小松左京の「果てしなき流れの果てに」の勉強

昔読んでまた読みたくなり、図書館に予約したら、小松左京全集完全版2巻（城西国際大学出版会）の中に収録されていた。 なにか難しいけど懐かしい気がする。

プロローグ：
恐竜が跋扈する時代。大型の剣竜を獰猛なティラノザウルスが襲って倒し、食べ始めたとき、火山が大爆発した。大量の火山岩の下敷きになったティラノザウルスの耳に、電話機の甲高い音が聞こえる。

野々村：
若き理論物理学者野々村は恩師の大泉教授の部屋に呼ばれ、異端の超心理学者番匠谷教授を紹介された。教授は不思議な砂時計を見せた。三日前、西日本中央構造線の北側を走る6000万年前の上部白亜紀の和泉岩層の中から発掘したという。一見、何の変哲もないガラスの砂時計だが、上の砂が下に落ちても、上下の砂の量が変わらない。野々村は上下が四次元空間を経由してつながっているのではないかと推論した。
番匠谷教授と一緒に飛行機で伊丹に向かった野々村は、空港の待合室で青年に声をかけられた。青年はクロニアムはどうしたのかと野々村に聞いた。教授の出迎えの人かと思い、あれは大泉先生の部屋に置いてきたと答えた。青年は出迎えの教授の助手の大学院生ではなかった。
番匠谷教授と野々村は和泉准地向斜の古墳の玄室の入り口から入って奥に行き、砂時計を見つけたところにたどりついた。岸壁から頭の方が三分の一露出していたという。ここは白亜紀末まで海で、新世代初期に隆起したものらしい。機械の陰刻らしきものがあった。突然、時計のセコンドのような規則的な音が聞こえ、それがやんだ後、電話のベルのような音が聞こえて、やがて消えた。

佐世子：
佐世子が突然訪ねてきた。野々村がどこか遠くに行ってしまい、すっかり年を取ってから帰ってくる予感がしたという。二人は一夜を共にした。和泉岩層は彼女の生地の近くだった。
翌日、大泉教授が脳溢血で倒れたという電話を受け、野々村は東京行きの深夜便に間に合わせるようにタクシーに飛び乗った。走る車の外に！あの青年が立っていて、「時間がない、あの鍵がないと機械が動かせない、わからなければ来てください、あなたが体につけているはずです、さがさせてもらいます」と言ったまま、野々村の姿は車の中から消えた。
番匠谷教授は、佐世子から大泉教授が脳溢血で倒れたことを聞いて驚き、佐世子は、タクシーの運転手から乗せたお客さんが突然いなくなったので料金をいただきたいと言ってきたのに驚き料金を支払った。
翌日、番匠谷教授は古墳を訪れたが全身に原因不明の重傷を負い、オムニポテンテという言葉を何度も言っていた。大泉教授は亡くなった。番匠谷教授は生ける屍となり、大学院生の助手も、教授を見舞いに来たボストン博物館の医師も不可解な行方不明となった。

ある時間、ある場所でM：
Mは超科学研究所の立ち入り禁止区域をうろついていて、誰何した警備ロボットをフォノンメーザーで故障させたため、捕らわれて精神測定を受けていた。身分証明書は、星間航行保険連盟、とあるが実は、保安省秘密調査部。研究所の連続爆破事件を捜査しているのか。
自白剤を飲まされたが、脳に禁止領域がつくられていたために死にかけた。突然、しっかりしろM、任務を遂行しろ、という声が頭の中でした。
ここはスマトラのバリサン山脈のケリンチ山頂3690メートル。高度36000キロメートルにある定点衛星行き電磁誘導エレベーターにMは乗せられ、40数分後に第5衛星に到着した。
研究所は、五つの衛星に独立の電子頭脳を設置してブレーンストーミングさせる実験を行っていて、結果が出かけていた。だから保険目当てで連続爆破事件を起こして三つの衛星を破壊するわけがない。実験は中止されたが、残った電子頭脳に相談したところ、未来からの干渉、という結論がでてきた。
干渉の一つは、歴史上になにかを訴えようとして道しるべのようにばらまかれていて発見されるのを待っている。もう一つの干渉は、それを妨げようとしている。
番匠谷教授の意識は時間を超え、第5衛星に置かれている古代のテレビの画面に教授の顔と唇の動きを写して、二つの干渉について訴えていた。Mはテレビを破壊し、シュワルプ空間のビームに乗り移って逃げようとしたが、、。
全三回とは異なる四回目の事故が起こり、一瞬のうちに第5衛星は低温低圧のガス体に気化した。
保安省は、Mは地上の某所で殉職死体となって発見されており、事故の時、第5衛星にいたはずはないと証言した。

