぐって計画の秘匿性を担保しながら、三体世界の侵攻に対する戦略計画を立案・遂行することにあります。
国連はWallface法案を提出し、策定した計画を実行する特権をWallfacerに保証しました。
Wallface計画は200年にわたり実施されてきましたが、その中には一世紀に及ぶ長い停滞期が含まれています。
Wallface計画が戦略計画として完全に失敗だったことは歴史が証明しています。
人類社会が行った、史上もっとも幼稚で、もっとも愚かなふるまいだったと言っても過言ではないでしょう。
Wallface計画の実行プロセスの中で、大量の戦略資源が無意味に消耗されました。
Wallfacer Frederic Taylorの編隊計画はいかなる戦略的意義もなかったことがすでに証明されています。
他の二名のWallfacerも、同様にわれわれを失望させました。
Wallfacer Heinzの精神アップグレード計画の戦略意図はまだ明かされていませんが、その予備段階の産物である精神印章が宇宙軍で使われたことも、やはり犯罪を構成します。
これは、人類文明の生存及び進歩の基盤となる思想の自由に対する深刻な侵害です。
Wallfacer luojiiに至っては、無責任にも公共の資源を使って享楽的な生活を送り、その後は大衆の前でばかげた神秘主義的ふるまいを演じました。
Wallface計画はもはやあらゆる意味を失っています。人類史の負の遺産とも言うべきこの問題に、ピリオドを打つ時が来ました。
SFJCは、ただちにWallface計画を中止し、同時に国連のWallface法を廃止すべきであると考え、ここに本議案を提出します。
すべての出席者が手を挙げた。
第649号議案は全会一致で可決されました。いまこの瞬間から発効します。
Wallfacer Bill Heinz 及び Wallfacer luojiiに通告します。あなたがたのWallfacerの身分は解除されました。Wallfacerとしてのすべての権利及び付随する法的免除特権は無効となり、それぞれの国の一般市民としての立場が回復されます。
特別理事が言った。
luojii博士、これはまさにあなたが願っていたとおりの結果でしょう
ええ、ありがとうございます。一般市民の身分を回復してくれたSFJCに感謝します。妻と娘は無事でしょうか？
いまはまだ冬眠中です。覚醒申請を提出すればいいですが、ご自身の生活が安定してからがいいと思います。
この時代は社会福祉が完璧で、何もできない人でも快適な生活が送れます。お仕事については、大学のほうで考えてくれるそうです。
ETOがぼくを殺そうとしているのでは？
ETOは一世紀も前に完全に消え失せました。ETO的な思想を持つ人間はいまだに存在しますが、もう組織的活動は不可能です。あなたは100パーセント安全ですよ。
博士、わたしが知っている歴史上の人物の中で、ユーモアのセンスはあなたが一番ですよ
もう一般人なんだってな、兄弟
振り返ると、shiichianだった！
to be continued 16:27 2024/05/15
shiichianは二か月前に蘇生し、白血病は完治したという。
luojiiはオートマチックフリーサイズのジャケットを着せられて、一緒に木の幹にあるエレベーターで一階に降り、その木の根元の広いホールを抜けて新世界に踏み出した。
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特別理事が公聴会のホログラフィー映像を閉じてから、一般人になったluojiiには見ることができなかったが、Heinz夫人が発言しようとしていた。
WallfacerではないHeinz夫人には傍聴が許されているだけだ、と議長は言った。
Heinz夫人は言った。
Wallfacer Bill Heinz、わたしはあなたのWallbreakerです。
あなたの組織はもうとっくに存在していない。
しかしわたしは、地球三体協会のメンバーとして、主のために、責任をまっとうしたいと思います。
もっと早く気づくべきだった。Heinzの声は震えた。
精神印章こそあなたが最初から求めていた最終目標だったのです。
質問しますが、われわれが冬眠に入ってから、精神印章になにが起こりましたか？
当時、各国の宇宙軍から5万人近い兵士がみずから望んで精神印章を受け、やがて刻印族と呼ばれるようになった。
その後、あなたがたが冬眠に入って10年ほど経ってから、精神印章は思想の自由を侵す犯罪行為であると国際法廷で判断され、信念センターに1台あった精神印章マシンは封印された。
みなさんが知らないのはマシンは5台あったということです。他の4台はHeinzがひそかに持ち出したことをsophonが教えてくれました。
Heinz、あなたの唯一の目標は、人類逃亡の実現でした。
Heinzは命題を真と判断する神経回路モデルを発見したとき、命題を偽と判断するモデルも発見していました。
精神印章の数学モデルでは、信号の流れる方向はひとつの記号で表されます。Heinzは５台のマシンの精神印章制御ソフトウェアの中にある符号を極秘裏に書き換え、命題を偽とするようにしたのです。
蒼白だったHeinzの顔色は元に戻り、こう語った。
みなさんが手に入れた信じがたい進歩をこの目で見て、この戦争の勝者が人類だということも信じる。二世紀前の敗北主義と逃亡主義は、まったくばかげた考えだった。
しかし、わたしは自分のしたことが正しいと考えている。そう自分に精神印章したからだ。
絶対的な敗北主義の信念を持った組織が存在して、その痕跡がまったくない可能性がある、とアジア艦隊代表が言った。
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luojiiとshiichianは地下都市を歩いていた。
突然、制服姿の女性に声をかけられた。
総合銀行システムのファイナンシャルプランナーだった。
要件は、luojiiの銀行口座のことで、驚いたことに天文学的な額になっていた。
冬眠蘇生者の預金利息は特別な計算方式があり、大峡谷以後の金融水準に移行して利息計算されます。
空中を飛行する車を指さして、shiichianがluojiiに説明した。
あれはマイクロ波で給電してるからバッテリーはいらないんだ。
（自動加熱カップはそういうことだったのか）
（空中に放射された電力のうち受信できるのはごくわずかで、大部分が無駄になるが、制御核融合技術の発達でエネルギー供給が潤沢になったから損失は許容範囲に収まっているんだろう）
このすばらしい時代にも人類の科学は、sophonが引いた線を超えられない。
しかし、宇宙船の最高速度は光速の15パーセントに到達したのは事実だ。
レーザー砲で空母ぐらいの標的船を溶解し、電磁銃で火星にある大きな山ひとつを破砕できた。
いまあるテクノロジーだけで三体艦隊をかたづけられる。
突然、一台のエアカーがさっきまで二人が立っていた場所に突っ込んできた。
円盤形の車体は完全に壊れ、電気の火花だけが激しく散っている。
中に人はいない
パトカーが二台、サイレンを鳴らして空から降下してきた。
数人の警官が立ち入り禁止テープを張り巡らし、ひとりの警官が二人のほうに歩いてきた。
よくある事故ですよ。あなたがたはすでに、警察システムの監視下にあります。
兄弟、おれの直感を信じたほうがいい。
ぼくはもうWallfacerじゃない
二人は樹木型建造物の木陰を歩き、急いで広場を横切り広場の中央にある砂場のほうに走った。
そのとき、エアカーが一台急降下してきて枯れ木林の上を低空でかすめ、また急上昇して飛び去った。
天に向かってもがくような一群の彫刻に見とれながら、やっとshiichianの家に着いた。
luojiiが上を向いて歩いていたとき、とつぜん足もとにぽっかり穴が開き、転落しそうになったがshiichainとっさに腕をつかんでくれた。
作業着姿の若者が、だいじょうぶですか？と声をかけてくれた。自動開閉式のマンホールの蓋らしい。
ようやく、shiichianが住む#1863樹の幹にたどりつき、ロビーに入った。
to be continued 22:53 2024/05/15
2024.5.14
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Ray DiasがWallfacerに指定されてから、20年近く経った。
PDCWallfacer公聴会が始まった。
米英仏独が動議を提出し、Ray DiasのWallfacerとしての地位をはく奪して、国際刑事裁判所の裁きを受けさせることを求めた。
Ray Diasの戦略計画は明らかに人類の生存権を侵犯する危険な傾向を示しており、Wallface関連条項に基づき、中止させることができる、と日本代表が発言した。
Ray Diasが発言を求めた。
仮に、Wallbreakerが暴いたわたしの戦略計画の意図がそのとおりだったとしよう。わたしは三体世界に対して、死なばもろともという人類の覚悟を宣言する。そうしたらどうなる？
フランス代表が言った。
三体人の反応は予測がつかないが、地球人の全部がおまえを殺したいと思うだろう。
これを見ろ、とRay Diasが腕にはめた大型の腕時計のようなものをかざした。
それを使って起爆シグナルを送るのか
その反対だ。この装置は爆発しないための信号を起爆システムに送っている。もしこの信号が中断すれば、ただちに水素爆弾が起爆する。
わたしの体に何らかの異常を感知すればシグナルは止まる。
ドイツ代表が言った。
水星に送信されるシグナルの通信リンクを遮断し、偽のソースを使ってシグナルの送信を引き継げば、起爆システムは役に立たなくなるだろう。
ノードはたえまない通信によって接続されていて、どれかひとつでも機能が停止すると反トリガーを送る仕組みになっているから、すべてのノードを同時に破壊する必要がある。sophonならできるだろうがね。
会場に報告があった。
Ray Dias氏の腕の装置から絶えず電磁シグナルが発信されています。
送信先は水星か？
いや、このニューヨーク・シティーのどこかだ。
こいつはテロリストだ！、アメリカ代表がヒステリックに叫んだ。
出て行け
故国に帰りたい。これは計画の一部ではない。Ray Diasは最後に言った。
Galaanin議長とRay Diasの専用機は広大な大西洋の上空を飛行し始めた。
Galaaninが言った。
本来、Wallfacer特権はsophonと三体世界に対して使うためのものだったのに、きみもTaylorも、その特権を人類に対して使った。
なんの不思議もないさ。いま現在、人類の生存にとって最大の障害は人類自身だから。
専用機はカラカス国際空港に到着した。
多数の憲兵隊に警護されて車に乗り、長い車列を組んで市内へ向かった。
市街地へ入り、ボリバル広場に来たとき、激昂した群衆が押し寄せてきた。
人々の石つぶてが雨あられと降り注いでRay Diasをうずめた。
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chanweisuuは68歳で世を去った。
seiは国連事務総長を二期つとめたあと、人類記念プロジェクトを立ち上げた。
その目的は、人類文明のデータと記念物を広範囲にわたって収集し、最終的には無人宇宙船で宇宙に送り出すことだった。
seiは84歳で亡くなるまでこのプロジェクトに協力しつづけた。
GalaaninとKentはかつてluojiiが過ごしたエデンの園に隠居し、二度と外の世界で目撃されることはなかった。
Albert Lingia博士とFitzloy少将は80歳過ぎまで生き、ハッブルⅢ宇宙望遠鏡で三体惑星を見ることができたが、三体艦隊が第三の”まだら雪”を横切るのを見ることはなかった。
dinyiiは、制御核融合技術のブレイクスルーが果たされたあと、理論物理の研究に戻り、高エネルギー粒子実験におけるsophonの干渉から脱出する方法を模索したが、成果を得られず、終末決戦のときに覚醒するよう手配して冬眠に入った。
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危機紀元205年
三体艦隊の太陽系到達まで、あと2.10光年
luojiiが冬眠から覚醒した。
自分が185年間も冬眠していたのを理解した。
中国語の音韻変化はそれほどでもないが、医師の言葉には大量の英単語が混じっており、リアルタイムで字幕となって天井に映し出されている。
移動するベッドに合わせて廊下の壁が快適な明るさに自動的に調整されてる。
luojiiの心をもっとも動かしたのは、途中で出会う人々の整った容貌と、親しげに微笑んで挨拶してくる仕草だ。
看護師の声が聞こえた。
この時代に来たんですから、学びつづけないと、上で暮らすしかなくなりますよ。
となりのベッドの冬眠者がたずねてきた。
こんにちは。病気のせいで冬眠を？
shionwenという20歳ぐらいの若者だった。
いまはまだ戦争状態で、社会はぼくらを気にする余裕がない。もう二、三十年して和平交渉が成立したなら、平和と繁栄に時代になってますよ
和平？ だれと？
もちろん、三体世界とです
向うは和平交渉したいって言ってきてるのか？
まだです
でも、向こうに選択肢はありませんよ。人類の宇宙戦艦は光速の15パーセントに達しているんですから。
しかも、宇宙艦隊は二千隻ですよ、三体艦隊の2倍です。
三体艦隊はこの二世紀のあいだに、三回も”まだら雪”と呼ばれている宇宙塵を通過しています。宇宙塵を通過したあとはかなり減速していて、二世紀後、予定どおり到着するのはせいぜい300隻でしょう。
ただし、探査機が１機まもなく太陽系に到達します。後続が９機いて、３年後に到着するでしょう。
Wallface計画はどうなったの？
Wallface？ 聞いたことがないなあ
出された食事はまずかった。おがくずを噛んでるようだった。
もう地表で作物は育たないから合成するしかないんですよ。
不思議なのはバッテリーや熱源も見えないのに、コップが加熱されることだ。
看護師に訊いたら
電器はどこにでもありますよ
コップの中の電気はなくならない？
電気がなくなるなんてこと、あるわけないでしょ
担当医が回ってきたとき、Wallface計画について訊いてみた。
たしか、ひとりは自殺して、もうひとりは投石で殺されて、、どっちも計画の初期の出来事ですね。それからもう二世紀近く経っている。
あとの二人は？
さあ、まだ冬眠中なんでしょう
そのうち片方は中国人ですが、知ってますか？
ああ、どこかの星に呪いをかけた人でしょ？ 近代史の授業で習った気がする
その呪いをかけていた星はどうなりました？
呪い？ 笑い話ですよ
じゃあ、その星にはなにも起きてない？
看護師が言った。
あの時代はみんなが死ぬほど怯えてて、ばかなことが山ほど起きたから
そのあとは、大峡谷ですよ、と医師が言った。
luojiiは看護師に連れられて外に出た。
空はすばらしく青く、昇ったばかりの太陽はクリスタルのように明るく輝いていた。
視線を下に移すと、めまいがした。あまりに高いところにいる。
冬眠者蘇生センターは実は一本の木の一部であり、彼のベッドは、前方に伸びる細い空中通路から生えた一枚の葉の上にあるのがわかった。
ここはどこ？
北京です
地上の北京はすでになく、深度千メートルの地下にいまの北京がつくられていた。
空は1万メートル上空から撮った映像を映し出している。
luojiiが看護師に礼を言おうとすると、彼女は背負っていた傘のようなものを開いてプロペラを開き、じゃあね、と言って飛んで行った。
luojiiは新世界を目の前にして、涙が出た。
生まれ変わって新しい人生が始まったのだ。過去はほんとうに夢だったのだ。
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to be continued 22:35 2024/05/14
2024.5.11
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PDCWallface公聴会は、恒星型水素爆弾実験について討議していた。
コンピュータ・テクノロジーにおける巨大なブレイクスルーに伴い、核爆発の理論的な構成モデルを扱えるようになり、超大型高出力恒星型水爆の製造にも道が開けた。
各出力はTNT当量で350メガトンと見積もられ、実験は宇宙で行う必要があった。
Ray Diasは実験は水星で行うことにすると宣言した。
反論が多数出て説明を求めた。
Ray Diasは言った。
Wallface計画の意味はどこにある？
しかし、喜んで説明しよう。将来の水星基地とするためであり、これが最も経済的な方法だ。
外惑星も地球も陥落したあと、水星基地は人類最後の砦になる。
配備計画の第一陣に必要な水爆は少なくとも百万発だ。
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軌道エレベータの完成によって、人類は太陽系惑星の大規模な探査計画を開始し、金星と水星の探査が強化された。
水星の地層に実験用の深い立坑を掘る大規模工事が行われた。
超大型高出力恒星型水爆の実験を、Ray Diasはドームをかぶせた基地の中で観察した。
グラウンドゼロで、ゆっくりと山が隆起し、その頂が3000メートルの高さまで達したとき、山全体が爆発し、大地は沸き立ち、核爆発の火球は5分にわたった。
10時間後、水星にリングが出現し、一部の岩石は水星の引力圏を離脱して太陽をめぐる水星の公転軌道上に小惑星帯を形成することになった。
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Ray Diasは地下にある自宅にいた。太陽恐怖症のためだった。
インターフォンが鳴った。お約束の精神科医の方が来られました。
わたしなら、あなたが太陽を見られるようにしてあげられますよ
なぜそんな体になったか知っていますから。
それを知っているのはあなたと、わたしだけです。
そいつを入れろ
来訪者が言った。
わたしはあなたのWallbreakerです。
sophonが送ってきた映像で、あなたが檻に閉じ込められた獣のように何時間も行ったり来たりするのをいつも見ていました。
Frederic Taylorにくらべて、あなたは卓越した戦略家です。なにしろあなたは十年近くにわたってわたしを欺いてきたのですから。
あなたはWiliam Cosmo博士の研究成果に興味を持ちました。
博士は、太陽系からおよそ84光年の位置にある惑星系を発見しました。この惑星と主星はたえず近づいていて接近速度が加速し、墜落するところを観測できたのです。
惑星がぶつかった衝撃で太陽の殻が壊れ、恒星の物質が宇宙に噴出し、恒星の自転にともなって渦を巻きました。
その恒星はスペクトル型がG2の黄色矮星で、絶対等級4.3、直径120万キロメートル。われわれの太陽とよく似た恒星です。
惑星の方は質量が地球の約4パーセント、水星より少し小さいくらいです。衝突によって生じた螺旋状の塵雲は半径3天文単位にまで広がりました。
まさにこの発見が糸口となって、わたしはあなたのほんとうの戦略計画をこじ開けることができました。
最終的に百万発の恒星型水素爆弾が手に入ったとして、そのすべてを水星に配置し爆発させれば、水星の公転速度は一気に減少し、太陽に向かって落下して衝突します。
太陽の対流層に穴が開き、放射層にある大量の恒星物質が高速で宇宙に噴出します。
太陽から放出された物質の渦巻きは火星軌道まで達して、金星、地球、火星は太陽に落下するでしょう。
三体文明からすれば、太陽系は自分たちの惑星が三つの恒星に呑み込まれる前に植民できる唯一の希望です。このシナリオが実現すれば、三体文明もまた人類文明のあとを追って滅亡することになります。
この相打ち計画こそ、あなたの真の計画です。
Ray Diasは言った。
もしおまえの言うことがすべてほんとうだとして、それがなんだ？
Ray DiasはWallbreakerを絞め殺そうとした。
警備員が飛び込んできて彼をひきはがし、ようやく息を吹き返した男を担いで外に連れ出した。
男は振り返って言った。
わたしはもう、じゅうぶんに生きました。
to be continued 22:25 2024/05/11
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2024.5.10new
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危機紀元20年
三体艦隊の太陽系到着まで、あと4.15光年
Ray DiasとHeinzは、同時期に冬眠から覚醒した。
待っていたテクノロジーはすでに実現していることを知らされた。
わずか8年しか経っていない。
しかし、最先端の物理学はいまだに膠着状態にあった。
Heinzは8歳としを取った妻と再会し、彼女は夫に説明した。
非フォン・ノイマン型も量子コンピュータも生物分子コンピュータもsophonの壁にぶつかり、演算能力は向上はできなかった。
でも、つい最近、おそろしく野蛮な方法で人間の脳をシミュレーションする研究を始めました。
マイクロプロセッサ1個をニューロンに見立てて、すべてのマイクロプロセッサを相互接続し、接続モデルにダイナミックな変化が起きるのを待つ。
つまり1000億個のマイクロプロセッサをつくった？
ここは、計画していた30か所のヴァーチャル脳組み立て工場のうちのひとつ。
マイクロプロセッサは昔ながらのノイマン型で、性能はあなたが冬眠する時点で最高クラスだったスーパーコンピュータの一万倍です。
Heinz夫人の操作でホログラフィック・ディスプレイに無数の輝く粒子が現れた。
星の一つ一つが神経細胞で、脳構造をまるごと投影している。
