T氏の世界

T氏によれば、この世界はこの瞬間にたった一通りの物が存在している。百数十億年のかなたの世界と、T氏が見える範囲の世界とはいまこの瞬間に、たった一通り存在している。また、T氏によれば、この世界で貴重なものは生物の意識である。とりわけ貴重なものは、人間の意識である。T氏はこう考えている。私は、どこにいるのか。私ってなに？目の情報を取り去ってみる。耳の情報を取り去ってみる。鼻の情報を取り去ってみる。皮膚の情報を取り去ってみる。外の世界からの情報が途絶える。昔意識した情報でおぼろな形態をとろうしても、暗闇の中に薄い光の粒が見えるだけで形を成さない。外の世界の情報は意識の変化の途中で情報となって意識に蓄積されたが、外の世界の様子は瞬間に変わってゆく。意識は意識の回路を探索して疑似世界を構築する。これは夢と同じ。夢の中でも私は意識する。手足を動かせる。でも思い通りにならないことが多い。ビルの上から身を投げて鳥のように空を飛ぶこともできた。そのために、意識の回路はビルを造り、景色を作り、人々を作り、会話を作る。目が覚めると私はベッドに寝ている。夢の甘い感覚を懐かしみ、現実のオンリーワン世界に引き戻された。
T氏にとって、意識の座はコックピットに似ている。手足の操縦桿、スクリーン、スピーカー、マイク。考えなくても目をつぶって操作できる。私は最高のパイロットである。操縦の範囲内で私は王様である。

T氏は王様として言語を考えることにした。王様とはそういうものである。
T氏は博愛主義者なので、だれでも理解できる文字を使うことにした、と言っている。
なんのことなはい。数字を使うことにしたそうだ。0123456789、である。

22:25 2008/04/20
T氏はなんとなく生物科学が好きである。最近の雑誌を読んで感じるところがあった。すべては紐だ。DNA、タンパク質、セルローズ、細胞骨格。今日は細胞骨格にひきつけられた。昔、顕微鏡でアメーバが触手をのばして移動するのを飽きずに眺めたことがあった。どうしてそうなるのか。いまやそれは細胞骨格が伸びるせいだということが書いてあった。骨格を構成するかれらは、暗闇の中でなぜ黙々と伸びているのか。骨格を伝ってモーターがなぜ動いてゆくのか。そのモーターも骨格もなぜDNAに記録されているのか。かくも魔法がひそかに精密に行われて、かくいうT氏は、のほほんと精密でない活動をしている。これはまことに感謝するしかない、とT氏は思うようになった。
そこでT氏は、生物の精密な営みに敬意を表して、魔法の玉手箱に名前をつけることにした。
440、これは生物素粒子の総称である。4401、これはRNA。4402、これはDNA。4403、これはタンパク質。4404、これは特に感謝を込めて細胞骨格。

8:36 2009/08/16
ひさしぶりに好天が続いている。本と本の間から、日本物理学会誌vol.61,no.9,2006が出てきて、物質と反物質の非対称の起源を探るーBelleの実験の成果ーというタイトル。図4の絵を見ているうちに高い運動量の電子と低い運動量の陽電子が衝突して電子の進行方向の方にB0クォークと反B0クォークが生成し、反B0クォークが崩壊してパイ＋中間子とパイ−中間子が生成しているが、なんだかこれはなにかあるものに衝突してそうなったように見えた。そうかんがえるとおもしろい。