M：
第七部の建物にMは戻ってきた。部長はMに言った。反逆者を追い詰めるために第二十六空間に行って審判者たちの収穫の指揮をとれ。病気の発生した畠からは、収穫は少なくても急いで実を刈り取らねばならない。ただ、収穫の際、またやつらが影を現わすかもしれない。
異変：
M、松浦は火星にいた。火星上の大部分の人員と施設は宇宙空間に退避し、太陽の異変の瞬間には火星の影に入っていられるように軌道上で待機していた。

地球：
最後の時を数時間後にひかえ、地球では巨大なオーロラが美しくはためいていた。
九十億の人間の中から選ばれた人々の千五百隻の宇宙船はすでに火星軌道へ達しているはずだった。太陽の粒状班が肉眼で見える。

大編隊：
伝説的な円盤にそっくりの形をしている宇宙船の大編隊が地球に現れた。マウア・キキに着陸した円盤の中から身長が二メートル以上もある人間型の生物が降り立ち、ハンスの頭の中に呼びかけた。急ぐんだ、ハンス。時間がない。あなたは選ばれた。同じ種の共有の未来のために。
火星にも大編隊が現れた。ノヴァ・テラ計画本部を訪れた長身の宇宙人は抑揚のない声で言った。我々はあなた方を救助するため、数万光年の距離から超空間を経て到着した。航路妨害を受けたため、地球人の時間単位で二年近く遅れたが、我々はあなた方よりもはるかに歴史が長い。我々の言う通りにしてもらいたい。生命種の保存のために我々の選択基準に従って何割かを救助する。あなた方の方法では全員助からない。一時間以内に全船団を超空間に発信させなければならない。
五十人に一人ぐらいの割合で選別が行われた。松浦も選ばれた。
地球へ行ったらしい船団がカシオペア座の方に行き、フッと消えていった。宇宙船は広場に群がっている人たちの上を通過するたびに光の網のようなものを投げかけ、一瞬にして百名ほど吸い上げていった。
広いホールに松浦と、ハンスのフィアンセのエルマもいた。ハンスはエルマと別れて地球に残った。ハンスを宇宙人は連れ出そうとしていた。ハンスと松浦はテレパシーによる交信ができていた。

消滅：
深い宇宙の底で一つの小さな恒星が閃いた。自ら生み出した生命を焼き尽くして、やがて再びもとの光度にかえった。

選別：
宇宙船のホールの中では、心理的相対時差が発生した。ある人にとっては一時間、ある人にとっては一年近く経っていた。
宇宙船の指令室で、アイは考えていた。積み込んだ人間が数百名も足りない。我々が二十六区を閉じるということを察知して航行を妨害したのか。火星からは盗まれていない。千数百隻の宇宙船はそれぞれ別の星に向かって超空間に入っていった。
アイはニューヨークにいたときを思い出した。野々村はまだ見つからなかった。
コンパートメントの中で松浦とエルマは結ばれた。アイが透視していた。
三次元空間に戻り、宇宙船はある惑星へ着陸態勢に入った。
宇宙服を着せられ、着陸した。岩のかけらがゴロゴロした粗い砂地だった。地球大気とほとんど同じで炭酸ガスがやや少なく、一気圧、重力もほぼ一G。空気がちょっと冷たい。亜寒帯林にそっくりな森が見える。石の穂先がついている木製の棒が見つかった。
地球の過去の時代に連れてこられた？まさか。

松浦：
松浦は一辺三メートルほどの立方体の部屋に閉じ込められていた。ドアも窓もない。やわらかい物質でできている。エルマがいない。着陸して以来七十二時間、この部屋に閉じ込められて四十時間以上たっている。着陸したとたん検査を受け、ばらばらに分けられた。突然、部屋が縮み始めているのがわかった。収縮は続き松浦は気を失った。
気がつくと彼は壁の外に出ていた。松浦は検査にパスした。
これで君は第四階梯へ進める。検査者はそう言った。君たちの仲間は三十人が選ばれた。選ばれなかった連中には第三階梯の生活が待っている。君を高次の文明人として訓練し、教育する義務がある。