これは脳の思考状態をスキャンしたもの。広大な神経ネットワークの中から特定の思考パターンを見つけ出せます。
その方法は、天文学者Ringiaがluojiiに教えた恒星位置を特定する方法に似ていた。
そのとき、研究チームのスタッフが息せき切ってやってきた。
104号被験者にトラブルが発生したという。
解析イメージャーは初期のころは放射線量が被検体の生命に危険を及ぼすことが懸念されたが、現在は安全なラインまで下がっている。
恐水病に罹患しているようです。水そのものが毒だと思っているのです。
パンもほかの食べ物もレンジで完全に水分を飛ばしてから食べるんです。
わたしが被験者になろう、とHeinzが言った。
水は激毒である、という命題に”偽”と回答させたのち、脳神経ネットワークにおける分析的思考ポイントのスキャン強度をあげた、すなわち、放射線と電磁波をその狭い範囲でのみ強くした。
そして104号被験者と同じ恐怖の色が目に現れた。
水が毒だと本気で信じてるの、あなた？
ああ、思うよ、ほんとにそう思う
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制御核融合の技術的ブレイクスルーが達成されてから3年経った。
宇宙船の非媒質放射ドライブの実験は地上から3万キロメートルの静止軌道上で行われ、核融合反応炉の爆発がいくつも見られた。
これは炉の外殻が核融合の熱で溶けてしまい、炉心が露出する現象だった。
宇宙軍司令部の最上階バルコニーで、chanweisuuとHeinzは、そうした爆発のひとつを目撃したところだった。
この核融合炉の出力は、必要とする出力の1パーセントにしかなりません。しかも、運転が安定しない。さらに、必要とされる核融合炉が開発されたとしても、エンジン技術の開発はさらに難しい。きっと、sophonの壁にぶつかる。
chanweisuuも同じ思いだった。
しかし博士の言うように、テクノロジーを使って精神の能力を強化することがほんとうに可能なのか？
われわれの研究はまだ目標からはるかに遠いところにありますが、それでも予期せざる副産物を生みだしました。
細部には立ち入りませんが、ある情報が脳神経ネットワークの中に入ったとき、神経ネットワークの特定の部分に影響を与え、脳がそれについて考えることなく、その情報が真であると判断する能力があることを発見しました。
われわれはそれを”精神印章”と呼んでいます。
もし、その判断が現実と対立したら？
最終的には信念が覆りますが、その過程には相当な苦痛が伴います。
かつてわたしは精神印章によって、水は毒であると信じ込みましたが、二か月にわたる非常に苦しい心理的治療の末、やっと水が飲めるようになりました。
それはすばらしい成果だが、すこぶる厄介な代物になるだろう。
この精神印章を使って、勝利へのゆるぎない信念を持つ宇宙軍をつくれますよ
修正されたあとの人間は、はたして人間なのか、自動機械なのか、、
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PDCWallface計画公聴会で、Heinzが精神印章について説明したとき、フランス代表は怒りをあらわにして立ち上がった。
人類は自由な思想を持つ権利と能力を失った。この戦争に負けるのと、どちらがより悲惨だろうか。
もちろん後者の方が悲惨ですとも。生き延びてさえいれば、人類は思考の自由を取り戻すチャンスがあります、とHeinzが反論した。
会場は騒然となった。
みなさんは男の子の話を知っているでしょう。ある男の子が倒れてきた大木に足をはさまれ動けなくなった。足からの出血は止まらず、放っておいたら死んでしまう。そこで彼はのこぎりで自分の足を切断し、這って森を出て通りかかった車で病院へ行き、自分の命を救ったんです。
人類がいま直面しているのは、生きるか死ぬかです。人類全体と文明の生死がかかっているのです。このような状況下で、どうしても犠牲にできないものなどあるでしょうか？
精神印章を、公共施設のような場所で社会に開放することを提案します。命題は一つのみ。戦争に必ず勝利するという信念です。
精神印章の助けを望んでこの信念を得たい人は、みずからの希望でこの施設を利用することができます。
公聴会は連続8時間も行われた。
この施設に名前を付けるべきじゃないか、とアメリカ代表が言った。
”信念救済センター”はどうかな、イギリス代表のユーモアにどっと笑いが起こった。
”救済”は削って、”信念センター”にしましょう、と真面目くさってHeinzが答えた。
信念センターを利用できるのは、各国の宇宙軍メンバーだけです。
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信念センターの正門前には自由の女神の縮小レプリカが立っていた。
オープンから三日経っているが、記念写真を撮っていく観光客は多いが、中に入ってくる人間はひとりもいなかった。
三日目の午後、ついにひとりの利用者が来た。憂鬱そうな顔つきをした中年男性で、足もとはおぼつかず、近づいてくると酒のにおいがした。
男は宇宙軍の身分証明書を見せ、信念の命題を書いた紙を出した。
惑星防衛理事会の決議によれば、精神印章の刻印が許されている命題は一種類だけで、入口の石碑に刻まれている。
｛三体世界の侵略に抵抗する戦争に、人類はかならず勝つ。太陽系に侵入した敵は、かならず抹殺する。地球文明は、この宇宙に永遠に存続する。｝
男が出した紙には、それは書いてなかった、ただ、浮気した妻への繰り言が書かれていた。
Heinzは男をつまみ出した。
次に来た男は、信念ではなく、信仰の命題を書いてきた。
信念符の命題を一語でも変えたら、それは犯罪です。
男は階段を下りて行った。
翌日、夫妻が待ち望んでいた人々が現れた。ヨーロッパ人の顔立ちをした三人の男性と、東洋人の容貌をした女性だった。
彼らはきちんと整列して身分証明書を呈示し、自分たちは宇宙軍の軍人です。勝利の信念をいただきにまいりました。
スキャン処理が終わった四人の目から憂鬱やまどいは消え失せ、まなざしは静かに落ち着いている。
その日から、宇宙軍メンバーが途切れることなくやってきた。
やるべきことはもうすべてやった。そろそろわれわれも未来へ行って、歴史が追いつくのを待とう。
半年後、Heinz夫人はまもなく冬眠に入ろうとしていたが、とつぜん、luojiiが十年ほど前、凍った湖に落ちたときと同じようになり、恐怖と絶望に襲われた。
to be continued 22:07 2024/05/10
2024.5.10
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いや、われわれにわかることじゃない。
いま見ているのは4年前に起きたことだ。艦隊が探査機を発射した正確な日付は？
わかります。この日付は、luojiiが公聴会で太陽に向かって宇宙に”呪文”を送信することを提案した日です。
しかもそれは、三体世界がETOに二度目のluojii暗殺命令を出した時期だ、とFitzloyが言った。
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テレビで、軌道エレベーターⅢのテスト運航が生中継されていた。
建設費用を計算に入れなければ、軌道エレベーターで宇宙に行くコストは、民間機を利用した場合よりはるかに安い。
太平洋の赤道上の人工フローティング・アイランド、ヴェルヌ島、が基点になっている。
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janpeihaiは深い雪の中を車で第三核融合実験基地に向かっていた。
基地の入り口でdinyiiに会った。
janpeihaiは言った。航空宇宙派は媒質推進船を主張し、宇宙軍は放射ドライブ船を推している。宇宙船開発プロジェクトは巨大なリソースを必要とするので、どちらか一方を進めなければなりません。
恒星間飛行を実現する唯一の方法は放射ドライブだとわれわれは思っている。
そうです、媒質推進船は積載能力の三分の二以上を推進剤が占めてしまう。このタイプの宇宙船は惑星基地が必要になってしまう。
janpeihaiは基地をあとにして、思った。
残る道はただひとつだけ。どんなに危険だろうと、その道を選ぶしかない。
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最近では、軌道エレベーターの完成と、制御核融合における技術的ブレイクスルーにより、敗北主義者たちの悲観的なムードはかなりやわらいだ。
しかし、まだ工具を海岸に運んできたにすぎない。造船所さえ完成していない。
基盤を整えるだけで一世紀かかるかもしれない。
宇宙軍の上層部は政治将校を未来へ増援することを正式決定し、一か月後、janpeihaiと第一次特別分遣隊の三十名が宇宙に向かうことになった。
janpeihaiは胡同の奥に住む隕石収集家の家を訪ね、密度が高く、衝撃にも容易に砕けなくて加工しやすい隕石を求めた。
収集家は、砂漠で発見したという珍しい鉄隕石を見せた。三種類の八面体晶の鉄とニッケルの合金だ。
janpeihaiは高額で三個の鉄隕石を購入した。
収集家の家を出たあと、宇宙軍所属の研究所内の模型製作工場へ行き、旋盤を使って、36本の小さな隕鉄の円筒を作った。
残りの工程は秘密の地下室で仕上げた。7.62㎜の弾薬を36個並べて弾丸をとりはずし、発射薬一個一個に隕鉄製の円筒を特殊な接着剤で接着し、36個の隕石弾が完成した。
生の牛肉の塊を入れた布袋を目標にして、4個の隕石弾を試射した。
隕鉄がすべて砕け散って、加工した痕跡は見当たらなかった。
janpeihaiはいたく満足した。
残った32個の隕石弾をしまいこみ、地下室を出て、宇宙へ行く準備をしに行った。
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janpeihaiはホイール型宇宙ステーション黄河から5キロメートルの宇宙空間に浮かんでいた。
軌道エレベーターの終点より上方300キロメートルに位置している。
黄河はエレベーターの重さと釣り合わせるためのカウンターウェイトの役割を果たしており、つねに千人以上が働いている。
軌道エレベーターを中心とする半径500キロメートルの範囲内にはほかにも宇宙施設があるが、規模は黄河にくらべてはるかに小さい。
建設が始まったばかりの造船基地は、最終的に黄河の十倍の空間を占めることになる。
黄河ステーションで航空宇宙派がハイレベルの実務会議を開いていた。
会議終了後、出席者全員が宇宙空間で記念写真を撮るのが恒例になっていた。顔がわかるようにヘルメットのバイザーを透明にする。通常、太陽をバックにして逆光で撮影するので、都合のいい時間帯はかぎられていた。
ハッチが開き、三十人ほど出てきた。
janpeihaiはスコープの倍率をあげ、ターゲットの三人を確認した。
三人とも最前列のど真ん中にいた。
janpeihaiは三か月、無重力環境で弾倉を交換する動作をくりかえし練習してきた。
トリガーを引き、反動を感じた。
最初のターゲットに10発撃ち、すぐさま新しい弾倉に交換して、二番目のターゲットに10発、また弾倉を交換して三番目のターゲットに10発撃った。
秒速500メートルの弾丸が標的に到達するのに約10秒かかる。
標的の宇宙服から真っ白な気体が噴出していた。
被弾者はほかに二名いた。
隕石シャワーと記録された。
to be continued 11:02 2024/05/10
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「三体」ゲームの中では、いま起きたばかりの事件について議論していた。
今回に限って、sophon経由で伝えられた情報は完璧だった。
あの男をこのまま放っておくんですかな？、アインシュタインが言った。
主のご意思に従うなら、そうするしかない、とニュートンが言った。
始皇帝が言った。
この件に関しては不介入が正しい。人類の技術開発を放射ドライブ船のほうに向かわせるとしよう。
ここ数年、sophonから得た情報を使って、宇宙軍と国連のあいだに不和の種を蒔いてきたが、その結果は、あやつにとって忠誠心の象徴になるだろう。隕石雨に遭遇した不幸な事故だとだれも思うだろう。
さいわい彼は増援として未来へ行くことになっているから、しばらくは彼のことで悩まされることはない。
われわれの何人かも未来へ旅立つべきでしょうな、とアインシュタインがつぶやいた。
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未来増援特別分遣隊が冬眠に入る前、chanweisuuはjanpeihaiに手紙を渡した。
きみたちが目覚めるのは、はやくても50年後だろう。われわれの時代の軍人魂を持ち続けなばならない。未来において、それが最大の強みになるだろう。
人類の結末を見る機会を得た人間たちが離陸していった。
（上巻終わり）
2024.5.9
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この数年ですっかり髪が白くなったね、とluojiiはKentに言った。
（とうとう仕事を始めたんですね）
もっと安全な場所が必要なんだ。
十数時間にわたる厳重な警護付の旅を経て、luojiiは目的地に着いた。
5年前、夢のような人生を始めたスタート地点にもどってきた。
彼を迎えたのは、shiichianとともにluojiiを送り出したjanshianという若者だったが、もう中年に見えた。
エレベーターで降りた地下10階はまるで作戦司令部のような雰囲気だった。
翌日、luojiiの求めに応じて、天文学者のAlbert Ringiaがやってきた。
三体艦隊の航跡をはじめて観測した人だよね？
もともとはFitzloy少将の功績ですよ。彼はずっとハッブルⅡを使って三体世界を観測することを願っていて、でなければチャンスを逃していたでしょう。
相談したいのは、それとは別件なんだ。
この宇宙に三体世界以外の観察者がいたとしたら、地球の位置はすでに彼らに知られているだろうか？
いいえ
たしかですか？
ええ、ああいう低周波通信で明らかになるのは、天の川銀河において地球と三体世界がおおむねどの方向にあるかということと、地球と三体世界の距離だけです。
つまり、第三者が通信を傍受した場合、天の川銀河のオリオン腕に、二つの文明世界が4.22光年の距離を隔てて存在していることがわかるでしょうが、両者の正確な位置は不明のままです。
この種の交信を通じてたがいの位置を決定できるのは、太陽系と三体星系のようにごく近距離にいる者同士の場合だけです。
それよりわずかでも遠くにいる観察者にとっては、たとえ地球と三体世界が直接やりとりしていても、両者の位置を確定するすべはありません。
なるほど、じゃあ、決まりだ
われわれの現在の技術レベルで、宇宙にある恒星の位置をマークする手段はありますか？
ありますよ。鍵を握るのは、恒星間の相対的な位置関係です。二、三十個の恒星の三次元空間における相対的な位置関係は唯一無二のものだから、指紋のように利用できます。
マークしたい恒星の周囲の恒星群との相対的な位置関係をメッセージで送れば、受信者は目標の星の位置を特定できるね。
そのとおりですが、受信側は二千億の星すべての位置関係を正確に示す銀河系全体の三次元モデルを持っていなければパターンの一致する宙域を見つけられない。
太陽系の外で、惑星を持つ恒星は？
現時点で、千個以上です。
太陽系にもっとも近いのは？
244J2E1です。太陽系から16光年。三つの惑星があり、二つは木星型、ひとつは地球型です。
luojiiは首を振った。近すぎるな、もっと遠いところは？ 50光年くらいのもの、、
187J3X1、太陽系から49.5光年。
それがいい。この星を含む恒星群の位置関係パターンを出せる？
出せます。今夜にでも。
luojiiはKentに指示した。
PDCをできるだけ早く招集して、次のWallfacer公聴会を開くように。
ぼくはリモート会議システムを通じて公聴会に参加したい。
ぼくがきわめて危険な状況に置かれている可能性がある。ここは敵の集中攻撃の目標になるから、セキュリティを強化してほしい。
（これからの一生、おそらく自分は地下で過ごすことになるだろう）
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「三体世界」ゲームの中で、二つの彗星がゆっくりと星野を横切った。
始皇帝、アリストテレス、フォン・ノイマンが群衆の前で話していた。
始皇帝が言った。
主が新たな指令をくだされた。Wallfacer luojiiを抹殺せよと。
地下200メートルの地下壕に近づけないですよ。
核兵器はどうだ？
あそこは冷戦時代の核シェルターだ。
唯一可能な方法は、警備スタッフに潜入することだ。
時間は何年もあったのに、一度も成功しなかった。
主が真実を話してくださらないのか。
かつて同じ要望を出したことがある。だが主は、真実は宇宙における最重要機密であるから、決して明かせないと言われた。
では、主に技術を引き渡してくださるようお願いしてほしい
その要望もすでに出したが、主はいつになく完全に拒絶された。
目標の居場所をお知りになったのち、われわれに技術を伝えても役に立たないと思われたのだろう。
やつはほんとうにそんなに重要なのか？ とフォン・ノイマンがたずねた。
フォン・ノイマンは最初に成功したWallbreakerだった。
主は彼のことを非常に恐れておられる、と始皇帝が言った。
アインシュタインが言った。
主がluojiiを恐れられる理由はひとつしかありえません。彼はある力の代行者なのです。
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二週間後、PDCWallface計画公聴会が開催委された。
PDCの輪番制議長が開会を宣言し、luojiiに訊いた。
さきほど終わった国連特別会議で、国連Wallface法の修正が可決された。見たことと思うが。
はい。
修正Wallface法は、Wallfacerに割り当てるリソースの審査と制限を強化した。
他の三名のWallfacerはそれぞれの戦略計画を実行するため、すでに莫大な資源の割り当てを受けています。ぼくの計画のリソースを制限するのは不公平です。
他の三名の計画は主力防衛計画と両立しうるものだった。
ぼくの計画は主力防衛計画とは無関係です。
ならば、修正法のもとでは、きみの計画に割り当てられるリソースはごくわずかだ。
しかし、議長、それは問題ではありません。ぼくの戦略計画は事実上どんな資源も消費しません。
簡単に申し上げると、太陽の電波増幅作用を利用して、宇宙に向かってひとつのメッセージを送信します。
三枚の単純な画像と、それらが知的生命によって送信されたものであることを示す付加的な情報です。
画像はランダムに散らばった黒い点で構成されている。三枚とも一つの目立って大きな点があり、その横に小さな矢印が付けられている。
これはなんだね、とアメリカ代表がたずねた。
Wallfacer luojiiは、Wallface計画の基本原則にもとづき、その質問に答える必要はありません、と議長が言った。
呪文です、とluojiiが言った。
誰に対しての呪文だね？、議長が訊いた。
約50光年先にある恒星187J3X1の惑星に対してです、とluojiiが答えた。
この呪文が効果を発揮するのは、いまから50年後、効果があったことを観測できるのはさらに少なくとも50年後になります。
とうとう神か、シャーマンが登場したかと、議場は笑いと皮肉の喧騒に包まれた。
議長が木槌を鳴らし、質問した。
これが呪文だと言うなら、どうして敵の世界に呪文をかけない？
これは計画の実現可能性を示すためのテストです。実地に使うのは終末決戦まで待たなければなりません。
三体世界をテストの標的にできないのか？
地球と近すぎて呪文の効果がわれわれに及ぶかもしれません。惑星を持つ星系はほかにもありますが、50光年より近くの星系を除外したのはそのためです。
最後の質問だ。この先の百年、あるいはそれ以上の時間、きみはなにをして過ごすつもりだ？
みなさんをぼくから解放してさしあげますよ。ぼくを冬眠させてください。呪文が187J3X1星系に効果を与えたのが観測されたら、起こしてください。
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冬眠に入る準備中、luojiiはインフルエンザにかかった。
二日後、症状は次第に重くなり、熱が出はじめた。
その夜、高熱による昏睡状態に陥り、夢の中で銀河系のすべての恒星による二千億体運動を見た。
janshianが呼ばれた。luojiiの顔は蒼白になり、唇は紫色になっている。
中国疾病管理センターの専門家たちが到着し、診察した。
われわれはしばらく前からこのインフルエンザに注目していましたが、これは遺伝子兵器もしくは遺伝子誘導ミサイルです。
このウィルスには遺伝子識別能力が備わっており、特定の個人の遺伝子特徴を判別します。感染すると血液中で致命的な毒素を生成します。
現代医療ではなすすべがありません。できるだけ早く冬眠させましょう。
どれだけ時間が経ったのか、完全に失われたluojiiの意識がすこしだけ回復した。小さな娘を抱いているyenyenの顏が浮かび、消え、真っ白な世界は縮んで無限に伸びる一本の細い銀色の糸となり、luojiiの魂はこの糸につながれて不可知の未来へ向かって滑り始めた。
二日後、強力な電波が太陽に向かって送信された。電波は太陽の対流圏を貫いて放射層のエネルギー鏡面に到達し、数億倍に増幅されたのち、Wallfacer luojiiの呪文を乗せて、宇宙の彼方に向かって光速で進みはじめた。
