春哥下

よみ人しらず
#0069 春霞たなびく山のさくら花 うつろはむとや　色かはり行
よみ人しらず
#0070　まてといふにちらでしとまる物ならば　なにを櫻に思まさまし
よみ人しらず
#0071　残なくちるぞめでたき櫻ばな　ありて世中はてのうければ
よみ人しらず
#0072　この里に旅ねしぬべしさくら花　ちりのまがひに家ぢ忘て
よみ人しらず
#0073　うつせみの世にもにたるか花ざくら　さくと見しまにかつちりにけり
僧正へんぜうによみてをくりける
これたかのみこ
#0074　櫻花ちらばちらなんちらずとて　ふるさと人のきても見なくに
雲林院にてさくらの花のちりけるをみてよめる
そうぐ法師
#0075　さくらちる花の所は春ながら　雪ぞふりつつきえがてにする
櫻の花のちり侍けるをみてよみける
そせい法師
#0076　花ちらす風のやどりは誰かしる　我にをしへよ行てうらみむ
うりむ院にてさくらの花をよめる
そうぐ法師
#0077　いざさくら我もちりなんひとさかり　有なば人にうきめ見えなん
あひしれりける人のまうできて、かへりにけるのちに、よみて花にさしてつかはしける
つらゆき
#0078　ひとめ見し君もやくると櫻ばな　けふはまちみてちらばちらなん
山のさくらを見てよめる
つらゆき
#0079　春霞なにかくすらむ櫻花　ちるまをだにもみるべき物を
心ちそこなひてわづらひける時に、風にあたらじとておろしこめてのみ侍けるあひだに、おれる櫻のちりがたになれるを見てよめる
藤原よるかの朝臣
#0080　たれこめて春の行ゑもしらぬまに　まちし櫻もうつろひにけり
東宮雅院にてさくらの花の、みかは水にちりてながれけるを見てよめる
すがのの高世
#0081　枝よりもあだにちりにし花なれば　おちても水の泡とこそなれ
さくらの花のちりけるをよみける
つらゆき
#0082　ことならばさかずやはあらぬ櫻花　みる我さへにしづ心なし
櫻のごと、とくちる物はなしと人のいひければよめる
つらゆき
#0083　さくら花とくちりぬともおもほえず　人の心ぞ風も吹あへぬ
櫻の花のちるをよめる
きのとものり
#0084　久方のひかりのどけき春の日に　しづ心なく花のちるらむ
春宮のたちはきのぢんにて、さくらの花のちるをよめる
藤原よしかぜ
#0085　春風は花のあたりをよきてふけ　心づからやうつろふとみむ
櫻のちるをよめる
凡河内みつね
#0086　雪とのみふるだにあるを櫻花　いかにちれとか風の吹らむ
ひえにのぼりて、かへりまうできてよめる
つらゆき
#0087　山たかみ見つつわがこし櫻花　風は心にまかすべらなり
大伴黒主
#0088　春雨のふるは涙かさくら花　ちるをおしまぬ人しなければ
つらゆき
#0089　櫻花ちりぬる風のなごりには　水なき空に浪ぞ立ける
ならのみかどの御うた
平城天皇 大同天子
#0090　故郷と成りにしならの宮こにも　色はかはらず花は咲けり
春のうたとてよめる
よしみねのむねさだ
#0091　花の色は霞にこめて見せずとも　かをだにぬすめ春の山かぜ
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
そせい法師
#0092　花の木も今はほりうへじ春たてば　うつろふ色に人ならひけり
よみ人しらず
#0093　春の色のいたりいたらぬ里はあらじ　さけるさかざる花のみゆらん
はるのうたとてよめる
つらゆき
#0094　みわ山をしかもかくすか春霞　人にしられぬ花やさくらむ
うりむゐんのみこのもとに、花見に、きた山のほとりにまかれりける時によめ る
そせい
#0095　いざけふは春の山べにまじりなん　くれなばなげの花の影かは
春のうたとてよめる
そせい
#0096　いつまでかのべに心のあくがれん　花しちらずばちよもへぬべし
よみ人しらず
#0097　春ごとに花のさかりは有なめど　あひみむ事はいのちなりけり
よみ人しらず
#0098　花のごと世のつねならばすぐしてし　昔は又もかへりきなまし
よみ人しらず
#0099　ふく風にあつらへつくる物ならば このひと本はよぎよといはまし
よみ人しらず
#0100　まつ人もこぬものゆへに鶯の　なきつる花を折てけるかな
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
藤原おきかぜ
#010　さく花はちくさながらにあだなれど　誰かは春を怨はてたる
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
藤原おきかぜ
#0102　春霞色のちくさに見えつるは　たなびく山の花のかげかも
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
在原元方
#0103　かすみたつ春の山べはとをけれど　吹くる風は花のかぞする
うつろへる花を見てよめる
みつね
#0104　花みれば心さへにぞうつりける　色にはいでじ人もこそしれ
よみ人しらず
#0105　鴬の鳴野べごとにきてみれば　うつろふ花に風ぞ吹ける
よみ人しらず
#0106　吹風を鳴て怨よ鶯は　我やは花に手だにふれたる
典侍洽子朝臣
#0107　ちる花のなくにしとまる物ならば我鶯におとらましやは
仁和の中將のみやすん所の家に、哥合せんとてしける時によみける
藤原後蔭
#0108　花のちる事やわびしき春霞　たつたの山の鶯のこゑ
鶯の鳴をよめる
そせい
#0109　こづたへばをのがは風にちる花を　誰におほせてここらなくらん
鴬の花の木にてなくをよめる
みつね
#0110　しるしなきねをも鳴かな鶯の　ことしのみちる花ならなくに
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