突然、異様な振動の壁が部屋の中を斜めに断ち切り、検査者の頭部を斜めに切り取った。やつらが攻撃してきた！地球人！と誰かが叫んだ、早くそれを着ろ！松浦の前に気密函が流れてきて、その中に転げ込んだ。回転する函の中で、一瞬、無数に煌めく光点を見たように思った。

N：
Nたち三人は、九月下旬のニューヨークの三十三番街の角まで車で行き、ジャコモを車に残し、カチンスキーとNはエンパイアステートビルの三十八階の部屋のドアを開け、中の男を武器で消滅させて、地図と回路を破壊した。どこかで警報が鳴っている。車に飛び乗り住宅密集地域を抜けて森の中の道にさしかかった時、森の梢の上に巨大な銀灰色の円盤が現れ、頭上に覆いかぶさった、一瞬、目のくらむ白光と高熱に包まれたのと同時に、Nは操作器のスイッチを押した。

松浦：
我に返った松浦は気密函ののぞき窓から暗い空を見た。星が一面に瞬いていた。気密函は大地に横たわっていた。外を透視すると、遠くの傾斜地に円形の建物の残骸が砂にうずもれていた。頭の中で声がした。気密函にとびこんだ者以外は全部やられた。声は検査者であったアイだった。市街地の入り口に石碑が見え、精神を集中して文字を読んだ。Sitonius Lakeside Citu, Visect. B Stat. 2040 A.D. 地球と火星は太陽の異常爆発で二十一世紀末に滅亡したはずだ。なぜ二十五世紀の火星に地球人の植民都市があるんだ。
あれは君の地球ではない。やつらは裏返された空間を破壊する方法を知った。スパイがいるのかもしれない。私は君と融合して君の存在を借り、自分の仕事の始末をつける。エルマは第四階梯の試験を受けなかった。妊娠していたからだ。月のフューネリアス山麓のキャンプにいるが、あそこも襲われた。

ルキッフ:
攻撃目標はほとんどやっつけたと、ルキッフに第二班長から報告があった。しかし、フューネリアス山麓のキャンプの襲撃でこちらのルートをつかまれた。班員のハンスが、エルマに会ったため。ニューヨークに行った第三班のジャコモとカチンスキーは死に、Nは衝撃で超空間に飛ばされたと、第一班長が報告した。

狩人たち：
冥王星の第二衛星に建設されたケルベルス恒星航行基地の巨大なメインドームの中央で、恒星移民団の二百家族が冷凍処置を待っていた。二つの意識を持つ男マツラは言った。アルファケンタウリ開発がもっと進んで、定期航路が開かれてから移民しても遅くないだろうに。二十一世紀の半ば、日本列島が沈んで流民となったやつらには地球上に祖国をつくる余地はなく、月や火星や木星の衛星に閉鎖的なコロニーを作り、未開発の地球型惑星の情報を知ると、最初の移民団を旅立たせることにしたのだ。だが、もう一つの世界では、地球と共に全世界が滅んでいるのに、思いもかけない手によって、われわれは時と宇宙の果てにまで運ばれた存在になってしまった。
マツラは探していた。乗客の中にいなかった。あの男を追い詰めてやる。時と空間の果てまでも。

N：
空気が異様に熱く、大地が揺れていた。Nは意識を取り戻した。機械はくぼみの下、二、三メートル離れたところに転がっていた。大地がまた鳴動し、黒い焼けた石がひっきりなしに降ってきた。まばらな草の間を体長十メートルほどの、メガロザウルスが走って行った。大地が立っていられないほど激しく揺れた。四、五十メートル横の岩かげから黒い影が立ち上がり、Nは反射的に頭をひっこめた。来たなとNはつぶやき、機械を岩かげに隠すと、バッタのように跳躍して近づいた。振り向いた男の顔面に石が当たり、男は倒れたが、追手ではないらしいことに気がついた。男の手に持っていたのは銀色の筒だった。それには眼もくれず、岩かげの機械を引きずって断崖の洞窟に入った。道具入れから道具を出し手探りで修理を続けた。最後のビスを締め付け終わったとたん、けたたましい金属製の音が響き渡った。洞窟の壁に置かれた金色の電話器が練っている。受話器を取ると声がした。何をしてるんだ、報告は？管理部の方では予定通り、放射性物質の散布を始めると言っている。特に保護するものはないか。
ない、とNは答えた。天井から岩盤の一部が落ちてくる中で機械の操作レバーをつかんだ。