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危機紀元12年、三体艦隊の太陽系到達まで、あと4.18光年
ハッブルⅡ宇宙望遠鏡管制センターでは、”刷毛”がふたたび観測された。
三体艦隊が通過した二つ目の星間雲だった。
千枚の草の葉は肉眼でもわかるくらいの速度で成長し、9年前の航跡よりもはるかに鮮明に見えた。
9年間に及ぶ加速を経て艦隊の速度がずっと上がったため、星間物質とぶつかるときの衝撃が大きくなったからだ。
あらたに十隻のはるかに小さい宇宙船が非常に速い速度で航行しているのが観察された。
探査機ではないか。少なく見積もっても艦隊より1世紀半早く到着するだろう。
むこうにはsophonがあるのになぜ探査機を？
to be continued 15:17 2024/05/09
2024.5.8
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yenyen、終末決戦で待っていてくれ
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janpeihaiは、ハイフロンティア機の巨大な機体を仰ぎみて、化学推進宇宙航行機の最後の世代になるかもしれないと思った。
ハイフロンティアに乗って国際宇宙ステーションに赴くjanpeihaiに、chanweisuuが言った。
中央軍事委員会は、政治幹部を未来に増援するプランを検討した。上層部はきみの遠大なプランを認めている。
軌道エレベーターと制御核融合にブレイクスルーがあれば、事態は改善する。
ハイフロンティアは大気圏内を約30分間飛行する。
隣席から話しかけてきた男性は、dinyiiだった。
dinyiiは制御核融合の研究のことを話しはじめた。
航空宇宙産業は現在もなお、化学ロケットエンジンの開発が中心になっていて、ぼくらの研究の最終目標が宇宙船のエンジンであることを認めていない。
宇宙ステーションの高エネルギー物理研究プロジェクトが中止になったって？
中止になった、無駄な努力をしなくてもいいとわかったことが成果と言えば成果だ。
sophonが勝った？
そのとおり。だから、人類に残された理論は数少ない。古典物理学、量子力学、まだ胎児の段階にある弦理論ぐらいだ。
航空エンジンユニット分離。宇宙航行エンジン点火。
すさまじい轟音が響きはじめ、5分後、ブースターが分離されてさらに5分間の加速のあと、メインエンジンが停止し、ハイフロンティアは軌道に入った。
janpeihaiの目の前に星空が広がっていた。
（父さん、ぼくは第一歩を踏み出したよ）
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Fitzloy少将は、星々の映像を映し出している大型スクリーンを見ていた。
5年前に観測した最初の”刷毛”は、もうじょじょに薄くなっている。
天文学者の観測によれば、三体艦隊は四世紀にわたる長い航行のあいだに、五つの星間雲を通過する。
もし三体艦隊がこの5年のあいだ一定の加速をつづけていたとすれば、まもなく星間雲を通過して、”まだら雪”みたいに観測されるはずだ。
三体艦隊が現在までに進んだ距離は0.22光年で、まだ4光年も離れている。
”まだら雪”の通過で、三体艦隊の速度と加速度が算出できる。
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luojiiには、エデンの園がオーラを失ったかのように見えた。
現在のこの状況はすべて、いまから九年前の、yewenjeとの偶然の出会いに端を発している。
あの時点で地球に到達していたsophonは二個だったが、夕暮れ時のyandonの墓前で、sophonに観察され、量子フォーメーションの変動は4光年の距離を一瞬で飛び越え、三体世界に同時に観察された。
luojiiがまだ手をつけてもいなかった宇宙社会学の研究はきわめて重要であり、その研究を提案したのはyewenjeだった。
重要なのはyewenjeが与えた指示だ。
助言はひとつ。宇宙社会学を勉強しなさい。
この宇宙には膨大な数の文明が散らばっている。それらの文明が集まって宇宙社会を形成している。この超社会の研究をするのが宇宙社会学。
宇宙社会学の数学的構造は、人類社会学のそれよりはるかに明晰。
この宇宙のあらゆる文明社会が持つ複雑な構造は、はるかな距離によって、ふるいにかけられてしまう。
その結果、宇宙の文明は、数学的な操作が比較的簡単に行えるような基準点の役割を果たせる。
最終的な研究成果は、純粋に理論的なものになる。
宇宙社会学の公理その一、生存は文明の第一欲求である。
その二、文明はたえず成長し、拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である。
この二つの公理から宇宙社会の基本的な青写真を描くためには、あと二つ、重要な概念がある。
猜疑連鎖と技術爆発。
もし行き詰まるようなら、わたしが言ったこと全部忘れてしまってかまわない。
わたしはもう責任を果たしました。
どんなにこの会話を思い出し、分析しても、どうして自分が、三体世界から死を望まれるたったひとりの地球人になったのかという謎を解く手がかりは見つからなかった。
ダーウィンはかぎりない生命の世界を前にして、それをまとめる法則を導き出した。
luojiiは、yewenjeに与えられた法則をもとにして、宇宙文明の全体像を解き明かさなければならない。
yewenjeが説明抜きで口にした二つの謎めいたコンセプト、猜疑連鎖と技術爆発。これに焦点が定まってきた。
その夜はいつもより寒く、星々は明快な数学的配置を見せている。luojiiは突然、いまだかつて経験したことのない精神状態に達した。星々から原子に至るまですべてが静止状態になった。
凍りついた湖面に足を踏み出したとき、足もとの氷が割れ、水の中に転落した。
水中に沈みつづけたが、まるで暗黒の宇宙へ飛び込んだかのようだった。
すぐに浮かび上がって、這い上がろうとして、また氷が割れ、これを繰り返し、しだいに体力が失われていった。
アイデアが閃いた。氷の上にジャケットを敷いて圧力を分散すれば、氷を割らずに這い上がれるかもしれない。そうやって、ようやく立ち上がった。
湖岸で懐中電灯の光が揺れるのが見え、呼び声が聞こえた。
歯をガチガチ鳴らし、この寒さは湖水と寒風のせいではなく、宇宙から直接送られてきた気がした。星空を見上げる勇気がなかった。Ray Diasが太陽を恐れたのと同様、luojiiはこのとき以来、重篤な星空恐怖症になった。彼はつぶやいた。
Wallfacer luojii、ぼくがおまえのWallbreakerだ。
to be continued 22:14 2024/05/08
2024.5.7
目次へ
Taylorの計画はPDCの承認を得た。
それから五年、宇宙戦闘機の研究開発は始まっていたが、核融合の放射エネルギーによって宇宙船を推進させる非媒質型核融合エンジンはいまだ開発されていない。
Wallfacerに対する世間の期待は日に日に大きくなり、救世主のイメージができはじめた。
ある日、Taylorのもとにひとりの客が訪れた。
Taylorの家は厳重に警備されているが、この男はそれをパスして来た。
顔は青白くやつれていて、社会的にもっとも貧しい階層に属しているように見えた。
男は弱々しい声で言った。Wallfacer Frederic Taylor、わたくしはあなたのWallbreakerです。
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chanweisuuは作戦室で太陽系チャートを眺めていた。今後1000年以内の任意の時点の各天体の配置を再現することができる。
未来の戦場を目の当たりにして、同志たちは戦闘に対する自信や情熱をかき立てられなかったようです、とjanpeihaiが言った。
この五年間、惑星防衛と宇宙航行に関する基礎研空は、ほとんど進展していません。
化学ロケットの推力を高める課題さえ問題が山積しています。
未来に増援してください！
もっとも優秀な政治将校たちを選んで冬眠させ未来へ送り出すことは、現在の任務にとって大きな痛手になるのではないかな。
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Taylorはluojii一家を訪れた。
美しい母と娘を見て驚いた。
juanyenはTaylorをにこやかに迎え、娘を紹介した。
luojiiがやってきてTaylorは、この二、三日、外の世界でなにがあったのか、ほんとうに知らないのですか、と言った。
なにがあったんですか？ 顔色がよくないみたいだけど
四日前、わたしのWallbreakerが現れた
わたしは、こんなに早く？ と男に言った。
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こんなに早く？
TaylorはWallbreakerに言った。
ほんとうはもっと早く来たかったのですが、じゅうぶんな証拠を集めようと思ったせいでおそくなってしまいました。申し訳ございません、とまるで使用人のようにゆっくりしゃべった。
最初に、閣下のうわべの戦略について簡単にお話ししましょう。メガトン級のスーパーボム1基を搭載した小さくてすばしこい宇宙戦闘機の編隊を用いて、三体艦隊に特攻させる。基本的にそういうことですね？
（しかし、現時点ではまだわたしの頭の中が丸裸にされたわけではない可能性もありうる）
でしたら、閣下、わたくしを逮捕させればいいのです。ですが、もちろん、閣下の真の戦略についての仮説と、その仮説を裏付けるための証拠のすべては、明日、もしくは今夜、全世界でニュースになります。わたくしは自分の後半生を代償にしてここに参りました。
閣下、さきほどわたくしが申し上げた戦略は正確でしたでしょうか？
Taylorは無言のまま軽くうなづいた。
いいえ、失礼ながら正確ではありません。
閣下のほんとうの計画はなんなのか。しかし、やっとパズルを解く鍵を閣下ご自身が与えてくださいました。
太陽系内のいくつかの天体、エウロパ、ケレス、複数の彗星の研究プロジェクトです。それらの天体が含む水の量は、地球のすべての大洋の水以上の量です。
WallfacerはTaylorの耳元でささやいた。
Taylorは沈黙したまま、その表情は石像のように堅くなった。
あらゆる人々が閣下のように高い知力を持っているわけではありません。
いま現在このやりとりを聞いている三体人の場合、詳細な説明さえ理解できないかもしれません、おっと失礼
閣下は世界中を走りまわり、人類による特攻隊をつくろうと奮闘しましたが、その努力は失敗しました。しかし、閣下はそれを予期していて、望んでいた二つのものを手に入れました。
ひとつは、人類に対する失望、もうひとつは、、、
人類に対する閣下の裏切りの長いプロセスのひとつで、閣下には時間がありました。
閣下は人類世界からしだいに遠ざかって、ETOと三体世界に近づいてきました。
閣下の戦略計画にとって、ETOが長く持ちこたえることは必要不可欠です。終末決戦において、ETOのメンバーに宇宙戦闘機のパイロットになってもらわねばならないのですから。
水の話に戻りましょう。終末決戦の戦場で、ETOは編隊を掌握し、地球艦隊に不意打ちの攻撃をしかけたのち、主の艦隊に投降するでしょう。味方だと認めてもらうために、四百年の長い航行で消費した大量の水と、太陽系に接近した時点で、脱水した三体人の再水化のために必要な大量の水のために、エウロパ等から得た水を巨大な氷の塊にして主に献上します。
この巨大な氷の塊を引き渡すとき、閣下が指揮権を持って至近距離で全戦闘機を爆発させて主の艦隊を殲滅できるでしょう。
ただひとつ、大きな見落としがあったとすれば、それらの天体から水を採集し運搬する技術の研究開発には数年、あるいは数十年かかることでしょうから、その時点で水を含む天体の研究にかかればよかったのです。
Taylorは言った。もしおまえの言うことがすべてほんとうだとして、それがなんだ？
なんでもありませんよ。閣下の計画をわたくしが暴くかどうかにかかわらず、主はそれになんの興味も持たれていませんから。
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Taylorの話を聞き終えたあと、luojiiは長い間無言だった。
luojiiが訊いた。
Wallbreakerのその分析をどう評価します？
正しい、とTaylorは言った。
あれはわたしの真の戦略だった。
Wallbreakerの訪問の翌日、わたしの戦略に対する完全な分析がネットに投稿された。この投稿はセンセーションを巻き起こし、一昨日、PDCは公聴会を開いて次のように決議した。
Wallface計画は、人類の生命に脅威を与えるような要素を含んでいてはならない。
Wallface計画の基本原則にしたがい、外部に利用可能な証拠は、Wallfacerの欺瞞戦略の一部に過ぎないかもしれず、Wallfacerがこの計画を立案し実行している証拠として用いることはできない。
わたしは議場から逃げ出し、外の広場で叫んだ。
わたしはWallbreakerに戦略を暴かれた！わたしは反人類だ！罰を与えてくれ！
わたしは群衆に囲まれ、かれらはこう言っていた。
まったく芝居がうまい。ほんとうの戦略がなんなのか、あれでは敵にわかるわけがない。最高にすごい究極の作戦が世界を救うんだ、、、
この悪循環からぼくらは永遠に脱出できないんですよ、とluojiiは言った。
この五年間、luojiiはしあわせの海に浸っていた。しかし、憎むべき外の世界がエデンの園に侵入し、混乱と不安に彼を突き落とした。
Wallfacerは悪循環から脱出できるのか。
あなたには休息が必要だ。この苦しみを理解できるのはWallfacerだけです。
湖畔を散歩してもいいかな？
どうぞ。少ししたら食事に呼びます。
薄闇に包まれた湖畔のどこにもTaylorの姿が見えない。
湖畔から銃声の音がした。
全人類が不幸なときに、わたしたち、ほんとうにしあわせになれるのかしら
yen、どんなものにも終わりはある。人類だけが永遠に不滅だと思ういわれはない。勝つ見込みのない戦争をするなんて、骨折り損だ。残った時間は人生を楽しむために使うんだ。四百年という時間があれば憂いのない快適な暮らしを創造できる。唯一の義務は、生活を楽しむこと、、、
luojiiは失言に気づいた。あろうことか、ほんとうのことを話してしまった。
そんなこと言って、あなたはそれでもWallfacerなの？
もちろんだよ、と言ったが、yenの目は、あなたはほんとうにそう思っているみたいと語っていた。
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PDC第89回Wallface計画公聴会
Heinzが最初に発言した。
解析撮像機と名づけた装置が完成すれば、脳のあらゆる断面を同時にスキャンし、脳のデジタルモデルが完成する。毎秒24コマのレートで脳をスキャンすることによって大脳の思考活動を観察できるだけでなく、考えているときの神経活動をすべてコンピュータで再現できるようになる。
Ray Diasが次に発言した。
超高出力核兵器のためのデジタル恒星モデルは完成し、現在、検証作業が行われている。
PDC科学アドバイザー委員会は、二名のWallfacerの戦略計画の実現可能性の調査結果を報告した。
Heinzの解析撮像機に関しては、理論上の障壁はないが、技術上の難度がきわめて高い。人間の脳ほどのサイズをニューロンレベルの精度でスキャンし、モデリングすることは現代のコンピュータの水準を超える演算パワーを必要とする。
Ray Diasの恒星爆弾も、コンピュータの演算能力が足りない。核融合プロセスの百分の一秒をシミュレートするだけで20年かかるという見積もりだ。
最先端物理学がsophonに封じられている以上、次世代量子コンピュータの実現はまず不可能です。
必要な演算能力を持つコンピュータができるまで二十年間冬眠して待ちます、とRay Diasが言った。
わたしも冬眠することにします、とHeinzが言った。
Taylorの自殺はとりわけ愚かな行為だった。生きてさえいれば自爆攻撃が彼の真の計画だったかどうかは謎のままだったのに。
数日後、厳重に秘匿された地下施設で、Ray DiasとHeinzは冬眠に入った。
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luojiiはルーブル美術館の展示ホールを歩いている夢を見ていた。
正面にはモナリザがあったが、もう微笑んでいなかった。
やっと目を覚ましたとき、妻がいないことに気がついた。
子ども部屋に駆け込んだが、娘はいなかった。
小さなベッドの上に一枚の絵が置いてあった。
yenが描いた絵の中でも一番気に入っている絵で、細い葦と雁が描かれている。
空白に一行の文字が書かれていた。
愛する人へ。わたしたちは終末戦争であなたを待ちます
玄関ホールに人影が立っていた。sei事務総長だった。
PDCの決定で、あなたにWallfacerとしての責務を果たしてもらうために、二人に冬眠してもらうことになりました。
妻子とここで暮らすことは計画の一部だと言ったはずだ！
徹底的な調査の結果、PDCはそれが計画の一部ではないと判断しました。
あなたは前からずっと真面目な人だった。これからはいままで以上に真面目にならなければいけません。
最初からこういう計画だったんだな
ええ、でもこの一歩を踏み出したのは、ほかに選択肢がないときだけでした。
（初めて出会ったとき、彼女を守ろうと決意させたものは、瞳の中に隠されたそこはかとない悲しみだった。その悲しみのメランコリーは暖炉の火に似て、彼女の美しさを通して輝き、luojiiの潜在意識に滲みとおって彼を愛の深淵へ引き込んでいった）
じゃあ、ぼくも二人とともに終末決戦へ行く
どうぞ
でも、luojii博士、あなたはほんとうに、全人類が生存のために戦っているあいだ、冬眠して過ごしたいの？
愛する妻と娘が四世紀後に目覚めたとき、終末と戦火が彼女たちに襲いかかるでしょう。でも、そのときにはもう、あなたはWallfacerの地位を失い、彼女たちを守る力を持っていない。そういう人生を妻子に与えたいのですか？
最愛の女性を全人類もろとも見捨てた男？
自分の子どもを救おうとさえしなかった男？
あなたはそんな視線を受け止められる？
教えてくれ、どうしてなんだ？
なぜなら、三体文明がその死を願ったのは、全人類の中でただひとり、あなただけだったからです、
あの自動車事故はあなたを狙ったものでした。あなたの恋人が死んだことはただのアクシデントです。
彼らは長い時間をかけて計画したのです。
でも、あのときのぼくは普通の人間で、簡単に殺せたはずです。
三体世界からsophonを通じてEvansに伝えられましたが、いまに至るまで三体人が命令した暗殺計画はそれが唯一です。
いったいなんのために？
あなたの言うとおり、あなたはまさしくふつうの人間です。学者としても人並み以上ではない。世間の注意を惹いてはいけないという条件も間接的にそのことを示しています。
なぜもっと早く教えてくれなかったんですか
あなたが持っているなにかに影響を与えるのを恐れたからです。
（彼のまわりをsophonがぶんぶん飛びまわる音を聞いたことがあった。蛍のようなぼやけた光の点が二つ三つ飛ぶのが見えたような気がしたことも）
あなたは、率直に言って学者失格です。あなたが人類の命運など気にかけていないことはよくわかっています。ふつうの状況下ではあなたのような人間はどんな重要な職責も担うことはできません。しかし、それでもなお、三体世界はあなたを恐れている。
あなたは、みずからのWallbreakerとなって、その理由をつきとめなさい。
そう言い終えると、seiは待たせていた車に乗り霧雨の中に消えた。
to be continued 22:49 2024/05/07
2024.5.6
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shiichianが到着した。
luojiiはshiichianに妙なことを頼んだ。
人探しを手伝ってほしい。二十歳前後の女性だ。
luojiiは滔々と話しはじめた。
図書館で最初に出会ったこと、彼の教室に来たこと、彼女の顔はキャンドルライトに照らされて美しかったこと。
shiichianが言った。彼女の身長は160センチくらい、とてもほっそりして風が吹いたら飛ばされそうな感じだ。
そうだよ、そのとおりだ。
shiichianはノートPCを開いてソフトウェアで描き始めた。
似てないところはないか？
ない。
彼女を見つけられる？
可能性はかなり高いな、あんたの心の中にいる女性がみつかるチャンスはじゅうぶんある。しかし、おれの権限を越えている。
これはWallface計画の重要な一部だと上層部に伝えてくれ。
**************************************************
PDCが彼のために夢の中の女性を探す？そんな要求は伝えられないよ、甘やかしすぎじゃないかとKentは言った。
拒否権はPDCのみにある。もしだれもかもが理由に納得できない限り命令に従わなかったとしたら、世界はとっくの昔に混沌にのみこまれていただろう。
大金を浪費するだけの彼がWallfacerらしく見えるか？
もしあんたにWallfacerの身分が降ってきたら、彼みたいに楽天的な快楽主義者でいつづけられるかい？
ずっと前に神経が参ってるだろうな
そうだろう、しかしluojiiはまるで無頓着だ。あれがWallfacerの風格ってやつだ。大事をなす人間が必ず備えている資質なんだよ。
モニターに現れた女性の画像を見て、こんな女性が実在するとは信じられないが、でも、早く見つかることを祈ってますよ
上層部に報告するとKentは言った。
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luojiiは玄関ポーチの前に車が停まる音を聞いた。
女性の低く柔らかな声が、ありがとうございました、ではこれで、というのを聞いてショックを受けた。
二年前、夢の中でたえず耳にしていた声だった。
luo先生、わたしは荘顔juanyenといいます。
（shiichian、きみはほんとうに化け物だよ、どこで見つけた？）
luo先生、わたしはどんな仕事をするんでしょうか
明日またあらためて話そう。今日はゆっくり寝なさい
luo先生、ここはどこですか？
ぼくにもわからない、ほんとに知らないんだ、電話をかけて聞いてみようか
いいえ、luo先生、知らないほうがいいんです
どうして？
どこだかわかったら、そのとたん、世界が小さくなってしまうような気がするから
翌日の早朝、雨は上がり、外に出たとき、juanyenは畏敬の念にうたれたように景色に見とれていた。
luojiiはjuanyenの手を引いてヨットに乗り、juanyenは雪山を見ながら、中国画が油絵より好きだと長々と話した。
ヨットが対岸の桟橋に着いてから、停めてあったルーフのないジープに乗った。
luo先生、先生はほんとうに宇宙人との戦争に勝つ力があるんですか？
Wallface計画の核心は、人類が真の戦略をひとりの人間の頭の中に封じ込めることにある。
どうして先生が選ばれたんですか？
Wallfacerは歴史上もっとも信頼できない、世界最大のペテン師だよ
なぜ自分が選ばれたのかわからない。ぼくはふつうの人間だ
さぞかしたいへんでしょうね
juanyenの澄んだまなざしには、他のすべての人間がWallfacerに向けてくる感情のかけらもなかった。
たいへんだろうけど、もっと楽にやりたいと思ってる、、それだけだ
luojiiはshiichianを思い出し、スマートフォンを出して電話した。
おお、luo君、juanyenはどう？
最高だよ、信じられない
よかった。これでおれの最後の任務が終わった。いま冬眠の準備をしている。前回の任務で放射線を浴びて去年、白血病になったので、未来に行って治療するんだ。
ぼくのせいで冬眠に入るのが遅れた？
早い遅いは関係ない、未来の医学がどうなってるかなんてわからないからな
ひとつ言っておくが、親不孝の中でいちばん大きなのは、子どもをつくらないことだ。四百年後もわが家系がつづくかどうかは、あんたの働きにかかってる、よろしく頼むよ
shiiおじさんはわたしにこう言ってました、とjuanyenが言った。
yenyen、きみは世界でもっとも大切な仕事をすることになる、先生に力を貸すようにって。
（shiichianがyenyenって言うんなら、、）
yenyen、どうしたいんだい？
こんなに美しい世界を見る人がだれもいなくなってしまうかもしれないと思ったら、悲しくなってしまって
異星人に美しさがわかるとは思えません
彼らは自分の種の生存に対して責任を負っている、善悪の問題じゃない。
もし彼らがほんとうに先生の言うような存在で、先生が彼らを終末決戦で負かしたら、、どうするんですか？
どうして宇宙に追い返して死なせなきゃいけないんですか？彼らに土地をあげて共存してもらうことはできないんですか？
yenyen、いまの君の話は三体世界の元首が聞いているかもしれない
そして、みんなで笑いものにしてるんでしょ？
いや、ほんとうにこの世界を救う人間は君かもしれない
もし人類の三分の一が君みたいな人間だったら、共存する可能性について交渉に応じてくれるかもしいれない
きみは、世界でいちばんしあわせな女性にならなければいけない。これはWallface計画の一部だ。
遠い先のことは考えないで、明日のことを考えよう。明日どこへ行きたい？
ほんとうにかなえてくださるんですか？ じゃ、ルーブル美術館に連れていってください
**************************************************
Taylorは目隠しをされて、山肌に穿たれた洞窟に連れてこられた。
この洞窟は野戦病院になっていて、洞窟の入り口近くにある病床に長い髭の老人がいた。
わたしが今回来たのは、あなたに（小説「銀河帝国のファウンデーション」の）ハリ・セルダンになってもらうためです。
あなたの組織を終末決戦まで維持してください。その精神と魂を宇宙軍に浸透させてください。あなたの組織は永遠に宇宙軍の一部となるでしょう。
終末決戦において、宇宙戦闘機は人間のパイロットが操縦することになるでしょう。近接攻撃のために、特攻精神を有する軍隊が必要なのです。
母さん、ぼくは蛍になります。
**************************************************
PDC第4回Wallface計画公聴会に出席したTaylorは、修正計画を提出した。
編隊の宇宙戦闘機に二系統の制御システムを導入するよう求めます。
ひとつは人間が操縦するもの、もうひとつは無人で操縦するもので、無人モードに切り替えた場合、編隊の全機をわたしが操縦できるようにする。
わたしは終末戦争まで冬眠します。
わたしが選んだ宙域について調査を行いたい。
それから、PDCと世界各国は、ETOに対する攻撃の手を即刻ゆるめるべき
です。
Ray Diasが即座に断固反対した。
これはWallface計画の一部ではありません。もし、いまのように攻撃すればETOはあと二、三年で消滅するかもしれないが、地球と三体世界がコミュニケートできる唯一のチャネルが閉ざされてしまい、敵に関する情報源を失うことになる。
Heinzが同意した。
会議は議論百出したが、次の公聴会で採決にかけることになった。
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luojiiとjuanyenはルーブル美術館のメインエントランスにやってきた。
正面にあるガラスのピラミッドを見てjuanyenが言った。
luo先生、まるで宇宙から飛来した物体みたいに見えませんか？
古代オリエント、古代エジプトの遺産、ルネッサンスの巨匠たちの芸術を見て、juanyenが言った。
芸術も長い冬の夜に入るということですか？
ただ、思ったんです。終末のあと、こういう絵画や美術品はどうなるのかって
モナリザの絵の前にきて、juanyenが言った。
似てますよね、luo先生たちに。Wallfacerに。
人類だけが理解できて、sophonにはけっして理解できないコミュニケーション方法が見つけられないかなって思って。
表情でコミュニケーションできるかも
ふたりはモナリザの前でいつまでも見つめ合った。
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少将があれほど見たいと願った敵星系がこれです。
Fitzloy少将にRingia博士がハップルⅡ望遠鏡の管制室で言った。
一か所に固まってぼんやりかすんでいる。
惑星は見えないんだな。
でも、なにかべつのものがあります。
刷毛（はけ）だ！
まさか！
刷毛の中に毛が何本あるか数えられるか
コンピュータの計算結果が出た。
三体世界の三つの恒星は星間物質の塵に囲まれている。高速で移動する多数の物体が周辺の塵と衝突することによって、背後に航跡を残し、この航跡は拡散して木星二個分にまで広がっている。
毛は数え終わった。だいたい千本だ。
少将、いまわれわれが見ているのは、三体艦隊です。
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2024.5.5new
目次へ
宇宙軍政治部工作会議が始まり、chanweisuuは長い沈黙のあと、話しはじめた。
われわれの職責は、未来の戦争に勝てるという信念を打ち立てることだ。信念のあるものは挙手してくれ
だれも手を挙げなかった
では、勝利は可能か？
janpeihaiだけが手を挙げた
その信念はどこにある？
三体危機以前から、戦争の未来を科学的論理的に分析すべきであるという思想が現在に至るまで維持され、現在、多数の知識人や科学者が加わった結果、その風潮が強くなっています。
高度に発達した三体文明の存在は、地球の科学が子どものレベルでしかないことを示しています。だとすれば、あえてそれを選択的に無視するすべを学ぶ必要があります。
勝利の信念は必ず打ち立てねばなりません。
かつてわれわれは、きわめて困難な条件のもとで強大な敵と対峙し、祖国と人民に対する責任感により、勝利への堅い信念を打ち立てました。
今日においても全人類と地球文明に対する責任感が同じ信念を支えうると、わたしは信じています。
われわれはまず、自分たちが戦争状態にある軍隊であることを意識しなければなりません！
chanweisuuが話しはじめた。
宇宙軍司令部は、宇宙戦争理論の研究計画を修正し、人類が将来到達するであろう発達度合いに応じて、低、中、高の三つの技術戦略に分ける。中核となる指標は、1万トン級の宇宙船の速度と航行距離だ。
低技術レベルは、秒速800キロメートル、海王星の内側まで
中技術レベルは、秒速4800キロメートル、カイパーベルトの外側まで
高技術レベルでは、光速の5パーセント、航行範囲はオールとの雲までひろがる。
32名のうち、高技術戦略研究室を選んだのはjanpeihaiだけだった。
また、宇宙軍とWallfacerとの関係がある。
現在、Taylorだけがわが軍の調査を行いたいと言ってきている。Wallface計画との間に一定のバランスを保つ必要がある。
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luojiiは生まれて初めて夢がかなった気分を味わった。
なにもかもおとぎ話から抜け出したようだった。
周囲5キロ以内には誰もいません、とKentが言った。
この家の元オーナーが光栄に思っているとのことです。彼はこの土地を国連に寄贈しました。
どの部屋も上品で落ち着きがあり、元オーナーの料理人、運転手、厩舎番、クルーザーの運転手が紹介され、Kentは警護責任者だという。
luojiiは心の中で言った。この生活に比べれば、400年先の未来なんかクソ食らえだ。
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Ray Diasは核兵器シミュレーション・センターに行き、核爆弾について質問し、注文した。
現在、人類が実践に投入できる兵器の中では水爆が最も強力だ。われわれはちゃんとした文明人だという印象をsophonに与えたい。
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Bill Heinzは妻に言った。わたしには無理だ。なにも思いつかない、まったくなんのアイデアも出てこないんだ。
Bill、わたしたちの計画が最終的に失敗したとしても、後世の人たちが思いつくのに手を貸すことができます。
人類文明の歴史はたった五千年、現代の技術文明にかぎれば、わずか二百年だが、脳科学の研究を進めれば、もしかしたら人類の知性を向上させて、一世紀か二世紀後にsophonの檻を抜け出せるかもしれない。
まずやるべきは、脳のメカニズムを根本的に解明することだ。脳科学と思考研究に巨額の予算を投入すれば、二世紀でできるかもしれない。
OK、Bill、わたしたちにはたっぷり時間があります。
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PDC第二回Wallfacer公聴会も三日目に入った。
Taylor、Ray Dias、Heinzは、それぞれ第一段階の戦略計画について発表し、予備審議に付された。
Ray Diasの水爆計画とHeinzの研究計画はリソースを使いすぎると批判されていた。
Tailor：宇宙に展開する新たな一千機の宇宙戦闘機の編隊を創設し、各戦闘機に100メガトン級の水爆を搭載する。各戦闘機はネットワークで集合体を構築し、戦闘宙域に到達後、集合体から離れて編隊として戦闘に参加する。
太陽系外縁部の防衛ゾーンに到達するまで冬眠設備で冬眠する
何年も冬眠して、目を覚ましたら自殺攻撃をする？
そんなパイロットに志願するかな
luojiiは今日も来ないのか
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いま、すべてが緊張の渦に巻き込まれたこの時代にあって、luojiiは世界でもっとものんびりした人間だった。
テレビのニュースで十七世紀半ばに沈没した船からワイン樽が見つかったことを知り、Wallfacer特権でそれをべらぼうな価格で買わせて、一人でひと口飲んで、そして吐きつづけた。
当時の慣習として樽の内側に貼ってあった銅製のラベルが原因だったらしい。
luojiiは点滴を受けてベッドに横たわり、shiichianが来るのを予想した。
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Taylorは、日本の鹿児島の知覧特攻平和会館で防衛大臣の井上と話していた。
あろうことか、特攻隊を復活させるにはこの国が自然ではないかと言った。
どうして人間のパイロットが必要なんです？
まさにそれが問題だ、量子コンピュータの開発に必要な基礎理論の進歩は、sophonによって封じられている。コンピュータの知性に飛躍的な向上は見込めず、人間が操縦する兵器が不可欠なのです。
そのアプローチは現代社会の基本的な道徳規範に反しています。
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Ray Diasは、人類史上初の原爆実験の爆心地を示す記念碑にいた。
その数学モデルを構築するのは、現在のとくらべてたいへん複雑な作業になります、と研究者は言った。
このスーパーボムの核融合プロセスは、恒星と非常によく似ています。
次の新たな発見によって人類が復活するかもしれません。
東の空に太陽が昇ってきた。
突然、Ray Diasの息遣いが荒くなり、しゃがみこんで地面に片手をつき、顔は蒼白で全身が冷や汗でぐっしょり濡れ、両手で目を覆って倒れた。
これ以降、奇妙な太陽恐怖症になり、屋内に閉じこもって過ごすことになった。
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to be continued 22:25 2024/05/05
2024.5.5
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惑星防衛理事会第19回会議は、これより最後の議題に移り、最終的に選定されたWallfacerの氏名を発表し、Wallfaceプロジェクトの開始を宣言します。
最初の二つのsophonが出現したのち、さらに多くのsophonが太陽系に到達し、地球に侵入しています。
したがって、地球上のあらゆる活動は、三体人にとって開いた本のようにいつでも読める状態にあり、もはや人類社会にはどんな秘密もないということです。
三体人は目に見える思考によってダイレクトにコミュニケートします。このため、彼らは陰謀や偽装、欺瞞の能力が著しく低く、この点は人類文明にとって大きなアドバンテージになります。
したがって、Wallfaceの立案者たちは、防衛計画と並行して作戦を進めるべきです。
人類にはいまもまだ、秘密の領域が残っています。それはわれわれ個人個人が持つ心の中の世界です。
sophonは人類の言語を聞きとることができ、印刷物の文字や電子データを閲読できますが、人間の思考を読むことはできません。
Wallface計画の核心は、計画を立案し指揮する人間を選び出すことです。その人物は100パーセント自分の頭の中だけで計画を練ることになります。
Wallfacerには強大な権限が与えられ、地球の軍事資源の一部が自由に使えるようになります。作戦計画を遂行する過程で、Wallfacerはいっさいの説明を必要としません。
では、これより国際惑星防衛理事会PDCにより最終的に選定された四名のWallfacerを発表します。
一人目は、米国国防長官を退任したばかりのFrederic Taylor。
二人目は、現職のベネズエラ大統領Ray Dias。
三人目は、Bill Heinz、彼は大脳の思考と記憶が量子レベルの活動であることを発見した。
四人目は、luojiiだった。
これはなにかの間違いでは？とluojiiは言った。
ぼくは断わる、luojiiはきっぱり言って会場を出た。
今回の会議に関するニュースはまだ公表されていない。だれもluojiiのことを知らなかった。
luojiiは論理的な思考力を失い、いつのまにか芝生の上を歩き、ある像の前に立っていた。
それはかつてソビエト連邦から寄贈されたブロンズ像で、ハンマーと剣を持ったたくましい男性像だった。
突然、激しい衝撃に見舞われて仰向けに倒れた。やがて意識を取り戻し、自分をとりまく人々の顔をぼんやり見た。その中にshiichianがいた。
警護はいるか？ おれたちはあんたに言われたことしかできない！
luojiiがうなづくと、すばやく担架で救急車に乗せられた。
肋骨の骨折が一か所と軽い内出血があるので、いまは休息が必要です、と病院の医師が言った。
あんたに防弾衣を着せておいてよかったよ、犯人はETO武装勢力のゲリラ戦の専門家だ。
shiichianが犯人を連れてきた。
あなたを殺せなかったことを悔やんでます、と男は言った。
ぼくはもう解放されている、事務総長の前できっぱり断ったからね、きみはぼくを殺そうとしたとき、知らなかったんだからETOは殺し屋をひとり無駄にしたわけだ
あなたは面白い人ですね、と男は微笑して言った。
病院にはフル装備した護衛がたくさん配置されていた。
おれは惑星防衛安全部の所属で、あんたの身の安全を守る責任者だ、とshiichianが言った。
shiichianが出ていったあと、Kentが入ってきた。
ぼくはもうWallfacerじゃない！
Wallfaceのニュースは公表されました。
国連特別会議終了後、luojiiはWallfacerの身分と使命を拒否すると宣言したと報じられました。
事務総長に会いたい。
事務総長はオフィスでお待ちしているということです。
事務総長seiはluojiiの言うことを聞いてうなずいただけで、何も言わなかった。
ぼくはまだWallfacerなんですか？
seiは国連旗の下にたたずんで笑みをうかべて言った。あなたはどう思いますか？
seiの微笑はluojiiの気持ちを落ち着かせた。
モナリザの微笑、チェシャ猫の微笑、殺し屋の微笑、共通するものがあった。
luojiiはゆっくりとソファに腰かけ、座った瞬間にすべてを理解した。
luojiiはWallfacerという地位の本質を悟った。
Wallfacerの使命と地位は、いったん与えられたら、拒絶することも放棄することもできない。Wallfacerになった瞬間から、Wallfacerとそれ以外の一般人とのあいだには、目に見えない、越えられない壁が立ちはだかって、Wallfacerの一挙手一投足にべつの意味を与える。
どうしてぼくが選ばれたんですか？
間接的な理由しかわかりませんが、あなたが利用できる資源は一番少ないです。ほんとうの理由はだれもわかりません。あなた自身が答えを見つけ出さなければいけません。
間接的な理由を明かす権限はわたしにはありません。今後、あなたの仕事はPDCの枠組みの中で進められます。なにかあれば、PDC議長に直接報告してください、
どこへ行っても護衛がくっついてきた。
luojiiは事務局ビルとつながった総会議場ビルの瞑想室に入った。
いまのぼくに奇妙な権力が残されているというなら、利用してみようか
PDC議長に会うことを要求した。
輪番制で決まる今期のPDC議長はGaraaninという堂々たる体躯の白髪の老人だった。
ほかの三人はなにをしていますか？
それぞれの参謀本部を組織するのにとりかかっている。あなたもできるだけ早くとりかかるといい。
ぼくに参謀本部はいりません。
ぼくはどこかとても美しい場所に住んでいると空想したことがあります。
雪をいただいた高く険しい山々のある亜熱帯地方で、深い群青色の湖のまわりに広大な森林と草原が自然のままに残されている。
そこに周囲と調和した一軒の家を建て、プールや噴水もあって快適な上流生活を送れるようにする。
そこに僕が住むのです。
Garaaninが言った。委員会によるヒアリングのあと、ただちに実行しよう。
委員会からWallfacerに疑義をさしはさめるのは、リソースが上限を超えた場合と、人類の生命に害を及ぼす場合だけだ。
ほかの三人のWallfacerには失望した。彼らの計画は戦略計画がなにを目指しているのか一目瞭然だった。
あなたのはじつに不可解だ。それでこそWallfacerだ。
もしぴったりの場所が見つかったら、そこがどこなのかぼくに教えないでください。
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「三体世界」ゲームの中は真夜中だった。
荒れた砂漠に、周の文王、ニュートン、フォン・ノイマン、アリストテレス、墨子、孔子、アインシュタインが集まり、秦の始皇帝を見ていた。
みなも知っているとおり、Wallface計画が発動された。人類は完全に閉ざされた一個人の戦略思考により、sophonの監視に対抗しようとしている。
四人のWallfacerは主にとって脅威となる。われらはただちにWallbreake計画を発動せねばならん。