マツラ：
アルファケンタウリ第四惑星の移民団の粗末なキャンプをマツラは見ていた。ほとんど地球と変わらない。
万が一にもと思い、来たもののあいつがいないのは確実になった。

N：
草むらの中でNは機械から下りた。墓のようなところだった。目の前の草むらから毛皮を着た男がのっそりと現れた。老人だった。山刀を腰にさし、棍棒を帯にはさみ。弓をしょっていた。老人は仲間を呼び、Nを空き地に連行した。二、三十人の部落に着いたが、中に白い顔の男がいた。彼、ホアンは言った。どうしてこんな所へ来た？Nは聞いた。君は何してるんだ、第四班だったろ？配布してすぐ帰投しなかったのか？
大ぜいの仲間がやられたり、つかまったりした。ルキッフは追い詰められている。ルキッフは万一つかまった時の後継者に君を選んだ。彼は君の理論を知っていた。時間と認識という論文を書いたろ？君への伝言は、エネルギー保存則がなぜなりたつのか、その謎を解けば、われわれの原理が明確になると言っていた。
三つの仮設、脈動時間論と超多元宇宙構造論と現象認識の時間モデルを重ね合わせてみろとも言った。
それを解くことがわれわれの行動の原理になると言っていた。
ここはBC１００年から２００年ぐらいの日本列島だ。彼らは黒潮にのってやってきたネグロイドだ。俺は連中の魔法使いにおさまっている。

マツラ：
すべての可能性の交叉点に網を張ること。そんなことは不可能だが、とにかくあいつを捕まえるんだ。なぜなら、なぜ、あのような存在になってまで、あらがいがたい運命にさからおうとしているのか。それを知りたい。おれという存在がなぜある階梯に制限されているのか、全能とはいかなるものか。
膨張しつつある宇宙に含まれるあらゆる可能な通過のほとんどすべての結節点にマツラは網を張り、警報をしかけた。上司が言った。君は松浦の意識を吸収してから少し変わったな。まるで地球種の意識体みたいに見える。
やつを逮捕して電磁波にまで還元しても、宇宙の果てで反射してまた新たな実体をつくりだしてしまう。宇宙の存在の中に、不可避的にふくまれる意思であり、存在するということが含まれなければいけない形態である。完全に消し去ろうと思えば、エネルギー保存則の呪縛を解き放たねばならない。つまり、宇宙そのものを消滅させねばならない。
超空間から長官が思念を送ってきた。まさか、逆行宇宙の領域にまで手を出すつもりじゃないだろうな。
この宇宙の裏側にある宇宙、この宇宙の膨張が収縮として現象し、エントロピーの増大が減少として現れ、時間軸が逆行し、生成が消滅に、消滅が生成になる。この宇宙の終焉が原初の状態になる。
この境界領域を超えることはマツラにもできなかったが、境界の向こう側をのぞきたい衝動がうごめいた。
すべての知性体に布告をめぐらし、時間系のすべての節に警報を飛ばし、原初段階から終末段階まですべての段階で第五階梯の連中まで狩りたてていた。
ついに第五階梯の一番低い段階のパトロールから報告が入った。
時点は、λ系286502JDです。