sophonは、Wallfacerたちの一挙手一投足を明らかにするが、唯一残る秘密はかれらの思考だ。WallfacerごとひとりのWallbreakerを指名する。その任務は、真の戦略意図を可能な限り早く看破することだ。
フォン・ノイマンは、Frederic TaylorのWallbreaker1。
墨子は、Ray DiasのWallbreaker2。
アリストテレスは、Bill HeinzのWallbreaker3。
luojiiのWallbreakerは？
luojii自身がWallbreakerになる。
四人のWallfacerの中で、彼だけが主と対決するだろう。
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to be continued 15:54 2024/05/05
2024.5.4
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「三体」ゲームの中に周の文王がいる。
ピラミッドも国連本部も振り子もない。
時間の経過を加速させて、三つの太陽が飛星になり、飛星がまた太陽に戻り、時間が飛ぶように過ぎてゆく間も周囲の光景に変化はなく、永久不変の荒野があるだけだった。
厳寒が訪れて文王は氷柱になり、やがて飛星のひとつが太陽になり、燃え盛る巨大な円盤が頭上を通過すると、文王を覆っていた氷は溶け、火柱となり、燃え尽きる寸前、彼はログアウトした。
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宇宙軍設立の式典の前日、chanweisuuは陸海空の将校を集めて説明した。
未来の宇宙戦争は格段に大きな総トン数、格段に長い航続時間を戦闘基盤とする。
宇宙艦隊に乗り組む士官やクルーが生まれるのは、いまから二世紀後になる。
そしてその二世紀半後、地球艦隊は侵略者と対峙する。
重要ニュースの放送が始まった。
国連は、近々開催される国連特別会議で逃亡主義について討議すると発表しました。
逃亡主義は三体危機の発生とともに誕生しました。
人類の科学技術の発展が阻害される場合、いまから四半世紀後に地球を防衛する計画を立てることは無意味であり、より現実的な目標を掲げるべきであるというものです。
恒星間宇宙船を建造し、人類の一部でも宇宙に脱出させ、人類の滅亡を避けるという目標です。
しかし人類が到達可能な技術レベルを考えると実現は困難でしょう。
ほかに、恒星間宇宙船の中で文明を存続させる案がありますが、閉鎖生態系を作る技術が最大の難関でしょう。
つぎに、三体社会と積極的に交流し、人類に宥和的な政策をとることを求め、三体文明と共存する案があります。これは現実的な案ではあるが、不確定要素が多すぎます。
世界中のさまざまなメディアによれば、アメリカとロシアは自国民の地球脱出計画を秘密裏に立ち上げているとのことです。
両国政府は即座に否定しましたが、この疑惑は国際社会に大きな騒動を巻き起こしています。
多くの発展途上国が米ロ日中EUに対し、あらゆる先進技術を無償で国際社会に提供することを要求しました。
技術共有化の提案は米英両国によって否決され、地球連合艦隊設立草案は頓挫しました。
三体危機を前にしてもなお、人類の団結は遠い夢であることを世界に知らしめたのです。
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Evansについで三体世界に忠誠を誓った男p2の網膜にsophonのメッセージが現れた。
＜かつてわれわれは、人類の逃亡を気にかけていなかったが、思考が不透明な敵が太陽系外に逃亡することは危険だと判断し、太陽系に対して包囲態勢を敷くことにした＞
＜ETOの次の使命は、人類の脱出計画を阻止、あるいは遅延させることだ＞
【主よ、この問題について心配する必要はまったくありません。人類の大規模な太陽系脱出は起こりえません、脱出の最大の障害は人と人との争いです、つまり、だれが脱出し、だれが残るかという問題です。人類はこの落とし穴から逃れられないのです】
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周の文王はふたたび三体世界にログインした。
馬に乗ってニュートンがやってきた。
わたしにもsophonからメッセージが届いた。
現実世界では協会に対する攻撃の勢いがかなり弱まっているが、ここなら現実世界よりも安全だ。
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新聞の一面に記事が出た。
国連特別会議は、逃亡主義を違法とする第117号議案を可決
逃亡主義を違法と宣言
逃亡主義が人類社会内部に分裂と動揺を招くものであると厳しく指弾すると同時に、逃亡主義は国際法における反人類罪に相当するとの判断を示した。
本決議は、加盟国に対し、逃亡主義を断固として阻止すべく、可及的すみやかに法制化することを呼び掛けている。
地球は人類共同の故郷であり、われわれは絶対にそれを捨てるわけにはいきません。
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luojiiは寝ぼけまなこで女をながめていた。二人はホテルのレストランで朝食をとり、タクシーを探しながら歩いていたとき、ふと彼女が肩にかけたバッグが浮き上がり、彼の方に向かってきたのでよけようとして消火栓に足をとられて倒れた。
このとき、目の前の道路で二台の車が正面衝突して彼女の体が宙を舞い、道路に落ちた。
luojiiはどこかわからない地下10階の小部屋に入れられた。自分は逮捕されたと思った。彼が彼女を故意に事故に合わせて殺したとされたのではないか？
彼に会いに来た人物がいた。shiichianだった。
出発までまだ時間がある。少し仮眠しろ。
shii隊長、予定が早まりました。いますぐ出発します。
若者が入ってきた。
luo先生、防弾衣に着替えて下さい。
ここは原子爆弾用のシェルターだ、とshiichianが言った。
三人はまたエレベーターで地下1階に上がって地下駐車場に行き、車に乗った。
1時間ほど走って大型の飛行機が駐機している空港に着いた。
男性三人に迎えられて広々とした機内に入り、ゆったりとした座席に座った。
この飛行機の左右に戦闘機が四機づつ飛行していた。
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真夜中、宇宙軍の業務報告会議はまだ続いていた。
章北海janpeihaiはchanweisuu司令官に言った。
彼我の戦力差は、人類の戦争史上、例を見ない大きさです。宇宙軍が直面する最大の危険は敗北主義だと思います。
敗北主義の根源は、主として無条件の技術崇拝と、人間の指導力及び人間精神が戦争に果たす役割の軽視もしくは無視にあります。
次に、敗北主義の典型的なパターンにあてはまる同志の具体例を紹介したいと思います。
会場の倦怠感と眠気はたちまち消え失せた。
それは呉岳wuuyue大佐です。
彼は軍事的な思考がテクノロジーに偏りすぎています。技術こそ戦争の勝敗を決める唯一の要素だと思っているふしさえあります。
三体危機を知った時点で彼は未来に対する自信を失い、絶望感を吐露することが多くなりました。wuuyue同志はもはや宇宙軍における任務に適さないと考えます。
wuuyueが発言を求め、janpeihaiの結論に同意した。
chanweisuuは他の者の発言を制止して言った。
敵と我が方の技術レベルに大きな差があるかぎり、敗北主義は払拭できないだろう。この問題を解決する単純な方法は今はないが、長い時間と労力のかかる方法と、さらなる対話と議論が必要になる。
なによりもコミュニケーションと交流を通じて解決をはかるべきだ。
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luojiiは事故にあった女性、白蓉pailonを思い出していた。多少は名の知れた思春期小説の作家だった。
彼女に勧められて小説を書くことになり、次第に熱中して創造の楽しさに飽きることがなかった。
そして、精神を病んだ。創作した小説の中の彼女に恋してしまった。
自然にまかせるのが一番です、忘れる努力をしてはいけません、と医者は言った。
luojiiは睡眠薬を飲んで寝た。
shiichianに起こされたとき、六時間も寝て気分は爽快だった。
専用機は15時間の飛行を終えて着陸した。
出迎えたKentという人物は百戦錬磨の傑物だとluojiiは感じた。
あなたがたはたいへんよくやってくれました。段階の最小化がセキュリティの最大化につながります。
会見は1時間後にはじまります。
軍用車両に乗って着いたところは、国連本部ビル前だった。
国連総会議場にはすでに大勢の人々が着席していた。
アジアの淑女というイメージの事務総長にKentがなにか耳打ちした。
事務総長は話し始めた。
to be continued 21:44 2024/05/04
2024.5.3new
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宇宙社会学の公理:
luojiiはyewenjeを迎えるために立ち上がった。
yewenjeの頭髪は白くなっている。
luojiiはyewenjeの娘yandonと高校の同級生だった。
wenjeはluojiiに宇宙社会学の研究を薦め、宇宙社会学の公理を教えた。
この宇宙には膨大な数の文明が散らばっている。
それらの文明が集まって、宇宙社会を形成している。
宇宙社会学の数学的構造は、人類社会学の数学的構造よりも明確。
宇宙の文明社会が持つ複雑な構造は距離によって篩にかけられ、その結果、宇宙の文明はいくつかのパラメーターを持つ点にしか見えなくなり、数学的な操作が行える。
研究に使える実際的なデータがないので、研究成果は純粋に理論的なものになる。
いくつかの単純な公理を設定し、それを基盤にして理論体系を導き出す。
公理その一：生存は文明の第一欲求。
公理その二：文明は絶えず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定。
この二つの公理から宇宙社会学の基本的な青写真を描くために必要な概念は：
猜疑連鎖と、技術爆発。
もし行き詰まるようなら、わたしが言ったことを忘れてかまわない。
yewenjeは最後となる集会に去って行った。
luojiiも立ち去ったが、あの世界では二人の会話を聞いていた。
MikeEvansの記憶：
MikuEvansはJudgementDayの船首に立って、sophonが網膜に映し出す文字を見ていた。
＜22回目の対話を始める。われわれのコミュニケーションにいくつかの問題が生じている。おまえたちから受け取った文書の理解を妨げているのは同義語にあると判明した＞
【あなたたちにとって思うことと話すことは同義語なんですね】
＜そのとおり、われわれの脳波の方が強くて相手が直接受信できるため、コミュニケーション器官をもつ必要がないということだ＞
【あなたがたの思考は外界に対して完全に開かれていて、隠すことができないんですね】
＜思考を直接表示することは、コミュニケーション手段として効率的で優れている＞
【主よ、あなたがたにはわたくしどもが必要です】
＜わたしはおまえたちが怖い＞
会話が中断され、これが最後の受信だった。
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アラスカ州のフォート・グリーリー基地付近からミサイルが発射された。
数千キロ離れたコロラド州のシャイアン・マウンテン地下300メートルにある北アメリカ宇宙防衛司令部指揮センターの米国本土防衛システム管制室：
システム警報が出たときから、なんでもないとわかってたのにな
攻撃目標は国際宇宙ステーションの交換済みの古い反射フィルムだったが、太陽風によって丸まったり開いたりしていた。
防衛システムの目的は、sophonが地球周回軌道の近傍で低次元展開をするのを阻止することだ。
テレビに定時ニュースが流れた。
米国本土ミサイル防衛システムは、地球近傍軌道で低次元展開するsophonを破壊するための軍事演習に成功したと報じました。
標的は国際宇宙ステーションが廃棄した反射フィルムです。
核弾頭を搭載した迎撃ミサイルが目標の破壊に成功したとのことです。
三次元展開したsophonが人類にとって脅威となる反射鏡を形成する前に破壊することが可能となりました。
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ある地下室で男の視界にsophonのテキストが現れた。
＜Evansはおまえに暗号化した文書を送ったが、そのパスワードは変更されていた。彼は新しいパスワードを伝える前に死んだ。そのパスワードを教えよう＞
【主よ、ほんとうにあなたなのですか？！】
＜われわれはおまえたちを恐れていた＞
【わたしたちの思考が透明でないからでしょうか？あなたがたにないすべての能力、欺瞞、策略、偽装などは、主に奉仕するために使っているのです】
＜われわれにはそれが真実か嘘かわからない＞
【ETOはいま、崩壊寸前の状態です。救済派は瓦解し、降臨派だけが組織を維持しています。主に見捨てられたことで、メンバーの主に対する忠誠は試練にさらされています。忠誠を保つためには主の支えが必要です】
＜Evansがおまえたちに与えた命令には、われわれが学ぶことのできない戦略のひとつが含まれている＞
【注意を惹くことを避けるため、それがETOの仕業だということを外部に知られてはならない、ということですか？ ターゲットが重要人物ならこの要求はあたりまえのことです】
＜われわれには、これは複雑な作戦だ＞
【わかりました。Evansの要求どおりに任務を遂行します。主よ、わたしたちは忠誠心を証明してみせます】
to be continued 22:52 2024/05/03
2024.5.3
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30時間後の夜、陽子の二次元展開の三度目の実験が実施され、成功した。
星空が二つの部分に分かれて見え、惑星の南半球の空が重なっている！
三体惑星の上空に出現したのは巨大な鏡、それは二次元平面に展開された陽子だった。
厚さのない幾何学平面。
二次元展開が完了するころには、空は南半球の夜空を映した鏡にすっぽり覆われた。
陽子平面が惑星の引力で曲げられて星々の鏡像が溶けたように長く伸びねじれている。
電磁ビームを投射して陽子平面の曲率を調整し、三体惑星を完全に包みこんだ。
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その後長い時間をかけて、三体惑星は電磁ビームを投射し続け、ついに惑星の重力と上向きの電磁ビーム投射がバランスし、陽子平面は三体世界の軌道上で巨大な球殻を形成した。
球殻は太陽の熱量を宇宙に反射して三体世界の気温は急激に低下し、三飛星出現に匹敵するレベルに達して、すべての三体人が脱水して貯蔵された。
陽子の巨大膜を支える電磁ビームが煌めく中で、宇宙船が巨大膜にマクロスケールの集積回路をエッチングした。
千隻以上の宇宙船が一万五千時間を費やして集積回路は完成し、ソフトウェアの調整にさらに五千時間を要した。
＜マイクロ知性sophon1はコマンドを待っています＞
ひとつの陽子が知性を持った。
【空間次元を三次元に設定せよ】
＜次元調整に成功しました＞
陽子は二次元から三次元に折り畳まれた。
【空間次元を四次元に設定せよ】
＜次元調整に成功しました＞
sophon1は四次元の巨人であり、われわれの世界は薄い三次元の紙です。
【空間次元を六次元に設定せよ】
＜次元調整に成功しました＞
六次元の陽子は半径約50センチメートルの球体になった。
【われわれが見えるか？】
＜わたしは管制室を見ることができます。その中にいる人の内臓や内臓の内側を見ることができます＞
sophon1は高次元からどのような密閉された空間にも入ることができる。
管制室の真ん中に鏡面の球体が出現した。
六次元空間にある陽子を三次元空間に投影したものだった。
十一次元まで移行させて本来のサイズの陽子にもどせるのか、と元首が訊いた。
もし、十一次元まで移行させたら、内部センサーと入出力インターフェイスはどんな電磁波の波長よりも小さくなって、sophon１はマクロ世界を感知できなくなり、われわれのコマンドを受け付けなくなります。
複数のsophonを創れば、量子効果に基づいて相互感知システムを構築できます。
片方の陽子のスピンの向きを変えれば、どれほど離れていてももう片方の陽子のスピンの向きは変わります。
つづく三つの陽子の二次元展開は成功し、sophon2、sophon3、sophon4を構築して量子感知システムが構築された。
【sophon formation、十一次元に移行せよ】
sophon1とsophon2を地球へ飛行させた。
真空構造からエネルギーを借り、光速に近い速度で飛行。エネルギーを返済する期限は陽子が崩壊するはるかな未来。
地球に到達した後は、人類が物理学研究に用いる高エネルギー加速器を見つけ出し、潜伏する。
地球文明の科学水準では、加速した高エネルギー粒子をターゲットとなる粒子に衝突させ、崩壊後の結果を分析して物質の基本構造を示す情報を見つけ出すという方法をとっているが、衝突の確率は極めて低い。
sophonは量子感知フォーメーションにより、加速された粒子がとるコースを予測して自身に衝突させ、意図的にまちがった結果を出し、物理学者を混乱させることができる。
衝突によってsophonが破壊されることはなく、ばらばらになった場合、その数だけ不完全なsophonが生成されるが、強いエンタングルメントにより一か所に集まり再結合してもとのsophonになる。
このsophonは光速に近い速度で地球のすべての加速器に移動し、あたかもマルチタスクのように、加速器に誤った結果を出すことができるのです。
地球人の科学はミクロ次元にアクセスできなくなり、進歩が止まります。
sophonを繰り返し使ってフィルムを感光させ、地球人が写真を撮影させる際、文字を表すことができる。
また、地球人の網膜はわれわれとよく似ているので、網膜に文字や図形を映すことができます。
さらに、二次元展開ソフトウェアにより、巨大な平面で地球全体を包みこみ、宇宙背景放射の波長に合わせて透明度を調節することが可能です。
このような現象は地球人に奇跡を感じさせ、地球人の科学的思想を間違った方向に導くことができる。
sophon1とsophon2は三体世界のsophon3とsophon4と量子フォーメーションを維持しているので、リアルタイムで地球を監視することができます。
元首は決心した。
長期間にわたって地球人の誕生を禁止し、人類という種を消し去る。このことを地球人に伝える。
地球人の反応は、一つは決戦を挑んでくる、もう一つは絶望と恐怖に支配され、堕落し崩壊する。
地球文明に関するデータによれば、後者の可能性が高い。
昇ったばかりの太陽は沈み、新たな乱紀が訪れた。
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wenjeが三体世界のメッセージを読んでいたとき、作戦司令センターでは降臨派から奪取したデータを分析するための重要な会議が開かれていた。
chanweisuu少将が言った。
同志諸君、われわれの会議は、現在すでにsophonの監視下にある。
chanweisuuがこう発言した3秒後、三体世界は地球三体世界協会ETO以外の人類とはじめてのコミュニケーションが成立した。
これ以降、三体世界はETO降臨派との通信を中止した。
作戦司令センターの全員の網膜にメッセージが現れた。
＜おまえたちは虫けらだ＞
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wanmyaoはdinyiiの家のリビングにいた。
dinyiiはこう言った。
マクロ原子は、通常の原子が低次元に展開されたものである可能性が高い。
三体人科学者がすごいのは、亜原子粒子を低次元に展開するのと同時に、高次元の情報を保持することによって、すべての過程を可逆的にしたことだ。
われわれはまだ十一次元からしかスタートできない。つまり、加速器なしではなにもできない。
おれたちは虫けらだ！
shiichianが家に入ってきたときは二人はすっかり酔っぱらっていた。
shiichianは二人を連れ出し、車で北京市街を出て高速道を突っ走って河北省あたりで降り、見渡す限りの麦畑に来た。
バッタの群れがびっしり畑を覆いつくしている。
見てみろ、これが虫けらだ。こいつらとおれたちとの技術力の差は、おれたちと三体文明の差よりずっと大きい。
虫けらどもは殺虫剤や遺伝子操作でも絶滅しないどころか、まるで減っていない。
虫けらはいままで一度も敗北していないっていう事実を忘れるなよ
ありがとう、wanmyaoはshiichianに片手を差し出した。
ぼくも感謝するよ、dinyiiももう一つの手を握った。
やることがいっぱいある、wanmyaoが言った。
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三体文明の真実を知ってから、wenjeはほとんどしゃべらなくなった。
wenjeは紅岸基地の跡地を訪れた。
大きな金属製の土台の横に、小さな石碑があった。
「紅岸基地跡地（1968年ー1987年） 中国科学院 1989年3月21日」
雲海の中へゆっくり沈む夕陽が空の一画を真っ赤に染める。
「これが人類の落日」wenjeがつぶやいた。
第一巻終わり
to be continued 17:57 2024/05/03
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2024.5.2
目次へ
元首は執政官に命じた。あのような監視員の過失は許せない、何らかの責任を有する者を全員脱水し、焼却しろ。
艦隊第一陣は建造後ただちにあの方角へ出航せよ。
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三体時間にして8万5千時間（地球時間で約8.6年）後、元首は緊急会議を招集した。
三体艦隊は2万時間前に出航したが、おおよその方向だけで距離は知らなかった。
半時間前に、例の警告に対する返信が届いていた。
地球文明との距離がわずか4万光時だということを意味する。
彼らの文明史は地球年で、狩猟時代から農耕時代まで十数万年、農耕時代から蒸気機関時代まで数千年、その後二百年で電気時代、数十年で原子力と情報化時代へと加速度的に到達しています。
われわれが到達するまでに地球文明がさらに加速度的に進歩し、一方、三体艦隊は長距離の航行で損耗し、地球文明の前に壊滅する恐れがあります。
従って、いまなすべきことは、地球文明の科学的発展を抑えることだ、と元首は言った。
科学執政官が説明した。
第一の計画は、科学技術の副作用を強調すること。
第二の計画は、地球人にとって超自然的としか思えない力を見せること。
すなわち、いくつかの奇跡を通じ、科学の論理では説明できない、いつわりの宇宙をつくりだすこと。
これには、地球上の疎外されている勢力に対し、地球文明よりも高い技術を供与する必要があります。
現在われわれは、ミクロスケールの11次元のうち、9次元まで操作できるが、建造中の巨大粒子加速機で、陽子を2次元に展開します。
？！
実験は当初のもくろみは失敗し、1次元の長さ1.5光年の無限に細い線になった。
1次元の糸は滝のように空にあふれ、しだいに細かい断片にわかれて大気中に漂い続けた。
二次元に展開する実験はまたもや失敗し、三次元に展開された。多様な形状の立体が空を埋め尽くし、やがて三体人の目にそっくりな形状が現れて人々に恐怖が広がった。
目のかたちをしたものは、他の立体よりも高速で移動して集まりはじめ、巨大な放物面反射鏡になって太陽光を集め、首都の中心部を白熱させた。
もし、陽子がゼロ次元で展開されたら、陽子の質量が特異点に含まれて密度は無限大になって、ブラックホールになります。
このブラックホールを制御できないと、すべての物質を吸い込んで、やがてこの惑星の中心まで達して、三体世界をすべてのみ込んでしまうでしょう。
今回の実験で、われわれはミクロコスモスの文明をひとつ滅ぼしました。
科学者は過去に加速器で、陽子と中性子、中性子と電子を衝突させてミクロコスモスを壊滅させています。
地球内部の疎外分子は勢力を拡大しており、われわれに向かって情報を大量に送ってきています。
地球では三体文明が一種の宗教になっていますが、三体世界でも地球文明が宗教になる潜在的な可能性があります。
地球からのメッセージが民間に伝わらないようにせよ、と元首は言った。
to be continued 23:36 2024/05/02
2024.5.1
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逮捕されたwenjeに尋問が行われている。
三体世界との通信が降臨派に独占されてから、あなたは第三の紅岸基地を建設しましたか？
受信基地を完成しただけで建設はストップされ、解体されました。アルファ・ケンタウルスの方向からはメッセージが送られてこなかったからです。
MikeEvansは、わたしに本心をさらけ出したことはなく、人類文明を滅ぼすことを理想とする立場をとるようになっていました。
あなた方救済派はなぜ第二紅岸基地を攻撃しようとしなかったのですか？
主のメッセージが第二紅岸基地に保存されているからです。
あなたがたは三体艦隊が来るまで四百年以上かかると言ってるが根拠は？
現在の三体文明は光速の十分の一の速度で宇宙を航行することが可能ですが、航海の時間の大部分は宇宙空間からの反物質粒子の収集の時間と、加速と減速に必要な時間なので、四光年の距離でも四十年でなくて四百年以上かかります。
6年前、三体世界は二つの水素原子を光速近くまで加速し、この太陽系に向けて射出し、2年前に太陽系に到達し、それから地球に来ました。
この2つの陽子の存在ゆえに、三体艦隊が到着するまで、人類の科学に重要な進歩は起こらないでしょう。
たった二個の陽子で科学の進歩がすべて封じられている、、、信じられないことが起きている。
ひとつのちっぽけな高次元の構造が、非常に大きな低次元の構造を包含できる。
七つの次元がミクロスケールの中に折り畳まれていて、これにマクロスケールの四つの次元を加えると、基本粒子には十一次元の時空が存在する。
ミクロ次元の制御と操作が可能であれば、、、
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だいじょうぶだ、もう放射性物質は体に残ってない、とshiichianがwanmyaoに言った。
今日の会議には多くの外国の軍人が参加している。
人類史上はじめて、共通の敵に立ち向かうのだ。
我々の子孫が三体人の敵と遭遇するのは、いまから四世紀半後のことになる。
いま対峙している相手は同じ人類だ。
第二紅岸基地すなわちJudgementDayに保存されている三体文明からのメッセージを奪取する。あの船はいまもなお合法的に大西洋を航行している。
四日後にパナマ運河を通過する予定なので、千載一遇のチャンスだ。
shiichianが提案した。
運河の両岸の柱にwan教授が開発した毛髪の十分の一の細さのナノマテリアルのワイヤを張り、船を切断する。
40本のナノマテリアルワイヤが張られた運河をJudgementDayの船は航行し、40の平べったい厚さ50センチメートルの板にスライスされた。
三日後、wenjeは尋問を受けた。
MikeEvansと降臨派の主要メンバーだけが三体文明からのメッセージを独占しています。
われわれは降臨派が保存していた28GBのメッセージを入手しました。
MikeEvansは作戦中に死亡しました。
wenjeはメッセージを読んでいった。
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三体世界では数千に及ぶ監視ステーションが千年以上前から存在している。
監視員が窓から三体世界を見ると、いまは乱紀の夜だった。
この夜、波形ディスプレイを見ていた彼は、波形になにかがあると直感し、
自動解読システムによって表示させた。
＜このメッセージを受信された世界のみなさんに、お喜びを申し上げます。
以下の情報から、みなさんは地球文明に関する基本的な理解を得られると思います。
人類は長年にわたる労働と創造を通じてすばらしい文明を築き、豊かで多様な文化が花開きました。
しかし、われわれの世界にはなお大きな問題が横たわり、憎悪や偏見や戦争が存在し、富の分配は不均衡で、多くの人類の生活が貧困と苦難の中にあります。
われわれは美しい理想を抱き、宇宙の他の文明社会との関係を確立し、あなたがたとともに、さらに素晴らしい文明を築いていくことを願っています。＞
二百サイクルを経た文明が夢に見てきた楽園が存在するとは！
彼はすでに60万時間を生き、平均寿命の70万から80万時間に近づいている。
もし、三体世界が地球文明と接触することを始めれば、旧式のこの監視ステーションは整理されてしまい、自分は失職するだろう。
そうなると五千時間以内に新しい仕事がみつからない場合、強制的に脱水され焼却される。
アルファ・ケンタウリの三つの太陽は、周辺に大きなプラズマ気体層があり、これが電磁波に対し強い遮蔽力を持っていて、太陽をアンテナにして利用することができず、目標に向かって直接送信する。
監視員は受信したメッセージと同一の言語に翻訳させて送信した。
＜この世界はあなたがたのメッセージを受け取った。
わたしはこの世界の、ある平和主義者です。この情報を受け取ったのがわたしだったことは、あなたがたの文明にとって幸運でした。
あなたがたに警告します。応答するな！ 応答するな！ 応答するな！
もし応答したら、送信源の座標はただちに特定され、あなたがたの惑星は侵略される。あなたがたの世界は征服される！
応答するな！ 応答するな！ 応答するな！＞
異星文明からのメッセージを受信したという報告は5時間前に、元首にもたらされ、監視員が送信したという報告は2時間前だった。
元首は監視員を責めなかったが、地球文明を滅ぼす理由があると言った。
かれらは戦いを好む種族であり、きわめて危険だ。共存してわれわれの技術を学ばせることはできない。
元首は執政官を呼び、命令した。
to be continued 22:20 2024/05/01
2024.4.30
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大学に戻った半年後、wenjeはある大きなプロジェクトを担当することになった。
それは大規模な電波天文観測基地の設計だった。
電磁環境的にもっともクリーンな場所は西北地方にある辺鄙な山中だった。
wenjeはその場所に行き、金髪で青い目をしている男性MikeEvansと知り合った。
彼は土造りの家に住んでいて、生物学関係の大量の本があり、北西褐色ツバメの亜種を増やそうとして植樹を進めている、と言った。
苗木や灌漑に金がかかったが、資産家の父親はいまは資金を提供してくれない。
父親が所有するタンカーが座礁したとき、大量の原油が海に流出して、海鳥の大半が死んだ。
父親は言った。文明というゲームのルールがこれだ、人類の生存と快適な生活が最優先で、それ以外のすべては小さな問題だ。
ぼくは父に言った。すべての生命は平等であり、種の共産主義の基本綱領だ。
もし彼みたいな人がもっとたくさんいれば、ほんの少しでもいれば、歴史は違う道筋をたどっていたでしょうね、とwenjeは独り言のように言った。
しかし、この場所は承認されなかった。貧しければ貧しいほど住民は反政府的になり、トラブルが生じる可能性が高い。
三年たって、Evansから葉書が届いた。来てくれ、この先どうすればいいか教えてほしい。
行ってみると、かつてもっと大きかった森が伐採されている。付近の二つの住人たちが伐採作業に従事していた。
wenjeに挨拶してくれた生産隊長にわけを聞いたら、この森は法律の保護を受けないからだと答えた。
外人が勝手に中国の山に樹を植えるのは森林法に守られないよ
彼が植林を始めたとき、だれも文句を言わなかったでしょ
それはそうだけど、村でもあと何年かしてから木を切るつもりでいたが、向こうの村の奴らが待ちきれなくて切り始めたので、こっちもなくならんうちに切り始めたのさ
県の林業局が運び出している木の数の方が多いんだ
Evansは言った。彼らを止めようと思えば簡単に止められる。二か月前に父が亡くなり、遺産の大半を相続したから、金で止めさせられる。
しかし、そんなことしてなんの意味がある
豊かな国は汚染源となる産業を貧乏国に移転し、ぼくが救おうとしているツバメも、そのほかのツバメも遅かれ早かれみんな絶滅してしまう。
人類の狂気を止められない
神が存在してもすでに死んでいるようなものだ
そう、人類の文明はもはや自力では矯正できない。
wenjeはEvansに紅岸基地と三体世界のことをすべて話して聞かせた。
信じられない、もしそれが真実なら検証したい、われわれは同志だとEvansは言った。
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それから三年過ぎたが、Evansとは音信不通になっていた。
その年の冬、wenjeは西ヨーロッパのある大学から急な招聘を受け、客員研究員として半年ほど滞在することになった。
ロンドンのヒースロー空港に着くと、ひとりの青年がwenjeを出迎え、ヘリコプターに乗り、海上のレーダー峰そっくりの巨大な船に着陸した。
広い甲板には人々がぎっしり並び、その中からEvansが！進み出た。
われわれは三体世界のメッセージを受信しました。
あなたの話はすべて真実だと証明されました。
三体艦隊はいまから450年後に太陽系に到着します。
背後にいる人たちは地球三体協会の初代メンバーです。
あなたには、地球三体運動の総帥になっていただきたい。
最善をつくしましょう、とwenjeは言った。
ここが第二紅岸基地だった。
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地球三体協会ETOのメンバーの多くは高い知識階級に属し、政財界のエリートも相当数含まれていた。
知的エリートたちの多くは人類以外の視点から考え始めていたが、一般庶民を会員にする試みは失敗した。彼らは現状維持であり、人類すべてを裏切ることなど考えられないからだ。
各国政府はETOをオカルト集団のひとつと見なしたが、メンバーの社会的地位の高さから慎重に対処していた。
降臨派は、もっとも純粋かつ原理主義的な派閥であり、主に、Evansの唱える”種の共産主義”の信奉者によって構成されている。
救済派は、一種の宗教団体であり、三体教の信者で構成されている。
三体教は人類のその他の宗教とは異なり、崇拝の対象である主が実在しており、主を救済する責任を信徒たちが負う。
ETOはVRゲーム「三体」を開発した。
プレイヤーが一定のレベルに達し、三体文明のが魅力に惹かれはじめると、直接連絡をして思想傾向をテストし、最終的な合格者をメンバーとして迎え入れる。
このゲームをプレイするには相当な背景知識と深い思考力が必要なので、プレイヤーの大部分は知識階級だった。
救済派のメンバーのほとんどは「三体」ゲームを通じてETOに加わった。
主が太陽系を侵略せずに、三体世界で生きつづけるのが理想的な解決だと救済派の大部分は考えている。
三体運動が発展するにつれて、第三の派閥、生存派が生まれた。
侵略艦隊との最終戦争で自分たちの子孫が生き延びられることを願い、侵略者に奉仕することが有利だと考えていて、メンバーは急激に増えている。
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to be continued 21:56 2024/04/30
2024.4.29
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姓名は？
yewenjeです。
捜査によると、あなたは紅岸基地勤務時代に殺人を犯した疑いがあります。
わたしは二人の人物を殺害しました。
いつですか？
1979年10月21日の午後です。
地球外知性からのメッセージを受信し、返信したその日、政治委員のreijiichonも受信していました。
彼はある暗号化プログラムを使って紅岸システムの送受信記録をファイルに保存していました。
わたしが返信したあと、彼から呼び出され、発見が間に合わなかったら人類文明が滅ぼされるところだった、と言われた。
きみは最初から人民を敵とする反動分子だった。しかし、君の夫を破滅させたくない。いまのところこの件は、われわれ二人しか知らない。誰にも他言するな。
それを聞いて、彼はわたしが返信したことをまだ知らないんだと気づきました。
返信メッセージを送信バッファに入れたとき、通常のファイル管理システムを使わなかったので、reijiichonの監視プログラムを回避することになったのです。
わたしは彼の本心がわかりました、地球外知的生命を最初に発見した人になりたかったのです。
reijiichonにそのとおりにすると言い、わたしは受信システム処理モジュールの設備室に入って、アースの電気抵抗を0.6オームから5オームに変更しました。
当直のオペレーターはすぐに異変に気づき、メンテナンス担当者はアースを埋めた場所に行き点検したが、故障個所は見つからず、reijiichonがやってきて、安全ベルトを装着してロープを伝って降りて行きました。
そこへ夫も来たので事情を説明すると、彼を手伝うと言って安全ベルトをしてロープで下っていきました。
見下ろすと二人は点検を終えて彼が上になり夫が下になって、同じ一本のロープを伝って登ってくるところでした。
わたしは折り畳み式の鋸でロープを切断しました。
そのとき、どのように感じましたか？
冷静でした。わたしはついに自分を捧げることのできる目標を見出したのです。
驚いたような短い叫び声が二度、それから岩場にぶつかる音が聞こえました。
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reijiichonとyanweininの死は不慮の事故として処理された。
基地には新しい政治委員が着任し、これまで通りの静かな生活に戻った。
ある日、警備小隊の小隊長に呼ばれていくと、三人の子供たちがいて、学校の物理の勉強でわからないことを教えてもらいに来たという。
wenjeは質問に答え、教えてあげた。
これがきっかけで子供たちが来はじめ、中学の先生まで来て、それ以降、数日おきに子供たちが来るようになった。
信号を送信した八か月後、wenjeは産気づき、町の病院で無事yandonを出産したが、その折、2リットルもの出血があり、何十人もの農民の献血で助かった、教えていた子供たちの親や何のかかわりあいのない人たちだった。
wenjeは体が弱っていたので、基地で勤務して子育てするのは困難になったが、斉家屯の老夫婦が基地の幹部を訪ねてきて、wenje母子を自宅に引き取って面倒を見てくれることになった。
wenjeは産後の肥立ちが悪く、yandonは村のいろんな女たちの乳で育てられた。
いちばん多く母乳を飲ませてくれたのは、老夫婦の息子の嫁のdaafonだった。
斉家屯の家はしだいに村の女たちの集会所のようになった。
妻や寡婦たちに無作法なことをする男たちとはほとんど話をしなかったが、彼らはみんなwenjeを尊敬し、wenjeの前では礼儀正しかった。
あるとき、daafonがwenjeに訊いた。空の星はなぜ落ちてこないの？
星はとても遠い遠いところにあるから落ちてきたりしないよ
daafonはこの答えで満足したが、wenjeの心は想像から夢へと移っていった。
wenjeはやがてyandonを連れて基地に戻り、さらに二年過ぎた。
基地の全体会議では、wenjeのことをyewenje同志と呼ぶようになった。
wenjeはyandonの教育のことを考え、基地を離れ母校に戻った。
あれ以来、三体世界からの通信はなかった。
自分が送ったメッセージに返信があるとしても、少なくとも八年は待たなければならない。
wenjeは大学に戻ってから、母親のshaorinのもとを訪れた。
shaorinは、当時迫害を受けていた教育部の高級幹部と再婚していた。
文革がまだ終わらないうちに、shaorinの夫は職務に復帰し、すぐに副大臣に昇格した。
shaorinはこれを足掛かりに、中国科学院の学部委員になり、有名大学の学長に昇りつめた。
shaorinは利発でかわいいyandonに驚いた。
shaorinの夫はこう言った。yandonを連れてくることは歓迎するが、きみの母親はきみの父親の死に何の責任もない。彼女自身も被害者だった。きみの父親は道を外れて、家族に対する責任も放り出し、きみたち母娘に大きな苦しみを与えた。
それはわたしと母の問題で、あなたとはなんの関係もない。
わたしはただ、きみの母親のメッセージを伝えただけだ。
wenjeは二度と母の家を訪ねることはなかった。
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wenjeは父親を殺害した四人の女性紅衛兵に関する情報を集め、三人の所在をつきとめた。
三人のうち、二人は文革時代の悪行のため二年間の服役後、釈放され、三人とも無職だった。
再会した三十歳前後の三人は粗末な軍服を着て、ひどく痩せていた。
あんたの父親の頭にベルトで最後の一撃を加えた子は、黄河でおぼれて死んだよ
あたしらなんか最底辺の仕事すらない
歴史だ！歴史だ！あたしらのことなんかだれが思い出す？みんななにもかもすっかりわすれちまうんだよ！
三人の元紅衛兵は去った。
wenjeは、自分が行った史上最大の裏切りに対するわずかな疑念があとかたもなく消え去ったのを感じた。
宇宙の彼方から、より高度な文明を人類世界に招き入れよう。
to be contnued 22:10 2024/04/29
2024.4.28
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wenjeは当時のことを話し終えた。
wanmyaoは訊ねた。地球三体協会はどうやって現在の規模まで発展したんですか？
ここにいる皆さんは知っているはずなので、あなたにはいつかまた話します。いまは、ナノマテリアルのことを話しましょう。
ナノマテリアルは人類を地球の引力から解放し、大規模な宇宙開発を可能にします。
超高強度のマテリアルが量産されると地上から静止軌道の衛星まで直通の宇宙エレベーターが建設可能になり、大規模な防衛システムの建設が可能になる。
カウントダウンが終わるとどうなるんです？
さあねえ
あなたの仕事は応用研究だから、基礎研究をやめさせる方がもっと効果的ね。
お嬢さんはどんなふうに亡くなったんですか？
・・・、主に比べれば、わたしたちがすることはすべて無意味。
突然、兵士たちがドアを押し開けて三体協会の反乱分子を包囲した。
最後にshiichianが入ってきてwenjeを拘束し、wanmyaoは安全地帯へ連れて行かれた。
おまえらが全人類を敵にしている以上、容赦はしないとshiichianが言ったとき、panhanを殺した少女ら三人が飛び出した。