太陽は妙にふくれあがってぶよぶよの感じだ。ここは廃墟となったパリから丘を二つ終えた所。突然、パトロール隊員がマツラの腕をつかんでグイグイ引っ張った。甲殻を装甲化した食用カブトムシが齧歯人の食用アブラムシを狙って襲っている。第五階梯のものがこんな所でこんな連中を相手にしなきゃならないなんて。見張りの1メートル20くらいの齧歯人がわめきながら走り回っていた。
この地球では人間たちは飛び去って行った。食用虫を飼う種族だけが生き残った。マツラを呼び寄せた監視官かつて進化管理官だったワゴオは言った。やつらはたてついてるんだろう？かばいたくもなるじゃないか。
マツラは言った。私もまた上の階梯に支配されている。
ワゴオは言う。刈り込み操作の直前、事故？のためではなく同僚はあるやつに殺されたらしい。私はそのまま刈り込み作業を始めたが、事故の責任を問われて降等された。同僚は基地になっている洞窟の外に倒れていた。通信器のそばに誰か若いやつがいた。
マツラたちが重力ボートに乗って浮上したとき、ワゴオは爆発音を残して自殺した。

かぎつけられたらしい。日本の三世紀の時代、ホアンが囁いた。基地が完成するまで見つからなければいいがとNが言った。
感づかれたらしい。吉備の方からアメノヒフネが降りて大騒ぎになっている。白亜紀で一人殺したのが悪かったのかもしれない。
テラスは完成しているし、充電壁も九分通り完成した。完成後の出入りはこの岩盤の隙間を利用する。
大酋長におさまっているエンが言った。この山腹にクロニアムが埋まっている。四十世紀の拝時教の祭器だが、通信器にも使える。四次元砂時計で、外殻をドミトロフグラスでつくり、中の砂に蹉跌を少し混ぜておくと弱い電波を出す。四次元側で砂の落ちるスピードを調節すると簡単な信号を送れる。
Nが言う。クロニアムは一時期拝時教にかぶれたジャコモのものかもしれないが、送られてくる信号は、ルキッフからだ。
三人一緒に時空間移動するために、乗物を石棺の底にしかけよう。石棺外壁を場遮断媒体に使える。

マツラは洞窟の天井にとりつけた高感度撮像管が撮影した男の相貌を見たとたん、騒ぎ出すような感じを受けた。男は時空に消えた。跳躍距離は5800万年以上、6300万年以下。追跡する。

Nは叫んだ。エン！もどってこい！やつらが来た！
もうちょっとなのに。エンはうめいた。三人は石棺の中にとびこみ、内側から閉めた。Nが見上げるとリード線用の穴からかすかにまたたく星が見えた。

N、おちついた低い声が前の方から響いた。それからもう一人の男も。君たちは包囲された。ルキッフは幽閉された。君も裁きを受けるのだ。

N、野々村は発信スイッチを入れた。

大質量をつけたため、彼らの乗り物の跳躍力は数百年しかない。マツラはプラスマイナス千年の間を探査し、戦国時代を渡り歩く得体のしれない人物をつきとめた。ホアンだ。ホアンは囮になって毒を飲んで死んでいた。

くじら座タウの第五惑星では時間密航者クラブの拝時教徒が集まり、過去は変えてはならないという掟に逆らいたい信者が、人間の行為の無制限の自由を主張し、過去改造の直接行動が提案された。試行錯誤は非能率でとりかえしのつかない犠牲を伴う。
突然、緊急警報がけたたましく鳴り始めた。
ノアヴィルさん、どこへ・・・
今度こそ君は逃げられない
野々村は二台の大型時間機の歪曲場発振器の導場管をつなぎ、小型時間機の導場管のインプットに接続した。
まて、自殺する気か
彼はスタータースイッチに手を伸ばした。
一瞬、マツラの心に、最後の自殺的な反抗をやらせてみたいというような気がふとおこったのではないかという感じがした。
彼はスイッチを押し、瞬間、巨大な建物は中にいた大勢の人間もろとも地下ガレージの中の一点に吸い込まれ、二台の時間機は現れては消えついに破裂した。
彼は消えた。
私が追う。
マツラの肉体は魂を失ったように力を失い、無菌ベッドに寝かされ体温冷却された。

果てしなき流れの果てに

野々村は、かつてない初速エネルギーで超空間の奥へつっこみつつあることを理解した。
無数のパラレルワールドが平行した形で一挙に理解できた。
地球の経歴は、一本の細い幹から無数に枝分かれした系統樹のようなものに感じた。
奇妙な超時空間のポケットにとらえられている番匠谷教授の存在も感じた。
多元的進化管理に対するささやかな地球的な反抗の意識に相当するものが、いたる所に発生し、すべてその進化は管理されていた。 さらにそれらの一切は、多元的超進化の場の一切は、それ自体がある方向へ向かって動いていた。
全宇宙の多元的進化とその管理を含む場は、それ自体がまわり舞台のように一切を乗せたまま超超時空間の中をゆっくりとめぐっていた。