みなさん、いまわたしたちが持っているのは、1.5キロトンの破壊力がある核爆弾です。
総帥を解放してください
爆発物処理官がshiichianにささやいた、あの金属球を撃て。外側の通常爆薬は爆発するだろうが、爆発力が分散するから必要な爆縮は起きない。
shiichianはあの少女に向かって言った、おまえの母親が見つかった
少女の目が曇った。
shiichianは距離を詰め、金属球を撃った。
気をつけろ、放射性物質だ！
混乱はやがておさまり、三体協会メンバーのうち十数名が銃撃戦で死亡し、wenjeを含む二百名以上が逮捕された。
核分裂に失敗した爆弾による死者は少女だけだった。
あの少女の母親ってだれだったんだ？
知るもんか、あてずっぽうだ、こんな仕事を二十年以上もやっていると、人の心が読めるようになるんだよ
まさか、ほんもののエイリアンがかかわってるなんて、思いもしなかったよ
to be continued 9:09 2024/04/28
2024.4.27
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wanmyaoが五回目のログインをしたとき、現代的な高層建築があった。
見慣れた国際連合本部ビルだった。
ビルの正面の階段でヴァイオリンでモーツアルトを弾いているホームレス風の老人がいた。
太陽が地平線から昇ってきた。
半分ほど昇ってきた太陽は地平線の三分の一を占めていたが、その蒼白い光に暖かさを感じない。
太陽でなく、月だった。
肉眼でもわかるスピードで空を移動し、満月は半月になり、三日月になった。
わたしはアインシュタインです、と老人は言った。
さっきの大きな月は、わたしが子供の頃はまだ熱かったが、もう冷えた。
wanmyaoのことをコペルニクス先生と呼んでいる。
国連総会の出席者はビルの裏でやっている単振り子起動式典に参加しています。
天まで届くほどの巨大な振り子だった。
吊橋を支える二つの塔はエッフェル塔ぐらいの高さがある。
国連事務総長が言った。この三体記念モニュメントは墓碑でもあります。
三体問題を解いて太陽の運行規則を見つけるため、二百サイクルの文明を通して続けられた努力に対する墓碑であります。
その努力は終わったのですか？
いまのところは完全に終結しました。
wanmyaoはweichonの資料を取り出し、三体問題を解くための数学モデルを持ってきました、と言った。
群衆は急に興味を失ったようにwanmyaoから離れて行った。
コペルニクス、あなたは天才だが、過去二世紀の間にこの種の数学モデルは検証され、その結果、三体問題に解は存在しないと証明されました。
三体問題はカオス系で、わずかな誤差が無限に拡大することがある。運行パターンを数学的に予測することは本質的に不可能です。
神は賭博師ですよ、とアインシュタインが言った。
今回の文明は原子力エネルギーを利用し、情報化の時代に移っていた。
巨大な月はこの惑星の四分の一ほどの大きさがあり、大断裂の産物だ。
文明＃１９１の天文学者は早い段階で飛星静止を観測していた。
飛星静止とは遠い星が背景の星野に対して完全に静止しているように見え、手前の星と一直線に並んだ状態をいう。
文明＃１９１では三つの飛星が惑星に近づいてきて手前の飛星が突然太陽に変わり、残る二つの飛星も同時に太陽になり、巨大な潮汐力は惑星を真っ二つに裂いた。
to be continued 10:58 2024/04/27
事務総長は空に昇りきった巨大な月を指さし、あれが割れた小さいほうの惑星で生命のない世界だ。
主惑星で生命の種は再び芽を出し、九千万年後に＃１９２文明が勃興した。
最近の研究の結果、三体星系には太古の昔、十二の惑星があったが、いまは一つしか残っていないということだった。
太陽のガス層が膨張するたびごとに十一の惑星が飲み込まれていったということだ。
直近の膨張はいまから150万年ないし200万年ののちに発生すると予測されている。
こんな恐ろしい場所にはもうこれ以上いられない、アインシュタインがつぶやいた。
三体星系を離れて、移民できる新しい惑星を見つけなければならない、と事務総長が言った。
＜451年後、文明＃１９２は同時に出現した双子の太陽の熱によって滅亡しました。
文明＃１９２は三体問題に解が存在しないことをついに証明し、未来の文明のために新たな進路を定めました。
またのログインをお待ちしています。＞
ログアウトして激しい疲労を感じたものの、30分後、ログインしたが、メッセージが現れた。
＜緊急事態につき、まもなくサーバをシャットダウンします。
「三体」は最終ステージに直接ジャンプします。＞
********************************************************
ピラミッドも国連本部ビルも巨大な振り子もなかった。
砂漠に無数の石、いや、人間の頭が並んでいた。
全員が空を見上げていた。
星々が碁盤の目のようにきっちりと並び、同期している。
となりに立っていた男が言った。偉大なコペルニクス、すでに三つの文明が過ぎ去ったのを見逃したな。
あれは三体星間艦隊だ。光速の十分の一で飛べる。
艦隊の目的地は4光年の先にある。
一千の三体艦隊が、昇ったばかりの巨大な月の先端をかすめて移動していった。
＜三体文明の新世界遠征隊がいまも航行しています。ゲーム「三体」は終了しました。かつて交わした約束に忠実なら、地球三体協会の集会に参加してください。後日送るメールを見て下さい。＞
to be continued 18:53 2024/04/27
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オフ会は300人以上集まっていた。
みんな社会的に有名な人物で、wanmyaoが知っている人も大勢いた。
カフェテリアの真ん中に奇妙な装置があり、ボーリングの球よりすこし小さい三つの銀色の球体が台座の上で宙に浮かんで回転していた。
中ほどにpanhanがいた。
yuufeiを殺したのはpanhanだった。協会に対する責任感から殺したと言った。
同志諸君！、とpanhanが言った。
世界政府は戦争の準備を進めていて、欧州と北米では三体協会に対する弾圧が始まっている。
真っ先にやるべきことは、救済派を協会から一掃することだ！
全世界で一斉蜂起しよう！
総帥が到着した。
yewenjeだった！
同志の皆さん、重要な問題を討論する前に、小さな問題を処理しましょう、
panhan、あなたは協会規則の重大な違反行為を犯しました。
panhanは言った、わたしはweichonを排除するために行きました。彼が三体問題を解く完全な数学モデルを見つけてしまったら、主は降臨せず、地球三体事業は瓦解するでしょう。向こうが先に撃ってきたから正当防衛でした。
yewenjeは言った。
降臨派はその立場を利用して協会に対して許しがたい裏切りをなした。主が協会にあてたメッセージを独占し、ほんの一部だけを勝手に改竄して協会に伝えた。
さらに、協会の承認なしに大量のメッセージを主に送信した。
われわれは降臨派の問題を完全に解決しなければならない。
wenjeのそばにいた護衛のひとりの少女がpanhanのほうに歩み寄ったかと思うと、目にも留まらぬ速さでとびかかって首に手をかけpanhanの頸椎を折った。
wenjeはwanmyaoに気がつき、みんなに紹介した。
こちらは中国科学院のwanmyao教授です、主が地球上から最初に消滅させたいと思っているナノマテリアルの開発が専門です。
紅岸の話の続きをしましょう。
まだ終わってなかったのですか？
話はまだ始まったばかりですよ。
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太陽活動が激しい期間は、太陽の干渉は排除できないので、紅岸が観測したのは近紫外線から中赤外線までの周波数帯域内の放射に絞られたが、太陽放射の変動は予想不能ということにwenjeは気づいていた。
太陽放射には突発的な変動が起きているのに、太陽表面の活動は平穏なままというケースが見つかった。
あるとき、wenjeはある研究者の木星に関する研究論文の中に、木星が二度にわたって強い電磁波を放射したという記述を見て、紅岸監視システムの観測時期と同じだということを発見した。
太陽雑音の発生時刻は木星の電磁波バーストが地球に到達した時刻よりも16分42秒遅かった。
電磁波が木星から太陽へ、さらに太陽から地球へ到達するのにかかる時間を計算するとぴたり16分42秒だった。
太陽には宇宙からの電磁波が降り注いでいるのに、なぜその一部だけが増幅されるのか？
wenjeは太陽エネルギー鏡面が電磁波の反射を増幅する、という仮説を立てた。
人類は太陽をスーパーアンテナ代わりに使って、太陽系外に電波を送信できる、地球文明はメッセージをカルダシェフの分類におけるⅡ型文明のエネルギーレベルでメッセージを送信できる！
wenjeは、太陽エネルギー鏡面が電磁波の反射を増幅するという仮説を証明するために、送信を開始した。
しかし、結果は出なかった、なにも受信されなかった。
だが、この電磁波は太陽によって増幅され、光速で宇宙全体へ広がりはじめていた。
このとき、12000メガヘルツの周波数帯では、太陽は天の川銀河の中でもっとも明るく輝く恒星になっていた。
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紅岸基地に赴任して4年後、wenjeはyanweininと結婚し、静かな日々を過ごしていた。
世界は、地球を何十回も壊滅させられるだけの量の核ミサイルが配備され、いつでも発射可能な状態にあった。
wenjeは核兵器に強く反対する立場だった。
この頃になると、文革のもっとも激烈な時代は過ぎ去り、政治的な環境もいくらか穏やかになった。
ある夜、紅岸システムが宇宙から受信したノイズを見て、波形に特別ななにかがあることに気づいた。
生データを解読システムにかけた結果を見た：
応答するな！
応答するな！
応答するな！
この世界はあなたがたのメッセージを受け取った。
わたしはこの世界の、ある平和主義者です。この情報を最初に受け取ったのがわたしだったことは、あなたがたの文明にとって幸運でした。
あなたがたに警告します。
応答するな！ 応答するな！ 応答するな！
あなたがたの方向には数千万もの恒星があります。応答しない限り、われわれのこの世界は、送信源を特定できません。
しかし、もし応答したら、送信源の座標はただちに特定され、あなたがたの惑星は侵略される。あなたがたの世界は征服される！
応答するな！ 応答するな！ 応答するな！
わたしが太陽に向かってメッセージを送信してから、まだ9年も経っていない、ということは、この情報の発信源は地球から4光年くらいしか離れていないことになる。
だとすれば、三重星系として知られるケンタウルス座アルファ星系だ。
信号はなおも来ている。
リアルタイム解読をスタートさせた。
それからの4時間余りの間に、wenjeは三体世界の存在を知り、滅亡と復活をくりかえす文明と、他の恒星系に移住しようとする計画について学んだ。
あの時、なぜ受信できなかったのか、基地の無線通信部がノイズとして無視したのだろうか。
wenjeはメッセージを送信した。
来て！ この世界の征服に手を貸してあげる。わたしたちの文明は、もう自分で自分の問題を解決できない。だから、あなたたちの力に介入してもらう必要がある。
夜が明け、送信管制室を出て何歩も歩かないうちにwenjeは気を失い芝生の上にくずれおちた。
医務室で目覚めたwenjeに、医師が言った。
これからは体に気をつけて、しっかり休息をとるように。おめでたですよ。
to be continued 21:31 2024/04/27
2024.4.26
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ゲームの目的は、同じ理想を共有する同志を集めることです。
もし、三体文明が人類世界を侵略してきたら、みなさんどう思いますか？
うれしいだろうな、と若い記者は言った。
賛成！、と女流作家が言った。
老哲学者は、アステカ文明が西洋の侵略者によって滅ぼされたことを言い、三体文明の到来は、病床で死を待つだけの人類にとっては吉報になる、と言った。
IT副社長が老哲学者に反論した。
その思想はとても危険です、と電力会社役員が言った。
とても深遠ですよ！、と博士課程の学生が言った。
wanmyaoは記者と老哲学者に同意した。
panhanはIT副社長と電力会社役員のIDを抹消した。
残った五人と握手し、これでわれわれは同志です、と言った。
to be continued 8:32 2024/04/26
2024.4.25
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なにか成果があった？
ぼくがあげた成果はブレイクスルーと言ってもいいと思う。
ぼくの進化的アルゴリズムはすでに百以上の安定的配置を見つけている。
三体問題のほんとうの解は、あらゆる既知のベクトルを持ついかなる配置を与えても、その後の三体の運動をすべて予測できるような数学モデルだ。
しかし昨日、あることが起きてぼくの穏やかな生活は終わってしまった。
昨日、男が電話してきて、すぐに三体問題の研究をやめなければ殺されるだろうと警告した。
相手は？
わからない、電話番号は表示されなかった
ゆうべ真夜中に、冷たいものが頭の上で動いているのを感じて目を開けたら、yuufeiがいて死ぬほど怖かった。
いままで見たこともないような顔をしてぼくを見ていた、しかも手に銃を持って、三体問題の研究を続けなければ殺すと言った。
もし三体問題を解くことができればあなたは救世主になる。でもいまやめたら罪人になる。
shiichianが言った。銃の不法所持容疑で家宅捜査できる。
shiichian、weichon、wanmyao、コンピュータの専門家shuubinbin、刑事二名がshenyuufeiの家に向かった。
車の中でshuubinbinが言った。wanmyao先生の名前は「三体」で大評判です。
わたしは「三体」のモニタリングと追跡を担当しています。
「三体」ではなにかものすごく高度な開発ツールが使われています。
wanmyaoが車を降りたとたん、二階から連続してなにかがぶつかるような音がした。
階段で二階に上がり明かりがついている部屋に入るとshenyuufeiが顔中を血まみれにして横たわっていた。
窓の外から車のエンジンをかける音が聞こえてきた。
しばらくして、weichonが言った。
昨日の午後、yuufeiが環境保護主義者のpanhanと口論していた。
panhanはこう言った、われわれは実際は不倶戴天の敵同士だ。
するとyuufeiはこう言った、あなたたちは人類を滅ぼすために主の力を使おうとしている。
weichonは一枚のCDをwanmyaoに渡し、三体問題の進化的アルゴリズムが入っている、できたらあなたの名前で発表してほしいと言った。
すべては、yuufeiが言う主が、もはや自身さえ守れなくなってきていることが原因なんだ。
************************************************
wanmyaoはレベル２にログインした。
ピラミッドの形状はエジプト風にもどっていた。
ピラミッドのふもとで二人の剣客が必死に闘い続けている。
背の高い方が剣を取り落とし逃げて行った。
恥知らずのライプニッツめ、とニュートンが言った。
運動の三法則はわたしを神の次に偉大な人間にした。
フォン・ノイマンも現れ,wanmyaoと一緒に秦の始皇帝eiseiに謁見した。
フォン・ノイマンは三千万の兵士を回路の素子に使って人列コンピュータを展示した。
人列コンピュータは一年四か月にわたって作動し、太陽軌道計算プログラムの計算結果は二年間、太陽の軌道を予測していた。
赤い太陽が地平線から昇ってきた。
そのとき、天文大臣が大慌てで走ってきて、皇帝に報告した。
計算に誤りがありました。大災難が起こります！
あの太陽は三つです、ほかの二つは後ろにあります、歴史的にも珍しい三恒星直列が起こっています。
馬や人間が浮かび上がった！
地面に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、ピラミッドは解体してゆっくりと浮上していった。
太陽が中天にさしかかると、人間も巨石も天体観測機器も加速して上昇した。
直列する太陽の背景にテキストが出現した。
＜文明＃１８４は、三恒星直列がもたらした引力によって滅亡しました。この文明は科学革命及び産業革命レベルまで到達していました。
長い時間のあと、生命と文明が勃興し、「三体」の予測不能の世界で、ふたたび進歩をはじめるでしょう。
またのログインをお待ちしています。＞
ログアウトしたとたん、知らない人物から電話がきた。
わたくしは「三体」のシステム管理者です。
おめでとうございます、あなたは「三体」を継続してプレイする条件を満たしました。
明晩の「三体」プレイヤーのオフ会に招待します。
**************************************************
オフ会の会場は辺鄙なところにある小さな喫茶店だった。
集まったのはwanmyao含めて七人。
現れた幹事はpanhanだった！
若そうなのは二名、女性を含めた三名は中年、残る一人は六、七十歳くらいの年配者。
年配者は著名な学者で、女性は名の知れた作家、あとの四人のうち、一人は国内最大のソフトウェア会社の副社長、一人は国営電力会社の役員、若者の一人は国内大手メディアの記者、もう一人は理系の博士課程に在学中。
wanmyaoはpanhanに訊いた、「三体」はただのゲームですか？
三体世界、もしくは三太陽世界は実在します。
三体人の脱水機能は現実のものです。予測不可能な自然環境の変化に対応し、生存に適さない劣悪な気象条件を回避するため、いつでも水分を完全に排出し、乾いた繊維質の物体になることができます。
三体人の外見は？
わかりません。それぞれの文明ごとに外見はまったく異なっています。
ゲームの目的は、
to be continued 22:25 2024/04/25
2024.4.24
目次へ
wanmyaoは中国科学院国家天文観測センターの電波天文観測基地を訪れた。
直径9メートルのパラボラアンテナが28基、一列に並んでいて、その先に直径50メートルの電波望遠鏡が2基ある。
宇宙全体のマイクロ波放射の周波数は、2.725Kの黒体放射と一致し、100万分の1単位の温度のゆらぎが局所的に存在する。
モニターにマイクロ波背景放射のリアルタイム数値曲線が表示されていた。
wanmyaoが言うような1パーセントを超えるゆらぎが発生すれば、この線が赤くなり、直線が波形に変わる、と沙端山ruishanは言った。
予告の午前1時、ゆらぎが始まった。
ruishanは人工衛星COBEの不具合だ！と言ったが、三つの観測衛星と地上の観測基地一か所の波形が同期していた。
ピークとピークの間の距離の長短がモールス信号になっているとwanmyaoは気づき、文字に置き換えると、
1108:21:37
1108:21:36
1108:21:35
すでに92時間が経過し、残りは1108時間。
wanmyaoはshenyuufeiに電話した。
カウントダウンが終わったら、どうなる？
さあ、このひとことで電話は切れた。
wanmyaoは車に乗ってあてもなく走って降り、いつのまにか天主堂前に座っていた。
うしろから突然笑い声が聞こえた。史強shiichian隊長だった。
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先生、宇宙があんたにウィンクしてきたって言うのかい？
今回の出来事を人為的に引き起こすのは不可能だ。
いま起きていることすべてには、陰で糸を引いている黒幕がいる。目的はひとつ、科学研究を壊滅させることだ。
あんたたち科学者を素人よりももっと莫迦な人間に変えてしまうことだな。
敵は科学者を恐れているんだ。
ナノマテリアルが敵にどうして脅威になる？
あんたが開発している素材が向こうにとって脅威なのかもしれん
あのゲームで遊んでリラックスしろよ、
携帯の電源は切るなよ
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wanmyaoは帰宅途中、電気街でVスーツを買った。
妻が寝ついてからVスーツを装着して、「三体」にログインした。
wanmyaoは紂王のピラミッドの前に立っている。
雪は消え失せ、石材は風雨にさらされてあちこちあばたができている。
遠くに何棟か巨大な建築物が立ち並んでいる。
ピラミッドを見上げると、頂上は切削されて平坦な台になっている。
そこに昇ると、全長数メートルの天体望遠鏡があり、そばにはいくつか小型の天体望遠鏡が置かれていた。
別の一画には、天球儀のような機器が数台と直径2メートルほどの銅製の球があり、さまざまな大きさの多数の歯車で支えられ、ゆっくりと回転していた。
数名の人影がホイールを押して回しているのが見える。
ひょろりと痩せた人物がいた。墨子だった。
君が文王たちから離れていた三十六万二千年の間に、文明は四度も再起動した。
文明＃１３９は蒸気時代までたどりついた。
恒紀が始まって17日目、日の出の予想時間から5時間が過ぎたが、なおも闇に包まれていた。
やがて墨子の予測の通り太陽が昇って来たが、とてつもなく大きかった。
脱水しろ！
大群の牛や馬の体は炎に包まれて絨毯のように移動してくる。
巨大な太陽の黒点とコロナが見える。
脱水した者も、そうでない者も薪のように燃えていた。
巨大な太陽は昇り続き、湖や池の水が蒸発してきのこ雲のように立ち昇って広がってゆく。
墨子も燃え始め炭化していった。
巨大な太陽は猛スピードで西へ移動し、まもなく沈んだ。
＜文明＃１４１は炎に包まれて滅びました。この文明は後漢レベルまで到達しました。文明の種子はまだ残っています。
またのログインをお待ちしています。＞
to be continued
翌日、wanmyaoはwenjeに会いに行った。
紅岸基地のことを他人に話すのは禁じられているのですか？
それはそう。まだ機密扱いだから。
でも当時あそこにいた人たちが体験を語りはじめ、いまでは公然の秘密になってしまった。
wenjeは思い出話を語り始めた。
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wenjeは知らぬ間に基地の技術的な中核を担う立場になっていたが、その地位まで昇りつめた理由がいまひとつわからなかった。
紅岸基地には先進技術はなにもなかった。
主に送信部で仕事をしていた。だんだん、同行していた監視スタッフもいなくなり、兵器システムの大半に携わって、技術資料の閲覧も許された。
政治委員である雷志成reijiichonが紅岸基地の役割を教えてくれた。
紅岸基地は一台の電子レンジであり、目標は大気圏外にいる敵の宇宙船だ。
1平方センチあたり。0.1ワットから1ワットのマイクロ波エネルギーを投射するだけで、電子部品の多くを作動不能にできる。
紅岸基地の出力は25メガワット。最近、2機のターゲット衛星の攻撃実験で衛星内部の温度を摂氏千度近くにして搭載している機器をすべて破壊した。
そこへ楊衛寧yanweininが来て厳しい目でreijiichonをにらみつけた。
翌日、送信部から監視部へ異動となった。監視部の技術レベルは送信部よりはるかに進んでいた。
巨大なアンテナから受信した信号はルビー結晶メーザーで増幅され、受信システムのコア部分は干渉を抑えるため、液体ヘリウムに浸されていた。
これできわめて高い感度で微弱な信号も受信できる。
ソフトウェアはFORTRANで記述されていた。
reijiichonは説明した。
監視部の業務は、宇宙空間における敵の活動を監視することであり、
敵の宇宙船の軌道をつきとめ、紅岸の戦闘システムにデータを提供する。
システムは太陽フレアと黒点の活動で生じる電磁波の干渉を受けている。
wenjeが発表した太陽フレアと黒点の活動の予測モデルがもっとも正確なので、wenjeを呼ぶことにした。
to be continued 11:00 2024/04/24
プログラムのソースコードを見ることはできるが、データベースへのアクセスは許可されなかった。
ある日、注意すべき通信データを傍受し、解読した結果、数枚の衛星写真で、国内の重要な軍事目標であり、アメリカの偵察衛星が撮影したものと確認された。
衛星の伝送周波数が低いため受信範囲が広くなり、紅岸システムに傍受されることになった。
yanweininチーフエンジニアはこのターゲットを放棄した。
ある日のこと、基地管理オフィスへ出頭することになった。
reijiichonはいままで嘘をついていたのだ。
真実を知ることに同意します、とwenjeは答えた。
yanweininは紅岸プロジェクトの真実をあかした。
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これらの書類は、yewenjeがwanmyaoに紅岸の内幕を語り、みずからの話の背景情報を提供した時点の三年後に、機密指定を解除される。
他国はすでに地球外へ呼びかけている。宇宙社会が一つの声だけを聴くのは危険である。われわれも声を発するべきだ。
おそらく存在するであろう地球外文明を探査し、関係の構築及び交流を試みる。
監視目標の範囲：半径1,000光年、恒星数：約2千万個
送信周波数：2,800MHz、12,000MHz、22,000MHz
送信パワー：10～25メガワット
送信目標：半径200光年、恒星数：約10万個
紅岸自動翻訳システムの開発
サポートする言語：中国語、エスペラント語
送信文：
このメッセージを受信したみなさんに告げる。このメッセージは地球上の革命的正義を代表する国家によって送信された。みなさんは、このメッセージ以前に、同じ方向から送信された別のメッセージを受け取っているかもしれない。それらのメッセージは、地球上の、ある帝国主義的超大国により送信されたものであり、その超大国は地球上のもうひとつの超大国と覇権を争い、人類の歴史を後退させようとしている。彼らの嘘に惑わされることなく、正義の立場にたち、革命の側を支持してほしい。
このメッセージは没。
途中略
われわれは美しい理想を抱き、宇宙の他の文明社会との関係を確立すること、また、あなたがたとともに、広大な宇宙において、さらにすばらしい生を築いていくことを願っています。
このメッセージ採択。
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wenjeの話を聞いたあと、wanmyaoはたずねた。
なぜ紅岸プロジェクトはあれほど高い機密レベルに指定されたんでしょうか。
あなたはもう答えを知っているはず
宇宙全体で知的生命が育まれたのは地球だけではないのですか
紅岸プロジェクトが中止されたのはじつに残念ですとwanmyaoは言った。
地球外知的生命体探査は特異な分野だった。
地球生命は宇宙にあまたある偶然の中のひとつだと思った。
わたしの人生は奇妙な感覚とともに過ぎて行き、知らぬ間に年をとっていた。
wenjeの家から出て帰宅し、「三体」にログインした。
wanmyaoは広大な平原にいた。
巨大なピラミッドが東の方に見えたが、紂王や墨子の時代のものではなく、ローマ式教会を思い起こさせた。
側面にある入口から入り、トンネルを抜けると大広間があり、大理石の長いテーブルのまわりに数人が座っていた。
遅かったな、余はローマ教王グレゴリウス一世だ、と背の高い痩せた人物が言った。
わしはアリストテレスだ、こちらはガリレオ、コペルニクス、ダ・ヴィンチ。
彼らは三つの太陽と三つの飛星のことで議論している。
wanmyaoは三つの太陽が現れたことがあると言った。
このとき地面は溶鉱炉に変わり、ふたたび生命と文明が復活するまでに長い時間を要します。
この者を火焙りにせよ、と教王が言った。
二人の兵士がwanmyaoを十字架に縛り付けた。
おまえらはただのプログラムか、大莫迦だ、再ログインして戻ってくるからな！
アリストテレスがライターで薪に点火しようとしたとき、炎に包まれた馬が駆け込んできた。
乗り手の騎士が叫んだ、世界がたったいま滅亡した、脱水だ、脱水だ！
三つの太陽が沈んだあとも、大地から立ち昇る蒸気でできた濃い雲が地平線を覆った。
＜文明＃１８３は滅亡しました。この文明は中世レベルまで到達していました。三体文明は最初の飛躍を遂げ、レベル２に到達しました。
レベル２へのログインをお待ちしています。＞
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ログアウトと同時に電話が鳴った。午前三時。
shiichianからだった、すぐ公安分局に来いという。
公安分局に行くと、驚いたことにshenyuufeiの夫の魏成weichonがいた。
ぼくの命が危険にさらされている、とweichonが言った。
ぼくは高校二年の時、先生から十数個の数列の総和を出せを言われて即座に答えた。
どんな数列も三次元の立体に見え、幾何学的図形は数字に見える。
大学院を終えて大学講師になり、授業で黒板に「証明は簡単」と書いて放っておいたから評判の悪い教員として解雇され、父の友人の住職の弟子になった。
住職から、空は存在の一種だと言われて啓示を得た。
頭の中で空間に質量のあるひとつの球を置き、さらにもう一つ置くと、初期状態がどんな場合でも最終的に安定し変化しなくなる。
そこで第三の球を置くと、状況は劇的に変わる。
三つの球は最初に運動量を与えられると、複雑な動きを始め、同じ動きは二度と繰り返さないように見えた。
夢の中でも球は同じ動きを繰り返さないダンスを踊り続けた。
これを数式で表したいと思った。
生まれて初めて数学が楽しめるようになった。三体問題の背後にある物理法則はとてもシンプルだ。
三つの球の運動ベクトルには無限の組み合わせがある。その組み合わせを一種の生物のようなものと見なす。
運動ベクトルのどの組み合わせが”健康的”で有利なのか、”有害”で不利なのか。
不利なものを除去し、有利なものを残すようにして計算すると、最後に生き残った組み合わせが三体の次の配置になる。
ある日、若い女性がとつぜん部屋に押しかけてきた。端っこが焼け焦げた紙を何枚か手にして、これ、あなたのだって聞いたけど、三体問題を研究しているの？と言った。
あなたのアプローチはすばらしい、こんな方法をわたしたちは探していた。
この女性がyuufeiだ。
翌日、ぼくはyuufeiと一緒に寺を出た。
彼女は毎日、ぼくの研究がどれだけ進んだかチェックする。
to be continued 22:29 2024/04/24
2024.4.23
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あっという間に二日過ぎたが、太陽は昇らない。
しかしほどなく、彼方の地平線が明るくなり、見る間に巨大な太陽が昇って来た。
太陽は地平線の五分の一を占めていた。
急げ、日陰に隠れろ！
太陽は沈んだが、食料はない。従者は文王に許可を求め、ローブを脱ぎ捨てて体を横たえ脱水し始めた。
人の形をした皮のようになった従者を、文王は拾い上げて巻いてwanmyaoに持たせた。
太陽の運行は不規則で、寒い長い夜と灼熱の昼が突然来た。
一週間近く続いたとき、夜空に飛星が二つ現れ、恒紀が始まった。
太陽の運行は正しくなり、昼と夏は18時間ほどになった。
人間を再水化して文明を復興する、これがゲームのゴールだ、紂王に太陽の運行を予測する万年暦を献上するため朝歌に行く、と文王は言った。
朝歌では、巨大な振り子に囲まれて巨大なピラミッドがあり、ピラミッドの中心の大広間に紂王が台座に座っていた。
文王は大きな太極図を描き、その周りに六十四の卦を書き出して、これが万年暦ですと答え、恒紀と乱紀が繰り返した後、恒紀は三年九か月続き、温暖な気候になります。
文王は砂時計を数秒に一回反転して時を進め、予言した通り、恒紀と乱紀が繰り返した後、長い恒紀が訪れ、ゲーム内の時間を元に戻した。
ピラミッドの外に出ると、再水化！の声が響き、すべての脱水体は湖に投げ込まれて再水化し、八日間で完了した。
が、次の日、またしても日は昇らず、飛星が三つ現れ、極寒の歳月が続くことになった。
大量の脱水体が荒野に捨て置かれ、ピラミッドは雪に埋もれ始めた。
星空をバックに文字列が現れた。
＜この夜は48年間続き、文明＃１３７は崩壊しました。文明の種子はまだ残っています。
またのログインをお待ちしています。＞
ただのゲームじゃないか、wanmyaoは汗びっしょりのVスーツを脱ぎ、ナノテクノロジー研究センターを出て車でyandonの母親の家に向かった。
めざす建物の入り口で、母親のwenjeに会った。
wenjeはウルムチと北京近郊の観測センターを教えてくれた。
to be continued
2024.4.21
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登録画面が出たので、海人hairenという名でログインした。
wanmyaoは体に吹きつける冷たい風を感じた。
前方に二人の人影が見えたので走ってゆくと、毛皮に覆われた丈の長い穴だらけのローブをまとい、幅広の短い剣を佩いている。
わたしは周の文王だ。
ぼくは従者。ログイン名が"周の文王の従者"なんだ。
わたしのログイン名は"海人hairen"です。文王あなたが背負っている木箱はなんですか？
8時間の砂時計だ。
太陽を見るだけでおおよその時間を知ることができますよ
いまは乱紀だぞ、どうして太陽を見て時間がわかる？
？、太陽が昇れば多少は暖かくなりますよ
予言者にでもなったつもりか、文王でさえ未来は予言できぬのに！
この世界では太陽の動きは尋常ではなかった。
地平線の光は次第に暗くなって消え、星がきらめいた。
地平線のべつの場所が明るくなって青っぽい小さな太陽が現れ、多少は暖かくなった気がしたが、昼は短く、すぐに沈んでしまい、また寒くなった。
枯れ木を切り落として焚火にしたが、Vスーツの背中は氷のように冷たい。
たくさんころがっている脱水体を火にくべれば火力が強まりますよ、と従者が言ったら、文王はそのような非道は紂王のみが為すことだと言った。
（脱水体：人間の生身の躰が高熱のために脱水して、蝉の抜け殻のようになっている状態。再び気温が元に戻って、給水してやれば生身に戻れる。）
2024.4.20
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wanmyaoは若い警察官から、最近、科学フロンティアの会員と接触したかと尋ねられた。
不審に思ったが、陸軍士官の一人が、今日の午後の会議にお連れするようにと言われて来たと言った。
wanmyaoが連れてこられた軍施設の大ホールはコンピュータ機器が乱雑に並び、電源ケーブルや接続ケーブルががからまり、会議用のテーブルの上に書類が散らかっている。
出席者は、議論は出尽くした、さっさと会議を終わらせてくれという表情をしていた。
議長の常偉思chanweisuu少将が言った。同志諸君、地球上のあらゆる戦闘地域の中でも、いまはここが焦点になっている。
一年前、wanmyaoは、高エネルギー粒子加速器プロジェクト”中華2号”で、超電導部門のナノスケール・コンポーネントの責任者を務めていた。
建設工事中の超電導コイルの前に若い女性が現れた。プロジェクトのチーフエンジニアが彼女になにやら説明している。
工事が完成したら彼女yandonが提唱する超弦理論モデルの検証実験が行われる。
リストにある物理学者は二か月足らずのうちに自殺している、とchanweisuuがwanmyaoに言った。
後日、yandonは最後の自殺者になった。
chanweisuuは言った。自殺した学者のほとんどが＜科学フロンティア＞とつながりを持っており、そのうち数名は会員だった。
新興宗教のマインドコントロールや、違法薬物の使用などの行為は確認できなかった。
＜科学フロンティア＞に入って情報を提供してほしいと、chanweisuuはwanmyaoに言った。
wanmyaoは承諾した。
**********************************************
wanmyaoは丁儀dinyiiを訪ねた。
dinyiiはビリヤードをしながら、空間座標と時間座標の組み合わせを説明した。
時と場所が変わっても物理法則は変わらないが、違う実験結果を想像してくれ。
白球が亜光速で飛んでビリヤード台のへりを突き破り、壁を突き抜けて地球の引力を脱出し、太陽系から出ていくようなことが起こったら、どう思う？
それが現実に起こったんだね？
そのとおり。北米、ヨーロッパ、中国の新しい加速器で実験したところ、同一の粒子、同一の衝突エネルギー、同一のパラメーターだったにもかかわらず、違う結果が出た。
物理法則は時間と空間を超えて不変ではないということを意味している。
宇宙のどの場所においても適用できる物理法則が存在しないことを意味する。
ほんとうにそう思っているのか、wanmyaoは聞いたが、
ぼくはなにも知らない、ただ、想像もつかない力が科学を殺そうとしているような気がするとdinyiiが言った。
科学を殺す？ だれが？
それが問題だ。
to be continued
翌日、wanmyaoはライカM2を携えて自転車でいつのまにか、竣工したばかりの中国中央電視台本部ビルの前に来ていた。
モノクロフィルム一本分の写真を撮り、家に戻ってから物置の暗室で現像した。
写真の真ん中に小さな白いものが一列に並んでいる。
1200:00:00
二枚目の写真には、1199:49:33
三枚目には、1199:40:18
最後の一枚には、1194:16:37
背景の色に自動的に対応している。
カウントダウンだ。1200から始まって、残りが1194。
暗室を出て新しいモノクロフィルムを装填して部屋の中で適当に何度かシャッターを切り、現像した。
一枚目は1187:27:39
二枚目は1187:27:35
三枚目は1187:27:31
撮影した間隔と一致している。
妻や息子にも新しいフィルムで撮影させたが、カウントダウンの数字は現れていなかった。
手が震えたwanmyaoは＜科学フロンティア＞の友人shenyuufeiに電話し、住まいの高級別荘地に訪れた。
家には研究センターにあるような高価なサーバが置かれていた。
彼女shenyuufeiはVスーツ（ヘルメット型の全方位ヘッドマウントディスプレイと触覚フィードバック全身スーツで構成されている）を装着していた。
アドレスバーを覗くと、www.3body.netだった。
shenyuufeiはVスーツを脱いでwanmyaoの話を聞き、あなたが率いているナノマテリアル・プロジェクトの研究を中止しなさいと言った。
国家プロジェクトだから中止できない、なぜだ
中止しなさい、試してみて
wanmyaoが自宅に帰ったときは夜が更けていた。妻と息子は寝ていた。
睡眠薬を飲んでやっと眠れた。
夢の中でカウントダウンを見続けた。
目を開けるとカーテン越しに白いカウントダウンが現れた。
1180:05:00
1180:04:59
どこを見てもカウントダウンはつきまとった。
眼科医に診てもらったら、飛蚊症だという。
視界のカウントダウンは続き、wanmyaoはナノテクノロジー研究センターに出勤した。
ここでは超強度のナノマテリアルがごく少量製造されている。
ナノスケールの分子プローブを使って、分子を一個づつ積み重ねて製造する。
現在、分子構築法のかわりに触媒反応を用いて、ひとりでに積み重なるようにする反応実験をしている。
ラボの室長が、たったいま、反応装置に不具合が発生したと報告した。
wanmyaoが出勤するたびに不具合が発生していた。
研究を中止しなさい、頭の中にshenyuufeiの言葉が蘇った。
反応装置は実際、メンテナンスが必要な状態になっている。
wanmyaoは実験の休止を指示した、決して屈したわけではないが。
カウントダウンは1174:10:07でストップし、数秒後、何度か点滅して消えた。
wanmyaoはshenyuufeiに電話した。
超強度ナノマテリアルがなぜ問題なんだ、注目する価値があるのか
それはわたしたちが判断することじゃない
三日後の午前１時から５時まで、宇宙背景放射を観測できる場所で、あなたはカウントダウンを観測できるでしょう
wanmyaoはdynyiiに電話した。
宇宙背景放射を観測する機関があるか知らないか
そのことなら、yandonの母親に会った方がいい、定年退職するまでは天体物理が専門で研究機関には詳しいから
電話した後、PCの前に座り、ブラウザのアドレスバーにwww.3body.netと入力した。
Vスーツからのアクセスしかサポートしていないという表示が出た。
研究センターの娯楽室にVスーツがあったのを思い出し、夜間通用口で鍵をもらい、Vスーツを持ってきて着込んだ。
ゲームを起動すると、wanmyaoは夜明けの荒野にいた。
to be continued
2024.4.19
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過日、息子からプレゼントされた「三体」という本を少しづつ読み始めていたが、複雑な文脈を読んでいくと不思議な背景が意味不明に迫ってくる。
今日、息子から電話が来てそのことを話したら、以前よりも興味がわいたので、勉強することにした。
**********************************************
1967年の紅色連合の攻撃の二日目から始まる。
文化大革命の恐怖と化した戦場の中で、相対性理論や量子力学を教える教授が、資産階級理論の先導者として処刑された。
彼の妻shaorinは夫に騙されていたと夫を批判した。
遺体から離れた教授の娘、葉ye文潔wenjeは家を出て、親しい教授の元に立ち寄ったが、彼女は自殺していた。
二年後、wenjeは内モンゴルの生産建設兵団で巨木の枝落としをしていた。
そこで知り合った青年から「沈黙の春」という本を借り、中央政府に書く手紙の清書を頼まれた。
近くにレーダー峰と呼ばれる頂上に巨大なパラボラアンテナがある場所がある。
青年は師団部に帰った。
三週間後、wenjeは連隊本部から呼び出しを受け、封筒と「沈黙の春」を見せられた。
封筒の中身はwenjeが清書した手紙だった。wenjeは社会主義を攻撃する思想的武器を手に入れたと言われた。
それから半世紀を経て、歴史学者は、1969年に起きたこの事件が、それ以降の人類の歴史におけるターニングポイントになったと解釈した。
wenjeは輸送ヘリの中にいた。雷志成と、大学の先輩、楊衛寧がそばにいた。
雷志成が言うには、wenjeの反革命行為は有罪になるだろうが、ここで業績を挙げて罪を償うことができる。ここは国防科学研究の基地だ。
wenjeは業務スタッフになった。
「ターゲット種別A3、座標番号BN20197F、送信はじめ！」
「紅岸プロジェクト第147回送信完了、送信システムシャットダウン開始、紅岸は監視状態に入る。、、、」
**********************************************
四十数年後、wanmyaoのもとに警察官二人と陸軍士官が二人訪ねてきた。
to be continued
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はじめに