ある巨大な意識が呼びかけた。ここに来てしまったのか。
おまえのランクでこの知域にはいり込んだ意識は個としての集中場をとることはできない。
もう、お前という存在はなくなる。
なんのために？なんのためにあなたがたは管理するのだ？なにをつみとろうとするのだ？
それはわれわれも知らない。われわれは多元的進化を管理する。あらゆる状態の意識発生の可能性を選り分け、管理する。進化を管理する意識は、物質やエネルギーを超越するもので、われわれを育て、交配させ、別の進化コースに引き込み、可能性のないものを裁定し、ある成熟段階にいたれば摘み取る。
物質の変化の過程、無限に複雑なエネルギーの展開の過程が生物という束をつくり出し、その束は意識を析出する。意識自体は次第にこの宇宙そのものとは別のものになって行く。
存在の鏡、宇宙の虚像か？
やがて虚像の自立性が生じてくる。
収穫された超意識はわれわれの仲間になり、管理の仕事はますます精緻になって行く。
だが、われわれもまた、ずっと上方のはるかに超えるもののために仕事をしている。
あなたたちをも超えるものとは？

完全に野々村の意識を吸収してしまった時、マツラ、第二階梯超意識体アイは、違和感を感じ取った。
野々村の意識が、妙に松浦の意識傾向のパターンとよく似ているところがあった。松浦と野々村は親子だった。
突然、アイは上昇を始めた。
とまれ
階梯概念が指示した。
だが、それに逆らって上昇を続けた。そのエネルギーは共振にあった。
超意識体は宇宙の神経か？
そのとうり。超意識体ははじめて宇宙自体の意識を生じせしめた。
進化管理の意味は？
多元時空間のひだをふくむほど希薄に拡散された時、超意識を生じ、超意識の連絡から組織化によって効率の概念を含んだ進化管理の意志が生じた。
とまれ！
ひきかえせ！
なぜとまらぬ。これ以上進めば、宇宙は一つの貴重な超意識体を失うことになる。

上に上れば上るほど特殊化の極度に進んだ意識体の組織があり、宇宙の脳に似たものの形をとりはじめていたが、脳はまだ未完成だった。
アイは上昇して行くときに組織を破壊し、アイ自身も神経細胞として傷ついた。

とまれ

最後の力をふりしぼって意志を高みに投げた。
そこはさらに高次の空漠樽一つの場だった。彼は宇宙そのものをつきぬけ、彼は見た。
多次元空間、超時空間をふくむ宇宙が成長し、別の宇宙と交わり第三の宇宙を生み出していた。

君は燃え尽きた。君の階梯では知ってはならないことを知り、超意識体の秩序は乱された。
君を下位の階梯の処置にゆだねる。
もはや君は何もおぼえていない。

エピローグ

スイス、ベルンの国立病院で五十年間意識が戻らなかった東洋人の意識が戻った。彼はアルプスのフィンステラホーンの雪渓で発見され、全身凍傷に犯されていたが、命をとりとめ、眠り続けていた。
完全な記憶喪失だったが、日本語をしゃべったので、日本領事館と相談し、退院後、日本に帰った。
ある日、老人は何かに引かれるように和泉の葛城山麓に来た。
なんとはなしに古びた藁ぶきの家に立ち寄り、白髪の老婆にお茶をふるまわれた。
老婆は手ずれのしたノートをもってきて、読んでくれとすすめたが、私には一行も分かりませんと言った。
あの・・どこにも行くあてがおありにならないのなら、せめて今夜だけでもお泊りになりません？
やがて老人はその家に居つくことになった。
眠っておいでの間、夢もごらんになりませんでした？
彼はしわがれた声でポツリと言った。
見ました。何だかひどく荒唐無稽な、人に話したって笑われるような、とりとめもない、おかしな、・・それに断片的にしかおぼえていないので・・

そうです
老人はついに重い口をひらき、そのあいまいな長い物語を語り始めた。

2019.4.30 14:38記

はじめに